2018年9月14日
見て納得、乗って納得。 今基準コンパクト、モンキー125。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
かつて栄華を誇ったレジャーバイクたち。平日を活動的に、休日はもっと楽しく。遊びのトランスポーター、アウトドアコミューターとでも言いたくなるような存在は、バイクのある暮らしをそのデザインからも一目で想起させた。もはや、レジャーという言葉は盆・暮れ・正月のお休みに各地が混雑する様子を伝えるニュース用語でしか使われなくなった気がするが、進化したモンキーが持っている「レジャー」感はどうだ。今度のモンキーは遠出もいとわぬ手長、足長族に進化したのだ。
グッドなサイズ感。
その物ずばり、なデザイン。
さすが、レジャーバイク! ホンダがモンキー125を発表宣言したのは2018年4月23日のこと。すでにモーターサイクルショーでその姿を見て、今か、今かとファンは待っていた。そこには7月12日に発売と記され、それを見た時点から夏休みの計画がはじまった人も少なくないのでは。春から青山にあるホンダのウエルカムプラザでお目に掛かっていた新型モンキーだが、やっぱりその周りだけ雰囲気が断然遊びムードに溢れていた。
私もそこで臆面もなく跨がると、アタマの中には遊びの場面が映し出され、かつてゴリラと暮らしていたとき、あの小さいキャリアに荷物を載せて、あちこち出かけたプチ冒険が楽しかったことを思い出させてくれた。
ショールームでのファーストコンタクトは実にポジティブだった。どこから見てもモンキーらしいスタイル。ティアドロップ型よりもさらに時代を遡った’70年代のモンキーをモチーフにしたように見えるし、フロントフォークはしっかりと倒立フォークになったが、50時代のスライドチューブ式のフォークと印象がちゃんとダブる。12インチに大径化したタイヤが不思議と先代までの凝縮感を演出し、シートのサイズも車体全体を小ぶりに見せる魔法になっている。前後のフェンダーもモンキーらしさを継承している。
マフラーの位置やカタチ、それに全体におけるサイズバランスからもやっぱりモンキーだ。隣に50のモンキーが無ければ、充分ボクのアタマはこれがモンキーだと信じ込める感じだ。
たしかに大きくなった。前作はコンパクトさやクルマのトランクへの積載性を考慮した装備が一つの特徴だった。原付をクルマで運べば行動半径がぐっと広がる。ハンドルやステップを折りたたみ、燃料タンクキャップには漏れ留めのバルブも付いていた時期があった。レジャーバイク仲間のDAXにも採用されたフロントエンドをフレームから切り離す、という裏技をもったモンキーだってあった。小型のモンキーは、クルマへの積載性、というより収納性を重んじたのだ。SUV、ワゴン、ミニバンなんてまだない時代、セダンのトランクが居場所だ。当時としてはクルマでバイクと出かける、は豪快な遊びだったに違いない。
そのような機能を持たせただけに、サイズは小さい。ボクのような180cm級の人間には、膝を開かないと曲がる時ハンドルが足に当たったり、気をつけて前の方に座らないとあっさり発進でウイリーするなど注意点があったのも事実。なにより、時速30キロ制限や二段階右折など原付特有のルールは、大きなバイクと併用するとなると、うっかりミスをしでかしやすい。だからこそ、コンパクトななかでサイズアップして、125㏄エンジンを搭載した新型は、クルマいらずで行動半径を広げられることになる。
今回は…、N-VANで高原へ。
と、言いながら今回は時間の都合で最近話題のN-VANにモンキーを載せ、高原までやってきた。駐車場でモンキーを降ろし準備を進める。クルマから降ろした瞬間、新型の特徴を感じた。ゴツゴツしたブロックパターンだった先代は押して転がすだけでも特有のゴロゴロ感が伝わった。でも125のタイヤは、シーランド比がしっかり採られ、うまくブロックタイヤイメージのトレッドとしながら、ラウンドシェイプのタイヤとなりゴロゴロ感なくスーっと動く。
押しても乗っても自分を軸にクルクル回せるイメージだった50のモンキーほど軽さはない。少し重さも伝わる。でも、ふかふかのシートに腰を下ろしてみると、お尻いっぱいにモンキーを感じるこの感触が懐かしい。そう、この座り心地なのだ、モンキーは。
キーを捻るとメーターにお猿の目がアニメーションで現れる。これでカラーモニターだったら言うことナシ、と言ったら贅沢だろうか。それでもトリップまであるメーターだ。文句ナシ。
重厚感と鼓動感。
やっぱり125はインパクト充分。
さ、エンジンの音を聞こうじゃないか!
で、マジメにキックアームを探す自分がいる。あれ!っと思って悟られぬよう、スターターボタンを押した。標高1500メートル超の場所だからといって儀式めいたものは一切必要ない。一発で始動、安定したファーストアイドル、すぐにでも走り出せる感じだ。
アイドリングから太く存在感のある音がマフラーからはき出される。50時代とは肺活量が2.5倍だ。当たり前だが重厚感がある。軽くアクセルをふかしても、エンジンが発する鼓動から連想されるバイク感はなかなか。ちょっと嬉しかったのは、アイドリングで止まっているモンキーのフロントタイヤが50時代のように少しブルブルしていることだった。まさかここまでカバーしました? ホンダさん!
軽いクラッチレバーを引き、1速にシフト。アクセルを合わせて走り出す。100キロの車体、82キロのライダーの重みをなんの躊躇もなくスルリと押し出す。別に回転を上げなくてもごろりではなくスルリと後輪が押し出すのだ。これが125のトルクか。ほぼ瞬間的に2速にシフトアップしていた50時代とは異なり、しっかりと1速で速度を伸ばす使い方を好むようだ。2速もそう。すぐに3速に繋いでもトルクで速度を載せてくれるが、回転を伸ばしながらひっぱって気持ちよい走りができる。3速も同様。4速にいたってはクルージングギア的ハイギアードな印象で、なるほど都心から250キロ離れたこの場所にもツーリングを楽しめそうだ。僅かな距離を走っただけでモンキーは125というエンジンの取扱方を解りやすく教えてくれたのだ。
エンジンの伸びは、ホンダの水平エンジンらしく不満がない。粘りをもって伸びる感じで、マニアなら思わずハイカムとか入れたらどうなる! と想像するに違いない。鋭くはないが、しっかりとトルクを生みだし車速を載せる印象だ。上り坂でも増速するし加速感がある。その点で不満の少ないエンジンだった。高回転を維持して楽しいタイプでは決してないが、そこまで回転を上げなくても充分に走る。
落ち着きと軽妙さ。
両方を持つハンドリング。
十字路を曲がる。コンパクトな車体ながら落ち着きと12インチらしい軽妙さ、そして体だけ預けて曲がろうとすると、少しだけフロントタイヤがいやがるような素振りを見せる。そこで自分とモンキーとのチューニングはこう合わせてみたら走りやすかった。曲がる直前、一瞬ハンドルやシートからフワッとバイクにかかるライダーの体重の重さや力を抜き、迅速勝つ丁寧に寝かしてゆく。するとフロントの舵角が自然に入って、持ち前の旋回能力を引き出しやすかった。体格の大きいライダーに限り、の挙動かもしれないが、素直さを引き出すのは難しく無い。
峠道でのハンドリングはコンパクトらしいすばしっこさと粘るエンジンの組み合わせで、重厚感とも言える走りを楽しめる。荒れた路面ではホイールベースが短い分、やや挙動が乱れる場合もあるが、ソフトなシートが直接的な突き上げを伝えないので、ライダーは意外や安心して「道悪いね」などと安穏としていられる。目くじら立てる気にならないのが面白い。
曲がる、前の作業で欠かせない減速についても、前後油圧ディスクを持つ新型は、モンキー史上最高に大人びたブレーキタッチを持っている。前後ドラムだった先代は、遊びをベストに調整し自分の好みの位置からレバーやペダルを操作したとき、初期タッチこそ上質だったものの、やっぱり減速力をもっと引き出そうと操作力を強めると、途中から操作力に対して期待値が出てこない、という印象だった。それでもコンパクトで軽いから不満はなかったが、今や前輪だけとはいえABSを持つモンキーのブレーキ。タッチ、にぎりを増力したときの減速が力強くなる変化などしっかりと味わえる。ソフトなサスペンションだがフロントフォークはブワンブワンすることもない。
リアも同様で、タッチと制動力のバランスがよく、ABSが無いことを勘案して、ロックするまでの調整幅が広く、適度なストッピングパワーを持っていると思った。
また、サスペンションは大きなギャップにこそガツンとくるが、それ以外はなかなかの性能を見せてくれる。試乗した道が雪解けで荒れたアスファルトだったので余計だが、先代の50モンキーが、ある程度低圧タイヤの吸収力に頼っていたこともあり、タイヤが吸収しきれなくなるといきなりガツンとくる乗り味だったことを思えば、しっかりとした吸収性を持ったサスペンションだと思った。
総じて、小さいのは小さいが、小船的なユラユラ感がなく、長く走って楽しみたい、遠出をしたい、という安心、安定感が備わったレジャーバイクだ。だからこそ乗り手に「冒険」しよう!と誘うようなパッケージになっている。新型の完成度はソコがなにより嬉しかった。
モンキーで何処行く?
どこまで行く?
125が話題だ。車検がない、自動車の任意保険と合わせてファミリーバイク特約が活きるなど、経済学的な「オトク」感を呼び覚ます美辞麗句は聞き飽きたが、実際に乗って見るとそんなコトを度外視して欲しい!という衝動をつつかれる。逆に今年、C125やPCX等々、身内にもコンペティターが多いモンキー。サイズから言えばGROMやZ125PROあたりと大差無いワケだが、それでも、モンキーらしさはこれでしか味わえないように仕立てられている。
LEDの灯火器が標準などショールームストック状態でなかなかの装備を持つバイクだが、今後多く登場するであろうカスタムパーツを吟味しながら自分だけのモンキーを造るのも付き合いを深める要素となるのではないか。大きいバイクは手元にないと困るが、だからといって、もし125のレジャーバイクがあったら……。まるで違う遊び方をしっかり楽しめそうだ。自分の中にそれが出来るよね、と言っているもう一人の自分が居たことが最大の発見だったかもしれない。
モンキーで出かけたら、大きなバイクで走った道、場所でも愛おしいほど新鮮に見えるに違いない。何処へ行く、よりもこのモンキーとどこまで走るのか。それによって楽しさはいくらでも膨らむ予感がしたのである。
(試乗・文:松井 勉)
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