2018年7月6日
DUCATI PANIGALE V4 S試乗 「MotoGP Everyday!」
■レポート:松井 勉 ■撮影:松川 忍
■Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home
突きだした迫力ある後輪はただ者ではないことを無言で伝える。車体の前半分までに集中したボディーパネル。そしてまるでゴージャスなビキニのように小ぶりなシートエンドは風のトンネルとなって終結するデザインだ。パニガーレV4の車体は見れば見るほど麗しい。止まっていながら興奮させる美の力量。この時点で物欲は満たされる。金色の足、新種のブレンボも存在感に加担する。しかし、それらは一種の添え物に過ぎない。波動の源泉は、その端布に潜むV型4気筒にこそあるのだ。
こう来るとは思わなかった。
昔からBMWなら水平対向2気筒、ハーレーダビッドソンならプッシュロッドの45度Vツイン、ドゥカティならLツイン。ソウルエンジンの相場はそう決まっていた。そして多くのドカティスタはMotoGPは特殊な世界、勝つためにライバル同様の4気筒レーシングエンジンを載せている、と認識していたハズ。それだけに、パニガーレV4の噂が駆け巡った時、ファンも驚いたはずだ。
2003年からMotoGPにV4エンジンで参戦したドゥカティは、2007年にはケーシー・ストーナーのライディングでタイトルを獲得。2008年には、2006年のワークスマシンをベースにしたストリートモデル、デスモセディッチRRを世界限定1500台で送り出した。その時もこのモデルはレプリカだからV4なのだ、とファンは納得したはず。
しかし今回は1988年以来、ワールドスーパーバイクに向け市販してきたスーパーバイク系モデルに、MotoGP直系エンジンが搭載され、ついにスーパーバイク×MotoGPのミクスチャーをドゥカティが具現化したことになる。言わば、ソウルモデルの一翼からLツインをはずしたことになるのだ。
体がはみ出すコンパクトさ。
それでもDNAは色濃く受け継がれている。2011年、ミラノショーでデビューをしたスーパーバイクモデルに、ドゥカティは自身が本社を構える町、ボルゴ パニガーレの名を冠した1199パニガーレを送り出した。それはドゥカティにとってどれだけスーパーバイク系モデルに本気かを示すのに充分な証左だろう。その名を引き継ぎ、そして勝つべくしてV4を搭載した新型、というわけだ。V4となっても連綿と築いてきたスーパーバイクの系譜であり、MotoGPレプリカという位置づけではない。それがドゥカティの主張でもある。
つまり、ワールドスーパーバイクを席巻するカワサキに対する刺客とも取れる手段を講じたのだろう。いまさら言うまでもないが、先代の1299パニガーレは、スーパーバイクレギュレーションには排気量が合致しない。2気筒は1200㏄を下回ることが求められる。そのため、レースベースモデルとも言えるパニガーレRには排気量を絞ったエンジンを搭載していた。つまりストリートベストな特性を得るために排気量を上げていたのだ。このパニガーレV4も同様、いずれ1000㏄以下の4気筒を搭載したパニガーレV4Rなるモデルが出るのだろう。
話しを戻そう。パニガーレは同時に、アートのように美しく、バイク乗りなら潜在的に持っているハイスペックへの憧憬をこれでもかとくすぐるモデルなのだ。そしてそのサイズは、1100という排気量から想像されるサイズ感ではない。現物を目の前にするとコンパクトなデザインに驚く。
CB1000RRやGSX-R、YZF-R1やZX-10R 、BMWのS1000RRなどもそれぞれにコンパクトさをもっているが、このパニガーレV4ときたら、跨がってみると、肘、膝、肩、尻など各部がいつもよりはみ出していると感じるほど。
そのヒミツはレイヤーを重ね、フレームすら外観として活用するほど全体の幅をそぎ落とした造形の成果なのだが、パニガーレV4の波動はこうした部分も含め、ここかしこから乗り手の細胞を刺激する。
一線を画する4気筒。
前傾が強めなのは織り込み済みだが、幅感のあるシートや全長の短いステップペグ、そして戦闘機のコクピットキャノピーのように丸みがあり先端に行くほど尖ったスクリーンなどそのディテールは外から見る以上にスパルタンだ。反面、そのスクリーンの最奥部に潜むTFTモニターに映るアナログ回転計の画像のクリアさとデザインの新鮮みが、エスプレッソに入れた角砂糖のようにスパルタンさを調和しているのがわかる。
また、ライディングモードやパネルの表示を変更するため、インターフェイスが解りやすいドゥカティムルティストラーダ1260系と同様のスイッチが採用されていることもレーシーさとプレミアムさの融合を感じる部分。
さあ、走り出そう。フィット感のよいボディーパネルに無駄な引っかかりが無いことを確認し、エンジンを始動する。ゴロゴロとしたドゥカティらしいエンジンとその排気音。Lツインと言われたらそのものかもしれない、というほどの近似性を感じる。次第にいつもドゥカティを乗り出す感覚に自分の感性が引き戻されてゆくのが解る。
しかし、それはクラッチレバーを繋いだ瞬間、未体験ゾーンにいることを思い知らされた。1200や1300㏄ツインに慣れた感覚だと、V4、1100㏄のボトムトルクは細い。発進でも3000回転程度でクラッチをミートさせたいところ。インライン4勢ならアイドリングからスルスル動き出す感覚からすると、明らかに低回転トルクが細いのだ。
慣れると2500回転から2800回転あたりでもミートできるが、初速をスッと乗せるほうがアクセルレスポンスがよい回転域で走り出せる。アクセルと加速感のチューニングが取れるのが4000回転あたりからだ。乗りだしてしばらくは左折、Uターンといった走りを一発で決めるクラッチ操作に神経を使った。
街中ではせいぜい4速までという印象だ。標準装備されるクイックシフターはご機嫌で、操作力は適切、シフトの入りも滑らか。手強さがない。
毎日乗っても暴けない実力。
片側2車線の国道の流れにのった。それでもパニガーレV4は3速、4速までだ。5速、6速にもシフトできるが、再加速がかったるい。並列4気筒モデルのような手軽さはない。RC213VSで一般道を走ったことを思いだす。ここ10年以上乗ったコトもないのにあのときもこう思った。なるほど、MotoGPマシン直系だ、と。
ライディングモードはストリート、スポーツ、レースの3つが用意される。迷うことなくストリートを選んだ。スポーツよりもサスペンションがマイルドな減衰となり、路面ギャップの吸収性が上がる。フロントブレーキに採用された最新ブレンボキャリパーが見せる速度の瞬殺ぶりは見事。タッチも軽いし初期制動力も高い。パニガーレV4Sモデルに装備されるオーリンズ製電子制御サスの恩恵でノーズダイブを過度に感じることはないが、いわゆる日常速度なんて本当に小指一本で事足りる感じだ。
いやいや、エンジンの特性にしても、ブレーキ、サスペンションが調和する速度域にしても、これは相当に高い。それだけは直感的に伝わってくる。そしてシート下、エンジンから伝わってくる熱気もすごい。市街地速度では空気の流れすら足りない、といわんばかりだ。とはいえ、水温計は見事に中間を指すにすぎず、排気系あたりから立ち上る熱がその原因のようだ。夏の信号待ち、渋滞は覚悟が必要かもしれない。
日常域で走らせて透視できるのはこのあたりまで。ポテンシャルの高さを解き放つにはやはりサーキットが必要になるのだろう。
滑らかなる突進
高速道路に乗った。車体周りを流れる空気を速めてエンジンの熱気を後方に吸い出したい。そう思ったからだ。太腿、尻あたりが風に撫でられ快適になってきた。低いギアでエンジンを回す。メーターを見ると6000回転からいよいよはエンジンの美味しい部分がはじまるかのような表示だ。なるほど、7000、8000となり、9000回転あたりからトーンが一段あがり、加速も4気筒らしい滑らかでパワフルさを増す。この時点でも音はV4らしいな、というより、ドゥカティらしさを感じる。
巡航すると高回転への誘惑に揺らぐ。回転上昇へのストレスがなく、1000回転を上乗せする度にV4エンジンの表情が明らかに変わるからだ。もしここに制限速度がなければ、たった10kmの移動でも歓喜の時間を味わえただろう。
それは6000から7000回転までの短時間の盛り上がりでも充分に想像ができ、楽しむ事ができた。高速道路のカーブを流れに乗って走っている範囲では、パニガーレV4 はあっさりとした乗り味だ。それは仕事量を片手間に済ませたにすぎない。200/60ZR17というワイドかつプロファイルが立ったタイヤが生み出す旋回性、それに軽い運動性を持つ車体構成によって意のまま、という表現を使うまでもなく曲がり終えてしまう。
すべてが高い次元に集約しているのが解る。パニガーレV4のプロファイリングをするための断片を集めているうち、高速道路は終わり目的地の山岳路に近づいた。
グランプリコースが恋しい。
上り、下り、そしてタイトターンが続く道で一瞬、パニガーレV4を我が意を得たり、と旋回性、ブレーキ性能の一部をさらに見せようと挑発してくる。なんというバランスの良さ。エンジンはTFTモニターに擬似的に投影されるアナログメーターの盤面の真上すら指さない領域ですら、オーリンズ製サスペンションを通じて旋回Gを綺麗に後輪のトレッドに伝え、見事な旋回性を楽しませる。ブレーキングへの緊張感もない。こちらもサスペンションが荷重移動をすんなり受け止め、滑らかなに前輪を押さえつける。
次第に奥へとブレーキングポイントを移行して初めてストリートよりもスポーツを選択したほうがノーズダイブを弱めることができ、さらに快適に走りの世界に没頭できた。
コーナリングは寝かし始めて、向きが変わり加速に移行するまでの一連がとにかく速い。その時の最大バンク角はほぼ一瞬。アクセルを当てた瞬間、僅かに車体を起こしながら旋回力を強め立ち上がる。ミドルコーナーでは高速道路同様、瞬殺で曲がり終える。それだけに180度ぐらい回り込んだヘアピンカーブのほうがパニガーレV4を味わえる猶予がある、というもの。
いずれにしても、峠道でもプロファイルの断片を集めた感じだった。まだまだ奥が深い。ただペースを上げるほどにすべてが調和する全体の潜在能力が集約する様子がわかっただけでも収穫だった。そして、このバイクに真意を尋ねるなら、やはりグランプリコースが必須なのだろう。また会おう、その日はレザースーツで!
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