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ヤマハ
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こちらの動画が見られない方、もっと大きな画面で見たい方は、YOUTUBEのサイトで直接どうぞ。「http://youtu.be/avSFsASGyQo」 R299は埼玉県から群馬県へと入る。タイトなコーナーが続く峠道は、MT-09のフィールドだ。ハンドリングの良さが際立ち、狙ったラインを外さない。

 地方から東京など大都市に出てきて生活したり、所帯を持っているバイク乗りの場合、帰省を兼ねたツーリングを経験している人も少なくないだろう。ツーリングがてら実家に寄るというケースもある。先頃、世界遺産に正式登録され、何かとメディアに取り上げられて騒がれている『富岡製糸場』。私はその所在地、群馬県富岡市(人口約5万人)出身だ。東京からの距離は約120km。高速道路を利用すれば2時間で帰れる。でもツーリングしながら帰ることも多い。時間に余裕があってお天気もいい、という条件付きだが、ちょっと遠回りして峠道を組み込み、コーナリングを楽しみながら帰省したいからだ。

 東京・世田谷からだと、埼玉県西部を通って群馬県南西部に抜け、富岡に至るルートが恰好で、これまでに何度も選択している。そのルートにはタイトな峠道やワインディングがいくつかあるので、大きくて重いバイクよりMT-09のようなモデルが合う。MT-09は排気量の割に車体が軽量コンパクトだしスリムだ(まるで400クラス。それが大袈裟なら軽快感に溢れる600スポーツ並み)。それに充分な動力性能と高い運動性能が組み合わされている。お誂えの一台だ。同じ並列3気筒で排気量も同等の96年型トラ・サンダーバードに17年乗っている身としては、ヤマハ久々の並列3気筒エンジンも興味深い。

 飯能市から埼玉県西部の代表的な街である秩父に向けてR299を進むと正丸峠だ(81年に正丸トンネルが通って距離も通過時間も大幅に短縮された)。80年代前半のバイクブーム最盛期、この峠もローリング族で賑わった。取材で訪れたこともあるし、ほぼ同時期、北陸方面に彼女とタンデムで約1週間のツーリングに出かけた時も峠を通った。数年前、豪雨による土砂崩れで通行不可になったが、その後復旧された。ただ、路面は荒れているし、砂利が浮いていたりもするので、安心してコーナリングを楽しめる状態ではない。まあ、ゆっくりと濃さを増す樹木の緑を愛でながら走るのも悪くない。

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 秩父からR299をさらに奥へと進めば小鹿野で、志賀坂峠を越えると群馬県である。タイトコーナーが連続する山深いこの峠道は整備が行き届き路面状況は良好だ。MT-09の並列3気筒はパワーよりトルクを感じさせる回り方で、軽くシュンシュン、ではなくゴリゴリとしたフィーリングだが、吹け上がりは実に鋭い。トルクが強烈で、5000、6000回転からグワーッと力が弾け11000回転オーバーまで勢いが衰えない。同じ並列3気筒でもサンダーバードとは大違い。20年近い年月を感じさせられる。そんなエンジン特性で車体が軽量コンパクトだから、1速から全開にして2速に入れた瞬間、気を抜くとフロントがリフトアップ!

 110ps/9000rpm、8.9kgm/8500rpmのスペックが肝で、最高出力と最大トルクの発生回転数が500rpmしか変わらない。それは特性がピーキーであることを示すものでもある。レプリカ時代の2ストのようで、じゃじゃ馬的ともいえる。ただし、トルク&パワーバンド内でもコントロール性に優れ、右手で自在に力を操れる感覚があるから楽しい。等間隔爆発で慣性トルク変動が少ないから、力を右手=アクセルで制御しやすいのだ。加えて、下のトルクも不足なく、3000回転前後でおとなしく走ってもストレスがない。

 ハンドリングがまた秀逸で、意のままに倒し込めて狙ったラインを逃さない。コーナリング中のライン変更も自在。切り返しの素早さは400クラスの出来のいいネイキッド並みだ。接地感も高く、前後輪がガッチリ路面をとらえていることが伝わってくる。トラクションのかかり方がわかりやすく、右手とリアタイヤがダイレクトにつながっているようだ。乗車姿勢もスリムかつコンパクトで、シートの前に座るとステップとの距離が近くひざが大きく曲がって窮屈だが、後ろに座ればニーグリップしやすく一体感が高まる。サスは前後ともにもう少しダンパーが効いていても、と思うが、ハードに走っても不足ないし、ゆっくり走った時も具合がいい。ブレーキは前後ともに思い通りの制動力で、コントロール性も文句なし。

 タイトコーナーの続く志賀坂峠をヒラヒラと舞うように突き進む。爽快である。峠を越えてしばらく下り小さな橋を渡って左折し、上野村に向かう。そのままR299をしばらく走り、南牧村に続く県道45号線を右折。長いトンネルをくぐれば、景色も路面もいい中高速コーナーが連なるワインディングだ。MT-09はそんなコースも得意で、高いポテンシャルをいかんなく発揮。エンジンも車体もレスポンスがいいので、無駄・余計な入力や動きに対しても反応するが、きちんと操作すれば自在に操れ、胸のすく走りが堪能できる。ヤマハ・ホームページのMT-09の特徴紹介の項に「意のままの、心躍る走りを」というキャッチ・フレーズがある。そのコピーに違わぬ一台に仕上げられている。見事、である。

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峠道を下り、この大きなコーナーを抜ければ南牧村だ。谷間の小さな村は、日本一高齢者の割合が多いという。

 日本一高齢者の割合が高いことで昨今ニュースでも取り上げられている南牧村から下仁田町へ。群馬県所縁の有名人や景勝、歴史、名産等を歌ったローカルな「上毛かるた」というのがあって「ね」は「ねぎとこんにゃく下仁田名産」。ついでに「に」は「日本で最初の富岡製糸」。富岡製糸場は日本初の官営工場で当時最新の設備と最大の規模を誇る製糸場だった。下仁田から富岡までは約15km。MT-09でR254を飛ばせばあっという間だ。でも、もう1本ワインディングを楽しもう、と妙義山への県道にMT-09を乗り入れる。

 タイトコーナー、回り込んだコーナが多く、路面はやや荒れ気味だ。上り切ると左奥に中之嶽神社が、右側に広い駐車場がある。妙義山はギザギザした稜線が特徴的な荒々しい岩山で、深緑の頃は黒い岩肌と萌える木々の葉とのコントラストが素晴らしい。また、紅葉も美しく、上毛かるたにも「紅葉に映える妙義山」と歌われている。その中腹を走る県道はかつて有料の「妙義紅葉ライン」だった。上京するまで、コーナリングを楽しみに頻繁に出かけ、上京後もたびたびバイク仲間とツーリグで走りに来た。

 中之嶽神社から妙義神社前までもタイトコーナーが連続する。志賀坂峠と似た感じの山岳ワインディングだが、MT-09だから比較的気楽にいいペースで駆け抜けることができる。ただ、眺望がいい区間もあるので、安全な場所にバイクを停めて一服しつつ男性的な山容を拝むのもいいだろう。妙義山(妙義神社前)から富岡市街までの距離は10kmあまりで、ひとっ走りだ。せっかくだから、製糸場にも寄ってみることにしよう。

(文:野口眞一)

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荒々しい岩山の妙義山縫うように延びる妙義紅葉ライン。路面が荒れ気味で、回り込んだコーナーも多い道だ。
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排気系は、エキゾーストパイプと3段膨張構造サイレンサーを一体成形した3into1タイプ。排気効率、消音効果だけでなくマス集中化による軽快なハンドリングに貢献している。エキゾーストパイプには、変色や錆、汚れ付着の抑止効果のあるナノ膜コーティング処理が施されている。 エンジンは新開発の“クロスプレーン・コンセプト”に基づく3気筒エンジン。“Synchronized Performance Bike”を具現化するため、846cm3の水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ、ダウンドラフト吸気方式を採用したFIエンジンだ。バルブ挟み角を26.5°(吸気13°+排気13.5°)と狭く設定することによりコンパクトな燃焼室を形成し、素早い燃焼による高トルクを引き出している。 新デザインの軽量鋳造ホイール、新設計ラジアルマウント式フロントブレーキキャリパー、前後サスペンション調整機構(イニシャルおよび伸び減衰)、アルミ鍛造ブレーキ&シフトペダル、フットレストを採用。
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ニーグリップ部を大きく窪ませた燃料タンク。スリムなライディングポジションの実現にも貢献している。 軽量で強度バランスに優れたアルミ製テーパーハンドルを採用。新設計の小型軽量スイッチ。シンプルながら個性的なメーターデザイン。 前後長約400㎜のメインシートは、タンデム側との段差が少なく自由度のある乗車姿勢を可能としている。シート前端は、マン・マシン一体感を演出するため、グリップ性とフィット感に優れるフロステッドパターンの表皮を採用。
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●MT-09〈MT-09A〉主要諸元
■全長×全幅×全高:2,075×815×1,135mm■ホイールベース:1,440mm●最低地上高:135mm■シート高:815mm■車両重量:188〈191〉kg■燃料タンク容量:14L■エンジン種類:水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ■総排気量:846cm3■ボア×ストローク:78.0×59.0mm■圧縮比:11.5■燃料供給装置:フューエルインジェクション■点火方式:TCI(トランジスタ)式■始動方式:セルフ式■最高出力:81kw[110PS]/9,000rpm■最大トルク:88N・m[8.9kgf]/8,500rpm■変速機形式:常時噛合式6速リターン■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク×油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):120/70ZR17 M/C 58W×180/55ZR17M/C 73W■懸架方式(前×後):テレスコピック×スイングアーム(リンク式)■フレーム:ダイヤモンド
※〈 〉内はMT-09Aのデータ
■車体色:ディープオレンジメタリック8(オレンジ)/ベリーダークバイオレットメタリック1(バイオレット)/マットグレーメタリック3(マットグレー)
■メーカー希望小売価格:MT-09 849,960円(本体価格787,000円、消費税62,960円)、MT-09A(ABS 搭載モデル)899,640円(本体価格833,000円、消費税66,640円)、4月10日発売。


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