2018年8月14日
第43回「立秋の頃、鈴鹿8時間耐久を想う」
立秋も過ぎ、うだるような暑さも落ち着いたこの頃です。喉元を過ぎれば暑さも、8耐の熱さも冷めようというもの。夏の思い出をさかなに想いにふけるにはちょうどいい夜風になってまいりました。
7月には2回のテストがあり、すでにレースは始まっているようなもので、8耐ウィークというよりは8耐月間。短い期間でマシンをつくり、スタッフの調整をし、ライダー達はそれよりもずっと前から身体をつくって本番への準備を進めています。その流れまで見ながらのレースウィーク、パーテーションで作りこまれ、きちっと整えられたピットをみると気が「いよいよ始まったな!」と。
今年の8耐、「ヤマハ目指せ4連覇!」、「TSR初タイトル」とか「HRC復活」とか「カワサキにジョナサン・レイ」「ケビン・シュワンツ監督」 ・・・(ピエール北川欠席)と、話題は色々。
そして本番、心配された台風による影響は少なかったのですが、決勝直前と午後の突然の雨。ドラマの伏線が多すぎてどれがメインの筋だかわからない展開でした。結果、TSRは日本のチームとして初のタイトルを獲得、ヤマハが無事4連覇を成し遂げ、表彰台はファクトリー勢が占め「シャンシャン」で終わった8耐。きっちりと準備をしたチームが、どんなトラブルがあっても勝つものだなと思ったのでした。
全日本ロードレースに今季から復活したチームHRC、Red Bull Honda with Japan Post(#33)。ほぼほぼ8耐未経験者のピット内はテストからなにかおぼつかない様子を見せていましたが、決勝ウィークは素早いピット作業で「さすがのHRC」。
レオン・キャミアのテスト中の転倒、怪我による離脱で、なかなか3人目が決まらなかったチーム。中上、高橋の2人体制かとも予想されていたところ、パトリック・ジェイコブセンが加入。ツナギがまにあったのが決勝ウィークの金曜日というバタバタでした。そのため、ユニフォームでのチーム撮影を木曜にし、金曜日の短いインターバルにツナギでの集合を撮り直し。
決勝では前半の高橋巧がホールショットからトップに立ち、ウェット~ドライの難しいところをタイヤ交換を挟んで45ラップの連続走行。SCカー走行中はPJが粘り、最後はヤマハが給油のためピットインしタイムロスした際に逆転の可能性も見えたのですが、燃費走行のためかタイムが伸びず、そのまま2位でチェッカー。同一周回は2台だけでした。
来年はもっと強いHRCがやってくるんだろうという期待は大きい! もてぎGPでしか会えないMotoGPライダー中上貴晶の走行がたっぷり見れたのもの8耐でならではでした。
土曜日のフリー走行でそれは起こりました。中須賀転倒負傷、右肩を痛め、決勝は走行せず。表彰後の記者会見で怪我の状況を問われるも「なんでもない」とはぐらかす中須賀、深刻な怪我の状況が伺えました。マイケル・ファン・デル・マーク、アレックス・ロウズの2人が中須賀の分もカバーして走り、ラストは給油のみのピットインでHRCに差を詰められたのですが、その勢いは最後まで衰えることはなく7秒台で走行。23秒に迫られたギャップを30秒に広げて1位でチェッカー。
実は上位チームがそれぞれ順調にいってなかった中で、今年のYAMAHA FACTORY RACING TEAM(#21)は8耐で大規模なブランド戦略を図り、カラーリングを伝統的なYZFカラーに統一したり、イベントを開催したりと、社を挙げて取り組んでいて、チームはプライベートテストを組んだり用意周到な準備を進めてきており、トラブルに対処する度量も一番あったのではと。結果として優勝は順当だったのではと、終わってみて思った次第。
全日本レギュラーメンバーの渡辺一樹を最後まで迷わせたYOSHIMURA SUZUKI MOTUL RACING(#12) は、ギュントーリが転倒して後退、10位で終わる。かたや、生形秀之率いるS-PULSE DREAM RACING・IAI(#95)に放出された渡辺一樹は土曜のタイムアタック予選で本領発揮し2分6秒756で6番グリッド、決勝はトラブルを抱えることもなく周回し、前を走るau・Teluru MotoUP Racing Team(#090)が転倒したこともあり4位に浮上。生形選手が8耐チームを立ち上げて2年目の快進撃でした。Team KAGAYAMA U.S.A.(#71)はケビン・シュワンツを監督に迎え、アメリカ人のイケメンライダー、ジョー・ロバーツとCEVを戦う浦本でしたが、ジョーが転倒、追い上げて11位。
そのヨシムラと親戚にあたるKYB MORIWAKI MOTUL RACING(#19)ですが、KYBとこれからのレース活動において強力なタッグを組むことが発表された今大会。高橋裕紀、清成龍一の2年目コンビ(ダンが負傷のため、第3にラタポンを起用しましたが、結局2人での走行)、スタート間際の突然の雨に上位陣がレインでいくもスリックを選択したモリワキ。序盤は慎重に走る清成、順位はかなり下がってしまったが路面が乾く毎にタイムを上げていき、1時間後には19番手、中盤は9位を走行し最終的には8位でゴール。
ファクトリー不在の間はホンダのライダーの受け皿係に甘んじていたMuSASHi RT HARC-PRO.Honda(#634) 。今年はHRC参戦によりハルクは独自のチームで運営されて本来の雰囲気に戻っていました。レースは開始早々にドプニエが転倒・・・。ドミニク・エガーターが粘るも突然の雨による水野涼のクラッシュでリタイヤと残念な結果でした。涼にはこの後の全日本に期待!
伊藤さんが世界で活躍していたころといえば濱原颯道の父親がドンピシャの世代で、まさか息子と世界のイトシンがチームを組むなんて想像だにしなかったHonda Dream RT SAKURAI HONDA(#72)。事前テスト、大柄な濱原が小さく見えるほど伊藤さんの走りとトークのキレは良かったのですが、ウィーク早々に転倒、手の骨を4か所骨折してしまいます。出場が危ぶまれたところでしたが「桜井ホンダを応援するたくさんのお客さんが見に来てくれてる」と 痛む左手をおしての強行出場でした。レースはこれだけではおさまらず、決勝の朝からエンジンの調子が怪しかった。颯道くんはスタートして7番手あたりを走行していたのですが、マシン不調を感じて緊急ピットインから始まった修理。一度は諦めかけたが「うちはバイク屋だ、直せ!」という会長からの激も飛び4時間ほどかかりましたが再スタート、規定周回数には及ばず完走にはならなかったけど、思い出に残る桜井ホンダでした。
今年の話題の中心といえばKawasaki Team GREEN(#11)のジョナサン・レイ、レオン・ハスラム、渡辺一馬組。レオンとジョニーはとても仲が良く、去年はレオンが5スティント(ラストは連続走行)で2位に入り、ジョニーに強烈なラブコールを送ったもの。「勝てる体制なら……」と言い続けていたジョニー。計時予選から他を1秒以上突き放したスーパーラップで会場を沸かせ、土曜の予選もトップタイムでカワサキポール獲得。決勝はヤマハとのトップ争いを先導し続けるも、ジョニーのピットイン時にガス欠のような症状でスローダウン。レオンにつなぎ、ジョニーがSC走行中に転倒してしまうのですが、修復のためのピットインで準備万端で待っていたのは「いつでも行ける準備をしていた」渡辺一馬。その後レオン、最後はジョニーと猛追。SCカーの滞在時間も長かったことから挽回までには至らずでしたが、カワサキ3年連続の表彰台となりました。満足いく結果にはなりませんでしたが、みんなの心を躍らせてくれたチーム。そしてウィーク中に発表されたレオン・ハスラムのSBK参戦。カワサキは来年も、この体制で忘れ物をとりに行ってほしいと思います。
そして年間タイトルを獲得したF.C.C. TSR Honda France(#5)。8耐は耐久選手権の最終戦になり、TSRはシリーズランキング2位のGMT94と10ポイントの差をつけてトップで鈴鹿入りとなりました。テストから粛々と作業を進めるチームといつもより口数の少ない藤井監督。TSRといえば、ホンダのなかでも暴れん坊のイメージだったのですが、突出したタイムを出すわけでもなく、タイトルを狙っていく走りに徹するのは、TSRに暴れまわってほしいファンにとってはちょっと物足らない。でも一番それを悔しく思っているのも藤井監督とチームの人達だったのかもしれませんね。
レース後半、GMTとの一騎打ちのような場面もありましたが、すでに10ポイントの差がついていてここでGMTが前でゴールしても問題はなかったところ、きっちり前でゴールし見事年間タイトルを獲得。日本人が加入したチームがチャンピオンを獲得することはありましたが、日本を拠点に活動している(日本に籍をおく?)チームとして初のタイトルでした。
それぞれの目標をもって挑む8耐。毎年「また8耐きちゃうよ~!」と事前から暑さ対策に追われたり、仕事に追われるのも分かっているのだけど、サーキットでたくさんの人に出会い、全日本に出場しているチームも8耐では特別の想いを持って参戦していて、いつもとは違うサーキットにテンション上がるのは一緒です。この独特の空気や、チーム、ライダーたちの活躍を仕事以上の気持ちで伝えていけたらと毎年思います。
[第42回へ][第43回][第44回へ]
[全日本ちょこちょこっと知っとこバックナンバー目次へ](※PC版に移動します)
[バックナンバー目次へ](※PC版に移動します)