2018年6月29日
「Indian Scout Bobber」 現代のインディアンに登場した流行のボバースタイル
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗
■インディアン モーターサイクル https://www.indianmotorcycle.co.jp/
20世紀最初の年にアメリカのマサチューセッツ州スプリングフィールドで産声を上げたインディアンモーターサイクルの歴史は、常に先進性と速さを追求したものだった。しかし、不幸なことに1950年代にその歴史は途絶えてしまい、過去に存在した伝説のブランドになっていた。その幻とも言えるインディアンモーターサイクルが再始動したのは21世紀に入った2004年。そして名車スカウトの名が復活した。スカウトはインディアンを代表する機種として君臨した。軽くてコンパクトな車体に力強いVツインエンジン。安定した操縦安定性も持ちレーストラックを誰よりも速く走りたい人や、街の腕自慢レーサー達に絶大な人気を誇った。
試乗したのは、水冷1133cc、Vツインエンジンを積んだ現代のスカウトをベースにしたボバーモデル。ボバーとは、フェンダーを最小限な大きさに切り、車体から無駄なものを排除。ソロシートにハンドルは低めという、古い時代のダートレーサーをモチーフにしたカスタマイズから広まったスタイル。御存知の通り、今や各社からボバーモデルが発売されているほど人気のカテゴリーとなっている。スカウト・ボバーもレシピに忠実で、ローダウンされた塊感のある姿もあって、よりワイルドなルックスに変貌している。
通常のスカウトより前傾して低く身構える姿勢になっている。
普通のスカウトより低くなったバーハンドルは、同時に幅が狭くなっていて、手を伸ばしてグリップを掴むと、ライダーは低く身構える前傾姿勢になり、38mm後退したペグもあって、前後のフェンダーを切り落としたボバースタイルに似合うコンパクトなポジション。身長170cmの私にとって、このグリップ位置と足を置く位置は快適かつ、しっかりペグを踏み込め的確に操作できるちょうどいいところ。
初めて乗った時は少しだけ前傾がキツイかな、という感想を持ったけれど、走行時間が長くなるにつれて慣れていき、気にならなくなった。もともと、スカウトはリッターオーバーのクルーザーの中でギュッと引き締まったコンパクトな車体だが、それが一層極まった。小さいソロシートのクッションは見た目ほど厚みがないけれど、お尻のカタチにフィットする形状で安定感が高い。通常モデルより気持ち前に座っている感じ。
力強さと優しさを兼ね備えた水冷Vツインエンジン。
水冷なのに、空冷風フィンで味付けしていない潔い見た目のショートストロークの1133ccのVツインエンジン。のっぺりではなくレリーフのような独特の造形で美しい。走らせるととにかくクルーザーらしからぬフィーリング。アイドリング付近からトップエンドまで淀み無く綺麗に回りきる。3千回転から7千回転くらいまでの加速はちょっと驚くほど。わざと1速で引っ張ってみると簡単に時速90キロオーバーに速度が達し、2速に入れると軽々と高速道路での法定速度を破らんばかり。ミッションは6速まである。
マッスルクルーザーのカテゴリーに入れても良いのではという押し出しの強さ。戦前にあった名車スカウトは、当時としてはスポーツモデルだった。現代のスカウトも見た目から受ける印象よりかなりスポーティーだ。右手のスロットルと燃料噴射装置とが金属ワイヤーで物理的に繋がっていない、ライド・バイ・ワイヤを採用していることもあって、パワフルさがありながら、極低速から1千500回転あたりでのスロットルオン・オフ操作でもギクシャクした挙動になりにくいから乗りやすく、幅広いレベルのライダーが神経質にならず、怖がらずに運転できるだろう。
ただ、低いギアで引っ張っても充分な速度に達する反面、平均速度が低い日本の街中では二次減速比を全体的にもう少し加速型にしたら繋がりが良くなり使いやすいと思った。右左折をゆっくりと動く前のクルマについていくシチュエーションで、1速よりスムーズにやれる2速で行こうとすると、若干スピードが出過ぎてしまい速度コントロールをする回数が増えてしまう。それで困るわけではないけれど、もっとイージーに乗れた方が幅広いライダーに魅力が伝わる。
雰囲気だけではなく、ペースを上げて楽しめるフットワーク。
このスカウト・ボバーは、通常よりリアショックを短くし1インチ(約25mm)ダウンしている。フロントのフォークもそれに合わせたもの。重心が低くなっていることで、全体的に安定感があって動きに不自然なところがない。純正で履く太いケンダ製タイヤはグリップが意外なほど良くてリーンアングルもクルーザーにしては深い。倒し込む時の俊敏さはほどほどながら、コーナーでも乗る前に想像した以上に楽しめるフットワーク。
リアサスペンションは大きめの突起に乗るとしっかりと突き上げもある。しかし、うねった道では問題なく追従するし、少なくともこの試乗では普段の使い方ではこれで不快に思う場面は少ないと見越す。カートリッジ式フロントフォークも良く動きタイヤを地面に押し付ける。スタイルを優先して乗り心地を犠牲にしていない。その足周りとダイヤモンドフレームの車体はカチっとした剛性感があり、ブレーキタッチと効きも良く、パワフルなエンジンと相まってペースを上げて飛ばしたくなる面白さ。
“カッコ良くて速い”という言葉がぴったり。
低く身構えたボバースタイルを手に入れながら、実用性と走りを手放していないのが特徴だ。カッコ良さと気持ちのいい速さが共存している。往年の名車だったスカウトから時が経ちいろいろ大きく違っているけれど、内にあるスポーツマインドは受け継がれているのである。
(試乗・文:濱矢文夫)
■インディアン モーターサイクル https://www.indianmotorcycle.co.jp/