MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第69回 第9戦USGP「後半戦プレビュー(仮題)」

 3週間少々のサマーブレイクをへて、この週末から後半戦がスタートする。7月末までに9戦を終了し、残るレースは9戦というまさに折り返し地点。前半戦終了段階でのポイントランキングをざっと振り返ると、首位を走るのがMotoGPルーキーのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ)。第2戦アメリカスGPと第8戦ドイツGP、第9戦U.S.GPの3戦で勝利を挙げて163ポイント。ランキング2番手はダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)。第3戦スペインGP・第4戦フランスGPで連勝して147ポイント。マルケスとは16点差である。

 ペドロサから10ポイント差で、ディフェンディングチャンピオンのホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)がランキング3番手につけている。開幕戦カタールGPと第5戦イタリアGP、第6戦カタルーニャGPで勝利したものの、今年はこの人には珍しく表彰台を落とすことが多く、現状ではこの位置に甘んじている。そしてランキング4位が117ポイントのバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)。第7戦オランダGPで久々の優勝。続く第8戦ドイツGPと第9戦U.S.GPでも連続して表彰台を獲得した。また、5位には、このサマーブレイク中に来季のドゥカティファクトリーチームへの移籍を発表したカル・クラッチロー(モンスター・ヤマハ Tech3)がつけている。獲得ポイントはロッシとわずか1点差の116ポイント。

 第10戦インディアナポリスGPから始まる後半戦は、第11戦チェコ(ブルノ)、第12戦イギリス(シルバーストーン)、と3週連続開催なので、この3レースの結果次第でチャンピン争いの戦況は大きく動く可能性もある。首位を走るマルケスにしてみれば、ランキング2位以下との差を着実に広げておきたいだろうし、2番手以下の選手たちは、マルケスと同等もしくはそれを上回るリザルトでポイント差を縮め、可能なら逆転も狙いたいところだ。

 マルケスは最高峰クラスルーキーとはいえ、前半戦9戦の経験を経て、現在ではもはや普通のチャンピオン最有力候補のひとり、といっていい順応性を見せている。MotoGPのマシン環境に慣れきっていない前半戦でも3勝を挙げているのだから、この調子でいけば後半戦はさらに波に乗る、と考えるのが一般的な予測だろう。開幕直後にロッシが半ば冗談で「今のうちに叩いておかないと、後半戦はもっと大変なことになるかもよ」と言っていたことがまさに的中しつつある。ちなみに、マルケスはインディアナポリスではMoto2初年度の2011年も、その翌年の2012年も優勝を飾っている。

 一方、ペドロサはドイツGPのフリー走行で転倒して鎖骨を痛め、決勝レースを欠場。続くU.S.GPでも満足なポイントを獲得できなかったために、やや失速気味でサマーブレイクに入った格好だが、この休暇で怪我の具合はだいぶよくなったはずだし、なにより、インディ〜ブルノという二連戦が彼にとっていい流れを呼び込む公算大、である。ペドロサとインディはもともと相性がよく、昨年もポールトゥウィンを決めている。続くブルノではロレンソと激しい攻防を展開し、最終ラップの最終切り返しでレースを制する、というじつに印象的な勝利を収めた。当然、今年も連勝を飾るつもりでこの三連戦に臨んでいるだろう。

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※今回の写真は第9戦のものではなく、前半各戦からのものです。


 第7戦で鎖骨を骨折し、第8戦でも転倒したために再手術を余儀なくされたロレンソも、この3週間でだいぶ体調を回復させたはずだ。持ち前の高度な安定感を発揮できるようになれば、マルケスまでの26点差はまだ充分に射程圏内にある。また、ヤマハといえば、シームレスギアボックスの投入が待たれるところで、開幕前からロレンソとロッシは一刻も早い実戦への投入を要求していたが、どうやらそれも秒読み段階に入っているといって良さそうだ。ヤマハ開発陣は時期こそ明らかにしないものの、できるだけ早い時期に投入する方向で計画が進行しているという。このシームレスギアボックス投入による戦闘力向上だが、機械的なタイム短縮幅は措くとしても、選手たちが切望していたマテリアルをようやく手にすることによる満足感や自信は、彼らの走りそのものやレース運びに大きくプラスの影響を与えるだろうし、むしろその面での効果のほうが大きいのではないかという気もしないではない。

 後半戦のチャンピオン争いは、このマルケス・ペドロサ・ロレンソの三選手を軸に推移する、というのは、おそらく衆目の一致するところだろう。その争いをさらに面白く盛り上げるのがロッシとクラッチロー、という勢力分布になるだろうか(もちろん、今後の展開次第では、この両選手にも可能性は残されているけれども)。とくに、ロッシがトップグループで優勝争いを繰り広げるとレースは大いに盛り上がる。さらに彼が優勝したときの会場の雰囲気が他の選手と数段違うことは、第7戦のアッセンであらためて強く実感した。ここから先の9戦でも、是非とも世界各会場をおおいに盛り上げてほしいところである。

 というわけで、ロードレースの歴史に後々まで語り草となるかもしれない後半戦の様子は、第11戦チェコGP終了後に、欧州からレポートをお送りする予定なので乞御期待。ではでは。

■第9戦 USGP

7月21日 ラグナセカスピードウエイ 晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
2 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
3 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
4 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
5 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
6 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
7 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
8 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
9 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
10 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
11 #15 Alex De Angelis Ignite Pramac Racing Team DUCATI
12 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
13 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
14 #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
15 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
16 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
17 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
18 #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project IODA-SUTER(CRT)
RT #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
RT #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
RT #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
RT #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR Kawasaki(CRT)
RT #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

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