2018年8月10日
DUCATI Scrambler1100試乗 『ドゥカティの へたくそめ(笑)』
■文:中村浩史 ■撮影:森 浩輔 南 孝幸
■協力:DUCATI JAPAN http://www.ducati.co.jp/
800cc、400ccときて、
3番目の排気量のスクランブラーが
このニューカマー、1100ccだ。
排気量でカテゴライズするのではなく
装備でラインアップを増やしてきたこのモデルたちは
とうとう、空冷エンジンのまま
1100ccにまで排気量アップした。
街を、旅を、のんびり楽しめる……ではない
3番目のスクランブラー。
愛すべき悪口を言おう。
ドゥカティの……へたくそめ(笑)。
昨年のことだったか、このスクランブラーファミリーのSixty2、つまり400ccバージョンを真剣に買おうと思ったことがあった。小さくて軽くて可愛くて、400ccとは思えない力があって、回転もシャープで、高速道路の100~120km/h巡航を苦にしない、なにより街乗りの平和さがすごく気に入っていたからだった。
そんなこと、友人に話していたら「じゃぁオレもちょっと乗ってみよう」って気に入ってしまい、資本力に優れるヤツが先に買ってしまったという――。近しい人と同じバイクに乗るのをNGとしているから、僕のファーストドゥカティ計画は幻に終わったのだけれど、今でもひそかに、ヤツがSixty2を降りるのを心待ちにしているのだ。
それでも、ひそかに800ccもいいナ、と思っているんだけれど、800ccはちょっと気にかかることがある。それは「速すぎる」こと。空冷800ccのLツインは低回転からトルクがあって、回転の上昇もシャープ! 元気すぎるんだ、のんびり走れない。あのスタリング、あのポジションから考えると、ちょっと速すぎる。
僕は「スクランブラー」というカテゴリーそのものにかなり魅力を感じていて、それは軽くて小さい、どこへでも行けるバイクが欲しいな、と思っているからに他ならない。
もうバイクでやんちゃする年齢でもないし、ツーリングだってそんなに出かけない。いま僕がバイクに乗っている割合は、街乗り8:ツーリング1.5:サーキット0.5ってくらい。こういう乗り方をしているオーナー、実は多いんじゃないかな。そういう向きには、こういうスクランブラー的な乗り物がいいと思うのだ。
スクランブラー1100は、空冷Lツインを搭載する1100ccのスクランブラー。基本的なパッケージは400/800と変わらなくて、街乗り、ロングランもこなせるストリートバイクだ。さらに1100ccには、スタンダードと、メッキマフラーやワイヤースポークホイールのスペシャル、前後オーリンズ製サスペンションを採用したスポルトがある。排気量ではなく、バリエーションごとにカウントすると、9/10/11番目のスクランブラーだ。
スクランブラー icon
スクランブラー クラシック
スクランブラー フルスロットル
スクランブラー マッハ2.0
スクランブラー カフェレーサー
スクランブラー デザートスレッド
スクランブラー ストリートクラシック
スクランブラー Sixty2
スクランブラー1100
スクランブラー1100スペシャル
スクランブラー1100スポルト
車名に排気量が入るのは、これが初めてのこと。これで400/800/1100と3種類の排気量ラインアップが出揃ったことになる。
1100は、これまでの400/800と比べて、スタイリングもグッとボリュームが出た。マフラーがテールアップとなり、前後タイヤ、フォークもスイングアームも太くなって重量感が出た。800ccまでの細めのすっきりしたスタイリングよりも、グッと凝縮感がある。
走り出しも、やはりこれまでの400/800ccとは異質だ。1100ccらしいサウンドがあって(それでも例えばモンスターシリーズよりはずっと静かだ)バイクの質量がズシンとくる。たとえばスクランブラー iconの車重186kgに比べて、1100スタンダードは206kg。20kg違うと、かなり手応えがあるけれど、1100ccとしては軽量な部類だ。ちなみに4気筒だけれど、ホンダの空冷車CB1100は253kg。スクランブラーは40~50kgは軽い。
エンジン始動。エンジンの爆発1発1発が明確で、さすがに1100ccの排気量を感じることができる。800ccは強すぎないクリアな爆発感、400ccはソフトな力を感じられるから、アイドリングから力強さを感じる1100はやはり、異質なのだ。
パワーは、回転馬力よりもトルクに振ってあるから、アクセル開け始めにグッと前に進もうとする力が強い。800ccは軽量さを生かしたダッシュ力があって、400ccは軽量さとトルクのバランスが取れたダッシュ力があるから、やはり1100ccは異質。力がドン、とくる。
走り始めはややバタついた回転フィーリングで、クラッチ周りにノイズがある。ここから回転を上げていくと2500回転を越えたあたりから落ち着いてきて、このあたりの回転域を使ってポンポンとシフトアップしていくのが気持ちいい。6速はオーバードライブ化されているから、街乗りでスーッと流すとき、5速3000回転=60km/hくらいが気持ちいい。
ちょっとリキ入れて走る時、回転を上げながらスピードを乗せていくと、3000~5000回転あたりが力強く、8000回転あたりまでのフケ上がりもシャープ。さらに上は頭打ちがあるけれど、その回転域での1100ccともなれば、スピードはもう非合法。力があるのは分かった、けれどスクラブラーには不要なスピード域だ。
もちろん、テストコースならば200km/h巡航をしてもビクともしないだろう。けれど、やっぱり気持ちがいいのは130km/hくらいのクルージング、順法走行で100~110km/hならばさらにラクだ。
ハンドリングも800ccとはテイストが変わって、安定性重視のしっとりとしたタイプだった。今回、主に試乗したのは1100スペシャルで、キャストホイールのスタンダードよりしっとりと柔らかな乗り味を感じられた。前後オーリンズを採用した1100スポルトはさらに路面追従性がよくて、しっとりとした安定性がある。800ccと同じピレリMT60というブロック風パターンのタイヤなんだけれど、ちょっとキツ目にコーナーに突っ込んで行ってもハネないし、グリップも高い! 試乗したのが真夏、路面温度は50℃はあるほどの条件だったからかもしれないけれど、このタイヤ、ぜんぜんスポーツツーリングにビクともしないマッチングがあるものだった。
1100ccもある空冷Lツインで、6速3000回転で90km/hほど。100km/hで4000回転弱、こののんびり感が気持ちいのは、やはりスクランブラー共通のキャラクターだ。
もちろん細かいシフトチェンジなしでアクセルオン/オフで流すストリートも楽しい。800ccもいいけど、1100ccもいいな。けれどやっぱり僕は、のんびり性能が一番高いスクランブラーはSixty2だと思うし、1100はのんびり走る性能がまだまだ。だからドゥカティは、のんびり走るバイクを作るのがヘタなんだ(笑)。すーぐ速く、シャープなバイクを作っちゃう。
けれど、1台でなんにでも使うバイクとして、スクランブラーの最強バージョンを待っていた人は多いだろう。もう、モンスターの存在意義さえ食っちゃうほどの完成度を持つのが、スクランブラー1100なのだと言っていい。
ワインディングをハイペースで走るのならモンスター、長距離を走るならムルティストラーダがいい。スクランブラーは街乗りと、たまのツーリング。そんな力の抜けたバイクとの付き合い方がいいと思うのだ。
(文:中村浩史)
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