友よ、だからバイクに乗ろう
(2010.8.6更新)街で、すれ違うライダーの顔を注意してみてみると、確かに若いとは言えないライダーが多くなった。自分のまわりは、ほとんど40代。
ツーリングクラブの記念写真の中に、老けてるけど似た顔がいると思ったら自分だった。
考えて見ると、若者は高価なバイクを買うぐらいなら、軽自動車を選択。ワンボックスをフルスモークにして、エアコンを効かせた車内で快適な移動を楽しむ。そもそもエコな若者は、人生の過ごし方でバイクに乗るという道を選ばないものらしい。
かつて高速道路2人乗り解禁に反対した公安委員会の老人たちが主張した「2人乗りを許したら、暴走族が大挙して押し寄せる」という予測は、見事に時代に否定されたわけだ。
これだから、ライダーの高齢化も、悪いことばかりでもない、と思うようになった。
群馬県利根郡湖の先に谷川連峰を望む「猿ヶ京温泉」
(http://www.sarugakyo-ryokan.com/index.html)
(利根郡みなかみ町)は、ライダーの宿泊に好意的な温泉だ。屋根付きのバイク駐車場が完備とか、ソロツーリングも歓迎といった案内を掲げた宿が数多くある。
この8月から「ホテル シャトウ猿ヶ京」
(http://www.sarugakyo.co.jp/)
は、1泊3500円という格安の素泊まり企画を始めた。これが1日40人のライダー限定なのだ。
安さの秘密は、男女別の大広間の素泊まりであること。そのほか個室泊まりのようなアメニティグッズや浴衣がなく、サービスはバスタオルだけで、削れるところは削ってある。
ただ、そこがいい。ソロ・ツーリングでもクラブ・ツーリングでも、ライダーにとっては、このくらいの素っ気なさが、むしろちょうどいい。
ソロで走って個室で人恋しく思うより、あるいは、ツーリング・クラブで人数がまとまっているのに、それぞれ個室に帰るより、どうせ寝るだけなのだからと割り切れば、旅費の節約にもなるというものだ。
それでも、この宿自慢の大浴場と庭園風露天風呂は、充分味わうことができるのだ。しかし、なぜライダー限定なのか。ちょっと意地悪くいうと、乗用車中泊の人はだめなのだ。
ライダー限定とした狙いを、同ホテル運営会社「I&Pマネジメント」企画制作部担当者はこう語る。
「ホテルのお客様はシニアの方が多く、旅慣れたライダーの皆様であれば、3500円の素泊まりであっても、その雰囲気を理解していただけると思いました」
「ホテルシャトウ猿ヶ京」は、客室103部屋、収容人員350人の一般温泉ホテルだ。レギュラープランは8920円(2人1室)からで、けして格安を売り物にしているわけではない。
宿が気を揉むのは、そうしたレギュラープランと低料金の宿泊客が調和できるかどうかということなのだ。そして、簡略化していえば、年配で旅慣れたライダーが選ばれたということなのだろう。
都会では駐車場にバイクを止めようとするだけで、乗用車を傷つけるとか、倒れて燃えるとか、バイクの周りに集まって騒ぐとか、さんざんなことを言われて散々だが、ちゃんと違いのわかる人もいるのだ。
うれしいじゃないか。こうやって少しずつでも、ライダーが受け入れられていけばいいのだ。
暴走族が名前を誇示して伝説を作るなんて昭和な世の中は戻ってこない。取材したあるセーフティライディングの集いでは、60歳半ばの先人が「バイクは健康にいい。これに乗る限り病気知らず!」と、気勢を上げていた。
じいさんが、若ぶって、やせがまんして乗る姿を、乗らない人に微笑ましく見せる。これが、21世紀のジャパニーズ・ニュー・ライダーの姿ではなかろうかと思う。
- 中島みなみ(独立系記者)
- 1963年、愛知県生まれ。週刊誌、総合月刊誌の記者を経て独立。規制緩和、政局、社会のひずみを追い続けつつ、取材の足とする二輪車を巡る交通環境に目を向け、高速道路2人乗り規制、四輪車駐車場との格差などの問題に取り組む。WING GL400からMOTO GUZZまでV型エンジンなら何でも大好き。お酒好き。だが、HDのことはさっぱりで、トレンドに乗り切れない。