ここからは、CBR250Rで採用されたメカニズムの概要を紹介していこう。まずは新エンジン。開発にあたっては「虚飾を廃したサイドビューやコンパクトで力強い造形のヘッド回りなど、内部メカニズムの信頼性を感じさせる精緻なデザインとし、精悍なイメージのブラック塗装を施しました」という。
具体的には、
(1)低燃費化で CO2 の排出を抑えた環境対応型エンジンであること
(2)250cm3単気筒スポーツバイクとして、 世界のお客様に満足していただけるスムーズで扱いやすい出力特性
グローバルモデルという位置付けから、エンジン形式は本格スポーツバイクの魅力として世界的にコンセンサスが得られているDOHCとし、単気筒の持つ経済性を活かしながら、低・中回転域の扱いやすさのみならず高回転域の伸びにも注力している。
優れた環境性能の実現を目指して、燃焼効率の追求や低フリクション技術も投入、49.2km/L(60km/h定地走行テスト値)とクラストップの低燃費も達成している。
2つのポートに対応する2ビームインジェクターを装備したPGM-FIシステムによる燃料制御と、耐久性に優れたイリジウムプラグの組み合わせで、希薄ガソリンへの確実な着火を実現。
燃焼効率を高めるために、バルブ挟み角もせまくし、燃焼室の表面積を小さくすることで熱損失を少なくできるペントルーフ型燃焼室を採用した。また、圧縮比を10.7に設定することで、点火時期を変更することなく各国のオクタン価が異なるガソリンに対応するグローバルモデルとしている。
吸排気抵抗の少ないストレートポートと2ビームインジェクターによる理想的な空燃比により、燃料を無駄なくエネルギーに換え、低燃費を実現することで CO2 削減につなげている。
動弁系では、二輪車のDOHCエンジンとして世界初のローラーロッカーアームを採用した。カムとロッカーアームの摺動抵抗を低減するために、接触部にベアリングを介することでフリクションの低減がはかれ、燃費の向上に寄与。また、ロッカーアームシャフトの配置を工夫することでシリンダーヘッドのコンパクト化、軽量化を実現している(特許出願中)。
バルブタペット調整はシム式を採用。アジャストスクリュー式に比べバルブ駆動部の軽量化が可能となるため、バルブスプリング荷重を低く設定でき、フリクションの低減を実現している。また、メンテナンス性にも配慮し、シム交換はカムシャフトを外すことなく可能となっている(特許出願中)。
カムチェーンはピンにバナジウム表面処理を施し、油膜保持性の向上によってフリクションを低減。また、潤滑オイルに混ざる不純物に対する耐久性を向上させている。
ピストン往復部のフリクションを低減させるために、オフセットシリンダーを採用(排気側に4mmオフセット)するとともに、ピストンには、エンジンオイルによる潤滑をより促進する租条痕や摩擦低減効果のあるモリブデンコーティングを採用している。
- シリンダーには鋳鉄製スパイニースリーブが採用された。スリーブ外側表面に細かな突起処理を施すことにより、接しているバレルのアルミ部との密着性を高め、冷却性を向上させるとともに、鉄とアルミの熱膨張率の違いからくる歪みを減少させる効果により、ブローバイガスやオイル消費を低減している。
シリンダーには鋳鉄製スパイニースリーブが採用された。スリーブ外側表面に細かな突起処理を施すことにより、接しているバレルのアルミ部との密着性を高め、冷却性を向上させるとともに、鉄とアルミの熱膨張率の違いからくる歪みを減少させる効果により、ブローバイガスやオイル消費を低減している。スリーブは薄く均一な肉厚に仕上がる遠心鋳造製法を用い、軽量化が図られている。
これらの技術によるエンジン内部のフリクション低減で低燃費化とともに、出力向上も実現したという。
エミッション関連では、O2センサーを用いたフューエルインジェクションシステムにAIシステムを追加し、マフラー内にキャタライザーを装着することで最新の国内二輪車排出ガス規制に対応している。
ボア×ストロークはショートストローク(φ76×55mm)とし、レスポンスの向上がはかられている。ちなみにこのボア×ストローク値はCBR1000RRとほぼ同一だ。
クランク、コンロッド、ピストンは慣性マスの低減のために徹底的な軽量化をはかり、良好なエンジンレスポンスを実現。
吸排気系の管長や口径は、低回転域から高回転域までスムーズな出力特性を実現するために徹底的に検証を行ったという。
燃焼の高効率化を目指し、吸気・排気ともにエアクリーナーからポート、そしてエキゾーストパイプにいたるまでストレート化して充填効率をアップ。さらに、ツインスパーのフレームメインパイプ、プロリンクサスペンションを適切にレイアウトすることで吸気系スペースの確保と十分なエアクリーナー容量を実現、理想的な吸入効率に近づけている。
バルブは吸気・排気ともに大径としながらもバルブステムを細軸化し、ハイリフトカムとの組み合わせにより吸排気効率をアップ。
エアクリーナーは、あらゆる走行条件下での集塵性に優れたビスカス式を採用し、グローバルモデルとして十分な耐久性を獲得。さらに、シート下部から簡単にエアクリーナーエレメントの脱着や交換を可能とするなど、メンテナンス性にも配慮(特許出願中)。
大型スポーツモデルと同様のチェンジアームやクラッチリフト機構を採用し、ストロークとチェンジ荷重の特性を徹底的に検討することで、節度感のある上質なチェンジフィーリングも獲得。また、ライダーの意志に忠実な操作性を確保するためにチェンジペダルのリンク部にピロボールを採用するとともに、クラッチリフターレバー、チェンジスピンドル、シフトドラムにボールおよびニードルベアリングを採用している。
高出力でありながら静粛性に優れた、上質感のあるエンジン特性を実現するために、クランクジャーナルには、ホンダの単気筒モデルでは初となるメタル(半割圧入メタル)軸受けを採用(特許出願中)。鋳鉄製のブッシュにメタルを圧入することでケースハウジング剛性を高めるとともに、熱膨張によるクランクジャーナルとメタル内径のオイルクリアランスの変化を抑え、静粛性の向上がはかられている。
クランクシャフトは、コンロッド大端部を低フリクションのローラー軸受けにできる組み立て式としながら、CAE解析による最適な強度と剛性をもつクランクウェブ形状を追求。さらに大径φ35mmのクランクピンと合わせ高剛性なクランクシャフトとなっている。
また、1次バランサーを採用し、不快な振動を抑えている。バランサー駆動ギアはクランクケース内ではなく右カバー側のクラッチ室内に配置し、クランク左右の軸受間隔を短くして剛性をより高くすることで、静粛性をさらに向上させることに役立っている。
オイルポンプは、クランクのメタル軸受け部に安定した量の潤滑油を供給するため、リリーフされたオイルをオイル通路に戻す、内部循環タイプのリリーフバルブを備えたオイルポンプを装備。これによりオイル圧力を安定させるとともに、リリーフされたオイルの泡噛み(エアレーション)を防止している。
エンジン冷却は高出力化を狙い、CAEによる冷却水の流動解析によって淀みのない流れを実現し、冷却の高効率化。また、部品点数を抑え軽量化をはかるため、水温を制御するサーモスタットをエンジンシリンダーヘッドにビルトイン。また、冷却水のバイパスをエンジン内部に通し、ホース等の部品点数を削減しながら、暖機性の向上がはかられている(特許出願中)。
フレームとシャーシは、「日常生活で気軽に使える上に、スポーツ走行時もバイク本来の操る楽しさを安心して体感できることを主眼に開発した」という。
そのために最適な車体サイズやディメンション、操縦安定性、またがった瞬間に感じるスポーティー感や走るための基本機能を満足させながらマスの集中化をはかり、しなやかさと剛性感を高次元で融合させている。 開発目標としては、
(1)フルカウルスポーツモデルとして、軽快なハンドリングと安心感のある操縦特性の実現
(2)世界のお客様に満足いただける快適性と扱いやすさに配慮したスポーティーなライディングポジション
(3)ライダーの意のままの走りを支え、性能を余すことなく扱いきれる安心感ある足回り
まずは、フレームレイアウト。フレームは、各部に求められる剛性と車両全体とのバランス追求による軽量化を狙い、鋼管丸断面のトラス構造ダイヤモンドフレームを採用。軽量でありながらも、フレーム各部に大きな負担がかかるスポーツ走行時にも必要十分な剛性を確保している。一方で、鋼管の持つ靭性を活かしたフレームワークは、刻々と変化する路面状態にレスポンス良く柔軟に反応する操縦安定性により、ライン取りの自由度を高めながら、心地よい適度な振動をライダーに伝えるなど、上質な走り味を実現している。
プレートメンバーで構成された軽量コンパクトなリアクッション取り付け部は、形状の最適化により十分な剛性を確保し、プロリンクサスペンションの性能を最大限に引き出している(特許出願中)。
ハンドリングは「軽快かつ安心感のある素直なハンドリングを目指す」ということで、コンパクトなエンジンによるショートホイールベース化と、重量物を車体中心に集中させながら前後の重量配分を最適化することで、高い旋回性能を獲得。さらに、エンジンマウントの位置やフレーム剛性バランスを最適化することで、軽量化、安心感のある素直なハンドリング、車体振動の軽減がはかられている。
ライディングポジションは、グローバルな見地から様々な体形のライダーが想定されている。また、市街地から郊外、ワインディングロードでのスポーツ走行まで、国やシチュエーションの異なる幅広い使い方を考慮し、より多くの方にとってスポーティーでありながら扱いやすくストレスのないライディングポジションとしているという。
前面投影面積を抑えたフルカウルによって整流された走行風は、ライダーに心地よい爽快感をもたらす。シートは、市街地からスポーツ走行まで多様なシチュエーションを楽しめるセパレートタイプの構成に。硬さと形状の最適化により安心感のある足着き性や、ライダーの動きを妨げず長時間のライディングも楽しめる機能性を備えているという。さらにパッセンジャーに快適性をもたらす握りやすい左右別体式のリアグリップを標準装備。
フロントサスペンションは、フレームとの剛性バランスを最適化したインナーチューブ径φ37mm の正立式テレスコピックタイプを採用。また、130mm とフルカウルスポーツとしては多めのサスペンションストロークを確保するとともに減衰力のチューニングを施すことで、ギャップ通過時の安心感とスポーツ走行時の接地感を高次元で両立している。
リアサスペンションには、プロリンクサスペンションを採用し、レシオの最適化によりプログレッシブ(漸増型)な特性で高い路面追従性を発揮するとともに、足回りの省スペース化をはかっている。
プロリンクサスペンションは、ストロークの小さい時には減衰力特性の柔らかめな領域で作動させソフトな乗り心地とし、大きく作動したときには減衰力特性の高めの領域で大きなストロークをしっかりと減衰させることで、より安定した走行を可能としている。
このような減衰特性と、重心に近い位置にサスペンションをコンパクトに配置することによって操縦安定性を向上させている。また、ライダーの好みや、タンデム走行などに応じて調整可能な5段階のプリロードアジャスターを採用。
剛性と靭性を兼ね備えたスイングアームは60mm×30mmの角断面スチールパイプ製。チェーンケースを兼ねた樹脂製のインナーフェンダーは、高いデザイン性を備えながら、車体やリアクッション、ABSモジュレーターへの泥はねやチッピングを軽減している。
新設計の前・後アルミキャストホイールは、大きな弧を描くH断面の5本スポークでしなやかな乗り心地をもたらすとともに、スポークの断面形状や、スポークとリム、ハブとをつなぐ部分のR形状など各部の熟成をはかることで、クセのない安心感のある特性を達成しているという。
チェーンは520サイズとし、プレートを薄くした新開発の軽量シールチェーンの採用により、バネ下重量を軽減。
新開発のタイヤは、過渡特性の安定を狙ったプロファイルを持たせ、フロントに110/70-17M/C、リアには 140/70-17M/C を採用。コンパウンドの最適化により250cm3フルカウルスポーツモデルにふさわしい軽快なハンドリングを実現している。
スタンダード仕様のブレーキは、世界のあらゆる路面や使用環境を考慮した強力な制動力を確保するため、フロントにはφ296mm の大径フローティングディスクに2ピストンキャリパーを、リアにはφ220mm のディスクに大径シングルピストンキャリパーを装備している。ブレーキパッドには、新開発のパッドを採用し、街乗りからスポーツ走行まで安心して使える性能を獲得している。
また、250cm3ロードスポーツモデルとしては世界初となる前・後輪連動ブレーキシステムにアンチロック・ブレーキ・システムを組み合わせたコンバインドABSを搭載する仕様を設定している。
ホンダ独自のコンバインドABSは、フットブレーキをかけると前・後輪に理想的な配分で高い制動力が得られる前・後輪連動ブレーキと、前・後輪それぞれのロックを抑制するABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が組み合わされている。ABSにより、急制動時や雨天時などの滑りやすい路面状況下の予期せぬ車体挙動を抑制することで、ライダーをは過度の緊張から解放し、通常の操作でより確実な制動力を実現している。なお、ハンドブレーキ(前輪)はスポーツ走行を想定し、フロント制動のみの単独作動としている。
このコンバインドABS モデルはフロントブレーキに3ピストンキャリパーを採用。また、前・後輪の車輪速センサーからの情報を演算してキャリパーへの液圧供給を制御するECUを内蔵した、ABSモジュレーターを搭載。ブレーキパッドには、高い耐フェード性を持つ焼結パッドが採用されている。
また、ABS モジュレーター等の重量物を、フレームとエンジン外観の機能美を損なわないよう配慮しながら車体重心近くに配置し、優れた運動性能と先進のブレーキ性能の両立をはかっている(特許出願中)。
| トップページへ | 前のページ(開発者インタビュー)へ | このページのトップへ | CBR250R第一報のページへ |
| ホンダ CBR250R プロファイルのページへ | 「Hondaワールドワイド」CBR250Rオフィシャルサイト(英語)へ |