2018年5月8日
MBHCC E-1 西村章 MotoGPはいらんかね
第136回 第4戦 スペインGP Three Views of a Secret
レースというのは本当に何が起こるかわからない。スペイン時間5月6日午後2時29分53秒に発生した出来事を、現場で目の当たりにしたヘレスサーキットの大観衆はもちろんのこと、テレビやPCやスマホで観戦していた世界中の人々は、きっと地球上のあちらこちらで同時多発的に「うわあ」と大声をあげたのではないだろうか。わたくしももちろん、プレスルームでモニターを眺めながら我知らず大声を発しておりました。こういういう嘆声は世界共通で、スペイン語も日本語も英語もひとしなみに「うおお」であり「わああ」である。
さて、過去にもあまり類例のないであろう今回のマルチクラッシュについて、まずは概要を整理しておこう。
事態が発生したのは18周目の6コーナー。通称ドライサック。バックストレートエンドから右へタイトに旋回する区間である。マルク・マルケス(Repsol Honda Team)が抜け出した後、三つ巴で2番手グループを構成していたホルヘ・ロレンソ(Ducati Team)、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)、ダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)の3台が、この順で5コーナーを立ち上がり、長い直線から6コーナーへと向かっていった。そこで、満を持して、という様子で前に出ようとしたドヴィツィオーゾが6コーナー進入でオーバーラン。しめしめ、という風にも見えたロレンソは、しかし、つられてしまったのかこちらもややはらみ気味に。そして、そのふたりの後ろにいたペドロサは淡々と狙いどおりのラインで小さく旋回していくように見えた。そこにロレンソがアウト側から戻ってきた。
2台が接触し、そのあおりでペドロサはハイサイド。ロレンソも挙動を乱してコントロールを失ったマシンがドヴィツィオーゾに当たりに行く格好で絡んでしまい、2台が転倒、というのが、一連のおおまかな状況だ。
ペドロサにしてみれば、「旋回中にいきなりホルヘがアウト側から当たりにきた」ということになるのだろうし、ロレンソの立場ではおそらく「ラインに戻ろうとした矢先にダニが後ろからやってきた」といったふうに見えただろう。そしてドヴィツィオーゾの観点からは、「後ろでごちゃごちゃしていたとばっちりで、いきなりやっつけられてしまった」というのが正直な気持ちなのではないかと思う。
緊密な2位争いを繰り広げる3台がこのような形で連鎖反応的に一気にクラッシュするのは、特にMotoGPクラスのレースでは非常に珍しい光景ではある。3名とも、今回の事態がレーシングインシデントであることには異存がないものの、それぞれ主張するところは(当然ながら)かなり異なっている。ちなみに今回の彼らに対する囲み取材は、ロレンソ、ドヴィツィオーゾ、ペドロサという順序で話を聞いていく流れになった。この順番が異なっていれば、彼らの主張する自らの立場と見解については変化がないとしても、一対一の出来事ではなくなにしろ三つ巴の案件であるだけに、他のライダーの言葉を受けて発言する個々の内容は、また少し違うものになっていた可能性もある……、ということは頭の片隅に置いておいてもいいかもしれない。
さて、まずはロレンソ。一連の出来事に対して見解を訊ねられると、開口一番、
「今回の件に関してあまりどうこう言いたくないし、誰のせいだとかこいつが悪いだとかいうつもりもない」
と話し出した。彼の立場から見た今回の推移を簡潔にまとめるすると、
・ペドロサは(死角に入っていて)見えなかった。
・後方のライダーがどれほど近いのか、離れているのかは、後ろに目がない以上わからない。
・(一般論として)後ろにいる側に責任があると思うが、一瞬の間に輻輳した出来事なので、誰の過失だと責めるつもりもないし、追究してもしようがない。
ということになる。
次に、ドヴィツィオーゾは
「あえていえば後方のふたりに責任があると思う」
と述べた。彼の主張は
・基本的に前方のライダーにラインの優先権がある。
・ペドロサは、それまでの周回よりも速い旋回速度でコーナーに進入してきた
・後ろにいる者が状況への対処をできたはず
と要約できる。
一方、ペドロサはこのドヴィツィオーゾの発言を受けて
「前のふたりがワイドになって、はらんでいった。自分はいつもと同じ旋回速度だった。そうでなければラインをキープできるわけがない」
と説明した。
ペドロサの視点では、
・ロレンソは、リカバーしようと思って戻ってきたときに自分が見えなかったのだろう。
・旋回中は体がイン(右)側に入って視線もそちらを向いているので、左側(から近づいてくるロレンソ)を確認できるわけがない。
・レーシングラインをはずしてしまった側が、ラインに戻ってくる際には確認をするべき。
という見解になる。
ペドロサは、レーシングインシデントと裁定したレースディレクションが一連の経緯を充分に理解しないまま結論を出した、と手続きへの不信感をあらわにしていたが
「だからといって、ホルヘにペナルティを与えてほしいわけではないので、裁定に対して異議を申し立てるつもりはない」
とも話した。
というわけで、今回発生した事象そのものは非常に珍しい出来事だったが、ことほど左様に立場の違いで事態の見立ては大きく異なってしまう、ということに関してはじつに典型的な一件になった。
※ ※ ※
ところで、レース結果はというと、マルク・マルケス(Repsol Honda Team)が圧倒的な強さを見せて前戦に続き2連勝。2位は、次回のホームGPへ弾みをつけたヨハン・ザルコ(Monster Yamaha Tech3)。そして、自身にとって2戦連続の3位表彰台を獲得したアンドレア・イアンノーネ(Team SUZUKI ECSTAR)は、チームとしては3戦連続表彰台で、コンセッション(優遇措置)解除へ向けて着々と歩を進めている。
※ ※ ※
ところで、ルーキー勢に目を向けてみると、今回の新人最上位は昨年のMoto2王者フランコ・モルビデッリ(EG0,0 Marc VDS)。第2戦と第3戦が14位ー21位、と厳しい結果で終わっていただけに、レースウィークに入る前の木曜には「ここ数戦苦戦傾向になっている悪い流れを断ち切って、いい方向にもっていきたい」と話していた。日曜の決勝レースは9位で、今季ベストルーキータイの好結果。そこで、レースを終えた直後のモルビデッリに、「一ケタ順位のフィニッシュを達成できたけど、次の目標は?」と訊ねてみた。
「今日のレースでトップテンでゴールできたのはうれしいけれども、今度は誰も前で転倒していない状況でトップテンを達成したい。そして、予選をもっと良くしていきたい。これが今の二大目標かな」
とじつに明快な言葉が返ってきた。
日本人の中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は12位。開幕以来の課題だったスタートのクラッチミートに関しては、タイミングとコツがかなり掴めてきた様子で「今日はまずまずのスタートで、失敗というほどの失敗もなかった」のだが、今の課題は序盤周回でのペースアップなのだとか。
「レースペースが悪くないだけに、もったいないレースをしているなというのはすごく思います。序盤がリザルトに響いているのは感じていて、その部分を改善できればもっといい結果を獲れると思う。そこが今の自分たちの課題、というか改善点ですね」
※ ※ ※
さらに日本人選手勢について触れておくと、Moto2では長島哲太(IDEMITSU Honda Team Asia)が今季初ポイントの13位フィニッシュを果たした。
「自分のフィーリング的にはトップテンまで行きたかったんですが、思いのほか昨日の予選のようなフィーリングがなくて、スタート直後1コーナー立ち上がりでハイサイドしそうになり、一気に後ろの集団に呑まれてしまいました。その後は落ち着いて走ることができて、最終ラップで同じグループにいた2台をしっかり抜けて、集団の一番前でゴールできたのは良かったですね。もっと早く抜け出したかったんですが、風も強くてひとつ前のグループには追いつけそうになかったので、レース後半は、どうやってこの2台を抜こうかとずっと考えながら走っていました」
優男のようにも見えながら、じつは決勝レースでしたたかな粘り強さを発揮できるライダーなので、トップテン圏内、そしてさらにその上を貪欲に目指してもらいたいものである。
Moto3クラスでは鳥羽海渡(Honda Team Asia)と鈴木竜生(SIC58 Squadra Corse)がレース序盤からトップグループを走行。表彰台圏内を見据えるバトルを続けたが、最後は鈴木が6位、鳥羽は9位でゴールラインを通過した。
6位の鈴木は、
「最後の最後までいい位置で走っていて、最終ラップに6コーナーで仕掛けようと思っていたら、石が飛んできてヘルメットのスクリーンとラジエータと右のグローブ、ブレーキの人差し指と中指にヒットしてしまい、そこで抜こうと思っていたのに前のライダーをオーバーテイクできず、最終コーナーまで微妙な位置で終わってしまったので、それが残念ですね」
と、右手をアイシングしながら悔しさのにじむ口調で話した。
一方、最終ラップの最終コーナーに4番手で進入した鳥羽は
「最終ラップには勝負を仕掛けて最終コーナーに入っていったんですけど、リアに接触されてオーバーランしてしまいました。表彰台が見えていただけにすごく残念ですけど、次に繋がるレースをできました。今回は予選もまあまあだったし、やはりFP1からの流れをうまく作れたことが良かったんだと思います。悔しいですけどね」
うん、その悔しさがある限り、キミたちは大丈夫だ。次のルマンでこそ、ぜひ表彰台獲得を目指していただきたい。ジョゼ・ジョバンニじゃないけれども『おとしまえをつけろ』が合い言葉である。というわけで、次回は第5戦フランスGP。ではでは。
(写真:西村 章/Honda/Yamaha/Suzuki/Ducati)
■2018年5月6日 |
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順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | ||||
1 | #93 | Marc MARQUEZ | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
2 | #5 | Johann ZARCO | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
3 | #29 | Andrea IANNONE | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
4 | #9 | Danilo PETRUCCI | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
5 | #46 | Valentino ROSSI | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
6 | #43 | Jack MILLER | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
7 | #25 | Maverick VIÑALES | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
8 | #19 | Alvaro BAUTISTA | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
9 | #21 | Franco MORBIDELLI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
10 | #36 | Mika Kallio | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
11 | #44 | Pol ESPARGARO | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
12 | #30 | Takaaki NAKAGAM | LCR Honda IDEMITSU | HONDA | ||||
13 | #38 | Bradley SMITH | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
14 | #53 | Tito RABAT | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
15 | #45 | Scott REDDING | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
16 | #55 | Hafizh Syahrin | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
17 | #10 | Xavier SIMEON | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
18 | #17 | Karel ABRAHAM | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
RT | #99 | Jorge LORENZO | Ducati Team | DUCATIA | ||||
RT | #4 | Andrea DOVIZIOSO | Ducati Team | DUCATI | ||||
RT | #26 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
RT | #35 | Cal CRUTCHLOW | LCR Honda CASTROL | HONDA | ||||
RT | #12 | Thomas LUTHI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
RT | #42 | Alex RINS | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
RT | #41 | Aleix ESPARGARO | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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