ライダーの身長は183cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
2010年春、CB1100は登場した。歴史を飾ったCBシリーズのエッセンスをちりばめたスタイルはスマートで美しく、エンジンの造形一つとっても魅了されるものだった。CB400Fourの現代版にも見えるし、CB750FBあたりに採用された黒い裏コム風に見えるキャストホイール、世界を騒がせたCB750Fourのように大きさで魅了する部分もある。
いろいろなホンダが込められているので、見る人の年代によっていろいろな化学変化を起こす。
以前、開発者の一人を取材したときの言葉だが、このモデルはやすやすとは無くしませんよ、と。なぜなら、あ、これはいい! と思ってコツコツとお金を貯め始め、2年後そのバイクがモデルチェンジをしてしまったり、気にいったカラーが無くなる、ましてや生産中止になっていたら、心に点いた種火を消すことになる。一人一人の「強い」思いをしっかり受け止めるためにも、ちょっとやそっとでは劣化しないデザインに心を砕いたというのだ。
例えば空冷エンジンの冷却フィン。これは厚み、フィン同士の間隔までこだわったという。そもそもパワーや速度に力点を置いたバイクではなく、所有感や走りの満足感に注力したユニットだという。クラス最高の出力、世界最速のマシン、といった性能目標ではないテイストに重きを置いただけに特性づくりにも苦労を重ねたという。ダブルクレードルフレームが描くカーブや休日磨きたくなるような塗装、そうした骨格のよさにもこだわったという。
あらためてデビュー当時のこと、そして今に続くCB1100の物語を語り出すと、このバイクが今なおキラキラしていることが解る。昨年のマイナーチェンジで、集合マフラー仕様はデビュー当時のまま進化し継続販売され、加えてこのCB1100EXが登場。つまり選択肢が増えたのだ。ぶれない方向性は10年以上の歳月をかけてきたコンセプトワークの上に登場したCB1100の根の強さなのかもしれない。
イメージ通りの走り。 意中のビッグバイク感に乗る。 |
今回、CB1100EX E Packageを試乗した。ETC と加熱度を5段階に調整可能なグリップヒーターを備えるこのモデルは、他のCB1100でオプション設定されているETC車載器とグリップヒーターを装着するよりもETCの装着工賃分+αがオトクとなっているのも特徴だ。
CB1100EXが装備する17リットルタンクは特にタンク上部のボリュームが増え、力強い印象だ。左右に太いマフラーが出ていてもバランスが取れている。印象的なスポークホイールは、アルミ製のハブ、リムとともに質感があり、特徴的なスポークの編み方も「昔風」なだけではない。キャストホイールと比較すると、スポークホイールのほうがホイール重量がありハンドリングもゆったりした特性になっている。
また、特徴でもある空冷エンジンの塗色もEXはシルバーとなっているためか、ブラックを多用するCB1100よりもエンジンの外観サイズ感が膨張色により大きく見え、EX全体のサイズ感にマッチしている。
シートは集合マフラーのCB1100と比べ、全体に肉厚にされた。パッセンジャー側まで大型化されたのも持ち味で、表皮の模様は初期型CB750Fourを思わせる。そのシート高はCB1100比で20mmアップの785mmとなる。ちなみにE Packageの重量は同じABS装備車同士でみれば、EX ABSの1㎏増、集合マフラーのCB1100ABSから14㎏アップとなる。
ポジションはとても親しみやすい。幅が広がった感はあるが、足つき性が良好なシートと、グリップ位置、ステップ位置が造るポジションはゆったりしたもの。大きくなったタンクがジェットヘルの視界にアクセントを与え、その中心に2眼式の速度計、回転計がある。この風景もCB1100EXらしいものだ。
エンジンは空冷だからといって賑やかな印象はない。メカノイズは極めて低く仕立てられている。2本となったマフラーから出る排気音はステレオのごとく耳に届く。集合仕様とは違った音質、風合いだ。
走りだすと緻密なまとまりにすぐに気が付く。シフトする時の操作感、アクセルとエンジンの反応の具合、そしてクラッチをつないだ時に後輪に駆動力が伝わる具合などなど、緻密にチューニングがなされている。もう発進だけで気持ちが良い。アイドリングでクラッチをつないで巨体がごろりと動き出す様は、このバイクに込められた造り手のおもてなしだ。
低い位置に重心がある安定感と安心感のあるハンドリング。小回り性能などを加味した理想的なもの。街中でも持てあます感がない。意のままに乗れている感覚に思わず嬉しくなる。
新たに6速となったミッションのレシオは、5速時代にもう一速を付け足した、というもの。いわば、巡航時により低い回転を使って走れるようになった。とはいえ、50km/hで6速にシフトしてもトルクのたっぷりしたエンジンは余裕をもって走ってくれる。高いギア、低い回転、太い排気音。先述した街乗り速度から乗りやすいハンドリングと相まって、CB1100EXの持ち味に満たされる。ブレーキも初期タッチから減速感の立ち上がり、そして車体のピッチングという現象が現れ方がものすごくナチュラル。そのためライディングそのものをリラックスして楽しめる。右手、右足の減速操作に、クラッチ、アクセル、シフトをバランスさせる根本的な操作の楽しみを享受するのに速度域を問わない完成度だ。
郊外のワインディングを走ってみた。俊敏な切り返しを得意とする性格ではないが、ラインを決めて走るのに適度な手応えと、あえて回転を上げずとも後輪にたっぷりの駆動力を与えるエンジン特性で機敏に走った気分に浸れる。さらにペースを上げ、左右の切り返しを素早く行っても車体の動きに遅れが出る印象もない。コーナリングマシンとは言えないが、しっかりと峠を楽しめる資質はもっている。けっして遅くないのだ。こんな場面でもシフトのタッチやブレーキの性能、そして細身のタイヤのグリップも充分な性能を持っているのである。
以前このCB1100EXで1000キロ近くを走ったことがある。エンジンの特性がそうさせるのか、高速道路でもバンバン走ろう、という気にさせられない。アップハンで風圧も強め、ということもあるが、100キロ巡航で気分がいい。むしろ80キロ、90キロあたりで巡航していれば何処までも走れる気分になった。
また、6速ミッションの恩恵は燃費に現れ、そんな走り方だと25km/lを軽々マークしていた。休日の早朝チョイ乗りから数日を費やすロングツーリングまで僕達をトリップに誘う点で、なるほどignition of life。当初の思いがさらに醸し出されている。それがCB1100系の歩む道なのだ。その点をしっかり確認出来たのがなによりの収穫だった。
(試乗:松井 勉)
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