KTM 1050 ADVENTURE |
KTM 1050 ADVENTURE。ライダーの身長は186cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
最初に断っておくが、3兄弟は厳密に言うと4兄弟である。1190にはよりオフロードを意識したR版がありこれを含めると同じカテゴリーにKTMは4機種も投入していることになる。なんという力の入れようだろう。
1190は2013年に登場したばかりだが、KTMのアドベンチャーモデルは2003年の950アドベンチャーからスタートし、Vツインエンジンを積んだこの車種の歴史はすでに12年になった。そして2015年、高い評価を受けた1190に加え、新たにラインナップされたのは1290スーパーデュークと同系列の1301ccエンジンを搭載した1290スーパーアドベンチャーと、そして1050ccのエンジンを細身の車体に組み合わせた1050アドベンチャーの2台だ。ルックスも車名も似ているが、これが乗ると全くの別物である。
兄弟たちに比べると大人しい95馬力というスペックを持つ1050から走り出す。この1050は跨った途端に安心感や自信を持てる細さや軽さが感じられる。事実シート高もわずかに低く重量も軽いのだが、数値上のわずかな違いよりもライダーに伝わってくる親しみやすさは大きい。とても節度のよいクラッチとミッションはKTM車に共通することだが、そんな好感触を嬉しく思いながら試乗をスタート。
……なんという乗りやすさ! 走り出してすぐは95馬力とはいえ強力なトルクを発するエンジンに神経が行っていたが、5分もしないうちに「これが1000cc超のアドベンチャーか?」と疑いたくなるような軽くて扱いやすい車体に気付かされた。サスペンションの設定もいくらか柔らかいようで、そしてタイヤサイズが兄弟車に比べてワンサイズ細い設定になっているというのも効いているのだろう。とにかく神経を使うことなく振り回すことができ、路面が濡れていた今回の試乗でも怖いと感じることは皆無。リッターオーバーの排気量を持つのに、まるで競合他社の650~800ccクラスのような接しやすさを持ち、実用車的な魅力をも持ち合わせる。
それでいてパワー面で不満が出るようなことがなかったのも嬉しかった。兄弟車と比べると見劣りする数値ではあるものの、しかし1000ccのVツインであり実用領域では十分以上のパワーを持つ。さらにそのパワーが扱いやすく、積極的に使いたくなる類のもののためライディングが楽しくなるのだ。足周りも同様であり、兄弟車のような細かなセッティング幅を持つわけではないものの、出荷時に守備範囲の広いセッティングとされているため不満は全くなかった。
この1050ならば週末のツーリングや一大イベントのロングツーリングを楽しみにするまでもなく、日々使い倒したいとすら感じさせてくれた。KTM関係者の話によると燃費もリッター20キロ以上は見込めるという。趣味の乗り物となりがちな大型バイクでもある程度の実用性や付き合いやすさに加え、ランニングコストも気にしたい筆者としては、KTMのアドベンチャー3兄弟の中で最も気に入ってしまったのがこの1050だ。
KTM 1290 SUPER ADVENTURE |
KTM 1290 SUPER ADVENTURE。ライダーの身長は186cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
続いて1290スーパーアドベンチャー。こちらは名前こそアドベンチャーだが、位置づけとしてはラグジュアリーツアラーだ。
アドベンチャーカテゴリーはついつい不整地もふくめた長距離走破やラリーレイドとリンクさせて考えてしまうことが多いが、しかしアップライトなポジションや全域でパワフルなエンジン、十分な防風性や十分なクッションを持つシートなどによる快適性など、ツアラーとしての素質は非常に優秀なのである。そこで1290スーパーアドベンチャーは1190からさらにツアラーとしての性能を追求する方向へと進化。160馬力のエンジンやおおよそ考えられるすべての電子制御の投入、セミアクティブサスやLEDコーナリングランプなどマーケットをリードする最新装備で、無類のパワーと格別の安全性、驚異的な快適性を提供する。
またがるとこれはさすがに大柄だ。基本的な構成は兄弟車と変わらないものの、大きなタンクから視覚的に圧迫感を覚える。タンデムも含めて純正でヒーターが装備され、1190と同様に2段階に調整可能なシートに腰を下ろしてスタート。
絶対的なサイズ感には最初はどうしても畏怖の念を抱いてしまうものの、スリムな車体のおかげで足つき性は悪くなく、そして走り始めると1050同様にクラッチの繋がり感やギアの節度が非常に良いため低速でもヒヤリとするような場面はなく自信を持って扱えた。初見の「おっ」という大きさはすぐに慣れてしまうように思う。
エンジンは1290スーパーデュークのものをベースにクランク重量を増やし、さらにミッションをツーリング向けにロングに振った仕様だ。990時代には激しいライディングが身の上だったスーパーデュークも、1290化と同時にパフォーマンスだけでなく扱いやすさも劇的に進化しており、それをベースにしているだけにこのスーパーアドベンチャーも底なしにパワフルでありかつ全ての操作が軽くて扱いやすい。回転数が落ち込んできてもギクシャクしにくく、こんなに大排気量のツインながら特殊な操作や慣れを必要としないことに感心してしまう。
アドベンチャーモデルで160馬力というのはやりすぎにも思えてしまうが、しかしこのエンジンはその馬力をすべて使って走るように求めてはこないため、あくまでライダーの使いたいように使わせてくれる。それでいていざアクセルを開け気味に走れば非常に、非常にパワフルであり、セミアクティブサスが車体の動きの変化を捉え、そういったライティングにも即座に対応してくれる。これで燃費も良くてワンタンク500キロ以上を走るというのだから、性能面でも実用面でも、そしてシートやグリップのヒーターやクルーズコントロールなどによる快適装備面でも、まさに無敵のロングツアラーという印象を残してくれた。
KTM 1190 ADVENTURE |
最後に1190だが、これはいい意味で2台の真ん中だろう。今回、特に何かが新しくなったわけではないがこのシリーズの中核モデルとしての存在感は大きく、万能さが光る。ツーリングももちろんこなすし、サイズや重量はあるもののオフロードでも一定のスポーツ性、走破性を持つ。
Rモデルもあるためただのツーリングバイクではなく、もっと積極的に「走り」の部分を楽しみたいライダーはこの1190がより気持ちを高ぶらせてくれるだろうし、そして兄弟の中で最もKTMらしい興奮や「Ready to Race」感を味わわせてくれるはずだ。またライバルも多いこのカテゴリーだが、欧州ではBMW-GSに続いて人気のあるこの1190である。ジワリとその良さが浸透しているのだろう。4月14日に発売された、姉妹媒体「ミスター・バイクBG」誌にもGSとの比較記事が掲載されているため併せて読んでみていただきたい。
3兄弟を乗り比べた結果、同じカテゴリーに3台も投入するなんて? という疑問は消えた。名前こそ同じだが、1190が本来のKTMらしいアドベンチャー、1290はゴールドウイング的要素をもったツーリング版、1050はVストローム650的要素をもった実用版、といった位置づけだったのだ。それぞれに魅力があり、またライダーの使い方によって選び分けられるよう選択肢を増やしてくれたわけだ。
もちろん、自分の使用用途にあったアドベンチャーを選んで欲しいが、ソックリでありながら中身はだいぶ違うこの三卵生アドベンチャーズのなかで、個人的に最も日本の道路事情に適しているのは1050なのではないかという結論に至った。試乗を終えた時に改めてもう一度1050にまたがり、落ち葉や土砂の流出もある細かな舗装林道というトリッキーなシチュエーションにて走らせたのだが、そんな状況でも怖さがなく走らせる楽しさがあったのには驚いた。シンプルで気軽に付き合える簡素な装備に、ABSやトラコンといった最低限の安全装備が確保され、価格も手の出しやすいものに。華やかさでは注目の1290の陰に隠れるかもしれないが、筆者としては陰の実力者は1050のような気がしてならない。
(試乗:ノア セレン)
■KTM 1190 ADVENTURE(1190 ADVENTURE R)主要諸元 ■最低地上高:220(250)mm■シート高:860/875(890)mm■車両重量:約230kg■エンジン種類:水冷4ストローク75度V型2気筒DOHC4バルブ■総排気量:1,195cm3■ボア×ストローク:105×69mm■最高出力:110kW(150PS)/9,500rpm■最大トルク:125N・m/7,500rpm■燃料供給:F.I.■始動方式:セルフ式■燃料タンク容量:約23L■変速機形式:常時噛合式6段リターン式■タイヤ(前+後):120/70R19+170/60R17(90/90-21+150/70R18)■ブレーキ(前+後):φ320mm油圧式ダブルディスク+φ267mm油圧式シングルディスク■懸架方式(前+後):WP製倒立フォーク+スイングアームWP製モノショック■フレーム形式:クロームモリブデン鋼トレリスフレーム■メーカー希望小売価格:1,950,000円(1,980,000円) |
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