試乗会は日本大学理工学部・船橋キャンパス内交通総合試験路で開催された。目の前に並べられたzecOOは、2年前に試乗させていただいた零号機の近未来的スタイルを踏襲するが、この初号機ではフロントの大型スクリーンが外されたことでより軽快感が増した印象だ。零号機ではいささか直進性の強いハンドリングに戸惑った記憶があるが、果たしてそれがどこまで改善されているか、まずはアクセルを握る右手に全神経を集中しつつスタートする。
なにしろトルクでは零号機の60Nmから144Nmへと倍以上にパワーアップされた電動モーターだけに細心の注意を払いつつアクセルを開けざるを得ないのだ。ただし、モード切り替えボタンでエコ(電費重視)/スポーツ(パワー優先)/カスタム(任意設定)の3パターンから出力特性をセレクト可能とのことで、エコモードからスタートしたことは言うまでもない。
先に888万円という価格を聞いていたこともあり慎重に慎重を期してアクセルを開ける。それでもスタートした瞬間から最大トルクを発揮する電気モーターの特性もあり力強い発進加速を披露する。強度部材も兼ねる電池パック部分を左右からアルミフレームで挟み込む形を取る車体構成は、まるで車体中央に極太の芯でも一本通っているかのような剛性感の塊とでも表現したくなるくらいガッチリしていて、そのまま真っ直ぐ走る分にはなにも問題はない。
気をつけなければいけないのは、試乗コースに設定されていたパイロンスラロームの進入時だ。「従来のモーターサイクルとは一線を画す斬新かつユニークな未来的要素を注入した」(znug design:根津代表)zecOOにはフロントサスペンションとしてハブセンターステアリング機構が装備されるのだが、左右独立タイプのハンドルバーと相まって独特なハンドリング特性を生み出しているのだ。
車体中央に位置するバッテリーの重量を少ない姿勢変化で受けとめるためのハブセンターステアリング。そして、左右独立したリンク機構を採用するハンドルは、これまで慣れ親しんだテレスコピック式のフロントフォークと同じようにハンドルで曲がろうとするとかなり違和感を覚えるはずだ。zecOOの場合はハンドルを切るというより、曲がりたい方向のハンドルレバーを引く感覚で、この動きに連動して反対側のハンドルを押し出すような形になる。右のハンドルを手前に引くことで右側に旋回を始め、次の切り返しで今度は左のハンドルを引くことでスラロームを描くように旋回する。言葉で説明するのは難しいが、脳みそが理解してくれれば操作自体は単純だ。
旋回が始まってしまえば一定以上の速度を維持している限りは自然なコーナリングを楽しむことは容易。ただし、速度が低下するとハブセンターステアリング独特の立ちの強い操縦性は依然残っているようで、より慎重なハンドリングが要求される。
zecOO最大の魅力はスポーツモード時144Nmのトルクを生かした0~100キロ加速が約3秒とも言われる瞬発力と、あらゆる速度域で変わらない静かさという相反する要素に尽きる。試しにスポーツモードで全開加速を試みると、240㎜幅の極太リアタイヤを軋ませながらドラッグマシンの如く猛然と加速するのだが、それでも電気モーターからはキーンとヒューンを合わせたような独特のサウンドが僅かに聞こえるのみで、スピード感があまり感じられない不思議感覚。風切音のほうが余程大きいくらいなのだ。
電動バイクの場合、定格出力0.6kW以下は原付一種(50cc)、1kW以下は原付二種(125cc)、それ以上は軽二輪(250cc)という区分のため、zecOOの場合も250ccクラス扱いとなり車検は不要となる。予定生産台数はこの試乗車を入れて50台。つまり、残りの49台を市販する計画で、既に購入第一号の契約も済んでいるそう。ちなみに基本はオーダーメイド体制となり、オーナーの希望に応じて車体カラーは元より、ハンドル、シート形状、ステップ位置等のライディングポジションの調整もオーダー可能な販売システムを採用する。
大メーカーに先駆けてこれまでの常識を打ち破るだけのインパクトを秘めたzecOOの誕生は、新時代の幕開けそのものであり、今後の二輪界の発展に大きな衝撃を与えるものと期待したい。
そこにこそ888万円の価値はある。
(試乗:安生 浩)
零号機に積まれたモーターは最大トルク60Nmと600ccクラスだった。これを最新型に換装することで144Nmと一気に倍以上の大トルクがzecOOに与えられた。フロントサスにはセンターハブステアリング採用。今後の熟成が成功のカギを握る。ブレーキ関係はBuellから流用。モーターからの出力は変速を兼ねたベルトドライブでリアを駆動する。 |
■zecOO 主要諸元 ●エンジン型式:電動モーター ●最高出力:50kW(68PS) ●最大トルク:144Nm(14.7㎏-m) ●電池:リチウムイオンバッテリー ●ミッション:無段変速 ●全長×全幅×全高:2,450×800×1,160㎜ ●ホイールベース:1,830㎜ ●シート高:670㎜ ●タイヤ前+後:160/ZR18+240/40ZR18 ●車両重量:280.0㎏(乾燥) ●希望小売価格:888万円(税別) ■オートスタッフ末広 千葉県千葉市末広5-11-14 TEL043-261-0184 http://as-suehiro.a.la9.jp/ |