2018年6月5日
MBHCC E-1 西村章 MotoGPはいらんかね
第138回 第6戦イタリアGP Finding My Way
土曜の予選ではスーパースターのバレンティーノ・ロッシ(Movistar Yamaha MotoGP)がサーキットベストラップを更新する驚速で二年越し22戦ぶりのポールポジションを獲得。日曜の決勝レースではホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ・チーム)が、ステージレベルが違うような超高水準の安定感を発揮して、同チームへ移籍後初の優勝。2位にはチームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾが入り、地元イタリアのホームコース・ムジェロで1-2フィニッシュ。そして3位にはPPスタートのロッシ、という今回の第6戦イタリアGPは、ちょっと何に喩えていいのかわからないくらいイタリア満艦飾のリザルトになった。
特に優勝を飾ったロレンソは、新たな挑戦として2017年にドゥカティ移籍という困難な道をあえて選んだとはいえ、数回の表彰台はともかくその頂点にはどうしても届かない厳しい戦いが続いてきただけに、今回の移籍後初優勝は感慨も一入だったことだろう。
イタリアとスペインは言語や文化を含め、いろんな面で類似点も多いけれども、それだけにお互い同士をライバル視する自意識のようなものも、同様にぬきがたく存在しているようだ。ロレンソとドゥカティ、ロレンソとイタリアのレースファンの間には、そのような心理の交錯する複雑な関係が微妙な影を落としてきたようにも見える。来季以降にファクトリーとロレンソが契約を更改しないのだろう遠因も、その元を辿っていけば、この微妙な両者の関係が何かしらの通奏低音のように、ごく小さくともずっと絶えることなく響き続けていた結果、最終的にこのような形を取ってあらわれた、という感もある。
「やっと勝てた、という意味ではうれしいけれども、それがやや遅きに失したという意味では寂しくもある」
とレース後にロレンソが語ったことばからも、そのあたりの複雑な心境は読み取れそうな気もするのだが、さて、どうでしょう。
2位のドヴィツィオーゾは、第4戦スペインGPでもらい事故、第5戦フランスGPではトップを狙えそうな状況から突然の転倒、と不運なノーポイントが続いていただけに、久々の好結果という印象が強い。土曜の予選では7番手で3列目スタートになってしまったものの、レースペースの高さはトップクラスで、決勝レースに向けて自信は持っていたようだ。
ここ2戦でポイントを獲得できなかった埋め合わせとしてアグレッシブに上位を狙うようなこともする気はない、と土曜の予選後に語り、
「愚かなことはせず、その段階で達成できる最大の結果を目指したい。去年、チャンピオン争いをしたときも、いやなプレッシャーを感じるようなことはなかったし、これからもそのアプローチは変えない」
と話していたとおり、日曜のレースでは現状で最大限の2位を獲りに行った。現在のランキングは4位で、トップとは29ポイントの差が開いている。だが、まだシーズンは13戦もあることを考えれば、今年のチャンピオン候補最右翼のひとり、という見方を変える必要は全然なさそうだ。
対照的に3位のロッシは、今回はPPから表彰台を獲得したものの、シーズン全体の流れを見るとチャンピオン争いにはまだ手が届かない、と考えているようだ。
「今年3回目の表彰台で2戦連続とはいえ、まだ3位を獲得したにすぎない。バイクのバランスは、一発タイムをなんとか出せるようにはなってきたけれども、レース全体ではまだかなり厳しいし、それほど強さを発揮できていない。改良を進めていって、シーズン後半に勝利を目指したい」
とはいえ、経験量の豊富さと人を動かす求心力の高さではだれよりも優れたものを持った人物だけに、今後のレースでもしぶとくしたたかな戦いを続けるだろうし、そんななかふと気がついてみるとランキング首位に手が届く場所でシーズンを推移させている、なんてことを平気でやっていそうなところが、じつはこの選手の魅力のひとつでもある。
そしてロッシと激しい表彰台争いを繰り広げた、スズキ勢のアンドレア・イアンノーネ(Team SUZUKI ECSTAR)とアレックス・リンス(同)が4位と5位。
「レース中は立ち上がりで挙動が大きくなり、リアタイヤをうまくマネージしきれなかった」
と、イアンノーネはレース後に表彰台争いの展開を振り返った。だからといって、けっしてタイヤ選択を誤ったというわけではなく、温度条件が上昇した日曜午後の状況下での結果、ということのようだ。
「もちろんもっといいリザルトを期待していたけれども、最大限にがんばったし、毎戦トップに近いところで走れているので、あと3~4戦すればさらにもう少し良くなると思う」
一方、リンスはというと、土曜のFP4で転倒した際に右肩を痛めてしまったのだとか。
「朝のウォームアップでは、連続して4ラップするのが精一杯だった。決勝のグリッド上では、痛みを忘れてレースを楽しもうと思って集中した」
とレース後にりんちゃん自身から聞くまで、そこまで痛みがあったのだとは知らなかった。
「でも、スタート後の1コーナーでは大勢オーバーテイクできたし、その後も肩の状況にうまく対応できたと思う。レース終盤には、バレンティーノやチームメイトのアンドレアよりも力強く走れたと思うので、今日の結果はとてもハッピー」
とのことです。
一方、レース開始早々の5周目に転倒を喫し、再スタートしたものの16位のノーポイントで終えたマルク・マルケス(Repsol Honda Team)は、チャンピオンシップでは依然トップで、2位のロッシに23点差。レース後に、今回はタイヤへの合わせこみに苦労したウィークだったと振り返り、
「とはいえ、重要なのはチャンピオンシップでまだ23点リードしているということ。去年のこの時期は、37点ビハインドだったから」
と言われて調べてみると、確かに去年の第6戦終了段階でマルケスはトップから37ポイント差のランキング4位。それがあのようなシーズン展開になっていったのだから、やはりチャンピオンシップの展開とはまさに〈禍福はあざなえる縄のごとし〉という古諺どおりである。
では2週間後に、バルセロナーカタルーニャサーキットでお会いいたしましょう。
■2018年6月3日 第6戦 イタリアGP ムジェロ・サーキット |
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順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | ||||
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1 | #99 | Jorge LORENZO | Ducati Team | DUCATI | ||||
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2 | #4 | Andrea DOVIZIOSO | Ducati Team | DUCATI | ||||
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3 | #46 | Valentino ROSSI | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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4 | #29 | Andrea IANNONE | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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5 | #42 | Alex RINS | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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6 | #35 | Cal CRUTCHLOW | LCR Honda CASTROL | HONDA | ||||
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7 | #9 | Danilo PETRUCCI | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
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8 | #25 | Maverick VIÑALES | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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9 | #19 | Alvaro BAUTISTA | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
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10 | #5 | Johann ZARCO | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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11 | #44 | Pol ESPARGARO | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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12 | #55 | Hafizh Syahrin | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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13 | #53 | Tito RABAT | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
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14 | #38 | Bradley SMITH | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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15 | #21 | Franco MORBIDELLI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
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16 | #93 | Marc MARQUEZ | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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17 | #10 | Xavier SIMEON | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
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18 | #30 | Takaaki NAKAGAM | LCR Honda IDEMITSU | HONDA | ||||
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RT | #41 | Aleix ESPARGARO | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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RT | #43 | Jack MILLER | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
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RT | #12 | Thomas LUTHI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
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RT | #26 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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RT | #17 | Karel ABRAHAM | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
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RT | #45 | Scott REDDING | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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