霞むスカイクレーパーに、イエローメタリックが映える。
見上げれば乳白色の空に、スカイクレーパーが霞んでいた。男は唇の端で少さく笑って、イエローメタリックのジェンマに跨り、エンジンをかけた。
朝の早いこの時間帯を、男は嫌いではなかった。朝の冷気が、身体だけでなく、精神も心地よい緊張感で包む。男は、黄色いマフラーを巻き直した。
原宿生まれの男にとって、煩わしくなく都市を走る=散歩することの出来る場所や時間は自ずと限られている。
大都市に向かって人々が渋滞にはまっているこの時間帯こそ、実は都市生活者のゆったり走れる時間なのだ、ということを男は良く知っているのだ。
男はジェンマのアクセルを、開けた。都市生活者の愉悦に、男は浸った。
自慢のモーターサイクルコートに、ターコイズブルーメタリックが合う。
彼の自慢のワードローブが、このコートだ。
「そんじょそこいらにあるトレンチコートじゃないんだ!」
口角泡を飛ばす勢いに、仲間たちは「また始まったか」と呆れ顔だ。彼は、だが、そんなことは知ったことじゃない、とばかりに“そんじょそこいらには無い”このコートの話をする。
手に入れてすでに25年は経っているらしい。
「幻のブランド、ブライアン・カーチスのモーターサイクルコートなんだぜ」
歌手のミッキー・カーチスさんが立ち上げたブランドで、ミッキーさんの本名である“ブライアン・カーチス”としたそうである。
「ホラッ!」
と、実演する。コートの内側下方両サイドにベルトがある。コイツを腿に巻くのだった。
彼はターコイズブルーメタリックのジェンマを走らせ終わって、「見た? 家政婦は見た? 今なら家政婦の三田、ってか?」と上機嫌で続けるのだった。
「バタつきナシよ、ってワケよ」
ツイてる男は、ライムグリーンメタリック。
「俺のラッキーカラーはグリーンなんだ」
占いだのスピリチュアルだのパワースポットだの、そんなモノは一切信じないはずのヤツが真顔で言った。
ここ最近、緑色関係でいいことが続いたのだそうだ。ホントは桃色関係の方が好きなんだけど……とヤツはヒヒヒッ!と笑って付け加えたけれど……。
「ジローラモも着ているらしい」ワインレッドのレザージャケットの首元には、淡いグリーンのストールが無造作に巻き付けられていた。肩から提げたバッグは、モスグリーンだった。
ライムグリーンメタリックのジェンマがヤツを乗せてメインストリートを駆けている。気分は上々。このままだと次の信号はパスできるな、と思った。
ところが信号は、微妙なタイミングで黄色になった。
ヤツは、止まった。続けて、いつの間にか後ろにいた黄色いジェンマと、ブルーのジェンマが鼻先を並べるように止まった。
「チッ!」──黄色いジェンマの舌打ちが聞こえた。
「ツイてねぇ!」──ブルーのジェンマの叫びが聞こえた。
緑のジェンマは思った。
「こんなところでツキを使わなくて良かった」
ヤツのラッキーカラーは、グリーンなのであった。
スズキワールド「オリジナルペイント」のイエローメタリック、ターコイズブルーメタリック、ライムグリーンメタリックのジェンマは、全国に30店舗あるスズキ直営店「スズキワールド」グループが特別に製作したスペシャルモデル。価格はスタンダードのジェンマの本体車両価格にオリジナルペイント代31,500円をプラスした712,950円。全国のスズキワールドで発売中。