松本:「私は新しいもののやり方が好きなんですね。'80年代にヨーロッパマーケットをやっていた時には、ヤマハ初のABS装着車としてFJ1200Aを手がけました。当時二輪のABSはまだBMWさんしか出してなくて、国産二輪車では初だったと思います。
初物が好きで、リモコンジョグの企画もやりました。大学のバイク駐輪場を見に行ったときに、同じようなスクーターが多すぎて、自分のバイクが判らなくなった人を見て『これだ!』と思いましたね。当時、軽自動車でもリモコンキー付がありましたから。
電動スクーター、パッソルの時は、ずっと研究開発中だったので、やはり世に出ないと意味がないと。なんとか販売しようと、いろいろ検討してコンパクトでなるべく安くやろうと決めたことを思い出します」
松本:「そういう新しいものを出したいという思いがカタチになった最新のものがこのFZ1 FAZER GTなんです」
フルカウルだけでなく、高くワイドになったスクリーン、独立したヘルメットホルダーを備えたこのモデルを日本市場へ投入することになった理由にはどんなものがあるのだろうか。
松本:「日本専用モデルを増やしていきたいと考えていた中、団塊の世代が定年退職することもあって、そういう大人達にどうヤマハのバイクをアピールしていくかという話が出ました。バイクに乗ることを大人の趣味としてフォーカスして調査し、うちの既存の大排気量スポーツモデル、YZF-R1やFZ1をそれにどう繋げていくかと。
大人の趣味材としてのバイクというマーケットは確実にあって、その中の使われ方として、ツーリングユースというのが大きかった。調査すると数字でそう出てくる。昔は、通勤、通学、買い物、街乗り、ワインディングといろいろ用途がある中で、ツーリングはあまり比重が大きくなかったんです。
しかし今は、大きい排気だけでなく125ccクラスでもツーリングという使い方が増えました。それがきっかけです。他社さんにも大型のそういうモデルもありますが、何か新しいモデルの登場で火がついたのではなく、市場の要求から出てきたのだと思ってます」
事実として近頃の国内新車登録トップ10に、スーパースポーツモデルが入らなくなってきて、替わりに便利で楽に乗れるアップハンドルのロードモデルが並ぶようになっている。
松本:「最近は快適性や利便性を重視するお客様が増え、それに見合ったバイクが売れています。スクーターのアクシス トリートに、リアボックスなどを装備した『快適セレクション』というのを販売したら、すごく評判が良いんですよ。既存のものをベースに快適性や利便性という価値を付加してあげれば商品の価値はぐっと上がるんです。
FZ1とFZ1 FAZERはとてもカッコイイバイクで魅力的だと思っていますが、大人の趣味材という視点に立つと、見た目的に若々しくエネルギッシュな部分があるかなと。
そこで、もともとヨーロッパはFZ1 FAZER用純正アクセサリーとして販売されていたフルカウルキットに気づいて、「これだ!」とピンときたんです。これなら求める要件にぴったり」
ちょうどいい純正アクセサリーパーツがあったから、というのは事実としてあっても、この車種をベースにしたのはそれだけでなく、バイクとしての素材が良かったからだと話す。
松本:「FZ-1FAZERはスーパースポーツモデルのエンジンなどを受け継いだ、動力性能や運動性能の良さだけでなく、もうひとつ利点があるんです。それは軽いということです。ツーリングモデルには車体の重量が重いものが多いですよね。ベースモデルが軽量なので、GTも比較的軽量になっています。出先の押し引きなど取り扱いが楽になり、大きなアドバンテージになると考えました」
ベース車両のFZ1 FAZERと中身はまったく同じものでありながら、必要最小限の追加パーツによって、ツーリングモデルとしてかゆいところに手が届くバイクへと変化した。
松本:「今はあまり出来ませんが、私も昔は国内でツーリングばかりしていました。その経験から、カウル付きの有用性を知っています。楽ですよね。スクリーンの存在も大きい。ノンカウルのモデルでもヘッドライトの上にちょっとしたバイザーがあるだけで全然違う。このFAZER GTはFAZERより大きなスクリーンを装備していますから快適度が格段に上がっています。
実はFZ1シリーズにはヘルメットロックが付いていません。ヨーロッパなどではヘルメットロックを使わないというのがあります。なぜかというと、ぶら下げていたらアゴヒモを切って盗まれるから。でも日本だとヘルメットロックが必要になる場面が多い。特にツーリングではあるべきだと考え、シートを外すタイプだと荷物を積んだとき使えなくなるので、独立したものを装着したんです」
開発に膨大な時間がかかる新型車の開発と対照的な、既存のモデルを下敷きにして別の魅力を備えたバイクに仕立て上げるこの方法。特有のメリットがある。
松本:「企画から製品になるまで何年もかからないので、お客様が今欲しいと思っている商品に短いスパンで対応できる。小回りが効く。市場からの要望があって、それに気づいたらどんどん手をうっていける。こういうやり方もありだと思っています。
例えばとても好評だった、TMAXのWGPカラーモデル(TMAX WGP50th Anniversary Edition)は『やろう』と言い出してから商品になるまでとても短期間だったんですよ」
松本:「YAMAHA発動機販売ではこれからもアクセサリー装着車を増やしていきますから、御期待していてください。もっともっとチャレンジングなものを出していきたい。みなさんが想像することは私たちもちゃんと考えています」