2018年8月31日

波乱の「Wheels and Waves2018」から 欧州カスタムシーンの未来を創造してみる

■レポート・撮影:河野正士 ■Wheels and Waves http://www.wheels-and-waves.com

 
6月、今年も南フランスのリゾート地ビアリッツで開催されたカスタムバイク系のイベント「Wheels and Waves=ホイールス・アンド・ウェーブス(以下WW)」に参加してきました。イベントは今年で開催7回目。僕自身は4年連続の参加となります。同じイベントに4度も行けば飽きちゃうかも……と思ったのですが、行ってみれば、飽きるなんてことはまったくなく、今年も新たな出会いや発見、そしてアクシデントなどもあり、やっぱり行って良かった!! という内容でした。では、イベントを振り返ってみたいと思います。

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 今回は、ビアリッツに到着早々、大波乱が待っていました。昼前にビアリッツに到着すると雨風ともに強い。また迎えに来ると言っていた主催者から、ホテルまでタクシーで行ってくれとメッセージが送られてきました。その後、音信不通に……後に分かったのですが、その日の明け方、ビアリッツを嵐が襲い、それまでメイン会場で準備を進めてきた出展ブース用テントや仮設ステージのほとんどが破損してしまったようなのです。僕らが到着した時間はその後片付けと、イベント開催するか否かのきわどい判断を迫られていたときだったのです。彼らは、数年前からビアリッツの自治体や警察とともにイベントを運営していて、協議の結果、テントの大半が壊れてしまったことはもちろん、まだ天候が不安定な状態で、これまでの海に面した屋外メイン会場では危険が多すぎるため開催を断念。替りにビアリッツ空港に近い屋内のイベントスペースに移動することを決定したのです。
 

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↑開催日前日のお昼の会場風景。約20時間前に会場移転が決まったこともあり、ほとんど何も搬入されていない状態。駐車場に車中泊したというフランス人写真家のカップルが言うには、真っ暗の中、スタッフたちが懐中電灯を持って作業していたそうです。


 
 このアナウンスが流れたのが開催日2日前の15時ごろ。そこから運営スタッフによって不眠不休の大移動劇が始まったのです。夜、主催者と会うことができたのですが既に疲労困憊。彼の母親はビアリッツよりは内陸の街、トゥールーズに90年間住んでいるそうですが、6月に嵐が来た記憶はないそうで、まったく予想もしない状況だったそうです。
 
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↑LAから送った木村信也氏のアエルマッキと、日本から送った大沢俊之氏のハーレーダビッドソンの2台は、一度主催者の事務所があるトゥールーズで荷受けされ、そこから陸路ビアリッツに運ばれました。両者は欧州でも人気が高く、開梱途中から人だかりができていました。


 
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↑またレザージャケットやブーツを展開する日本のファッションブランド/アディクト・クローズ (http://addict-clothes.com )も2年連続でブースを展開。素材から製法まで、徹底的にこだわり抜いたアイテムは欧州でも人気が高いのです。


 
 また今回は、2人の日本人ビルダーが主催者から招待されていて、その車両が翌日に会場に運ばれてくるとのこと。そのビルダーとは、アメリカ・カリフォルニアで活躍するチャボエンジニアリングの木村信也氏 (http://www.chabottengineering.com )、そしてカスタムバイクビルダーとして、またエングレービング・アーティストとして活躍するチーター・カスタムサイクルズの大沢俊之氏(https://www.instagram.com/cheetah_4d.studio/ エングレービングのアーティスト名は4ディメンション・スタジオ)。彼らの車両を開梱し、各種コンテンツにそれらの車両を展示およびレース参加するための準備をするため、昼過ぎには急ピッチで準備を進める新メイン会場へと向かったのでした。しかしそこは、まだ空っぽ状態。こんなので大丈夫か……と不安になるほど。そこに会場運営をしている、顔見知りの地元スタッフが居たので大丈夫かと声を掛けると「大丈夫なわけないじゃん。運良く予定通りイベントがスタートできたら、オレにビール奢ってくれ!」と言って、目をつり上げたまま会場を動き回っていました。
 
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↑ヤマハは、WWにはなくてはならない存在。欧州カスタムブームを下支えしたブランドは、常に注目を集めています。ブースには新作のYard Builtカスタムを数多く展示しました。


 
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↑フランスのカスタムファクトリー/ラッキーキャット・ガレージ( http://www.theluckycatgarage.com )が製作したXV950(日本ではBOLT)ベースのカスタムマシン。Spece Explorer=宇宙探索者と名付けられたマシンは、クラシカルなバガースタイル。


 
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↑こちらもフランスのカスタムファクトリー、ワークホース・スピードショップ( http://www.workhorsespeedshop.com)の作品。XSR700をベースに、フレームはスタンダードをベースにリアセクションを大幅に加工、スイングアームはワンオフ製作されています。エンジンはNOSシステムを採用するほか、ピストン、カム、コンロッド、クランク、バルブ周りとほとんどに手が入る。外装は、FZR750の耐久仕様車をイメージしています。


 
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↑こちらはBMWのブース。BMWは多くのカスタムマシンとともにBMW CLASSICから歴史的なマシンを数多く展示していました。このカスタム×クラシックの流れは、ここ1~2年、BMWが取り組んでいるコンテンツ。これがどう発展していくか興味深いです。


 
 そしてそして、イベントは何とかオンタイムでオープン。もちろん、オープンしてからも細かな設えは続いていましたが、オープン後は大きな混乱もなかったようです。また屋外にはスケートのハーフパイプ、巨大スクリーン、丸太を組んだトライアルセクション、それに円柱状の木製スタジアムの中をバイクが走るウォール・オブ・デスを設営。とくに屋外コンテンツの設営は、会場への物資搬入を優先的に進めたため、後回しになっていたのに……スゴい。オープン後に先述の設営スタッフを見つけたのでビールを奢ろうとしたのですが、いつもならすぐにビールを受け取る彼が、まだやることがあると笑顔で去って行きました。いや~、ほんとうにお疲れさん。

 あ、各コンテンツはこれ以降に、写真とともに紹介しますね。その前に、今回のイベントを通して感じたことをまとめてみたいと思います。
 

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↑WWのタイミングに合わせるように「FTR1200」の市販を発表したインディアン。ブースこそ地味ですが、いたるところでインディアンが仕掛けていて、ここ数年手入れをしてきたこのシーンで、いよいよ何かを始めようとしている感じがガンガン伝わってきます。


 
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↑昨年、カスタムシーンに打って出てきたホンダですが、今回はしトーンダウンした感じ。いや、方向修正という表現の方が正しいかも。カスタムバイクを並べながらも、落ち着いた雰囲気を造り上げていました。


 
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↑今年、初参加のフランス・カワサキ。カスタムマシンに加え、Zなど歴史的マシンも展示。日本ほど“Z900RS”祭りな感じはありません。あと女性ライダー5人(だったかな)がロンドンからビアリッツまで、Z900RSに乗りさまざまな街を訪れ、人と出会いながら旅をするコンテンツ「Road to Wheels and Waves」という企画も展開していました。


 
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↑こちらはロイヤルエンフィールドのブース。昨年のEICMAで2気筒マシンを発表しましたが、早速それらのマシンを使ったカスタムバイクが発表されていました。ドラッグレーサー風のマシンは、排気量アップ&ハリス製フレームを採用。


 
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↑こちらはドゥカティ・スクランブラーのブース。スクランブラーの発表以来、WWに参加しています。新しいカスタムコンセプトバイクを中心に、複数のカスタムバイクを展示していました。


 
 欧州では毎年、各地で新しいイベントが始まり、短い夏のバイクシーズンは、それこそ毎週末のように各地でイベントが開催されています。そんな中、Wheels and Wavesは今年で開催7回目を迎えました。欧州のカスタムシーンを牽引してきたいくつかの主要イベントも、おおよそ10年の歴史を持っています。そして二輪車メーカーを含めた多様なメーカーのサポートを受けることでそれら老舗イベントの規模と影響力が大きくなり、“カスタム”というキーワードがバイクシーンのトレンドワードとなったわけです。

 しかしそれがひと区切り着いたのではないか、と感じます。これは“トレンドの終わり”ではなく“次章に向かう”感覚に近いものです。各メーカーは、イベントの盛り上がりと平行して商品開発と新しいブランド開発を進め、イベントの盛り上がりとともにシーンを盛り上げ、開発してきた商品を市場に出し、その市場を育ててきました。10年が経ち、そのサイクルが一回りした、と感じました。それは、微妙に変化する各メーカーの取り組み方、にあるのかもしれません。

 それは展開するプロダクトファミリーの拡大や縮小、新規参入、担当者の移動など、メーカーとしては当たり前のワークフローなのですが、そういった些細な積み重ねによって、今回は“移り変わりの始まり”のようなものを感じたのでした。言い換えれば、それほどこのシーンは、メーカーの垣根や国籍を越え、皆でシーンを造り上げている、独特の一体感があったのです。
 
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 しかしこの変化は、決して悲観的なものではないと感じています。相変わらずメーカーは、このシーンと手を組んでやっていこうとする意気込みが見えるし、イベント主催者側もその意識は変わりません。各イベントと各メーカーがどのように手を組み、次なる一歩をどこに踏み出すのか、大いに期待したいと思っています。
 
 では、各コンテンツ紹介、行きましょう!
 

●Punk’s Peak=パンクス・ピーク

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↑WWはフランス・ビアリッツを中心に、さまざまなコンテンツがビアリッツからバイクで30~90分ほど離れたスペインで開催されます。このパンクスピークもスペイン・オンダリベラの一般道というか農道を封鎖して行うスプリントレース。約400mほどですが緩やかなS字コーナーがあり、なかなか盛り上がります。


 
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↑こちらがスタートシーン。スタートは、主催者ビンセント・プラットがスタートピストルを撃つのです。


 
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↑こちらはドイツのビルダー、キングストンカスタム http://kingstoncustom.blogspot.com の最新作。アルミボディでフルカバードされた空冷フラットツインマシン。以前、同スタイルでスーパーチャージャーを装備したホワイトボディのマシンを製作したキングストン。これはその兄弟車で、ターボもスーパーチャージャーも無し。


 
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↑Yard Builtに参加したマシンも、ここでレースに参戦。


 
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↑インディアンは、FTR1200を持ち込み、エキシビションレースに参戦。ライディングするのはフォトグラファーであり、イギリスで開催されるフラットトラックレースでインディアンのサポートでフーリガン・クラスに参戦するディミトリ・コステ https://www.instagram.com/motelcoste/ 。スタートピストルを撃ったのは、インディアンに移籍したオラ・ステネガルド。


 
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BMWはBMW CLASSICのマシンを持ち込んでビンテージクラスに参戦。また最高峰クラスには、R nineTにHP2エンジンを積んだ「Schwarzwerk=シュワーツウェルク」を駆ったノーベルト・レブホルツがエントリーし、見事優勝。レブホルツはR nineTスクランブラーのプロジェクトリーダーだ。


 
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木村信也氏は、自らが製作しアメリカから持ち込んだアエルマッキでレースに参戦。


 
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お気に入りのカスタムバイクを見つけてはスケッチする人も。バイクの楽しみ方は、本当に幅広い。


 
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レース会場や、レース後に開催されたアフターパーティで撮影したパンクス・ピークなライダーたち。


 
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●Art Ride=アートライド

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パンクス・ピークのあと、レース会場から30分ほどの場所、パサイヤにある、古い缶詰工場をリメイクしたイベント会場で開催された「Art Ride」。カスタムバイクやビンテージバイクを、アート作品と一緒に飾り、楽しむイベント。メインスペースに展示されたのは、木村信也氏と大沢俊之氏が持ち込んだアエルマッキとハーレーダビッドソン。


 
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写真、絵画、立体とさまざまなアート作品を作家自ら展示。それと同様にバイクたちも展示されます。


 
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この会場でインディアンは、イタリアのカスタムファクトリー、ANVIL MOTOCICRETTE(アンビル・モトチクレッテ http://www.anvilmotociclette.com )がカスタムした、1200スカウトベースのカスタムマシンを発表しました。


 
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世界中のバイカーギャングをモチーフにした映画を製作している、映画プロデューサーのArne Toone https://www.instagram.com/arnetoonen/ の次の題材は暴走族。そこで自身が資料を読み込み製作し、劇中にも登場したマシンを会場に展示。欧州ではいま、暴走族が人気なのです。


 

●El Rollo=エル・ロロ

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スペイン・パサイヤにある競馬場のショートトラックを使って行われるフラットトラックレース「El Rollo」。ビンテージから最新モデルまで、さまざまなマシンによって争われます。


 
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メインスポンサーであるインディアンは、アメリカやイギリスで人気の、フーリガンと呼ばれる市販車改造クラスに参戦できるスカウトベースのフラットトラックマシンを大量に持ち込みレースに参戦。またワークスレーサーであるFTR750も展示しました。


 
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大沢俊之氏は、フレームから足周りまで、自ら造り込んだハーレーダビッドソンWLを持ち込んでレース。エングレービング・アーティストとして活躍する大沢氏は、ディミトリ・コステから依頼されたフラットトラック用ホットシューに似顔絵の彫金をデザインしました。


 
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ANVIL MOTOCICRETTEがカスタムしたスカウトベースのマシンは、イタリアのフラットトラック・チャンピオンがライディングしフーリガン・クラスに参戦。残念ながら、マシントラブルでリタイヤ。


 
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インディアンのワークスマシン、FTR750のデモラン。ライディングしたのは、元WGP250ライダーで、現在は自らのYoutubeチャンネル/Moto Geo http://www.motogeo.com を運営するジェイミー・ロビンソン。試乗後は大興奮していました。


 
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ホンダ・ヨーロッパは、レジェンド/ジャン・ミッシェル・バイルを招聘。モトクロッサーベースのカスタムマシンでデモランを行ったのです。


 
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Wheels and Wavesの主催者であるバイククラブ、South Sidersのボス、ビンセント・プラット。会場では、大沢氏が持ち込んだWLを愛おしむように眺めていました。


 
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ドゥカティは、800ccスクランブラーをベースにフラットトラックレーサーを造り、フーリガン・クラスに参戦。ライダーはフランス人女性ライダー/ゾエ・デービッド。彼女は、イベント後に開催されたスクランブラーのライディングスクールで講師も務めました。


 
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ホットシュー・コレクション。


 
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●SWANK RALLY=スワンクラリー

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今年からコンテンツに加わった、ビンテージバイクを対象としたエンデューロタイムアタックが「SWANK RALLY」。デウス・イタリアが開催していたイベントを、WWにミックスしたイメージでしょうか。WWでは初開催ながら大いに盛り上がっていました。


 
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ハーレーダビッドソンWLに乗るのはイギリスのファッションデザイナーでバイクフリークとして知られるニック・アシュレイ。マディのコースを、ダートトラックタイヤのWLで周回する姿は圧巻。またミーティス・トライアンフに乗るのはニックの愛娘/エディー。


 
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2日前まで大雨が降っていたことから、コースの一部は膝丈のマディだったそう。もちろん、みんな泥だらけ。


 
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