セパンテスト三日目の走行は18時に終了。ドゥカティ陣営を統率するジジ・ダッリーニャが、18時45分から囲み会見を行った。その席で彼が何度も口にしたのは、戦える車輌を開発することが現在の自分たちの最優先事項、という言葉だった。

「オープンというソリューションは、ドゥカティのバイク開発に必要なもの」「オープンの自由さは、ドゥカティが将来表彰台を獲得するための重要なキーポイント」等々、静かな口調ながらもひたむきな意志を感じさせるこれらの科白が、非常に印象的だった。
 ファクトリーオプションをいっさい残さずに、全選手をオープンカテゴリーにしたことについては

ジジ・ダッリーニャ
「ダッリーニャ改革」は成功するか??

「私は人生をレースに費やしてきた。そこでわかった重要なことは、ひとりのライダーの方向性だけに従うようなことにはしない、ということだ。この仕事では〈統計〉が非常に重要。だから、数名でバイクを開発していくことを考慮した」
 と説明した。この〈統計〉(多様な環境下で豊富なデータを収集する、という意味)という観点からは、アンダーステアを訴え続けるドヴィツィオーゾとそれをまったく問題視しないクラッチローの違いについて
「ふたりのセットアップはそんなに大きく違っていない。乗り方はもちろん違うけれども、そのような声があがってくることが〈統計〉的にとても貴重で、様々な問題を把握するためにも重要。それによって、バイクをさらによく理解していくことができる」
 と説明をした。

 また、ホンダやヤマハのファクトリー勢よりも一段階柔らかいタイヤを履くことの有利不利に関しては、
「それは現在の最重要項目ではない。今の自分たちに重要なのは、バイクを開発すること。タイヤはそのレースでベストなものを選べば良い。タイヤはタイヤなのだから」
 と、冷静だが強い口調で話した。そして、昨年秋に彼がドゥカティへ加わって以来、社内で最も大きく変化したことは「問題を解決していくための〈哲学〉」なのだと説明した。
「私見では、(ドゥカティ内部では)原因が1箇所あって、そこを変えればなにかが大きく改善すると皆が思い込んでいた。そうじゃない。ここをさわってあそこをよくして、そういうことを積み重ねた結果、ようやく前進できるものなんだ」
 自分たちの現在の実力を直視し、あえてオープンカテゴリーという道を選んだダッリーニャの選択がはたしてどのような実を結ぶのか、今後も注目してゆきたい。

        

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 ところで、今回のテストにさきがけて、オープンカテゴリー用のECUソフトが「突然」アップデートされ、いくつかのチームはその対応に困惑する状況になったようだ。しかも、そのアップデート版は前のバージョンよりも複雑でファクトリー仕様に近いものだったともいう。
 この件に関して、ダッリーニャは「DORNAに多少のお願いをしたのは事実」と、率直に認めた。
「なぜなら、ソフトウェアも開発されなければならないのだから。もし自分たちの提案が妥当であるならば、マニエッティ・マレッリとDORNAがその方向性を支持してくれるのは当然だと思う」
 ドゥカティからのリクエストが盛り込まれているというこのアップデート版共通ECUの使い心地については、「いまそれを話すのは、とても難しい」と述べた。
「というのも、テストの大半をバイクの開発に費やしてきて、新しい(共通)ソフトでは一日半ほどしか走ってない。しかも、現在はまだセットアップも完璧ではないので、我々はそこもよくしなければいけない。オープンソリューションの有利不利のバランスは、やがて見つけていくことができると思う」
 とはいえ、マニエッティ・マレッリは長年にわたりドゥカティファクトリーに技術を提供してきた。共通EUCソフトウェア更新のルール整備は、透明性や各車輌への公平性を担保するためにも急務だろう。
 共通ECUソフトウェアは、あくまで独立した中立の設計思想に基づいて記述されるべきだろう。たとえば、α版やβ版の公開配布と修正を経た正式アップデート版のリリース、そしてリリース後に実車で使用するまでの猶予期間設定など、チーム間や車輌間で可能な限り水平的公平性を保つためにも、取り決めるべきことがらは多い。今後の禍根の種にしないためにも、関係各方面には迅速な対応を期待したい。

        

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 このオープンカテゴリーという概念を、DORNA CEOのカルメロ・エスペレータが推進したがっているのは広く知られているところだ。エスペレータは、2017年からMotoGPクラス全車輌のオープン化を希望しているともいう。これに対して強硬に異を唱えているのがホンダで、もしもファクトリーに対しても公式ソフトウェア使用が義務づけられるような事態になれば、ホンダはMotoGPから撤退する、と以前から強く意志表示をしている。
 今回のドゥカティ全車輌オープン化は、この政治的な綱引きや水面下の駆け引きに一定程度の影響をもたらすことは避けられないだろう。ドゥカティは、ホンダ、ヤマハとともに、MSMA(モーターサイクルスポーツ製造者協会)という団体を構成しているが、このMSMAの一角が崩れたことにより、DORNAはMSMA、FIM、IRTAとともにルール等を協議を行うグランプリコミッションの場で、当初2017年からと提案していたフルオープン化を2015年に前倒しする案を持ち出すのではないか、という推測まで一部ではあがっている。そこまで急に雪崩を打ったような動きになるのかどうかはなんともいえないが、ダッリーニャはこの件について、以下のように述べた。
「我々はオープン化への移行を今日決定したばかりだから、そのことをまだ話してはいないけれども、(ホンダとヤマハは)理解してくれると思う。我々は、誰に対しても問題を引き起こすような意図はない。我々はバイクの開発を進めたい。ただそれだけだ」
 共通ECUソフトウェア義務化を嫌うホンダの意見は特に気になるところだが、今回のセパンテストにHRC副社長中本修平氏の姿はなかった。機会に恵まれれば、ホンダの考えも訊ねてみたいところではある。
 また、このMotoGPクラスオープン化の動向は、2015年からの復帰を計画しているスズキ陣営に影響を及ぼすかもしれない、という憶測もある。現在、ファクトリー仕様でテストを続けるスズキが、将来のレギュレーション変更を見越してオープン仕様に切り替えるのではないか、というまことしやかな噂話だ。
 じつは今回のテストでは、同社のMotoGPプロジェクトリーダー寺田覚氏に、膝を詰めてじっくりと様々な話を伺う時間を設けてもらった。そのときの質疑応答や言外の雰囲気から想像する限りでは、スズキは〈ファクトリーオプション〉での復帰を前提として開発を進めている。
 もちろん、この世界では突然何が起こっても不思議ではないし、将来のことは誰にも断言できない。とはいえ、少なくとも現在のスズキは、「あくまで我々はファクトリーで復帰する」という強い姿勢を堅持している。とはいいながらも、彼らは共通ECUソフトウェア義務化に断固反対しているわけでもなく、一朝ことが起こった場合にはホンダと同様にMotoGPから撤退する、というほどの強い反発を抱いているわけでもなさそうだ。この寺田氏との質疑応答の詳細は、近日内に国内メディアで発表できると思う。その際には、あらためてツィッターやfacebookなどで告知をいたします。

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三日間の走行を終えて総合12番手。トップからは1.431秒差。

        

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