2018年8月27日
Husqvarna VITPILEN 701試乗 『休憩で眺めて、ニヤリとできる それがカフェレーサー』
■文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:Husqvarna Motorcycles http://www.husqvarna-motorcycles.com/jp/
今ではKTMの傘下に収まるハスクバーナの
名車NUDA 900以来、久々のロードモデル。
ヴィットピレン701はKTM 690 DUKEのカフェレーサーだ。
そしてハスクバーナは同じエンジンを使用しながら
まるっきり性格の違うバイクを作り上げた!
DUKEにはない艶があるね、ヴィットピレン!
スウェーデン発、この「ハスクバーナ」ブランドの創立は1903年のこと。この頃、アメリカでは1901年にインディアン・モトサイクルが、1903年にハーレー・ダビッドソンが誕生しているから、つまりハスクバーナは世界最古の部類のオートバイブランドのひとつってわけ。
創業当時はロードレースに、後にオフロードにも進出し、1959年にはモトクロス250ccで、1960年には500ccの世界タイトルを獲得。他にもエンデューロやBAJA1000で数々の記録を打ち立て、’87年にはカジバと経営統合。この辺で日本にも広く紹介されるようになったことを覚えています。
後にハスクバーナは、コンペティション部門であるフサベルを生み、’07年には、BMWがハスクバーナ本体を買収。F800のエンジンを使用したNUDA900が誕生したのがこの頃。そして’13年にはフサベルと再び統合し、いまはKTM傘下にあるブランド。今ココです。
そのハスクバーナが本格的ロードモデルを発表したのが、2015年のEICMA。ヴィットピレン701/401と、スヴァルトピレン401。その資料を初めて見たときには、DUKEのエンジン&フレームを使用したカフェレーサーかな、かっこいいな、面白そう――と思ったのを覚えています。ヴィットピレンっていうのは「白い矢」、スヴァルトピレンは「黒い矢」って意味。ヴィート・ヴィーンが「白ワイン」だから、本国の発音はヴィートピレン、なのかもね。かつてカジバが「フレッチア」ってモデルを発売していましたね。フレッチアも、イタリア語で「矢」の意味。ライトウェイトスポーツって意味なんだろうな、とかなんとか思っていたんです。
そのヴィットピレンがようやく日本に上陸、お披露目されたのが、’18年3月。いろいろ長いな(笑)。しかし、3年も前にお披露目したショーモデルと変わらないスタイリング! こういったインパクトのあるスタイリングって、生産性とか機能性で修正を余儀なくされることが多いんですが、ヴィットピレンは貫いたんですね。
基本的にヴィットピレンは、KTM 690 DUKEのカフェレーサーバージョン。エンジンとフレームを共用し、ロングタンクとショートシートを装着、ライディングポジションもセパハン&バックステップとしている。ざっくりとした印象では、着座位置が10cmほど後ろに下がって、ハンドルグリップ位置は20cmは低くなっている。
ここまでライディングポジションが変わってくると、もうハンドリング的にはまるっきり別のバイク。オンロードモデルとはいえど、前に乗ってフロントタイヤをギュッとつぶして、どこかモタード的な690 DUKEが純然たるロードスポーツになった、そんな感じ。
事実、フロント荷重でくるくる曲がる690 DUKEに対し、ヴィットピレンはもう少し穏やか。かつて「リアタイヤに乗る」なんて言われていた時代のそれではないけれど、着座位置がグッと後ろに下がったことで、荷重がフロントにかかりすぎず、すごく自然。ホイールベースも、ヴィットピレンの方が少しだけ長い。
少しこむづかしいことを言うと、シートを下げてバックステップにして、後ろがかりになった荷重は、開き角が大きくて低いハンドルとシート高をアップすることで相殺されているというか、極端にフロントの荷重がなくなっちゃうことを防いでいるように思う。
ハンドリングのテイストは、軽快さを抑えた手応えがしっかりあるもの。あれ、この感じなんだか覚えがあるな、と思ったら、KTMでいう390 DUKEとRC 390の関係性とそっくりだ。
125~390のスモールDUKEのイメージを感じたのは、ヴィットピレンのサイズ感のせいでもある。もう、まるっきり400cc、いや250ccって言われても自然に乗ってしまうかもしれない。シート高はやや高いけれど、車体が軽いので足着きや取り回しは気楽にイケる方だろう。ちなみに178cmの私で、両足裏が8割接地する感じ。スリムで軽量な車体ということを考えたら170cm級のライダーも不安なく取りまわせるだろうと思う。
エンジンは690 DUKEの水冷DOHC4バルブ単気筒。690ccというビッグシングルだけれど、鼓動とか振動とか、ビッグボアの単気筒エンジンにイメージしがちな特徴は皆無。バランサー付きってこともあるけれど、振動というより連続したパンチがあって高回転が良く回る! この辺はDUKEシリーズ共通のパワー特性だ。
けれど、690 DUKE時代からちょっと気になるのは、低回転域の不整爆発というか、回転を上げない域のパワーのバラつきだ。特にクラッチ周りにがちゃがちゃといったノイズが起こって、うーんもったいない。あまりトントンとシフトアップして低回転域で流す、なんて走り方は不得手で、いつもチェックする「6速80km/hくらいの回転数チェック」では、なんだかバラバラと不整に燃えて、あんまり快適じゃない。80km/hで走る時には、6速に入れると4000rpmに届かないから、5速で走るのがイイね。
これは690 DUKEより顕著で、きっとフライホイールマスの軽量さゆえのネガティブ。4000rpmあたりを境に、この不快な回り方がウソのように消えるから、いきおいカンカン回しちゃう(笑)。アップとダウン、両方向にシフターが装備されていて、クラッチレスでシフトアップ&ダウンする回転域の気持ちよさは、さすがDUKE譲り! 4000~6000pmあたりを使って走るワインディングの、なんと気持ちいいことか! この回転域を多用して走っていると、本当にこのエンジンって気持ちがいい! 単気筒エンジンのメリットを最大限に生かしている、そういうパワー特性なのだ。
特に、カフェレーサーとしてクラウチングポジションを取っているから、ワインディングでも体重移動がピタッと決まる。690 DUKEだと、どうしたってモタード的なアクションの方が決まるから、あぁ、この690エンジンのスポーツバイクがあったらなぁ、って想いが叶えられちゃたモデルなのだ。モタード的なDUKEは進入が気持ちよく、ヴィットピレンは立ち上がりが気持ちいい! 同系エンジンでここまで作り分けできているとは、やっぱりバイクのキモは車体設定なんだな、と思う。
走り回って、高速道路のパーキングエリア。ふと停めてバイクを離れて、コーヒー買って戻って来た時。駐車場で待っていたヴィットピレンは、なんともカッコよかった! 思えばカフェレーサーって、カフェに乗りつけて、それをウィンドー越しに眺めてカッコいい、って種類のバイクだから、ヴィットピレンはまさにカフェレーサーなのだ。
シルバーとブラックの質感は、機能性最優先のDUKEよりずっと高級感があって艶っぽい。欲を言ったら、前傾で開き角の大きいハンドルが、もう少し絞れたらいいし、または低いコンチハンでもカッコいいな。この後、日本に入ってくる予定のスヴァルトピレン401(=今度は「黒い矢」の意味)は、390 DUKEのエンジンを使用したオフロードテイストタイヤ、アップハンのモデルか――。そっちも楽しそうだ!
(文:中村浩史)
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