「金太郎じゃダメなんですか?」
まだ薄暗い午前6時40分。区役所の銅像巡り1本目の都バスに乗り都営まるごときっぷを買う。
あらかじめ700円用意し、最後に乗って買うのがエチケットというかスマート。まあ、この時間に大井競馬場発のバスに乗ってくるお客は誰もいないが。
あと1時間もすれば、あちらこちらからわんさか勤め人や学生さんがわいてくるのだが、6時台の都内は前日の眠りの延長上だ(←カッコつけてみました)。
ほどよく暖房の効いた車内に座っていれば、こちらも前日の眠りの延長上。うつらうつらして、はっと目が覚め、乗り過ごしていなくてホッとしてを繰り返す(※以下乗り換える度繰り返す)というスリル満点状態で品川駅に到着。京浜急行線に乗り換える。
品川の次の泉岳寺からは都営地下鉄浅草線になのでまるごときっぷが使えるが、品川-泉岳寺の一駅間は京急の持ち物ゆえ130円の別払いとなる。なんかもったいない。歩いて行けない距離ではないが眠さと寒さに負けるという前提の計画なので素直に京急に乗る。
3つめの大門で下車。5〜6分歩いて記念すべき第一関門港区役所(「だいいちかんもんこう」区役所ではなく「だいいちかんもん・みなと」区役所)に到着。と、書けばすんなり到着したようだが、地下鉄は出口がたくさんあるので、ちゃんと表示を確認しないとえらい大回りになってしまう。
駅の案内表示をしっかり確認し、案内図もじっくり頭にたたき込んだおかげで迷うことなく到着。急がば回れ、急いでるんだけど、回るんじゃないけれど回れの精神だ。
銅像はすぐに見つかった。しかし、朝っぱらから裸は照れる。なんで裸なんだろう。お堅いイメージのお役所に裸像。高貴なる芸術作品をそういう目線で見て3はいけないが、なんで女の裸?「金太郎じゃダメなんですか?」(白いスーツの某議員風に)。
あと22。先は長いから先を急ぐ。中央区役所(足を組んで座っているスレンダーなおねーさん。服を着ているけどこっちのほうがオレ的にはむふふ)、江東区区役所(困惑気味の裸のお母さんにおんぶされ泣き叫ぶ裸の息子。なんだか震災から逃げているようで心が痛むよ……)と順当にこなす。
江東区役所前のバス停は長蛇の列(長蛇の列=長い蛇がたくさん並んでいたら長蛇の長蛇の列か?)。だんだん(NHKドラマ「坂の上の雲」で菅野美穂が最高の笑顔で言う松山弁ではない)通勤ラッシュの時間帯に入ったようでさすが東京平日朝、座れないどころか満員のぎゅーぎゅーすし詰め状態。「江戸前寿司のすし詰め」を連想しつつ、濱ちゃんはずーっと座って移動できるからいいなあ……と、思いつつ4つめの江戸川区役所へ。
……ない、銅像がない。おねーさんとおばさんの境界線上で激闘を繰り広げているであろう受付嬢尋ねると「……ないと思いますよ」とつれない返事。ないものはしょうがない。しょうがないので江戸川区なのに江戸川じゃなくて荒川の水位を表示する塔を「平日の朝っぱらになにやってんだコイツ?」という通勤客多数からの痛い視線を程感じつつ、そそくさと撮った。
江東に続き区役所の前にバス停がある、ある意味バリアフリーの江戸川区役所前から、城東地区に住む都民か千葉県民でもないとどこにあるのか見当もつかない新小岩駅へ。ここで京成バスに乗り換え。ラッキーなことに目の前に京成バスが待っていた。
乗り換えはスムーズだったが、びゅんびゅん飛ばす都バスに慣れてしまった身体に、狭い道ををのろのろ走る京成バスは田舎のバスに乗っているようでのんびり旅気分(←と書いてもどかしい)。
30分近く乗って到着した葛飾区役所は、東北の山岳地帯にあって平成の大合併に取り残されながらも、凛としている小さな街ながら規模はそこそこある市役所という雰囲気(←説明が長すぎて自分でも何を言いたいのかよくわからなくなった)。ミニ庭園の真ん中にいた腰にカーディガン(に見えた)を巻いたガタイのいい裸にいさん像も山が似合いそう。
ちょこっと離れた都バスのバス停まで歩きはじめたら突然の大雨。目の前にあったコンビニに駆け込む。雨は強くなるばかりなので“安物買いの銭失い”にならぬようビニール傘ではなく、1000円もするりっぱな傘を購入。バス代200円、傘1000円。葛飾区で1200円も使ってしまった。
冷たい雨の中とぼとぼとぼとぼとぼとぼと結構歩いて国道6号沿い青戸車庫バス停へ到達。時刻表を見ればバスは1分前に出たばかり。雨さえ降らなければ乗れたのに……次のバスは15分待ち。雨だし寒いし腹は減ったし、目の前のファミレスで暖かいもんでも食べたいところだが15分は中途半端。しょうがないのでバス停で待つ。もう10分くらい経っただろうと時計を見てもまだ1分。1日は短いが15分は結構長い。
雨も上がった5分前、結構な行列になった。結構な人数と結構でない人数の境目を知りたい人は「お願いランキング」にでも投稿してみてください。
「とげぬき地蔵か! このバスは」
10時30分ジャスト、上野松坂屋行きのバスは来た。結構な交通量のある水戸街道を定時運行するとはさすがプロ。日本の公共交通機関の正確さは間違いなく世界一と心で拍手。それはいいのだが、すでに結構人が乗っていた。さらに結構な人が乗ると結構な混雑になった。
浅草まで結構な時間乗らねばならない。途中のバス停からも次々に結構なおじいおばあが乗り込み、日光結構大和観光状態の結構だらけで結構な時間は結構つらい。しかし、ホントにおじいおばあだらけ。
ぎゅうぎゅう江戸前すし詰めで松坂屋ではなく、冥土に行ってしまうんじゃないかと心配になるが、「今日は混んでるねえ、ははは」「昨日も混んでたよ、ふふふ」と平然としている。買い出し、引き揚げと戦後のどさくさを、大競争のモーレツ高度経済成長期時代を力強く生き抜いたおじいおばあにとって、この程度は混雑に入らないのかもしれない。
ああ、濱ちゃんは今頃どこを走っているんだろう……などと考える余裕など無く、臥薪嘗胆、おじいおばあの間から東京スカイツリー見えるリバーピア吾妻橋というしゃれたバス停でやっと下車。降りたのは私ひとりだった。
ふらふらになりながら墨田区役所へ。豊流というおすもうさんのようなタイトルの銅像は室内にあった。鳥(鳩?)付きの裸の女性はちょっと幼ない。その奧にライオンみたいな像も撮ってこれでOK。目の前の墨田区役所前バス停に来たバスにそそくさと乗り込んでしまった。だから隅田川沿いにあった超大物を見逃してしまった……
「勝海舟見なかったんですか!ふ〜ん(ニヤッ)」
勝ち誇る濱ちゃんの顔を見るのは10時間後のことだった。
お次の台東区役所では裏手の小公園に、でんでん虫に乗った? 子供、時計の支柱に止まったでっかいセミ、ダックスフンドみたいな石と味のある銅像を発見。しかしその前で大五郎を足下に置いたおっさんが闘志満々で眼を飛ばしまくっているので早々に退散。じっくり観察したかった……のに。
上野バイク街を横目に昭和通りを横断し上野駅からはいつ乗っても混んでいる地下鉄日比谷線-東武伊勢崎線で大団地のある竹ノ塚へ。竹ノ塚まで北上し都バスで足立区役所に南下という、急がば楽して回れの頭脳派ルートである。
電車の中で路線図を眺めていたら次は梅島駅。梅島? 足立区役所はたしか梅島陸橋近くのはず、三角形の二辺を大回りすより一辺を歩いた方が早いんじゃないかとピタゴラスの定理がひらめいた(違うと思う)。別払い料金が20円も節約できる。なんという僥倖。素早く電車を飛び降りた。梅島駅前には「足立区役所→」の道案内もあるではないか。
が、足立区役所は遠かった。10分以上歩いて疲れ果てて20円の得。か?
銅像を探し区役所裏の広い庭をうろつくも、ハクション大魔王のツボみたいなの、ありがちな金属製のぎざぎざ、意味不明の平べったい石のオブジェしかなかった。
あまりに熱心に捜したので1時間に2本しかない浅草雷門行きのバスに乗り遅れた。また歩くのかよ……思いながらバス停を見ると北千住駅行きのバスがある。
え? わざわざ梅島や竹ノ塚まで行かなくても、手前の北千住駅から足立区役所に行くバスが結構ある。しかも始発は……竹ノ塚駅って……木を見て森を見ず。始発を見て終点を見ず。北千駅から都バスに乗ればよかった。なにがピタゴラスだよ……策士策に溺れる、いや無策士、無策に溺れるだな、歩き疲れた上に心の翼も大きくしなった。
このロスタイムに濱ちゃんはずんずん進んでいるんだろうなあ……と暗澹となるが、濱ちゃんも結構右往左往していたことを知るのはこの9時間後である。
それはさておき6時間近くかかって8ヶ所。一区役所平均45分。まだ半分も回っていない。単純計算すると(23-8)×45=約11時間半……今日中に終わるんか。さらに気分が重くなる。
三ノ輪で地下鉄を降り、ちょこっと歩いてレトロな雰囲気の三ノ輪橋から都電荒川線に乗る。沿線の荒川、北区役所をパパぱっと攻略して……と思ったら、荒川区役所で結構時間を食ってしまった。
その理由はきっと濱ちゃんが詳細に書くだろうからここで書かない。けれどここは区役所? という不思議空間であった。じゃあ、もう一度と言われても行かないだろうけれど。
都電の王子駅前と飛鳥山の中間点という意地悪な北区役所の入口にあった激走する馬上で横笛を吹く女性を見ても、荒川の後ではインパクトが半分以下。しかし、この銅像、ちょっと目立たない所にあったためバイクの濱ちゃんは見逃していた。むふふ。「歩くのも悪いもんじゃないね」と、ニヤリし返しで勝海舟の仇を取るのは、まだ9時間先の話。
中山道(国道17号線)と交差する新庚申塚で都電と別れ少し歩いて三田線西巣鴨駅へ。そろそろ歩くのがしんどくなってきた。この途中にすごくおいしい立ち喰いそば屋さんがあるのだが、歩き疲れて腹が減りすぎ、時間に追われてパス。
無感情な銅像探査マシーンになりつつ三田線に2駅乗ればその名も板橋区役所前。階段を上れば国道17号の上を首都高速道路の高架が走り、その脇にそびえ立つ板橋区役所。板橋という名前から、のんびしした雰囲気を想像していたが、ブレードランナー的な場所にあった。
巨大な建築物に対抗するように銅像も力強くでっかい。これが葛飾区役所など閑散とした所なら、数十倍大きく見えることだろう。山本直純が見たらエールチョコレートを食べながら歌い出すに違いない。
「豊島vs文京 あなたはどっち派?」
ふたたび西巣鴨(←売れない演歌みたい)。満員の都バスに乗り換え豊島区役所前へ。豊島区役所はバス停の目の前。
池袋駅も近い大都会豊島区役所だが、立地条件とは裏腹に23区区役所中1〜2を争うような昭和チック(=古い)な建物だった。
館内も手狭で薄暗い(イメージ)。銅像は……ポスターを貼った衝立に隠れた2体を発見。手狭すぎて銅像の前にも掲示版。警備のおじさんに撮ってもいいですか? と尋ねたが返答がないので、便りのないのは元気な証拠、衝立の間にカメラを突っ込んで無理矢理撮影し「なにやってんだ?」的視線を感じる前に速攻で退散。
ちなみに衝立に隠れていたのでこれも濱ちゃんは見逃していた。ふふふ!と溜飲を下げるのは8時間後。
池袋駅東口まで人混みに流されて〜♪ 移動。そこそこ混んでいる(=結構混んでいるより空いている)都バス都02乙系統で文京区役所へ。
東京ドームの真横、文京区シビックセンターというCVCCマニアにはおしっこちびりそうになる巨大なビルディングの中に区役所があった。
豊島区役所とは真反対のおっしゃれ〜&巨大なシビックセンターは内部が吹き抜けで、高層階には円盤のように張り出した展望スペースも。比べれば豊島区役所はバラック同然と言っても……言い過ぎか。
銅像を探し回りるが広すぎて一苦労。屋上庭園(天空の緑)というのを見つけ行ってみると、中途半端な空間(とはいえ普通の住宅なら庭付き一戸建てが立つくらいの空間)に中途半端に樹木が配置され、なにを思ったのかチェス盤のオブジェがどーんと作られていた。
こんなもんで空間占有するなら「ベンチじゃダメなんですか?」と心で叫んでおく。ちなみにこの庭園の真横は後楽園遊園地で、ビルの上を走り抜けるジェットコースターが見え、ぎゃ〜っと閑静を破る歓声が感性をくすぐ……らない。
庭園のオブジェはともかく、文京区役所は各所へ向かう都バスが集まる春日駅前バス停の前、地下には三田線春日駅とアクセスはバツグン。荒川から3時間で5ヶ所と大幅にアベレージアップで気分がいい。というか歩く距離が少なくて単純に嬉しい。三田線で古本屋さんの街神保町まで2駅、新宿線に乗り換え1駅、であっというまに九段下。
九段母の靖国神社や「大きなたまねぎ」武道館がある九段下は、大きな会合があったようで揃いの茶封筒を持った老若男女が塊となって駅へと押し寄せてくる。その大波に逆らい千代田区役所を目指すも、わんさか押し寄せる「人混みに流されて〜♪」思うように前進できない。
距離的にはそれほど離れていないはずだが、疲労困憊して千代田区役所に到着。パリッと音がしそうな垢抜けて近代的で「そこでカメラをかかえてうろうろしているおまえは明らかに不審者!」という視線の鋭い警備員さんが立っており中に入りづらい。と言い訳を即座に考え、外でちゃっちゃと撮って「人混みに流されて〜♪」引き返す。
茶封筒の人達で満員の新宿線で3駅移動し新宿三丁目。さすがは新宿。「人混みに流されて〜♪」地下街を結構歩いて新宿区役所へ。荒川〜文京のドアtoドア感覚から一変し、千代田、新宿と歩く距離が長いというか、人混みで疲れ倍増。
荒川以来、久々に対面した裸の女性象。「今更なによ」と完全に手遅れになった男女関係を感じさせながらも、すっ裸ということはこの後むふふな展開一気に関係修復か!? と深読みさせる、まこと新宿に似合った銅像だった。