2018年7月30日
「今までとは違う」という主張を 乗る前から感じたニュー・フォルツァ
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
ホンダのFORZAといえば、2000年に初期型が発売されてからずっと、つり上がったアーモンドアイがトレードマークだったが、この5代目はそれを継続しなかった。前から見ると、角型のつり目と大きな鳥が羽を広げたようなLEDポジションランプが印象的で、一発でFORZAと分かる個性的な顔つきだ。全体の造形はラウンドした形状の面を多く使った丸い感じだったが、それも一新して、エッジのきいた精悍なルックスになった。そのスタイルからも今までとは違う、という主張が伝わってくる。
原点を再考するように初代と同じ「ニュースタイリッシュスポーツ」をコンセプトに開発。安心、快適、利便性を世界基準で見直したと開発責任者は説明した。最初は国内専用モデルとして登場したが、2013年に発売した先代のFORZA siから欧州を中心に海外でも売られるようになった。ご存知のように、90年代後半からのビッグスクーターブームがあって、カテゴリーとして確立しながら、その市場を支えたユーザー層の好みを考慮した作りになっていた。ブームが去ったことで、ビッグスクーターとしてのあり方を再構築。それに海外市場からの声も加えたそうだ。
アップライトなポジションも見直されている。
その結果、何がどう変わったのか。まず、跨ってシートに腰をおろしてみると、ポジションの違いがはっきり分かる。これまでは座る位置に対してハンドルは高めで、足は膝の曲がりが小さく前に伸ばす感じだった。新しいFORZAはシートが高くなった(715mm→780mm)こともあり、より膝が曲がり椅子に座っているようになった。胸の高さに近かったハンドルグリップを掴んだ手はおへそくらいの高さに。変わっても上半身も下半身も窮屈な感じはまったくない。少しクルーザー的だった以前のものより、個人的にこっちの方が好みだ。
まず自然な姿勢で腕も足も疲れにくい。そしてフットボードをしっかり踏み込め車体をバランスさせやすいのと、ハンドル操作において体の動きが小さく腕の中だけで操作している感覚で運転しやすいからだ。グローバル市場のスクーターではこれがスタンダード。その半面失ったものがある。それは足着き性。平均より足が短い身長170cmの私の場合、両足だと足の指が曲げられるところまでなんとか。片足をフットボードに載せれば力が込められる母子球付近まで届くので気にはならないけれど、もっと小柄な人やビギナーなら感想は変わってくるかもしれない。完成車比較で約5%、11kgも軽くなったという事実は、走りだけでなく、足を着いて車体を支えることや押し引きにも効いているので、気になる人はお店で跨がらせてもらうといいだろう。
ドライバビリティと扱いやすさの向上で動きが上質に。
スマートエントリーだから、キーを差し込まず、メインスイッチダイヤルを回してスタートボタンを押しエンジン始動、発進。動き出しは穏やか。いきなりグンと飛び出すようなことはない。歩くより遅い速度で走ってみると、その状態を楽に維持しやすい。これなら渋滞時にノロノロと動くのも楽にできるだろう。欧州などにある石畳で、そこが濡れていても安全に発進、加速ができるように、ホンダのスクーターとしては初めてHSTC(ホンダ・セレクタブル・トルクコントロールシステム)が採用されたことも大きなトピックだが、その恩恵を感じることは少ないかな、と思うほどトラクションさせやすい。こう書くとドライバビリティが悪いと勘違いされそうだが、そうではない。スロットル操作に対し忠実に反応するキビキビ感はある。出力特性を曲線グラフに表したイメージを見ても、トルクの高まりはなだらかなカーブを描き登っていく。
スロットルを大きく開けると、スルスルっと速度が伸びる。“押し出す”というより“滑るよう”という表現がしっくりくる。実際にはちゃんとエンジン回転数が上がって、速度も出ているのにそう感じた理由は、エンジン、駆動系、排気音など出てくる音が静かなこと。エンジンや駆動系はフリクションロスを低減させ滑らかにしたというのも頷ける。それと、高速域でもサスペンションに無駄な動きが少ないからだ。クルマ雑誌的な表現をすれば欧州車のような締め上げられた足をしている。前後のショックユニットの動きはバネが硬いのではなく、ダンピングをしっかり効かせたもの。
しっかりとしたサスペンションとシャシーでスポーティーな走り。
乗る前にストリップ車を見たが、燃料タンクを囲む特殊なダブルクレードル型をしたフレームは、アンダーパイプが前のFORZA siよりもかなり太くなって、他の部分も合わせて見るからに剛性を上げている。試乗場所は、ツインリンクもてぎ内の移動路や、外の一般道に加えてアクティブトレーニングパークに特設されたコースも用意されていて思いっきり走りを試せた。半径の大きなカーブでの高速コーナーリングで外側に飛び出そうとする遠心力に抗うときでも、車体の剛性感が高く、沈み込むサスペンションも踏ん張る。そこからの素早い切り返しでも、揺すられることもなくタイヤがピタッと路面に張り付いて気持ちがいい。
ブレーキのアタリはもうちょっとかな、と思うほど走行距離が伸びていない試乗車だから、サスペンションにもまだ動きの硬さがあるかもしれないと前置きして、道路の継ぎ目や段差などではしっかり手応えのあるハーシュネスがくる。私の体重ではリアよりフロントの方がはっきりしている。しかし、バンっという音とともに沈んだ前後のサスペンションはその衝撃を吸収しながら伸びもダンピングが効いているので一発で収まる。だから足の硬さは感じるものの不快になりにくい。ピッチングモーションは小さくフラットな乗り心地が続く。
新型FORZAはコンパクトになった。ホイールベースは従来より35mmも短縮されたのは大きい。さらに、フロント14インチ、リア13インチからフロント15インチ、リア14インチと前後キャストホイールを1インチずつ大径なものを採用。フラットではない凸凹した路面でもスロットルを開けていけるよう走破性を上げている。タイヤ(PCXにも採用されているIRC SS-560)のサイズアップもありホイールベースが短くなっても高速域でスタビリティに不安を感じることはなかった。アクティブトレーニングパークには、パイロンを並べ、スラロームやクランクを含む、小さく回り込んだり、すばやく切り返す必要があったりするジムカーナのようなコースもあった。わざわざこれを用意したということは、回頭性や機敏な動き、コーナーリングの安定感に自信があるということ。走ってみると、開発陣の狙い通りブレーキからの倒し込みの軽さとダイレクト感があり、旋回中に路面をとらえているタイヤ接地感をつかみやすくクルッと小さく回れる。リーンアングルが深くなってもオンザレール的な安定感。
快適性と利便性も抜かりがなく、ビッグスクーター本来の道に戻り進化を継続。
軽量化して、ホイールベースを短くしながらも、ラジエターとバッテリーを上下に配置するなどのレイアウトで、容量を前モデルと同じ11Lを確保した燃料タンク、ヘルメットが2個入る大きなラゲッジスペースを備えたことは素晴らしい。この日は猛暑日で、冷やす目的で風を体に当てたくなり、電動で素早く上下するウインドスクリーンを下げて走ったりもした。手元のスイッチで簡単に上げ下げできるのはありがたい。シートが上がり視線が高くなったことは混雑した街中での状況把握に一役買うだろう。新型FORZAは、走り、機能性、快適性などビッグスクーター本来の優位性を真面目に考えて正常進化させた。今後は、海外メーカーにある、スマートフォンとの連携などコミューターとしてさらなる利便性の向上もありか。
ブームの終焉によりビッグスクーターは死んだのではなく、軌道を戻して便利で楽しい乗り物として進化をしている。乗ってからそう思った。
(試乗・文:濱矢文夫)