幻立喰・ソ

第60回「3ソ物語」

 
 大きなトラブルもなくけなげに働いてくれていたi Mac (G5)。ハード的には全く問題ないのですが、ソフトウエアのアップデートができない問題が頻発しておりました。身体は元気なのに頭がちょっと……ごはんはまだですかいのう? 的な問題がMacにまで及ぶとは思いませんでした。まだまだ使えるのにもったいないですが、清水の舞台から飛び降りるつもりで、清水の舞台から飛び降りたら間違いなく昇天ですが、あくまでつもりですから立喰・ソ500杯分くらいの紙や金属と交換にインテル搭載の新i Macを連れて帰りました。使ってみると、最新のOSは、違うことだらけでびっくりぎょうてんです。私のだけの症状なのでしょうか、突然画面が勝手に拡大したり、勝手にぴょんぴょんスクロールしたり、日本語変換が変だったりと、イライラが募るのですが未だ解決法がみつかりません。

 

 そんなある日のこと、唐突にマウスとポインタの動きが正反対(鏡合わせ)になってしまいました。マウスを右に動かせばポインタは左、上だと下に、クリックも指先ではなく手の甲でするようになってしまいました。わけもわからず、しばらく悪戦苦闘しながら使っていましたが、手元をよーく見ればマウスを上下逆に持っていました。有線マウスならばまず起こらない超凡ミス。世の中便利になると意外なところに落とし穴があったりするものです。


マウス
これじゃ、逆さに持ってもわかりません。よね?

 落とし穴といえば、お店の前をよく通るのになぜかスルーしてしまう立喰・ソもいわば落とし穴です。何の落とし穴なのかは銘々が冥々と感じればよいとして、問題は高いとか、まずいとか、鰻そばか鶏そばしかないとか、店員が○○だとかそういうことではなく、むしろ逆のすばらしい立喰・ソだったりします。
 激戦区新橋駅前のT波屋もそんな立喰・ソのひとつでした。かの坂崎師匠の名著「ちょっとそばでも」にも掲載されています。週刊誌の立喰・ソ企画でも常連です。よもやこの人気店がなくなるはずがない。だから今日じゃなくてもいいじゃないか、と無意識かつ意識的にスルーしているのです。慢心しすぎです。だから幻立喰・ソになって大後悔を何度も繰り返すのです。そんな反省もあって、というよりも、たまたま打ち合わせが近くであって、お腹もグーッだったので、久しぶりに入ってみるかという、まったくもって不埒きわまりない理由で行って参りました。たしか2〜3年ぶりかな。かき揚げそば350円。安いです。相変わらずおいしかったです。
 立喰・ソ帖を調べてみたら、びっくりぎょうてん。前回の訪問はなんと2002年でした。2〜3年どころか10年以上も前。さらに驚いたのが、かけ230円、かき揚げ350円と値段も10年前と変わっていないのです。2014年に消費税が8%になっても転嫁していないのです。もちろん味も、量も変わっていません(たぶん)。恐るべき企業努力です。例えば年間200日昼食をT波屋で食べるおとうさん、10円の値上げとすると1年で2千円の出費増になります。ということは、ソをすするだけで毎年2千円もT波屋からお小遣いをもらっているようなものなのです。ババ友と3千円のランチを食べるお金はあっても、1円たりとも余分なお小遣いはくれないお母ちゃんと比べたら……立喰・ソは、安くて当たり前、早くて当たり前、あって当たり前と慢心してはいけないと、改めて深く深く反省いたしました。とはいえ、なかなかマネのできることではございません。全国の立喰・ソの主のみなさま、多少の値上げも致し方ないのです。無理せず末永くがんばっていただきたいと心から願っております。


ちくわ天そば

カウンター
T波屋のちくわ天そばはかき揚げと同じ350円。なのに食べるのはちくわばかり。前世は獅子丸でしょうか?(2002年2月撮影) かき揚げそば。350円。感動のあまり、いつものようにピンぼけです。変わったのはどんぶりだけ?(2015年5月撮影)

 
 さて、ここからが本題です。そのT波屋の隣にあったのが魚沼やでした。ある日突如として出現し、いつのまにか幻立喰・ソになっていたイメージだったのですが、立喰・ソ帖を見れば初食は2005年11月で、閉店は2009年夏ごろのようです。少なくとも3年半はあったのですから、あっという間ではありません。人間の記憶と言いますか、みなさんすっかりご存じのように私の記憶がかなり曖昧でいいかげんであることが、またもや立証されました。
 それはさておき、なにもわざわざ名店の隣に出店するとは無謀な気もするのですが、そうでもないのです。特に宣伝しなくても名店目当てにお客さんがやってくるのですから、「新しい立喰・ソが出来たから入ってみるか」とか「満員だからこっちにするか」となり、それで気に入ってもらえればしめたものです。魚沼やの場合、夜は立ち呑み屋さんの二毛作店でしたし、手打ちの生麵で価格設定がやや高めの高級志向でしたから、昔ながらの純立喰・ソスタイルのT波屋とは方向性が異なっていましたから、勝算は十分あったのだと思います。
 しかしながら結果的には幻立喰・ソになってしまいました。理由は知るよしもありませんが、少なくともまずかったり、居心地が悪かったり、店員さんが○○だったりということではないでしょう。ちなみに魚沼やの跡には小田Q系列の大チェーン店H根そばがすっぽり収まり今日に至っております。
 
 T波屋は名店の評価に奢ることなくひたすら立喰・ソ道を極め続け、やや高級志向で評価の高かった魚沼やは撤退し、後に入ったチェーン店は盛業中。この3つの立喰・ソの物語から何を読み取り、明日のビジネスチャンスのヒントにするのか、それは貴兄の才覚次第です(いつもにも増してぐだぐだなオチ←オチてないけど。だって欅平の心の傷が疼くから←詳細は次回の立喰・ソで)。


魚沼や

桜たぬきそば
この右隣がT波屋になります。(2005年11月撮影) 桜たぬきそば。おしゃれでおいしそうです。(2005年11月撮影)

●立喰・ソNEWS 2015

田子の浦

「たごのうら うちでてみれば しろたえの ころもほすてふ あまのかぐやま」誰がいつ読んだかは覚えていません。調べてみたらなんと後半は「ふじのたかねに ゆきはふりつつ」でした。「はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすてふ あまのかぐやま」と混じっていました。どちらもしろたえ(白妙)系ですし、百もあれば混ざってもしょうがない。といいますかこれ以外は知らないですけど……そういえば「る〜ぅる むようのあくとうに せいぎのぱんちをぶちかませ ごーごーれっつごー かがやくましん〜」と、タイガーマスクが仮面ライダーになっていることもよくありましたから。

ではなく、田子の浦です。全ソ連唯一の会員ABくんは、自分の支持者にしか通用しない隠語を当たり前のように使い、支持者以外(地球上の2人位を除く全員)を困惑させます。先日も「I由の季節限定キャベツ天は、ボリュームがあって安くておいしい。が、油断すると田子の浦になるやも」と至急報が届きました。田子の浦? その前にキャベツ天について解説しないと話が進みません。36分割(くらいだと思う)されたキャベツにたっぷりコロモで揚げたキャベツの天ぷら、珍しいです。持ち上げるとおつゆを吸ったコロモは重くなります。キャベツはアコーディオンのように開きます。すると重さに耐えきれなくなったコロモがはらはらと落ちます。先ほどまでキャベツの天ぷらだった物体が、コロモと蒸しキャベツに分離してしまうのです。もう、なにがなんだかわかりません。


黒3
おなじみ、私が愛して止まないI由です。季節限定の春キャベツの天ぷら。これで50円。赤いのは紅しょうが天の半分。これも50円。200+50+50=わずか300円で田子の浦へレッツゴー! しかもネギは入れ放題です。実はおつゆがたっぷり入っていて、ちょっとやそっとじゃ田子の浦にはならないので、ご安心を。ああ悦楽、なんという幸せ♥(2015年3月撮影)

このどんぶり上で繰り広げられる惨状を「田子の浦」と表現したのだそうです。長々と説明しましたがわかりやすいのは、入れ放題の揚げ玉を調子に乗ってどばどばと投入して得体の知れない食べ物になってしまった、あの状態と言えばわかりやすいでしょうか。今の田子の浦からは想像も出来ない、怪獣が出てきそうな変な色に染まった時代の田子の浦を知っている世代なら「ああ、なるへそ」と妙に納得していただけるやもしれません。


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在800店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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