2018年7月9日
パフォーマンスもポジションもバイク的であることを目指した BMWの新型ミッドサイズ・スクーター「C400X」
■試乗・文:河野正士 写真:BMW Motorrad Japan
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp/
2017年に開催されたEICMA/ミラノショーで、BMWは2つのニューモデルを発表し話題となった。それが逆回転の270度クランクを持つ新型並列二気筒エンジンと、スチール製の新型中空バックボーンフレームを採用した「F850GS/750GS」。そしてアーバンモビリティ・カテゴリー=都市部における移動手段としての二輪カテゴリーへと切り込むべく開発された新型スクーター「C400X」だ。今回は、イタリア・コモ湖周辺で開催された「C400X」の国際試乗会に参加し、その新型スクーターをテストすることができた。ここでは、その詳細やインプレッションを紹介する。
BMWは2012年に「C650GT」と「C600Sport」を発売。排気量650ccの並列二気筒エンジンをフレームマウントしたBMW初のメガスクーターは、パワフルなエンジンとスポーティな車体を持ち、なおかつツーリング性能を高めるなど、2000年に発表した屋根付きスクーター「C1」からコンセプトを大きく変え、BMWにおけるアーバンモビリティ・カテゴリーを新たに定義し成功を収めた。そしてその2年後の2014年には、BMW初のEVスクーター「C-Evolution」を開発し、のちに市場投入。さらに2016年には「C650GT」と「C600Sport」をそれぞれモデルチェンジし、そのパフォーマンスをアップデートした。そして2017年のEICMAで「C400X」を発表。BMWはアーバンモビリティ・カテゴリーを常にケアし、育て上げてきたのだ。そして今回、世界中のメディアを対象に試乗会を行った「C400X」は、新規開発した排気量350ccの単気筒エンジンを搭載したBMW初のミッドサイズ・スクーター。排気量も車格も、もちろんパフォーマンスや価格も練りに練った、いうなればアーバンモビリティ・カテゴリーの核となるプロダクトだ。
その乗り味は、想像以上だった。スクーターは通常、フロントカウル周りの収納スペースやフットスペースを確保するため、ステアリングヘッドからシート下まで、フレームがU字型を形成し、かつフロントフォークはアンダーブラケットのみで車体に連結されている。またシート下容量を確保するためシート下はボックス形状となり、さらにはエンジンがCVTなどの駆動系と一体化しスイングアームとして稼働する“ユニットスイング式”を採用している。
それによってフレームの剛性バランスを整えるのが難しく、また重量配分がリアヘビーになりがちで、それを支えるU字型フレームは、高速走行時の安定感やコーナーリング時のリニアリティに不満が出る場合が多い。排気量500ccを越える大排気量スクーターの場合は、車重の増加やエンジン出力の増大によってそのデメリットが顕著になるため、バイクのように、フレームにエンジンを搭載するモデルも少なくない。BMWのC600&650シリーズやヤマハTMAXなどはその代表だ。しかし「C400X」は、ユニットスイングを採用しながら、C600&650シリーズに近い安定感やコーナーリング性能を発揮していたのだ。
そして走り始めた瞬間から、良い意味で車体の軽さが際立っていた。ランナバウトやワインディングでの車体の切り返しが軽く、かつ安定している。ユニットスイング特有の、アクセルON/OFF時に起こるリアの上下動が少ないことも安定感向上の要因だろう。またフロント周りの安心感が高く、フロントを中心としたブレーキ操作でも、安定感/安心感ともに高い。
非常に個人的な乗り方だが、自分はビッグスクーターに乗る際、リアを中心にブレーキを掛ける。前述した理由から、U字型フレームではフロントへの高荷重時に安心感を得られにくいこと。そしてアクセル操作によるリアの上下動を抑えたいこと、などなど、その理由はスクーター特有の車体構造による癖というか挙動を抑えたいからだ。しかし「C400X」は、その挙動がしっかり抑えられていた。途中からは、あえてフロントブレーキのみを使って試乗を行ってみたが、じつに気持ち良く走ることができた。
走行後、どうやってこの軽さとスタビリティを実現したのかを開発陣に聞くと、徹底した造り込みだと答えが返ってきた。目指したのは、バイク的なライドビリティ(乗り味)だ。そのためハンドル、シート、ステップの位置もバイクらしいトライアングルを採用したという。
フレームはスチール鋼管を組み合わせたスペースフレーム構造。直径や肉厚の異なる鋼管を使い、その組み合わせ方を吟味することでU字型のスクーターフレームながら高い剛性を実現したという。またスイングアームピボットと言うべきか、フレームとユニットスイングの連結部分に“ディカップリングシステム”という独自の構造を採用することでリア周りの剛性を向上。
CVTの緻密なセッティングと組み合わせることで、リアの上下動を抑えるとともに、乗り心地の良さとバイク的なライドビリティを実現している。
そのディカップリングシステムとはピボット部のラバーマウントシステムで、フレーム側に2点、ユニットスイング側に1点の合計3点のピボットを縦に並べ、ラバーを介して連結している。そもそもはエンジンの振動をキャンセルし乗り心地を向上させるために開発されたが、その独自のラバーマウント方式によって、ユニットスイングの車体に対して横方向へ動きを抑えつつ、上下や前後の動きをコントロールすることでハンドリングや走行安定性の向上を図っているという。これはBMWとしては初採用の技術だ。
またエンジンは、パワフルかつ扱いやすかった。エンジンは新規開発された水冷OHC単気筒4バルブ。シリンダーが地面に平行に近い角度に配置された横置き型だ。ウェイトローラーの重量と、プーリー形状とのバランスを徹底的に造り込んだCVTと合わせることで、ダイレクト感のある、そして力強い加速性能を実現できたという。その強烈な加速感は、試乗序盤、シグナルスタートでうかつにアクセル全開にしてしまったとき、振り落とされそうになったほどだ。高速道路では100km/h巡航時からの追い越し加速も十分で、高速道路での制限速度付近(130km/h。やや下り坂だったが加速にはまだ余裕があった)の安定感も抜群だった。もちろんABSとASCも標準装備されている。
ユニークなのは、カムシャフトからギアを介しセットされたカウンターバランサーを採用していることだ。エンジンが配置される場所は、シート下スペースやフットスペース、また上下するリアホイールやエンジン本体のスペースを確保する必要があり、その場所取りとパフォーマンスの両立は、つねに開発者の頭を悩ませる。このカウンターバランサーも、そんな厳しい条件から生まれたイノベーションだろう。
日本を中心としたアジア市場では、近年スクーターのトレンドはミッドサイズ・スクーターよりもコンパクトな、150ccクラスへと移行している。このことについて開発陣に聞いたところ、それはしっかりと理解している、という返事が返ってきた。そして「C400X」は、A地点からB地点までを素早く移動するためのコミューターではなく、バイクらしい乗り味と操る楽しさを持ち、さらにスマートフォンを介して車体とライダーをリンクすることで新しいバイク体験を造り上げるためのプロダクトだと付け加えた。したがってコミューターとしての使いやすさとともに、バイクのようなドライバビリティを追求して排気量や車格を決定し、エンジンの出力特性および車体を造り込んだという。そして、そういった要求が強い欧州市場がメインマーケットであるとも説明が加えられた。
そのパフォーマンスについて、目標とした数値やライバルはあったのかと聞くと、もちろんライバルたちのパフォーマンスやディテールは徹底的に研究したが、最終的には自分たちがこれまで、さまざまなモデルを造り上げてきたバイク造りのノウハウを活かし、そのオーナーたちが「C400X」に乗り換えても違和感がない、バイクらしいフィーリングやライドビリティを目指したという。
そしてもうひとつ、「C400X」の特徴が、スマートフォンとの連結だ。すでにGSファミリーに搭載されている6.5インチのフルカラーTFTディスプレイが用意され、またBMWオリジナルのライディングアプリ/BMW Connectedを経由してスマートフォンの機能や情報を、ディスプレイ上で共有できる。近年は他メーカーのアドベンチャーモデルにもアプリと大型モニターの組み合わせが採用され、それらは珍しい存在ではなくなった。それでもアーバンモビリティ・カテゴリーに、都市生活との親和性が高いスマホがバイクとリンクされれば、その利便性や可能性は、アドベンチャーモデルとの比ではなくなるだろう。まして、軽自動車でさえスマホとのリンクが常識化してきたいま、ノリモノとスマホの連携は“当たり前”のこととなった。便利か不便かではなく、その基準が当たり前か否かとなったとき、バイクもスマホも連携するのが当たり前という判断が進むだろう。スクーターともなれば、その意識はさらに強くなるはずだ。今回はイタリア北部、コモ湖に近い田舎町やワインディングが試乗の舞台だったが、初めて走るそんな場所ではアプリ経由の情報が大いに役に立ったのは言うまでもない。
またこの「C400X」は、中国メーカーのロンシンが生産を受け持つ。開発と製造ラインの構築はBMWが行い、そのラインを模してロンシンが生産を行うというのだ。ロンシンは今年3月に国際試乗会を行った、フルモデルチェンジしたFシリーズ「F850GS」「F750GS」の新型エンジンの共同開発および生産を行っているメーカーだ。BMWとは単気筒エンジンを有していたFシリーズのエンジン製造から関係を築いており、その歴史は10年を超えている。とはいえ車体製造を任せる課程では課題も多く、それをクリアするのは決して楽ではなかったと語っていた。またC600&650シリーズでは、台湾のキムコがエンジン製造を行っており、その関係も継続中だという。
生産は今年7月からスタート、10月頃から欧州の先行導入国にデリバリーを開始するという。しかしワールドワイドに販売がスタートするのは2019年に入ってから。また正確な車両価格は現在未定だ。したがって国内の導入タイミングや価格なども未定。ただTFTディスプレイなどを装備しないスタンダードモデルを、欧州マーケットに7000ユーロ以下での販売を目指し、現在調製中という。
GSルックの外装は、都会を走るSUV的存在をイメージしたという「C400X」。それを日本の地で試せる日はもう少し先になりそうだが、それでも日本の町並みに佇む姿が、いまから待ち遠しい。
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