750エンジンに生まれ変わったニューNCシリーズ。残る三兄弟の一台、インテグラも750エンジンに変身だが、発売は若干遅れて2月7日から。 |
走りだした瞬間に、「おっ」と言ったほどその違いが分かった。以前の700と新しい750の両車を並べ乗り比べないと────なんて事をやらなくても分かるほど、発進からトルクが増大したのを体感した。確実に前に押し出す力が豊かになった。
ストロークはそのまま、ボアを4mm拡大した並列2気筒エンジンは669ccから745ccになった。最大出力の3kw(4PS)増加より、最大トルクの7N・m(0.7kgf・m)増加が効いている。ちなみに最大の発生回転数は700と同じ。6千500回転付近がレブリミットというのは変わらないけれど、スムーズで軽快に、そして気を抜いてスロットルをひねると意外とあっさり吹け切ってしまった700にくらべ、加速の迫力が増して、日常的にはリミットまで回さなくても思うような速度に達することができた。同じ回転数の範囲だが、感覚的には広がったようだ。
1速から5速までが700に比べ6%ハイギアード化されながらも、その印象。6速は3%のハイギアード。このことも、これまでと同じ回転数の範囲ながら、範囲が広くなったと感じることにも繋がっている。そして、もちろん燃費にも有利になっているだろう。同じ速度でも、エンジン回転数が下がるからだ。それも6速だけではなく、日常で多く使う、その下の方がハイギアード化されている。
とにかく、スロットルを急に開けた時に、前は小さかったドンっと押し出す感じが、明確になって、気持ちいい。よく使われる言葉だけど、まさに「排気量UPに勝るチューンナップなし」といった感じだ。
試乗したのは、700の3兄弟でも一番人気だったクロスオーバールックのNC750Xと、ネイキッドのNC750S。X はDCTモデルで、Sはクラッチレバー操作のある、通常のマニュアルシフト。
まずはNC750Xから乗った。見た目がほぼ変わっていないので、デカールの車名ロゴを見ないと、その違いが判らない。色は白。光沢のある普通の白ではなく、ここ数年流行っている艶のないマットなもの。マットパールグレアホワイトは、当然だけど表面がツルツルしていない。光によっての変化が艶有りとは異なる見え方で、面白い。クロスオーバーのイメージに合っていると納得しながら、オイルや土で汚れた手で触ると、拭き取るのが少し手間かなぁ、などとも思った。
跨った印象はこれまでと大きく変わらない。シートに使われている素材が滑りにくいグリップの良いものに変わっているのもあってか、ほんの気持ちだけお尻を受け止める面積が増えたように思わせる(実データは知らない)。
そして、小さいことだが、私が望んでいた大きな変化があった。ブレーキレバーに調節機能がついた。同じような身長の人と比べると指が短い私は、調節機能がないモデルでは、レバーが遠くて、とっさの時のタイムラグがどうしても大きくなりがちだった。これで、自分好みの操作しやすいレバー位置にできる。小柄な人や女性ライダーにも間違いなくありがたい新装備。個人的にはパフォーマンスうんぬんより、こういうのが嬉しい。オートバイとの距離が近くなる。
今回の試乗で主に走ったのは東京都内。ホンダ本社がある青山一丁目から下道でお台場へ向かった。天候は晴れで路面はドライ。気温は10度をちょっと上まわったくらいか。
厚着をしてきたので、アンダーを1枚脱いで、持っていたワンショルダーバッグにどうやって詰め込もうかと考えていた時、ふと気がついた。トランクがあるじゃない! キーを差し込んでパカっと開いてバッグとシャツとヘルメット袋をどかっと投げ入れ、フタを閉めればいいだけ。なんと素晴らしい。これを知ってしまうと、ないのが寂しいくらい。便利である。ただ、Xはトランクトップに近い上面に開閉キーの差込口があって良いが、Sはこれまで通り車体左側のサイドパネル。腰を折り曲げないと使えないのは、やや不満。それほど若くない私達世代は、億劫に感じそう。コストなどいろいろ事情があるだろうが、次はSも上操作でお願いします。
DCTだからクラッチレバーも左シフトペダルもないので、右の親指でボタンを押して、オートマチックのDモードで走りだした。前述の通り、すぐに排気量UPの恩恵を感じることが出来た。厚みが増えたトルクは、これまで通りフラットな特性で、歩くような速度から、回して飛ばした時でも、スロットル操作に対してギクシャクしない。特に日常でよく使う5千回転以下の厚み増量が扱いやすく、かつ速く走れてイイ。スロットル操作に対するレスポンスも良いので、思った通りに速度制御できる。バランサーが1軸から2軸になったことも効果に繋がっているのか、700に控えめながらあったブルブルっとくる振動が抑えられ、スムーズで快適。2気筒の鼓動感は不快にならない程度できっちり残しながら、高級感と表現すれば言い過ぎかもしれないけれど、乗り味に深みが出た。
DCTのオートマチックならば、レブリミットなんて関係ない、スロットルを開けていればシフトアップしていくから楽だ。その制御は良く出来ていて、シフトダウンの自然さはなかなかだ。信号で減速していくと、回転を合わせながら、体に感じるショックは小さく、ギアが自動で下がっていって、停止するときにはメーターのインジケータは1速の「1」を表示している。
次に、オートマチックのSモードにしてみた。これまで通りDモードより各ギアで引っ張り気味になる。単純にどの回転数になったらギアチェンジと決まっているのではなく、ギアポジション、速度、スロットル開度、開度速度などが考慮されたもの。スポーティーに走りたいならばこれ。前の700もそうだが、この第2世代DCTになってから使いやすくなった。オートマチックでも、条件の中で任意のマニュアルギアチェンジができること。エンジンブレーキが使いたかったら左手の親指でシフトダウンすればいいだけ。初期と違いオートマチック状態は継続する。だから700の時から、ワインディングを走る時は、マニュアルモードにはせず、このオートマチックSモードで走り、コーナー前で指シフトダウンという使い方に私はハマった。楽に爽快な走りが可能だ。これはシフト操作のタイムラグのなさと、ギア変更時のショックが自然でなければ、そう思わない。
700では、ある程度混雑した街中を走る場合、若干せっかちな私は、キビキビと走りたいから、燃費が気にならなければ常にDモードよりSモードにしていた。ところが、750ではシチュエーションによってそうはならなかった。信号の間隔が近く、ストップ&ゴーが増える都心では、全体にパワフルになった特性のお陰で、速く走れる反面、スロットルを開け気味にしていると、加減速が大きくなり、結果疲れる。よほど急いでないかぎり、街中はDモードの方が快適で簡単だ。Dモードで加速に不満はない、充分。700の時よりDモードとSモードの差が大きくなって、違いが明確になった。
これまでは、「どちらかというとSかな」と決めていたものが、「ここはDがいい、ここはSにしよう」と思うようになった。そこに難しいところはまったくない。切り替えは右手親指のボタンを押すだけだから。排気量UPで、各モードの存在が浮き彫りになり、分かりやすくなった。マニュアルモードは左手人差し指でUP、親指でダウンのみで自動でシフトは切り替わらない。当たり前。操作に初めは戸惑うけれど、10分くらい使えばあまり考えずに操作できるようになる。手にはハンドル保持と操作という仕事もあるので街中だと忙しい。それでもギアチェンジして走る醍醐味は捨てられない。
以前とタイヤサイズは同じなれど、OEMタイヤが、オンロードツーリング向けのブリヂストンBT023から、欧州向けクロスオーバー車がよく使う、ピレリのSCORPION TRAILに変わっていた。オンロードを強く走りながら、フラットな林道もこなせると評判のタイヤだ。排気量UPでの車体重量増加は1kgくらい。タイヤ変更、重量増、サスペンションが、どう変わったのか、それとも変わっていないのか、知らないけれど、全体的にしっとりした印象。当たりが柔らかでフロントフォークのダンピングがしっかり効き、機敏に倒れこんで曲がる。軽快性はわずかに薄れて安心感が強くなったようだ。ブレーキの効きに不満はない。
750になって力強くなったことにネガティブな印象はまったくなく、よりバイクとして魅力が増えた。単純に排気量UPだけ、では終わらず、それを基本にしてよく考えられた正常進化だ。これで6万1950円の価格上昇ならば納得いくどころか、リーズナブルに感じた。
NC750Sのマニュアルトランスミッション車には乗れた時間が短かったので、短い印象を。Xから乗り換えると、車体やエンジンなど基本を同じくする車両とは思えないほどコンパクトに感じた。Xに比べ車体の前足が下がり、背中が少し前に傾くネイキッドらしいポジション。自然にフロントの荷重も増えて、コーナーリングの回頭性はSの方が俊敏で面白い。車体との一体感が走りを積極的にさせる。
飛び道具的なXとは違い、ネイキッドというライバルの多いジャンルの中で分の悪さを感じていたが、排気量を増やしたエンジンのパフォーマンスのお陰で、立場を向上させたようだ。クラッチレバーも軽く、ホンダらしく節度のあるギア切り替え。マニュアル車でもメーター内にギアポジションが出るのは嬉しい。ショートツーリングやワインディングに持って行って、もっと長い時間付き合いたい。
(試乗:濱矢文夫)
「クロスオーバーという新たな喜びをもたらす」NC750X
ライダーの身長は170cm。シート高830mm。NC750Xでも設定されたローダウン仕様の「TypeLD」では800mmに。 |
ブレーキレバーはアジャストタイプのブレーキレバーが採用された。 | ニューCB400シリーズ同様の瞬間および平均の燃費を表示する燃費計を新たに採用。またマニュアルトランスミッションモデルにはギアポジション表示機能が追加された。 | 基本デザインに変更は無し。同じホワイトでも艶を抑えたマット系のホワイトカラーが採用された。青系と銀系と合わせて3色のラインナップ。スクリーンは上下にアジャスト可能。 |
■NC750X 主要諸元 ●エンジン:水冷4ストローク直列2気筒SOHC4バルブ●ボア×ストローク:77.0×80.0mm●総排気量:745cm3●圧縮比:10.7●最高出力:40kW(54HP)/6,250rpm●最大トルク:68N・m(6.9kg-m)/4,750rpm●燃料タンク容量:14リットル●燃料供給装置:フューエルインジェクション●変速機:常時噛合式6段リターン●フレーム:タイヤモンド カラー:マットパールグレアホワイト/パールスペンサーブルー/ソードシルバーメタリック |
「モーターサイクル本来の楽しさを広げる」NC750S
ライダーの身長は170cm。シート高790mm。 |
ハンドルまわりではブレーキレバーが手のサイズが小さい方にも合わせられるアジャスター付にグレードアップ。 | NC750Xと同様、瞬間および平均の燃費を表示する燃料計を新たに採用したメーター。マニュアルトランスミッションモデルにはギアポジション表示が追加されたのも同一。 | NC750Xと同様、艶を抑えたホワイト、マットパールグレアホワイトをラインナップ。グラファイトブラックとの2色設定だ。 |
容量21リットルのラゲッジスペース。通常のフルフェイスならすっぽり入ってしまう。 | NC750Xと異なりリッドの開閉はボディサイドのキーロックで操作する。 | タンク下の燃料タンクにアクセスするテールシート。こちらもボディサイドのロックキーに連動。 |
■NC750S 主要諸元 ●エンジン:水冷4ストローク直列2気筒SOHC4バルブ●ボア×ストローク:77.0×80.0mm●総排気量:745cm3●圧縮比:10.7●最高出力:40kW(54HP)/6,250rpm●最大トルク:68N・m(6.9kg-m)/4,750rpm●燃料タンク容量:14リットル●燃料供給装置:フューエルインジェクション●変速機:常時噛合式6段リターン●フレーム:タイヤモンド カラー:マットパールグレイアホワイト/キャンディーアルカディアレッド |
| 「DCT搭載スポーツ・モデル NC700X、NC700Sに乗る」のページへ |
| “DCT”ってホントのところどうなんだ? 楽チン? 便利? 楽しい? |
| ホンダのWEBサイトへ |