MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第72回 第15戦 マレーシアGP 終極一戰

 はい皆様、しばらくぶりのご無沙汰です。
 2013年シーズンも終盤にさしかかり、<フライアウェイ>3連戦のひとつめ、今回は第15戦マレーシアGPである。
 今回のレースウィークに先だち、おおいに注目を集め話題になったのが、前戦アラゴンGPでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)がダニ・ペドロサ(同)に後方から接触した一件に対するレースディレクションの裁定だった。接触そのものの状況は公式サイトの動画などで適宜確認していただくとして、第15戦の開幕に先だつ木曜日に聴聞が行われた結果、下された裁定は、マルケスに対してペナルティポイント1点の加算と、マルケスの勝利によってホンダが第14戦で獲得したコンストラクターズポイントの25点を取り消す、というものだった(25点を抹消されたホンダのコンストラクターズポイントは、マルケスに次ぐ第4位でチェッカーを受けたアルバロ・バウティスタの13点が加算された)。
 さて、レースディレクションによるこの裁定結果をどう捉えるか、ということに関してはいろんな意見があり得ると思うが、たとえば各国ジャーナリストがスペインの大手スポーツ新聞「AS」に意見を寄せているので、興味のある人はこういうものも適宜参照などしてみてほしい。
 選手の裁定に対する自分の見解は上記サイトに掲載されたとおりで、繰り返しになるのでここでは避けるけれども、ホンダに対する25点剥奪というペナルティへの評価については、その場凌ぎ的な措置、という印象も拭いきれない。レースダイレクターのマイク・ウェブ氏による説明では、「ライダーの安全性についてホンダが充分な配慮をしていることは理解しているが、最高水準の安全性を常に皆で求めていこうというメッセージ」とのことで、今回の出来事はまったくの想定外とはいえ、それを免責事由とせずに、発生してしまったことに対する一種の製造者責任を求めた、ということになるのだろう。安全性の結果責任を製造者であるHRCに求めるのは理解できるとしても、それならば、そのマシンの各種技術仕様に適合性を保証してきた車検制度に対してもなんらかの結果責任を追究しなければバランスを欠くのではないか、という気もしないではない。とはいってみたところで、今回のアクシデントは車検のチェック対応などで防ぐことができた種類のものとも思えないし、制度の見直しや改善命令などの措置が意味をもたないであろうことは充分にわかったうえで、あえてこうやって団子理屈を捏ねているのですけれどもね。

 ともあれ、ひとまずこの裁定をもってこの一件は落着したとはいえ、HRCにとってコンストラクターズポイントの減算よりも大きな代償は、少なくとも表面上はうまくいっているように見えたペドロサとマルケスの関係に大きなひびが入ってしまったこと、といえるかもしれない。

#26&93
目を合わせようとしないペドロサ。「そんなんなら、もういいもん」と開き直り気味のマルケス。

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 とまあ、そのような経緯があるだけに、ペドロサにとって今回のレースは最低でも絶対にマルケスの前でゴールしたい、と思っていたはずだ。ウィーク中の走りや毎日のコメント取材でも、それだけの気合いと覚悟は充分に感じ取れた。そして、日曜午後の決勝レースでは、意地を見せつけて自らの持ち味を存分に発揮し、得意の独走態勢に持ち込んで勝利を収めたのだから、さすが、のひとことである。
 一方、マルケスは2位で20点を加算して史上最年少チャンピオン獲得にさらに一歩近づき、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)は3位。暑い温度条件下のレースでは苦しむことが多い今年のヤマハだが、なんとか表彰台を獲得して帳尻を合わせた格好だ。ちなみに、この顔ぶれが表彰台を占めるのは、これが今季8回目。勝利数はマルケス6、ロレンソ5、ペドロサ3。シーズン残り3戦は、さて、どういう展開が待ち受けているのでありましょうか。

#93 #26
#99 三者三様の結果になった第15戦。第16戦でマルケスが先頭を走り、ロレンソとペドロサが熾烈な2位争いという展開になった場合、彼ら2名の状況判断は果たしてどうなる?? また、そこにロッシが絡んできた場合、彼はどんな戦略に出る?。

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 ヤマハが暑い温度条件で苦戦を強いられる理由について、今回のレースを4位で終えたバレンティーノ・ロッシは、レース後に以下のように話している。
「序盤から数周を経過してレース後半になると、タイヤをうまく使えない。ホンダは我々と比べるとタイヤの使い方がうまく、リズムも安定している。自分とホルヘは似たような状況で、タイヤに苦しみはじめるとホンダについていけなくなってしまった」
 また、3位のロレンソと3秒の差が開き、今回も4位で終わってしまったことに関しては、
「最初の5〜6周はついていけたけど、タイヤが滑りはじめてからはペースを落とさなければならなかった。自分よりもホルヘのほうが、リアタイヤに対する負荷は小さいようだ。乗り方の違いもあるのだろうが、体格面でも自分より彼の方が少し小さい。今はタイヤがかなりソフトなので、体格の小さいほうが有利になるように思う。いずれにせよ、自分たちはもっと良くして、ホルヘについていけるようにしないといけない」
 と説明した。次のフィリップアイランドは、セパンとは対極の非常に温度条件の低いコースだが、そこではたしてホンダとヤマハの形勢がいったいどうなるのか、非常に興味深いところではある。

#46 #46
今季7回目の4位。残り3戦でトップスリーとの差は詰まるか??

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 ホンダ対ヤマハ、といえば、第13戦のミザノからヤマハはついに、ロレンソとロッシが待望していたシームレスギアボックスを実戦に投入した。ホンダがこの機構を投入したのは2011年で、今年はすでに3シーズン目になる。RC213Vの左ハンドルバーのモード切替ボタン下部にとりつけられた黒いレバーが、このシームレスシフトのニュートラルスイッチだと推測されているが、YZR-M1のほうにはクラッチレバー周囲にそれらしき入力装置が見当たらない。おそらく何か類似した機能を持つ何かがどこかに存在するのだろうが、同じ<シームレスギアボックス>といっても、その機構はそれぞれに独自で、ある程度の相違があるようだ。

シームレスギアボックス シームレスギアボックス
もちろんウィンカースイッチやポジションランプの類ではありません、為念。

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 今回の第15戦では、日本人選手の青山博一(アヴィンティア・ブルセンス)が今季自己ベストの11位でフィニッシュした。CRT勢の中でも苦戦が続いた青山だが、今回もギアレシオの対応等にかなりの苦慮を強いられた。
「決勝はタイヤが厳しくて、昨日まではそんなに出ていなかったチャタリングも出てしまった。もう少し行けたかな、という感もあるけど、それでも最後はエスパルガロ(パワーエレクトロニクス・アスパル)が見える位置でフィニッシュできた。皆、タイヤが厳しかったみたいだけれども、僕はフロントのチャタがあってプッシュしきれなかった分、最後までタイヤが保ったのだと思います。今週は、いつも使っているセットアップを使えなくて、決勝に向けていろいろと変更をしてみたけど、『これだ』というところまで持って行けなかった。そのセットアップでもそこそこの結果でまとめることができたので、まあ、よかったと思います」
 というわけで、いろいろあった先週末から、今週は一気に赤道から南回帰線を飛び越えて、オーストラリア南端のフィリップアイランド。風邪をひかないように注意しながら、いつものように力を入れすぎずぼちぼちと取材してまいります。ではでは。

#7 #7
予選までいろいろトラブルがありつつも、決勝はなんとか走りきった。
セパン セパン セパン
三日間の観客動員数は過去最多の12万6917人。もてぎを軽く追い抜いた。
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■第15戦 マレーシアGP

10月13日 セパン・サーキット 晴

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
3 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
4 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
5 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
6 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
7 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
8 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
9 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
10 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
11 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
12 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
13 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR Kawasaki(CRT)
14 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
15 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
16 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
17 #23 Luca Scassa Cardion AB Motoracing ART(CRT)
18 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
RT #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
RT #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project IODA-SUTER(CRT)
RT #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
RT #50 Damian Cudlin Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
RT #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
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■第14戦 アラゴンGP

9月29日 モーターランド・アラゴン 曇り時々晴

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
2 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
3 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
4 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
5 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
6 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
7 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
8 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
9 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
10 #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
11 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
12 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
13 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
14 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
15 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR Kawasaki(CRT)
16 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
17 #23 Luca Scassa Cardion AB Motoracing ART(CRT)
18 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
19 #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project IODA-SUTER(CRT)
RT #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
RT #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
RT #50 Damian Cudlin Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
RT #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
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■第13戦 サンマリノGP

9月15日 ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ 曇

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
4 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
5 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
6 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
7 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
8 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
9 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
10 #51 Michele Pirro Ducati Test Team DUCATI
11 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
12 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
13 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
14 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
15 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
16 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR Kawasaki(CRT)
17 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
18 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
RT #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
RT #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
RT #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
RT #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
RT #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
RT #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project IODA-SUTER(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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