2018年7月3日
Vol.140 第8戦 オランダGP All Together… Oh, That!
大激戦である。26周にわたる第8戦オランダGPの熾烈な上位争いで先頭に立った選手は、クロスラインで数瞬のうちに抜かれた場合も含めると、確認できたかぎりで17回。ポールポジションのマルク・マルケス(Repsol Honda Team)から1周目にトップを奪ったホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ・チーム)を皮切りに、マルケス-ロレンソ-アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)-ロレンソ-ドヴィツィオーゾ-ロレンソ-ドヴィツィオーゾ-ロレンソ-ドヴィツィオーゾ-マーヴェリック・ヴィニャーレス(Movistar Yamaha MptoGP)-マルケス-ドヴィツィオーゾ-バレンティーノ・ロッシ(Movistar Yamaha MptoGP)-ドヴィツィオーゾ-マルケス、という具合。
この先頭争いのコンマ数秒背後では、さらにアレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)がトップにこそ立たなかったものの同一集団内で激しくポジションを入れ替えるバトルを続け、カル・クラッチロー(LCR Honda CASTROL)もチャンスを覗いながらピタリと集団後方につけていた。
結局、ラスト4周でぐいっと前に出たマルケスが、最後のペースアップでグループとの差を開いて優勝。レースを外から見物しているかぎりでは、選手たちはギリギリのレベルで緊密な戦いを繰り広げていたようにも思えるのだが、ラップタイムの推移を見ると、マルケスはこの激しいバトルの中でもじつは余力を残して戦っていたことがよくわかる。
マルケスが自己ベストタイム(1’34.261)を記録したのは、ラスト3周の24周目。それに対して、2位のリンス(1’34.463)と3位のヴィニャーレス(1’34.113)は、ともに6周目に自己ベスト。4位のドヴィツィオーゾが7周目(1’34.378)。つまり、彼らは前半にベストタイムをマークした後、そのペースをできるだけ落とさないように維持する格好で周回していた、ということが見て取れる。それは、5位のロッシ(1’34.201:13周目)、6位のクラッチロー(1’34.555:16周目)に関しても同様だ。
数字というシロモノは、じつに正直かつ冷酷に事実を物語るものである。
リンスが最高峰クラス自己ベストの2位を獲得したことにより、スズキはこれでコンセッションポイントの獲得が5点になった。あと1点を獲得すると特別待遇が終了し、来季からは通常枠のレギュレーション適用になる。
コンセッション適用メーカーには、テストの優遇やワイルドカード参戦数など、様々な利便性が図られている。エンジンも今年度は選手一名につき9基まで使用可能だが、コンセッションが終了すると、ライバルメーカー同様の年間7基に減少する。また、シーズン中のエンジンアップデートも禁止され、開幕時のスペックで凍結されたまま一年を戦うことになる。たとえば、今回のレースウィークにニューエンジンを投入したような対応は、コンセッションが終了すると不可能になる、というわけだ。
そのニューエンジンについて、りんちゃんは5番グリッドを獲得した土曜の予選終了後に「大きな変化ではないけれども細かい部分でいろいろと良くなっているところがあって、ストレートの伸びも改善している」と話していた。さらに「明日はロレンソとマルケス、ヴィニャーレスが抜け出すんじゃないかな。自分もその中にいたいし、もちろん表彰台を狙う。トップファイブは可能だと思う」と予想していたが、まさにそのとおりの結果になった。この調子でいけば、コンセッション終了はかなり現実味を帯びてきた、と見てよいのではないだろうか。とはいえ油断禁物。しかも、そもそもコンセッション終了でスズキはようやくスタートラインへの復帰を果たした、ということでもあるのだから、勝って兜の緒を締めよではないけれども、勝ってエンジンの封印をせよ、である。語呂合わせにも何にもなっていないけど。
ヴィニャーレスは今季2回目、アメリカズGP以来の表彰台である。チームメイトのロッシがコンスタントに表彰台に上がり続ける一方、自身は低迷傾向から抜け出せず、ここ数戦はかなりご機嫌のよろしくないコメントが続いていた。が、今回はウィークの走り出しから調子がよく、かなり自信を取り戻しつつあるようだ。
「まだ改善の余地はあるけれども、今日は上位で争えて良かった。車体は上々で高速コーナーは気持ちよく走れているけど、制御はまだまだ詰めていかなければならない」
と話す口調も、ここ最近のフラストレーションを溜めた話しぶりとは異なり、軽やかでポジティブな雰囲気である。
「ライバル勢と比べると、まだ自分たちは遅れている部分がある。でも、この調子で着実に改良を進めていって、夏休みの間にヤマハが何か手を打ってくれれば、後半戦での巻き返しも狙える」
しかしこの言葉は要するに、「なんとか早急に対応しないと、もう手遅れギリギリだからね」ということを前向きな言葉遣いで表現しているにすぎない、ともいえる。なんにせよ、2位や3位ばっかりとっていても、勝たないことにはチャンピオンシップポイントでは引き離される一方なのだから、勝てる状態に自陣営の戦闘力を引き上げることがヤマハにとっては喫緊の急務である。
5位で終えたロッシも「加速をなんとかしないといけない」と、レースを終えてマシン面での現状の課題を述べている。ロッシはレース終盤に表彰台圏内につけながら、アタックしてきたドヴィツィオーゾとラインが絡んでオーバーランしてしまい、表彰台を逃すことになってしまった。レースなので仕方がないと言いつつも、「ドビがあそこで強引に無茶な勝負をしてこなければ、ふたりともきっと表彰台を獲れていた」と悔しさも垣間見せていた。が、しかし、もっと若い時代のロッシなら、あの残り周回数であの混乱状況での駆け引きならあの場所にはいなかったのではないか、という気もしないではない。熟練した戦術やテクニックと衰えてゆく体力との兼ね合いであの位置取りになっていたのだろうが、もし10年前の彼なら、勝負どころはもっとずっと前に狙っていたかあるいはもっとぎりぎり後まで取っておいたか、どちらかではなかったか、というふうにも思う。まあ、そんなものはしょせん、架空の仮定の素人妄想でしかないのだが。
4位のドヴィツィオーゾはというと、「最後の8周はトラクション不足でマルクについていけず、表彰台も争えなかった。それが今週の課題点。去年はタイヤの消耗に対応できて最後まで速く走れたけど、今年のバイクで今年のタイヤでは、そこをうまくマネージできていない」と、レース後に、現状の問題について説明をした。
「去年のレースは厳しい内容だったから、その意味ではハッピーだけど、今の状況を改善するのはラクなことじゃない。ただ、今後に向けて(課題を明確にできたという意味では)意義のあるレースだったし、いいウィークだったと思う」
と沈着冷静に話すあたりは、いつものドヴィツィオーゾである。
さて、悩みが深いのがダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)である。来季は新設ヤマハサテライトチームへ移籍するのではという噂がもっぱらであるが、ペドロサ自身はまだ何も発表できる状況には至っていないようである(新設ヤマハサテライトチームについては、次戦あたりで何らかの動きがあるのではないかとも見られている)。今シーズンは序盤でもらい事故の転倒による負傷があったとはいえ、開幕以来まだ一度も表彰台ナシ。2006年の最高峰昇格以来、ここまでの表彰台日照りは初めての経験である。今回は18位という低グリッドからのスタートで、最後はなんとかポイント獲得圏内の15位フィニッシュ。
「決勝はスタートがよくなくて、序盤で順位を大きく落とし、リズムも取れなかった。周回を重ねると気持ちよく乗れるようになってラップタイムも良くなってきたけど、グループの後ろで走らざるを得ず、低い順位で終わってしまった。レース終盤に力強く走れたのは今回の収穫で、序盤にタイヤが新品の状態でも速く走れるようになれば、予選ももっと良くなると思う」
来季の帰趨が決定していない精神的に宙ぶらりんな今の状況も、このモヤモヤしたリザルトに影響しているようだが、そうであればなおのこと、一刻も早く関係各方面の調整が終わって吹っ切れた状態で、本来の速さを取り戻してほしいものである。
次回第9戦ドイツGPの舞台はザクセンリンクサーキット。マルケスが2010年の125cc時代以来8年間毎年ポールトゥウィンを飾っているという、まるでマンガのような記録を続けているコースである。この冗談みたいなリザルトは、果たして今年も更新されるのでありましょうか。次号を待て、なんちて。
ダッチTTでもじつに珍しい三日間連続好天。
■2018年7月1日 第8戦 オランダGP TTサーキット・アッセン |
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順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | ||||
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1 | #93 | Marc MARQUEZ | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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2 | #42 | Alex RINS | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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3 | #25 | Maverick VIÑALES | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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4 | #4 | Andrea DOVIZIOSO | Ducati Team | DUCATI | ||||
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5 | #46 | Valentino ROSSI | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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6 | #35 | Cal CRUTCHLOW | LCR Honda CASTROL | HONDA | ||||
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7 | #99 | Jorge LORENZO | Ducati Team | DUCATI | ||||
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8 | #5 | Johann ZARCO | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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9 | #19 | Alvaro BAUTISTA | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
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10 | #43 | Jack MILLER | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
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11 | #29 | Andrea IANNONE | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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12 | #44 | Pol ESPARGARO | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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13 | #41 | Aleix ESPARGARO | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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14 | #45 | Scott REDDING | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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15 | #26 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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16 | #53 | Tito RABAT | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
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17 | #38 | Bradley SMITH | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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18 | #55 | Hafizh Syahrin | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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19 | #30 | Takaaki NAKAGAM | LCR Honda IDEMITSU | HONDA | ||||
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20 | #12 | Thomas LUTHI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
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RT | #9 | Danilo PETRUCCI | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
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RT | #10 | Xavier SIMEON | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
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RT | #17 | Karel ABRAHAM | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
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