2018年6月18日
「Vespa Sei Giorni」試乗 歴史的レーシングモデルがモチーフ
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗
■Piaggio Group Japan http://www.piaggio.co.jp/
日本では力道山がプロレスデビューをした1951年に、イタリア北部の都市で開催された、6日間走り抜く国際ラリーで9個のゴールドメダルを手にしたPiaggio Squadra CorseチームのマシンをイメージしたのがこのSei Giorni。レース名であるSei Giorni Motociclistica Internazionaleが車名の由来になっている。
International Six Days Trial(ISDT)と英語名だとそのレースについて知っている人も多くなる。トライアルといっても岩に飛び乗ったりするのではなく、6日間かけて闘うラリーだった。この時代はまだ山道などは未舗装路で荒れた道も多く、ライダーにもバイクにもかなりタフなレースだったに違いない。そのレースでRoyal Enfield、Norton、Triumph、AJS、BMW、Moriniなどのスポーツバイクに混ざって、Vespaが躍動した(同じくスクーターではLambrettaも出場)。
そのレースマシンはアイデンティティであるスチールモノコックボディのVespaらしいスタイルを持ちながら、手を入れた125ccエンジンを搭載。さらにホイールを大きくして最低地上高を上げ、マフラーのレイアウトも変更し、太いフォークに、特別なピレリタイヤ、ビッグタンクなどレース用にモディファイされたスペシャル。Sei Giorniは、フェンダー上のヘッドランプ、グリーンに塗られた車体、前に入ったゼッケンなど、そのレースマシンのスタイルを取り入れている。
歴史を知らなくても、所有欲を刺激するスタイルに惹かれる。
ここまで、仰々しくPIAGGIOにとって歴史的な出来事から由来した車名の説明をしたけれど、何も知らずに、「なんで番号は”6”なの? でも他のVespaとはちょっと違うし、カワイイからコレがイイ!」と選んでも良いと思う。実際、ちょこんとフェンダーに乗っかったヘッドライトにマットで陽の光によって表情が変わるグリーン、フロントサススプリングとホイールリムの赤が差し色になっていて、ホントカワイイのである。
想像以上にスポーティーで飛ばして走るのが楽しい。
栄光のレースモデルをオマージュしたものだからって、性能も他よりものすごくハイスペックになっているわけではない。278ccの水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒エンジンを搭載した同社のGTS SUPER 300がベースになっていて、エンジンや足周りのスペックは同じものだ。特別にポテンシャルアップを施されていないけれど、それでも走り出すとかなり元気で面白い。ホイールベース的にはヤマハNMAXと同じくらい、全長はPCXと同じくらいという125ccクラスに近いコンパクトな車体はキビキビと動く。車重も125ccクラスとはいかないけれど、スロットルを開けると太いトルクでぐんぐん車速が伸びる。一般的な自動遠心クラッチのCVTだし、特別な部分はないけれど、とにかく走るのが楽しいスクーターだ。
伝統的なポジションと伝統的な味付けに顔がほころぶ。
シートが高く、前後が短く、ハンドルは低目、という椅子に腰掛けるような日本のビッグスクーターとは一線を画すVespa伝統のポジションは、見通しが良くて運転しやすく、意外なほど疲れにくいんだ。腰の下で車体を回しているような操作感覚も新鮮。ピューッと速度を上げても、ABS標準のブレーキはしっかり効くし、足周りもへこたれず、コンパクトな旋回性能で、なんともスポーティーだ。可能なリーンアングルを「浅い」とは言えないが、この活発な走りと組み合わせると足りない。もどかしくなる。イタリア車は、2輪、4輪、スポーツ車、大衆車を問わず多くがスロットルを大きく開けて走りたくなる味付けなのが伝統だ。そういう国民性なんだろう。当然、それがSei Giorniにもあってニンマリした。
(試乗・文:濱矢文夫)
■Piaggio Group Japan http://www.piaggio.co.jp/