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SUZUKI GSX-S1000F ABS
スゴイと感じさせる145psではなく、扱いやすい力強さの145ps。
GSX-S1000F ABSライディングポジション。ライダーの身長は170cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
スーパースポーツのGSX-R1000より、“公道で走る楽しさ、快適さ、利便性を高いスポーツ性能とバランスさせた”──GSX-S1000 ABSとGSX-S1000F ABSの立ち位置を簡単に表現するとこうである。GSX-R1000をベースにして単純にカウルやポジションを変更したように思ってしまわれがちだが、実際はそう単純なものではない。太いアルミフレームは新設計で、スイングアームだけ現行GSX-R1000のものを使う。エンジンはGSX-R1000のものをベースにしているが、最新のものではなく、2005年~2008年に発売されていたK5~K8モデルのものをベースにしている。
最初は、フルカウルが装着された、GSX-S1000F ABSのシートに腰を下ろした。レンサルのファットバーを採用したパイプハンドルは、ライディング姿勢で高さはおへその辺り。手前へ少し絞られていて、垂れがほとんどない。前傾も気にならず、楽に乗れる背筋。私は身長170cmで、腕は平均より短いが、グリップ位置は近く、肘に余裕ができた。シート高は、両足裏が地面にべったり着くことはないけれど、力がしっかり入れられるだけ足裏前方が接地。体格によって、さらに何を基準にするかによって印象は様々だが、スーパースポーツと比べると、充分すぎるくらい足つきがいいと言える。ステップ位置も、下すぎず、後ろすぎず、適度なタイトさがあって、好みだ。全体的にスーパースポーツの車体とエンジンを使った元気のいい公道モデル、いわゆるハイパーネイキッド系としては一般的なもの。
最初に「おや」っと気がついたのは、車体の軽さだった。国産のライバル、Ninja1000やFZ-1 FAZERより確実に軽い。足つきの良さ、アップライトで楽なポジション、そして他と比べ軽めの車体。これが揃うと悪い印象なんて出てこない。最初に写真で見た時には、カウルの厚ぼったい造形から悪く言えば野暮ったさを感じていたけれど、太陽の下でくっきりコントラストがついた実物は、シャープで精悍な顔つきをしていた。
この時点で気になったのはミラー位置だ。ビキニカウルのGSX-S1000とは形状が違うミラーなのだけど、前後方向の鏡面位置はそれほどかわらない。ライダーに近いから、視線の動きが大きくなる。ストリートファイター的なGSX-S1000なら、デザイン的にも納得がいくけれど、せっかくカウルが装着されているのだから、前に遠のくカウルマウントだったら、もっと楽に後ろを確認でき、微量かもしれないがハンドル操作が軽くなると思った。機能的にはちゃんと後ろが確認できるので問題はないし、悪いところではないけれど、カウルマウントなら良かったのでは。カウル付で中長距離ツーリング派もユーザーとして想定されるものだから、視線の動きが小さい方が楽でいい。GSX-S1000との差別化も出来たと思う。
スーパースポーツとしては比較的ロングストロークで、低中回転域から続くトルクで評価が高かったエンジンをベースにしただけあって、6速ギアに入れ(ギアポジションインジケーターはやっぱり便利)、2千回転以下、40km/hくらいの速度でも、普通に流せて走れる。高速のワインディングで、1速からフル加速すると、フラットに近く回転が上昇して、上に行くとグンと加速が伸びる。演出的な加速の盛り上がりというより、スムーズに盛り上がっていくので、2速でも、気が付くととんでもない速度になっているから注意が必要だ。意識させないが、145psは伊達じゃない。
気に入ったのは低いギア、特に2速の使いやすさ。ハイパワーになると、低いギアの中高回転域だとどうしてもスロットルワークにかなり気を使わなければ開け閉めで動きがギクシャクしがちだけど、これはそれが気になるほど出てこない。もちろんライダーの技量やシチュエーションなどで受け止め方は違う。パワーの出方が唐突だと思う人もいるだろう。しかし同カテゴリー内で考慮すると、扱いやすい方ではないか。タイトなターンが続く低速ワインディングでは、2速に入れっぱなしで、低回転から高回転まで自在に使えて楽しい。3モードとOFFがあるトラクションコントロールは一般的な路面状況を想定した「2」に入れていた状態で、スロットルを意識的に大きめに開けていっても制御が働いてリアタイヤが顕著にスライドすることはなかった。スゴイと感じさせる145psではなく、扱いやすい力強さの145psである。
標準セットの前後のサスペンションは柔らか目で、フットワークが軽く、タイヤの接地感が分かりやすく、乗り心地も良好。ただ、速度を上げたり加速しながらだったりで、ギャップを乗り越えると、深く沈んでからの戻りのダンピングが少し追いつかない感じも出てくる。それでも一般的な使い方を考えるとこれは納得もいくもの。フロントフォークはフルアジャスタブルだし、好みのセッティングも可能だ。フロントにブレンボ製モノブロックキャリパーを使い、ABSを組み合わせたブレーキは効きもタッチも良好で、強い減速からの侵入も気持ちよく決まった。
17リットル入り燃料タンク。WMTCモード値で19.2km/Lというから300kmの航続が可能か。 | 「勢×艶」がコンセプトを具現化する際のキーワード。高い運動性を示す理にかなったプロポーションを、色気、質感、流麗を備えてデザイン。 | シート下にはETCを装着できる程度のスペースは確保。テール周りはGSX-S1000 ABSとGSX-S1000F ABSで共通。 |
SUZUKI GSX-S1000 ABS
街中とワインディングに特化して爽快に走りたいならGSX-S1000 ABS。
GSX-S1000 ABSライディングポジション。ライダーの身長は170cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
エンジン、車体、ポジションなど同じでビキニカウルのGSX-S1000 ABSはさらに軽快感が出て、低中速で曲がるのがGSX-S1000F ABSよりクイックで、クルクルっと簡単に旋回できてしまう。GSX-S1000F ABSより当然ながら前の荷重が減って、サスペンションセットはやや違い、もっと良く動く。そこが走りの違いになっている。ただ、その分、高速でコーナーリング中に凸凹を拾った時など、より動きが大きくなる場面も。それを加味しても、ハンドリングのまとめ方は、総じてこれを楽しめるライダーの運転技量幅を大きく取っているもので、好感が持てた。個人的に不満があるとすれば、せっかくここまで作りこんだ走りを持っているのだからGSX-S1000 ABSはもうちょっと他とはスタイルから違うルックスでもよかったのではないかと思う。スーパースポーツをアップライトなポジションにしたネイキッドモデルとして後発だから、差別化の意味で。
両車共、エキサイトメントより、常にライダーの意思に従う部分に焦点をあてた運動性が魅力的だった。バランスが良く尖ったところがない。これで、この価格設定は、リーズナブルだと言い切れるものだ。街中とワインディングに特化して爽快に走りたいならGSX-S1000 ABS。総合的なシチュエーションならGSX-S1000F ABS。見た目通りの評価だが、そこにある速さとスポーツ性能はなかなか高いと付け加えておこう。
<試乗:濱矢文夫>
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