2018年5月21日
Kawasaki Z650 試乗 『その気持ち良さ、五月晴れ級! Z650を堪能せよ!』
■試乗&文:松井 勉 ■撮影:松川 忍
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/
このところ2気筒に視線が集まっている。並列2気筒に、である。クランクを少し捻った90度位相や、75度位相クランクを使い、まるでVツインのような爆発間隔と音を奏でるそれらは、Vツインではレイアウトに苦慮する吸排気系をすんなりまとめ、フロントタイヤへの必要な荷重もしっかりと載せられるメリットがあり、シャーシコンセプトも時代の到来を知らせるかのようだ。
その点、カワサキはどうだ。歴史を紐解けば、’80年代後半からGPzやER、EXやKLEの名で並列ツインのモデルを連綿と供給してきた言わば老舗、ナニを今更、な話しでもあるのだろう。
ここに紹介するZ650は、直球ド真ん中、180度クランクで勝負だ。先代のER-6nから多くをアップデイト。シャーシも刷新し、ハンドリング性能の色艶な部分をぐっと磨き込んでいた。エンジンも同様。走ればホントに気持ちがいい一台に仕上げられていた。そう、乗れば乗るほど、Z650のエッジが、ビシビシ伝わってくる。恋に落ちるまで時間はかからなかったのである。
Zらしいルックスに潜む
直感的親近感。
Z650はカワサキ伝統のネイキッドモデル、ER-6nの後継機だ。いや、新作された649㏄のパラレルツインエンジンや、新しいフレームなど、純粋に代替わりしたモデル、という枠を越えた新しさがある。それはクラスレスなコンパクトさ、凝縮感で主張するコンパクトなデザインにも見て取れる。タンクの前後長、ライダー側になだらかに落ちる傾斜。そしてニーグリップエリアのタイトさ。綺麗にダイエットしながらマッスルボディーになっている。
実際、ER-6nに比べると19㎏のウエイトを絞ったそうだ。これは一クラス下の軽さになったといえるだろう。3サイズも全長、全高でサイズダウンしているし、最低地上高は同じだが、シート高を下げたパッケージになっている。エンジンの重量があるので、車体を振った手応えはあるが、全体のサイズは400、いや、最近大柄な250と同等、というぐらい充分にコンパクトなものとしてライダーに伝わってくる。
それでいて長身な自分が跨がっても窮屈さはみじんも無い。むしろ広くて快適。790mmのシート高をもつライダーシートは、前側の角を削りこみ、しっかり細身になった前端部とこれまたタイトなサブフレームの恩恵もあり、足着き感は抜群。
全体のスタイルは現代のZらしいウエッジシェイプなものになった。フレームもペリメタータイプからH2のようなパイプフレームに。そのフレームから生える前後のサスペンションはフロントに正立フォーク、リアはリンク付きのショックユニットを備えたスイングアームだ。このスイングアーム、右側はエンジン下部に位置するマフラーを避けるように湾曲したデザインを採用している。このあたりにER-6nとの血縁をうまく匂わせる感じだ。
前後のタイヤサイズはフロント120/70ZR17、リア160/60ZR17のダンロップD214を、艶ありブラックの星形5本スポークのホイールに履いている。前後のブレーキも片押しタイプのキャリパーを装備し、ディスクプレートはカワサキお得意のペダルディスクと、コンベンショナルな仕様にまとめているのである。
ボトムからミッドレンジのトルクが頼もしい。
エンジン下部からはき出される排気音は、正真正銘並列ツイン、180度クランクのものだ。400クラスよりも図太いが、大型バイクのようにパルス感重視でせまることもない。程よいサウンドだ。デジタルの回転計が上下する様も、新しさと伝統が加味された印象で飛びすぎていない新しさが嬉しい。
走り出すとこのエンジンがとても扱いやすいことが解る。発進時、クラッチのスムーズな繋がり方、後輪からの駆動力の伝わり方と、音やアクセル開度からイメージする増速の仕方もリンクしている。低い回転でクラッチを繋ぎ、そのままアクセルだけでトトトトと低開度で走り出すのも、その低い回転からアクセルを半分ぐらいイッキに捻ってダダダダダダと蹴り出すのも自由自在。
街中で常用する2速、3速、4速あたりでゆるゆるとクルマの流れをフォローするのがとてもラクなのだ。それでいて、少し開ければ高いギアからの加速も650という排気量らしい厚みのある増速で安心感を与えてくれる。乗りやすい。
その走りが好印象なのは加速ばかりではない。交差点を曲がるという日常域からZ650が持つハンドリングがそのエンジンに見事にシンクロしているのだ。曲がり方、バンクする時間、起き方など自然で心に馴染む動きなのだ。車体、エンジン特性とが絶妙にチューニングされている。動きの特性づくりにカワサキのエンジニアは丁寧に拘った様子が想像できた。
パンチある加速に惚れる。
遠くを目指し高速道路にのった。ETCの赤白バーが左右に跳ね上がり、制限速度までフル加速を試みる。低いギアからの全開加速に前輪は軽く路面を離れ、パワフルな一面を見せる。650ツインというイメージから想像したものよりパンチがある。これはちょっと嬉しい。その後もパーキングから本線への合流など、パワフルで伸びやかな加速を楽しんだ。
余裕たっぷりなトルクを背景に、回転域をあげれば、こうした鋭さも楽しめる。ネイキッドだけにハイスピードの巡航は得意科目ではないが、追い越し加速を楽しみ、走行車線を移動するパターンなら遠出も苦にならない。
ワインディングで一体感がマックスに……!
80kmほどの移動の先で楽しんだのはいつもよりタイトなワインディングだった。黄色いZ650はここでも心から楽しませる走りを見せた。センターラインが現れたり消えたり、道幅は進むほどに変化し、アップダウンを繰り返す。右に左にリズミカルにバイクを寝かしながら進む。路面の荒れた場面では一瞬足周りがばたつくこともあるが、それ以上乱れることはなく、しっかりと接地感も伝わってくる。標準装備されたタイヤ、ダンロップのD214も、旋回性、グリップ感、軽快性などバランスの良いタイヤに思えた。サスペンションの設定とあいまって新種のスポーツツーリングタイヤと比肩する走りの気持ち良さだ。ウエット性能にも配慮されたタイヤだという。
走るほどに一体感に包まれ、バイクと自分の世界に没頭し始める。ライダーとして意識したことがZ650に起こり、寝かす、起こす具合や速度、加速、減速というすべてが感覚のなかで一致する。これぞスポーツバイク!
たった一日のデートでこれほど魅了されたのは久しぶりだった。後半、けっこう楽しんで回してしまったのに車載の燃費計は満足のゆくツーリング燃費をしめしていた。バランスよいバイクなのだ。都内に戻る前にいつも立ち寄る小さいビーチに向かった。黄色のタンクに春の虫が吸い寄せられた。お目が高い。そんな瞬間、このバイクで春夏秋冬、同じ場所で海をバックに写真を撮ったらどうだろう・・・・。なんて若い気分になってしまった。もちろん、海の向こうに色々なツーリングシーンや、毎日使いの身近さも重ねつつ。
Z650は正にそんな想像力が掻き立てられる一台だったのである。
(試乗&文:松井 勉)
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