ホンダ


 CB650Fは、まさに予想どおり。通勤に、仕事に、そして息抜きにと縦横無尽に活躍してくれたのでした。
 
 これまでシングルのCB250Fに乗り、ツインのCB400F、そして4気筒のCB650Fと「CB-F」三兄弟すべてを長期テストさせてもらいましたが、それぞれに利点があり、それぞれに魅力のある三兄弟なんですね。
 
 経済性で選べば、車検が無くて燃費の良いCB250Fはダントツです。普通二輪免許の制約内で走りもきっちり楽しむならCB400F。ツインとは思えない軽快な吹け上がりのエンジンがとても魅力的でした。そして長兄のCB650Fは、まさにCB750FOURを“生活の相棒”として30年近く乗り回していた頃を思い出させてくれました。必要なときには、充分以上の駿足を発揮、また渋滞路でもギクシャクしない余裕のトルク。これであと20kgほど軽くして、重厚感のあるハンドリングをもう少し軽快に、より機敏な運動特性としていただけると、私にとってまさに最強の“相棒”となるでしょう。
 
 今やバイクと共に生活している方は珍しくなってきていますが、それでもまだまだ、趣味の道具として乗る方ばかりではありません。バイクと共に生活し、暮らしている人間も絶滅したわけじゃなく、まだまだしぶとく生き残っています(と信じたい…)。
 
“生活”といえば、あまりに便利なスクーターに乗ってしまったばかりに、そこで完結してしまうのは残念と思うのですが、余計なお節介というものでしょうか。スクーターの場合、多分に経済的な理由から選んだ方も多いのではと思いますが、その後年齢が上がり、社会人となって公共交通機関を利用するようになったり、経済的に余裕ができてクルマへ移行してしまったりで、バイク生活から離れてしまうケースが多いのではないでしょうか。
 
 ネイキッド・モデル、いや、かつてスポーツ・モデルと呼ばれていた「普通のバイク」が不振なのは、このようにバイク環境が様変わりしていることの影響が大でしょうね。「CB-F」三兄弟が苦戦してしまっているのも良く分かります。
 


CB650Fと暮らした半年、4,921km

 さて、日射しが暖かくなった3月の上旬、CB650Fがやってきました。「マットガンパウダーブラックメタリック」という渋い黒系のCB650Fでした。CB750FOURも黒に塗り替えて乗っていましたので当時を思い出します(CB500FOURなどと陰口をたたかれてましたが)。オドメーターはまだ2,871km、慣らしも終わっていないほぼ新車が新たな相棒となりました。
 
 カラーばかりではなく、CB650Fの奥ゆかしさは、左右のラジエターシュラウドに控えめに貼られた「CB650F」の車名ステッカーにも表れています。すれ違いや追い越しざまに判別できるような大きさじゃないんですね。緑枠ナンバーに気が付かなければ「CB250Fか…」です。緑枠に気が付いたとしても「CB400Fか…」の人も多いでしょう。これも“生活バイク”に大切な要素の一つです。バイクを人様に見せびらかすために乗っているわけじゃありません。目立たなければ目立たないほどけっこう。その分取り締まりにも縁遠く、まさに“黒子”でいてくれることが一番です。縄張り意識過剰なライダーに余計なちょっかいを出されることも少なくなりますから。
 
 CB650Fに跨ってみると、目の前の17リットル入りの燃料タンクと、それに繋がる左右のラジエターシュラウドなどで、さすがに排気量を感じます。でも停まっているところを傍から見ると「CB250Fか…」って感じ。車体色の黒も余計小さく見せてくれています。ただこれって気のせいばかりじゃないことは、諸元を見れば一目瞭然です。
 

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 CB250Fの車体サイズ、2,035×760×1,045mmに対して、CB650Fは、2,110×755×1,120mm。全長で7.5cm、ホイールベース比でもわずか7cm(CB650Fは1,450mm)の違いしかない。車幅などCB650Fの方が逆に5mm狭いくらい。おかげで、我が家の限られた駐輪スペースにも問題なく収まってくれて、生活バイクとしての第1の課題はクリア。さすがにCRF250Lの時のように切り替えし無しで一発というわけにはいかなかったですが、このクラスのマシンとしては期待以上の取り回し性の良さでした。
 
 それに、車両重量の208kg。生活バイクとしては200kg以下がマストと思ってるのですが、208kgなら、まあ許容範囲でしょう。重心は気持ち高めのような気もしますが、それもその分動き出しが早くなると思えば良しとしましょうか。休日に楽しむ“趣味のバイク”なら、超重量級でも良いのでしょうが、トシで体力が落ちていることもあり、もう200kgオーバーのモデルと生活することは考えられません。

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 総走行距離が3千キロもいっていない“ほぼ新車状態”でしたので、しばらくは慣らし運転でした。いや、乗る側の“慣らし”だったという方が正解でしょうか。CRF250LやCB250Fなどの安楽さに躰が慣れきってしまっていたので、しばらくは乗る側も慣らしをしないとあっという間に赤キップの山に。メーター上では11,300rpmくらいからがレッドゾーンになっています。ツインのCB400Fに比べれば約1千回転程度レッドゾーンまでの回転数が高いですが、それでも以前のホンダの4気筒から考えると低めの設定です。
 
 最近のホンダ車は、これまでの高回転高出力指向から、実用回転域、実用馬力重視に方針転換しているのは確実ですね。CB400Fのツインがストレスフリーで気持ち良く上まで回るようになったこともありますが、気筒数はそれほど意味を持たなくなってきているのでしょうか。長年バイクに乗り続けてきましたが「あのホンダが…」と感慨深い思いがあります。
 
 CB650Fが来てから初めて満タン法での燃費計測。この間、187.5km走って補給した燃料は9.73リットル。燃費はというとリッターあたり19.27kmでした。慣らしも兼ねて、かなり控えめに走っていたつもりなのですが、やはり排気量があるのでこれくらいの数値になるのでしょうか。
 
 燃料タンクの容量は17リットルありますので、CRF250L(7.7リットル)の時のように通勤2回でスタンド、のパターンから開放され、通勤4回で給油が目安となりました。リッター20kmとして、燃料補給ランプが点滅する残り4リッターまでの間に約260km走れる計算です。やはり燃料タンクの大きいロードスポーツは良いですね…当たり前か。
 
 燃料表示のバー(満タンで6本表示)が1本になるところまで走って給油しましたが、まだ6リットル以上残っている状態でした。ちなみに燃料補給の警告のために、燃料表示の最後のバーが点滅を始める「リザーブ状態に入った」時点で残り燃料は約4リットルになっているとのこと。点滅表示開始からリッター20kmだと80kmはスタンドを探して走り回れることになります。
 
 6速ギア、5,000回転でメーター読み100km/hくらいになります。ということは計算上レッドまで回しても最高速は220km/hちょいといったところでしょうか。明らかに国内の利用環境を意識した設定になっていますね。どのみちリミッターの効く180km/hまでが勝負ですから、ってことでしょう。スポーツモデルといえども、高回転高出力の時代は確実に終わり、実用回転実用域出力を重視するセッティングが当たり前になりました。確かに、日常生活で必要とされる速度域での実力こそ重視されるポイントでしょう。純粋に走りを楽しみたいのならサーキットでスーパースポーツに乗りなさい、ってことですね。
 
 テスト開始後初の雨。かなりしっかり雨に降られました。最近多くなった“マットブラック”の車体って汚れが目立ちますけど、皆さんどんな手入れをしているのでしょうか。ワックスは掛けられないし…、CRF250Lの時にとても重宝させてもらったスプレー式のクリーナー(特にカラーシートなどはケミカルを使わないと汚れが取れにくかったですね)もマット塗装には使わない方がよさそうだし…。やはりこまめに水洗いをしないとダメでしょうか。とても気に入ったマットブラックのカラーではありますが、思わぬ所に落とし穴? “生活バイク”なのにしょっちゅう洗車していなきゃいけないのは、なんだかな~、です。構わずそのまま放置するとすぐにマッドマックス出てくるマシンのようになってしまいそう。

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 さて、長期テスト開始から約6ヵ月、オドメーターが7,792kmの時点でこれまでの燃費状況を報告すると、4,921kmを走って240.09リットルを補給。リッターあたり20.49kmが期間中の平均燃費でした。意外とよく走る、が印象でしょうか。ただ、ちょっと遊んで走ったりすると16.15km/Lまで落ちたり、逆に考え事でもしながらクルマの流れに乗っていたら24.03km/Lまで伸びたこともあります。長距離の高速走行データが無くて申し訳ありませんが、感じとしては意識して伸ばそうと思えばかなり行けるのではないでしょうか。
 
 その時にちょっと気になったのが“実用域重視”の影響で、ちょっと速めのアベレージで走ろうと思うすると、6速ギアでもエンジン回転がけっこう上がってしまうと言うこと。6速のみはもう少しオーバードライブ気味に設定してもらえると長距離ツーリングをされる方にも喜ばれると思います。首都高速でも6速巡航が問題ないと言えば感じが掴めるでしょうか。“実用域”志向はそれほど徹底しています。
 
 まだしばらくこのCB650Fをテストできそうなので、唯一試せていない長距離ツーリングにも出かけようかと考えている今日この頃。毎日が熱風サウナ状態だった酷暑も終わり、いきなり来た秋雨前線もそろそろ消えてくれそうですからね。
 
(小宮山幸雄)

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●CB650F(EBL-RC83) 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,110×775×1,120mm、ホイールベース:1,450mm、最低地上高:150mm、シート高:810mm、車両重量:208kg、燃料消費率:国土交通量届出値、定地燃費値31.5km/L(60km/h)、WMTCモード値22.2km/L(クラス3-2)、燃料タンク容量:17L■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、総排気量:648cm3、ボア×ストローク:67.0×46.0mm、圧縮比:11.4、燃料供給装置:フューエルインジェクション(PGM-FI)、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、始動方式:セルフ式、最高出力:61kw[83PS]/9,500rpm、最大トルク:63N・m[6.4kgf]/8,000rpm、変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前+後):油圧式ダブルディスク + 油圧式シングルディスク、タイヤ(前+後):120/70ZR17 M/C 58W + 180/55ZR17M/C 73W、懸架方式(前+後):テレスコピック + スイングアーム、フレーム:ダブルクレードル
■車体色:アトモスフィアブルーメタリック、マットガンパウダーブラックメタリック
■メーカー希望小売価格:923,400円(本体価格855,000円)
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中空断面構造のアルミキャストホイール。いい時代ですよね、スポークホイールが一般的だった頃は、1本1本磨くのがけっこう大変な手間でした。こまめに頑張っていたつもりでも錆が…。リアサスは、7段階の調整可能なプリロードアジャスターを装備。 私らの世代には懐かしい“ヨンフォア”風にデザインされたエキゾーストパイプ。この部分、CBR650Fではフェアリングで大半が隠されてしまってますね。もったいない。このマシンのために新開発されたエンジンは6,000rpmから9,000rpmが“おいしい”ところ。 年寄りに優しい装置、ABSを標準装備。反射神経が下り坂の“老人”ライダーにはありがたい装置です。フロントサスは、インナーチューブ径41mm、ストローク120mmの正立式テレスコピック。
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マルチリフレクターヘッドライトユニットは、一昔前のバイクには想像できない明るさ(55/60WのH4ハロゲンバルブ採用)。LEDのポジションランプがアクセントに。 二眼タイプのフル液晶表示を採用したメーター。最近のホンダ車に共通する、瞬間燃費計や平均燃費計、燃料消費量表示機能などを内蔵している。右のウインカーはマスターなどの影になって見えませんが、ま、問題なしということで。 ラジエターシュラウドがCB650Fの個性だそうなので申し訳ないのですが、個人的には無い方が…。それにヘッドライトも丸型がいいかな、と無い物ねだり…。

◎試乗車に追加装備されているアクセサリー用品

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○ETC
Honda 二輪ETC車載器キット:アンテナ別体タイプ
■価格:41,472円
取付アタッチメント同梱。(車載器本体、アンテナ、表示器)
適用号機:14M/RC83-1000001~
別途必要費用:取付費用とセットアップ費用が必要となります。
取付時間:0.8H
取扱店:Honda二輪車ETC車載器セットアップ店
その他:決済用のETCカードが必要です。
※本体はシート下、アンテナと表示器は左グリップホルダー横に設置。
 
●ホンダモーターサイクルジャパンお客様窓口 TEL03-5993-8667
○リアキャリア
■価格:24,840円
許容積載量:5.0kg
材質:アルミダイキャスト
別途必要取付パーツ:キャリアブラケット(08L73-MJE-D00ZA)
装着価格:37,800円(消費税抜本体価格 35,000円)
取付時間:0.2H
取扱店:Honda二輪車正規取扱店


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