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ホンダ
VFR800X試乗。こちらで動画が見られない、もっと大きな画面で見たいという方は、YouTUBEの動画サイトで直接どうぞ。http://youtu.be/j2OnEjxe1pw VFR800X開発者インタビュー。こちらで動画が見られない、もっと大きな画面で見たいという方は、YouTUBEの動画サイトで直接どうぞ。http://youtu.be/B6qENr34THI
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VFR800Xと、ベースとなったハイテクスポーツツアラー、VFR800F。まったくイメージが異なるがフレーム、エンジン等の基本メカニズムは同一。

 クロスオーバーコンセプトモデルとホンダが呼ぶ、このVFR800Xは、アップライトなポジションの、現在ヨーロッパだけでなく日本でも流行っているカテゴリーに入るオートバイである。その中を大まかに分けると2種類あって、オフロード走行も考慮して前輪に大きめのホイールを履いたものと、オンロードユースに軸足を置いたロードスポーツ的小径ホイールを履くものとに分けられる。まとめてアドベンチャーツアラーとも呼ばれるが、厳密にはちょっと違う。

 VFR800Xは、前後17インチのホイールサイズ。装着しているタイヤは120/70R17 M/C 58Vと180/55R17 M/C 73V。シャシーとエンジンを共有する前傾スポーツツアラー、VFR800Fと、スピードレンジが違えど(こちらの方が1ランク低い)、まったく同じサイズだ。だからオンロード走行に軸足を置いたものだ。オンとオフ、2つの用途で使える意のデュアルパーパスと呼ばず、異なる2つのものを組み合わせるクロスオーバーと呼ぶのだろう。

 じゃあVFR800Fを、ただバーハンドルでアップライトにして、外装を変えただけなのか。それは違う。ここにVFR800Xの重要なポイントがある。

 シートは835mmと815mmの2種類高さが選べ、試乗した車輌は835mmの設定だった。お尻が収まる部分は充分な面積を持ちながら、足着きのために前方を細くした、最近のシート形状。おかげで、悲しいことに身長170cmにしては短いと言われることが多い私の股下でも、両足の先が地面に届いた。断定は出来ないけれど、今までの経験から、女性なら身長160cm前後あれば、私と同じような足着きになると思う。

 VFR800Xというモデルはこれまでも販売されていて、前モデルはM-TEC(無限)が輸入し、ちょっとだけカスタマイズしたものだった。それからずいぶん車体が細くなった。フレームやエンジンのサイズはほぼ変わっていないはず。その理由は、両サイドから、一般的な前方に移動したラジエターのおかげが大きい。さらに燃料タンクのニーグリップ部分が、シートの前と繋がるように細身だ。乗車して視界に入る、カウルやスクリーンはボリュームがあるけれど、下半身が触れる部分がスリム。4気筒ながら横幅をおさえられるV4エンジンの強みが生きている。

 テーパーバーのハンドルは683mmと広く、形状はオフロードモデルのものに近い。グリップ位置は遠くなく、フルロックしても腕の長さは足りて、通常姿勢なら肘に余裕が出来た。ステップは、太もも付け根の下になる。私の身長だと踏み込みやすく、とてもあんばいの良い位置で、ワインディングでのステップワークが気持ちよくやれた。日本より平均身長の高い地域でも売られている機種だから、大きな人も考慮しているのは間違いないけれど、身長が高い人によっては、膝の曲がりが少しだけ窮屈に感じることがあるかも。同カテゴリーで、同じくオンロード寄りの設定になっている外国製のライバルのポジションも似たものが多いので、杞憂に終わるだろうが、上背のある人は気にかけていてもいい部分。

VFR800X。ライダーの身長は170cm。
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 イグニッションキーをオンにすると、大きな面積を持つ、LCDメーターに、タコメーターの目盛り、速度の数字などと一緒に、外気温も表示され、この時は8°C。12月としては平年並み。グリップヒーターが標準装備なのはありがたかった。左サイドのルーバーの中に、これも標準装備になったETCのランプも。外気温だけでなく、新たにギアポジションも表示するようになったから、エンジンを始動し、ギアを1速に入れると、そこが「1」の文字に切り替わる。これもありがたい機能だ。

 VFR800Fと同様、HYPER VTECを採用したこのV4エンジンの、淀みのないトルクフィールは個人的に大好きだ。トルクの厚みがありながら唐突な所がなく、谷間もなく、高回転になれば輪をかけてグンと伸びるように加速するスポーティーさで楽しい。パワーがありすぎず、足りないなんて思わない、これだけあれば公道モデルとして充分なもの。オプション設定されているクラッチ操作いらずのクイックシフターが試乗車に付いていたので、スロットルを開けながら足だけの操作で違和感なくシフトアップ。

 実はこのV4エンジンの一次減速比と二次減速比はVFR800Fと同じ。フレーム、スイングアームだけでなくマフラーも同じというから面白い。でも不思議なことに音の印象は違った。VFR800Fは高回転で高音のビブラートが強くなる。こちらはよりおとなしい感じ。

 さて、少し勿体つけたけれど、FとXが大きく違う部分について話そう。それは足である。Fよりフロントフォークのトラベルを25mm伸ばし145mm。リアのアクスルトラベルも28mm伸ばし148mmにしたこと。これは前のモデルよりも伸びている。前傾姿勢の一般的なオンロードスポーツより動く量はたっぷりだ。前も後ろもそれほど飛ばさない段階から、よく動いて、路面のギャップなどを軽くいなせて、荒れた路面でも神経質にならずにすんだ。足のゆとりがあるから、デュアルパーパス的な気分で、気を抜いて凹みを通過すると、小径で太いフロントタイヤのグリップ力が急に立ち上がって、素早く振られそうになるけれど、トラベル量だけでなく広いハンドル幅のおかげで落ち着いて押さえ込めた。

 これはダート走行でも効いていた。フラットな土の道、草混じりの道に入っても問題なくこなせる。薄氷を踏むような、おしりの座りが悪い感じはない。効力が2段階選べるセレクタブルトルクコントロールによって、砂利道など滑りやすいところでスロットルを大きく開けても、後輪のスリップを感知したECUがエンジントルクを低減させ、スリップを低減。メーター上部にあるインジケーターが点灯して、介入していることを知らせる。オフロード走行の経験がない人にとってこれは心強い。私は現在オフロード走行趣味が高じているので、セレクタブルトルクコントロールを左手側スイッチでオフにして、スライド制御を自らの感覚でやる方が面白い。当然、その時でもABSはオフになっていない。積極的にダート道に突っ込んで遊びたい設定ではないが、伸ばされた足と共に最低地上高も上がっているので、目的地まで林道があっても、諦める必要はない。

 舗装されたワインディングでは、速度を上げ、サスペンションを大きく使って走るだけでなく、力を抜いてだらりと進入しても、気難しさやクセもなく、思うように曲がれる。セルフステアの入り方も自然だ。重心が上がることによって出そうなネガな部分が上手にいなされ、低速、高速共に思うように走れた。動きの良い前後サスペンションのおかげもありタイヤの接地感を掴みやすい。ニーグリップ部分が細いタンクは、リーンインでもリーンアウトでも、ホールド感はバッチリ。クイックなリーンからさっと旋回というよりも、全てに「急」のつかない動きで旋回に入り、安定を保ちながら、スムーズに方向を変えていく。ハンドルの切れも不足なくUターンも簡単だった。

 もっと飛ばしたい人(公道ではナンセンスどころか違法だが)はサスペンションを締めあげたいと思うかもしれない。しかし、そういう使い方をメインにしたオートバイではない。だからと言って決してダルなハンドリングではないと強調したい。ワインディングでちゃんと爽快に走れる。ブレーキの効きもなかなかだ。この日は、落ち葉とコケと、土が点在する狭くてタイトなワインディングから、高速ワインディング、ちょっとダートでも、自由自在に走れた。ここまでやれたら見事なものである。開発者の苦労を知らない人として、ワガママを言うならば、この装備のままもう少し軽くしてくれたら、もっと最高。

 長距離移動が好きな人からは、もっとスクリーンを上げて欲しいという意見も出そうだが、高速道でのウインドプロテクションは悪くない。通常姿勢から、ちょっと前かがみになるだけで、スクリーンを越えてきた風はヘルメットの上を通過するようになって、さっきまで聞こえていた風切音がなくなり、静けさが訪れた。

 トルクフルなV型4気筒エンジン。手ごろ感を感じさせる781ccの排気量と大きすぎない車体。動く量を増やした足廻りによる懐深い走り。各部装備の充実。視界の良い姿勢で、タイトで先が読めないことも多く、路面の幅やコンディション変化に富んだ日本の道での使い勝手はいい。VFR800Xは全体のアップライト姿勢で走れるスポーツツアラーとして快適性も含めバランスがとれ満足できる仕上がりだ。

(濱矢文夫)

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VFR800Xの開発コンセプトは『Jump & Go!』。「ガレージから飛び出し(Jump)、コンクリートジャングル(街中)へGo! 毎日乗りたくなるV4アップライトスポーツ」としている。ホンダのハイテクスポーツツアラー、VFR800Fをベースにいわゆる“クロスオーバー・モデル”としたのがVFR800Xだ。2011年8月に、M-TECがヨーロッパで好評を博していたVFR800X Crossrunnerを輸入開始したのをご記憶の方も多いだろう。当時は無限のカスタマイズパーツ類を装着して、名称も「VFR800X MUGEN」としてコンプリート販売された。今回は、ホンダ自らがVFR800Xを国内発売する。車体・足回りは、ロードスポーツモデルのVFR800Fに対して、前・後サスペンションのストローク量を増加。また、オフ走行時の性能の向上を図って最低地上高を30mm高い165mmに設定。シート高を標準仕様より20mm低く設定できる機構を設けるなど、取り回しやすさも考慮している。ブレーキは、ABSを標準装備。エンジンは、低・中回転域で力強い出力特性を発揮するVFR800Fと共通の水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブで、回転数によって稼働するバルブ数を切り替える「HYPER VTEC」も採用。ツーリングに便利なETC車載器とグリップヒーター、メインスタンドを標準装備している。車体には「crossrunner」のロゴが入るが、正式車名は“VFR800F”。
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ホンダのクロスコンセプトモデル揃い踏み。左から400X、NC750X、VFR1200X、そしてVFR800X。
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ホンダ純正アクセサリー類を装備したVFR800X。フロントサイドパイプ、45,360円、サイドパイプに装着したフォグランプ、39,960円、パニアケース(左右セット、ワンキーシステム)、143,640円、トップボックス45L(ワンキーシステム)、49,600円、トップボックスパッド、10,800円、ナビゲーションG3、89,640円。試乗したVFR800Fにもオプションのクイックシフター、21,060円が装着されていた。
■HONDA VFR800X(EBL-RC80) 主要諸元

●全長×全高×全幅:2,190×870×1,360mm、ホイールベース:1,475mm、最低地上高:165mm、シート高:835/815mm、車両重量:244kg、燃料タンク容量:20リットル●エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ、排気量:781cm3、内径×行程:72.0×48.0mm、圧縮比:11.8、最高出力:78kW(105PS)/10,250rpm、最大トルク:75N・m(7.6kgf-m)/8,500rpm、燃料供給方式:フューエルインジェクション、点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火、始動方式:セルフ式、潤滑方式:強制飛沫併用式、トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン、クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング●フレーム形式:ダイヤモンド(アルミツインチューブ)、キャスター:26.30°、トレール:103mm、サスペンション:前・テレスコピック、後・スイングアーム(プロリンク)、ブレーキ:前・油圧式ダブルディスク、後・油圧式シングルディスク、タイヤ:前・120/70R17M/C 58V、後・180/55R17M/C 73V●メーカー希望小売価格:1,328,400円(税込)。カラー:パールグレアホワイト/キャンディーアルカディアンレッド


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