2018年7月19日
~『2018“コカコーラ”鈴鹿8耐』事前テスト~ 王者ヤマハの順調と 挑戦者ホンダの暗雲
■写真・文:中村浩史
7月最終週の鈴鹿8時間耐久ロードレースに向けての「事前テスト」が終わりました。4メーカー合同だったり、タイヤメーカー主催のテストだったり、占有や数社合同のプライベートテストだったりと形はまちまちですが、公開テストはこれでおしまい。あとは7月20日にプライベートテストが非公開で行われる予定のようです。
そして7月29日(日)、いよいよ決戦の火蓋が切られます。
雨のテストと、灼熱のテスト
メインのテスト日程は、この7/10~12日の3日間と、その先週の7/5~6日の2回。しかし、7月第一週のテストは2日間とも雨に見舞われてしまい、各チーム・メーカーとも不完全燃焼。もちろん、雨なら雨で消化しておくテスト項目はあるんですが、やはりドライコンディションで、それも8耐本番のように、気温40℃オーバー、路面温度60℃!ってコンディションでテストしたい、っていうのが参加者の本音でしょう。
そして第二週のテストが、その「8耐本番に近い」コンディションとなりました。関東なんか記録的に梅雨明けが早かった今年、やや遅れて中京地区も梅雨明け宣言が出されて、その日にテスト初日を迎えたのでした。いやー、暑いしムシムシ(笑)。けれど、これぞ8耐本番! ってコンディションで、いま汗かいとくと、決勝が楽になるよ、って感じで、各チームとも精力的に走り込んでいました。
本命ド真ん中。ヤマハ4連覇へまっしぐら
注目は、やはり2015~17年と、鈴鹿8耐を3連覇しているヤマハファクトリーチーム。ライダーも、中須賀克行、アレックス・ロウズ、マイケル・ファン・デル・マークが顔をそろえ、本番さながらのテストを進めていました。ヤマハの場合は、やはり3連覇中ってこともあって、マシンはほぼ完成の域に達しているし、ライダーもこの組み合わせが2年目。ちょっと死角が見当たらないほどの順調っぷりで、中須賀、ロウズ、マークと、黙々と快速ラップを刻んでいました!
最速タイムは2日目に出した2分06秒273。これ、この3人の誰が出したかはっきりしないんですが、逆に言えばそれほど3人のレベルが揃ってる、ってこと。中須賀、相変わらず調子いいな、マイケル、久々だけどやっぱ速いな、アレックス、相変わらず速ぇ、って感じで、3人とも速い! それがヤマハファクトリー。
しかもヤマハは、今年から17インチタイヤを使用しています。昨年までは、よりレース専用スペックとされる16.5インチを履いていて、全日本選手権用のマシンは17インチだったんですが、8耐は昨年の大会まで16.5インチを使ってOKだったんです。
「マシンは、もう信頼しているうえに去年より良くなっているし、去年履いた16.5インチから17インチになっての変化もうまくつかむことができた。この3人ならチームワークに問題はないし、勝つチャンスはあると思うよ」とアレックスが言えば
「今年は、この数年いちばん強敵が揃っているけど、凄くいい状態で走れている。8耐は1周だけの好タイムは必要ないからね、安定して速いラップタイムを出し続けられるように準備するだけ」とマイケル。
このチーム、4連覇を狙って絶対本命。ここまで、スキらしいスキが見当たりませんね。
WSBKチャンピオン参戦!
カワサキ93年以来の優勝を狙う
そのヤマハファクトリーを追うのが、ワールドスーパーバイク(WSBK)チャンピオンを招聘して必勝を期すカワサキTeamグリーン! 純然たるワークスチームではありませんが、実質的なワークスチームですよね。さらにカワサキは、この2年連続して2位、しかもヤマハワークスと同一周回数と、勝ちきるまであと一歩! その足りないピースに、WSBKチャンピオン、ジョナサン・レイを呼び寄せました。
「鈴鹿8耐は4年ぶり。カワサキのライダーになって初めてだね。相変わらず暑い、きついレースになるんだろうな」とレイ。レイはテンケイトホンダからWSBKに出場し始めて10年目。鈴鹿8耐では2012年に初優勝しましたが、あの頃のグリーン・ボーイがWSBKの3Timesチャンピオンだもんね。貫禄出てきました!
「WSBKのマシンはピレリタイヤで、鈴鹿8耐はブリヂストンタイヤだけれど、問題はない。もちろん、タイヤグリップやマシンのハンドリングに違いはあるけど、すぐにアジャストできたよ。ベースセッティングはカズマ(渡辺一馬)がやってくれたし、レオン(ハスラム)も加えて、3人でのセッティングのすり合わせもいい方向に向かっている」とレイは自信をのぞかせます。
このチームは、Teamグリーンでトリオを組むのは初めてだけれど、ハスラムも、渡辺も、そしてレイも8耐を知り尽くしている、と言っていいトリオ。4連覇を狙う#21ヤマハが本命なら、対抗はココ、Teamグリーンですね。
前評判が芳しくないときこそ、
ヨシムラが来る
「うちは過去、レース前に『本命』扱いされたことなんてほとんどないですからね。ヤマハ、ホンダはワークスチーム、カワサキもセミワークスみたいなものですから、プライベートチームとして強大な敵に立ち向かう、ってテーマは変わりません」というのは、ヨシムラスズキの加藤陽平監督。
ヨシムラはここまで、出場ライダーを津田拓也/渡辺一樹/シルバン・ギュントーリ/ブラッドリ・レイの4人、と発表。もちろん、レースには3人で出場しますから、この4人の中から3人が決勝レースへ、残りのひとりは他スズキ系チームのバックアップに回る、という戦略です。今回のテストでは、津田/ギュントーリ/レイがヨシムラで、渡辺がエスパルスドリームレーシングで走行していたんですが、3日目には渡辺が両チームで出走してどちらもトップタイムを叩き出すという離れ業! 決勝用ラインアップは直前に決める、って戦略なんだそうです。
鈴鹿8耐といえばヨシムラ。けれど、今大会では他3メーカーのトップチームと比べて、今ひとつ話題性に欠けるのか、黙々と「やるべきこと」をやっているように見えました。黙々とテスト項目をこなし、時にタイムシートの上位にポン、と名前があがってくる。それは虎視眈々と優勝を狙っている、という風にも見えたのです。
ただし、ブラッドリ・レイは要注目です。今シーズンのブリティッシュ・スーパーバイク開幕戦を優勝して、一躍注目の的となったライダーですが、実は加藤監督、昨年のうちから「面白いライダーがいる」と注目していたそう。さらに昨年の全日本選手権・最終戦に呼びたい、という意向もあったらしいんです。そのレイ、もちろん鈴鹿は初乗りなのに、テストを重ねるたびにどんどんタイムを上げてきて、もうギュントーリや津田にそん色ないタイムで周回しています。2日目のセッションで、ギュントーリがずっと引っ張っていたのが印象的でしたね。しかし加藤監督の着目眼、さすが!
8耐優勝が至上命令のHRCに、
何が起こったか
そして、ちょっと心配なのがTeam HRCですね。メインスポンサーにレッドブルと日本郵便を迎え「レッドブルホンダwith日本郵便」というネーミングでのエントリーですが、思うように準備が進んでない印象なのです。ホンダワークスチームの復活と話題になった2018年シーズンですが、全日本選手権でも5戦7レースを終えて最高位が2位5回と、いまだ優勝なし。Team HRC復活のもうひとつの目標である鈴鹿8耐制覇へも、ちょっと歩みがスローに感じられました。
「ライダーが3人揃う機会がないので、まずは僕がベースのセッティングをピシッと出して、ふたりにマシンを渡すような準備をしたかったんですが、まだそこまで至っていないのが現状です。先週の雨テストでは、ほぼマシンは仕上がったと思うんですが、ドライのレースではもうひと乗せ、ふた乗せ欲しいのが正直なところです」とは、レッドブルホンダのエースである高橋巧。
高橋と組むのは、現役MotoGPライダーである中上貴晶と、WSBKライダーであるレオン・キャミア。6月中旬と7月第一週のテストには中上が合流しましたが、初回テストはあくまでシェイクダウン、先週のテストは両日とも雨。今週のテストに参加できなかったこともあって、まだまだドライでのテストが圧倒的に足りていないのが現状です。
さらにキャミアは、7月第二週のテストで合流できたものの、初日1回目の走行で転倒! ケガはそうひどくないようですが、大事をとって3日間の残りの走行をキャンセル。初日の大部分と2~3日目は高橋ひとりが走行しました。
「7月第一週のテストが雨だったのは他のチームも同じこと。でも、セッティングのすり合わせをしたかった今回、キャミアが転んだのは痛かった。特に、キャミアは身長が大きいこともあって、巧と貴晶と10cm以上違うんです。マシンのセッティングの前に、もっと大事なライディングポジションも合わせられなかった」とは、Team HRCを率いる宇川徹監督。HRC復活の総帥に白羽の矢が立ったものの、全日本のシリーズ前半と8耐テストまでは苦戦していますね。
そして3日間のテストを終わって、衝撃の発表がなされます。
「Red Bull Honda with 日本郵便 レオン・キャミア選手の鈴鹿8耐欠場のお知らせ」
結局キャミアは、ドクターチェックの結果、「脊椎に微小なクラックが発見された」ため、参戦取り止めを決定した、ということでした。
これでレッドブルホンダは現在、高橋巧/中上貴晶の2名体制。すでに3名体制になって久しい鈴鹿8耐で、2人制のチームが優勝したことはありません。キャミアの代替えライダーについては、決定しだい発表されるとのことですが、パッと「あのライダー」と顔が浮かばないのが、現在のホンダ陣営の層の薄さなのです。
WSBKでのキャミアのチームメイトであるジェイク・ガニエはまだまだ実力が未知数で戦力として計算が成り立たないでしょうし、いま参戦可能なライダーといえば、テスト1でハルクプロのマシンをテストしたランディ・ドゥ・ピュニエ? またはMotoGPから誰か? あれ? MotoGP引退発表をした「小さなサムライ」が? まさか……ねぇ。
本命ヤマハ、対抗カワサキ、
ヨシムラは? HRCは?
今年の鈴鹿8耐は、この4チームを軸に優勝争いが展開されます。テストの状況を見ていると、ここに加えて#634ハルクプロホンダ、#19モリワキホンダ、#5TSRホンダ、#94GMT94ヤマハ、#7YARTヤマハ、#71TeamKAGAYAMAスズキといったあたりが上位争いに絡んできそうです。
と言っても、ジャーナリストの予想ほどアテにならないのが鈴鹿8耐。7月29日日曜日、午前11時半から最初の一時間で、あそことあそことあそこが抜け出して、トップグループの中の何台かにトラブルやアクシデントが忍び寄る……そのアクシデントの神様を潜り抜けて、勝利の女神のキッスを受けるのはどのチームになるんでしょうか――。
最後に、前人未到の同一チーム個人3連覇を成し遂げた、ヤマハファクトリーの中須賀克行のこんな言葉を。
「鈴鹿8耐で優勝するために、一番大事なのはね……。まずライダーもピット作業もミスをしないこと、転倒しないこと、マシントラブルが起こらないこと。つまり、それを全部合わせて、本番までにいかにいい準備をするかってことが一番大事だと思うんです。うちのチームは、もう勝ち方を知っているし、いい準備ができています。4連覇です!」
答えは7月29日日曜日、午後7時半に明らかになります――。