2018年5月18日
MBHCC E3 レースカメラマンクスドーの全日本ちょこちょこっと知っとこ
第41回「カワサキに11年ぶりの優勝をもたらした渡辺一馬選手!」
今シーズンの全日本ロードレースの話題といえば、ヤマハファクトリーの天下に殴り込みをかけた「HRC復活!」。開幕前から周りはざわざわ~ざわざわ~っと、普段は目にしない雑誌の方々まで取材に来ていてありがたい。
レースはというと、開幕から2戦4レース、ヤマハファクトリーの中須賀克行選手が全勝。HRCの高橋巧選手は開幕2位-リタイヤ、第2戦2位-2位という成績で、まだマシンの仕上がりが十分とは言えず、ヤマハVSホンダは圧倒的にヤマハに一日の長といったところ。
そんな渦中の第3戦、予選日にチームグリーン2年目の渡辺一馬選手がふと「みんなHRCとヤマハのことばかりですよね……」と漏らしていたのです。開幕のもてぎ、続く鈴鹿と表彰台の一角に立ち、ランキング2位にも関わらず、「VSカワサキ」と言われない現状に、「レースは2人だけでやってるんじゃない、ちゃんとこっちも見て!」という心の叫び。悔しいだろうけど、それは自らが結果で見せるしかない。
今シーズンは開幕戦の予選からBMWの星野友也選手が上位に顔を見せ、ヨシムラは渡辺一樹選手が加入し存在感を見せ、J-GP2チャンピオンの水野涼選手、生形秀之選手がJSBクラスにステップアップし、マレーシアのザクワン選手もフル参戦。私たちが現場で目にする選手たちはみんなそれぞれにいいところがあるし、レースはトップ争いも混戦で、いつにもまして面白くなっていると思うのですが。
3戦目は大分県オートポリスでの開催。言わずと知れたカワサキのホームコース。予選までは晴天のレース日和だったのに、決勝日だけ一変し、ここ特有の雨と霧の世界になりました。
午前中のセッションは延期、お昼になり、JSBのフリー走行前に一時的にやんだ雨。この時期の気温で、路面は徐々に水が引き乾き始めていましたが、ウェットには変わりなく雲は次々とやってきます。フリー走行は霧のために途中で赤旗中断し、ライダー達はこのあとの決勝レースをレインタイヤかスリックで勝負するか、難しい判断を強いられることに。
雨のため5周減算され15周の決勝レースは、HRCの高橋巧選手がホールショット。ヤマハの中須賀選手、それにヨシムラの渡辺一樹選手、ホンダの秋吉耕祐選手がトップグループを形成。入れ替わりながら徐々に秋吉選手が後退、高橋選手が頭ひとつ抜け出し中須賀選手、一樹選手で7ラップほど消化した頃、コースはライン上がだいぶ乾き、レインタイヤは熱をもってタイムが落ちはじめます。
そのとき後方からすごい勢いでやってきたのは! カワサキの渡辺一馬!
なんと上位陣がレインタイヤを選択したのに対してチームグリーンはスリックタイヤを選択、レース前半は16番手と後方集団に埋もれ存在感を消していましたが、ラインが乾いたのを期に一気に反撃に出たのです。
周りより5秒以上速いタイムで追い上げる一馬選手に対して、常勝の中須賀選手、チャンピオン高橋選手をしてもレインタイヤでは何もすることができず、10周目の複合コーナーで一馬選手はあっさりとトップに立ちます。
続いて、チームメイトの松崎克哉選手が23番手から、そして高橋裕紀選手がスリックで追い上げ、一馬選手はその後独走で自身のJSBキャリア初優勝、カワサキに2007年の筑波における柳川明選手以来の優勝をもたらし、松崎選手が2位に入ったことでチームグリーンとしては初のワンツー。松崎選手も全日本初表彰台となりました。
ゆっくりとしたウイニングランで初優勝を噛みしめた渡辺一馬選手は、「チームみんなで勝ち取った勝利」と。
そしてスリックを選んだことに対しては、「フリーを走って、これはスリックだろうと思ったけど、グリッドについたらぽつぽつと雨が降りだして不安になっていた」とも。
最終コーナーの向こうに覆いかぶさる雲……その時チーフが「一馬、腹くくっていこうや!」と背中を押したという。実際、チーフやスタッフの心中も穏やかではなかったと思いますが、決めたら前に進むしかないし、実はチーフもこう言い聞かせながら腹をくくっていたのではないかと思う。
レースはたまたま雨が降ることなく、15ラップを完走できたからこその結果。もしも途中で雨が降ってきたら? 霧が降りてきたら? 10ラップより以前に赤旗中断していたら、結果はどうなっていただろうか?
雨が降った場合を想定してレインを選んだチーム、雨雲を読んでスリックで行こうと決めたチームとライダー。勝利を目指してその過程までの取り組みはどのチームも真剣で、どんな状況であれそのときのベストを探って、ライダーはもちろんのこと、メカニック、チーフ、監督、そのほか関わっているスタッフ皆で戦うのがレース。
色々な歯車がかみ合って、これ以上ない演出で初優勝した渡辺一馬選手は、自分の力で扉をこじ開け、メディアが描いた「ヤマハVSホンダ」のお決まりの構図を気持ちよく壊していってくれました。
スーパーフォーミュラの関係者の多くもこのレースを見守り、元カワサキライダーの星野一義さんまで祝福に訪れるなど2輪以外の人達にも知られる存在となりました。
ちなみに、レースはJSBクラスのみ開催され、メインであるスーパーフォーミュラは悪天候のため延期の末に中止になりましたとさ。
[第40回][第41回][第42回]
[全日本ちょこちょこっと知っとこバックナンバー目次へ](※PC版に移動します)
[バックナンバー目次へ](※PC版に移動します)