MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第68回 第8戦ドイツGP「すべての美しい馬」

 えーと、ですね。すでにFacebookやtwitterなどで告知済みなのでご存知の方々も多いと思いますが、諸事情により今回の第8戦ドイツGP以降、しばらくの間現場取材を欠場させていただくことになりました。復帰はいまのところ8月中下旬を予定しております。

 さて、第8戦が行われたドイツ・ザクセンリンクサーキットの現地とは電話やSMS、SNSなどで逐次業務連絡等を取りつつも、この週末は各クラスのフリープラクティスから決勝までの全セッションをPCの前で観戦した。考えてみれば、レース現場を欠席するのはこの12年ほどで今回が初めてのことで、いつもなら自分がうろうろしている、少し最終コーナー側に傾斜したピットレーンの様子を日本の仕事部屋でPCの画面越しに見ているのは、慣れるまではかなり奇妙な印象があった。とはいえ、少し距離をおいて眺めたときにはじめてわかることがあるのも事実なわけで、今回、日本でレースを見ながら気づいたいくつかのことがらについては、今後、自分が現場復帰をしてからの課題として心に留めておこうと思う。
 我々取材でレース現場を訪問する者は、基本的に木曜にサーキット入りする。木曜の大きなイベントは夕刻の事前記者会見程度、とはいえ、それ以外にもこの記者会見に出席しない選手たちから話をきいたり、チームやメーカー関係者やパドック内の様々な人々と話をして雑談混じりに面白い情報を仕入れたり、あるいは各種仕事の打ち合わせを進めたり、2週間ぶりに顔を合わせる各国の仲間との情報交換をしたり、等々で最初の一日がすぎてゆく。
 金曜以降は毎日たいてい午前8時から8時半のあいだに現場入りしてプレスルームでPCを広げ、いよいよ走行が始まるとこちらもなんとなくぼちぼち取材開始、となるわけだけれども、日本にいると当然ながらこのリズムが全然違う。各セッションの様子は公式サイトの動画でチェックできるし、最新情報は英語イタリア語スペイン語などを理解できれば、ある程度の充実したフォローアップもできる(あくまでも、ある程度は、だけれども)。さらには、電話やSMS、SNSなどで連絡を取り合うことにより、さらに深い情報にもアクセスできるのだけれども、それでもやはり現場の空気を共有できていない隔靴掻痒感はいかんともしがたい。なにより、現場にいると濃密に凝縮されたレースウィークの時間が、日本にいるとふつうの日常のなかで拍子抜けするほど淡々と過ぎていく。

 第8戦でいえば、毎朝、旧東地域の雰囲気をいまだに色濃く残す建物や住宅が両脇に並ぶ地元の生活道路を走り抜けて、観戦客の渋滞が始まるよりも早い時間にサーキットへ到着し、雨が降ったらどうしようもなくぬかるむ草地の駐車場にレンタカーを停めて、どうしてここのオーガナイザーは駐車場を改善しないのかと皆でぼやき合いながら乗り合いシャトルバスに揺られてパドックのプレスルームへ向かう、そんな空気感を共有できてないことが、物足りなさを感じる一因になっているのかもしれない。
 あるいはたとえば、急峻な勾配を駆け上がってくるメインストレートの最終コーナー側から遠くを見渡すと、緑の小麦畑が雲間からの陽を受けて絨毯のように起伏しながらひろがっている。そのさらに向こうには風力発電の風車が林立し、ゆっくりと羽根を回している。そんな風景から目の前へ焦点をもどすと、世界最高峰の選手たちが技術の粋を結集したMotoGPマシンを操りながら猛スピードで駆け抜けてゆく。
 そういう場所からのリアルな情報として、週末に発生した様々なできごとをお伝えするのが当欄の役割であると思うのだけれども、さて、では、今回や次回のラグナのように、自分がその現場を欠席している場合には、いったいなにを記せばいいのだろう、ということに、かなりの逡巡というか躊躇いのようなものも感じる。いまさらレース結果を整理してまとめてみたところで、そんなものは数日遅れの古びた情報でしかないし、現場にいない以上、裏話もなにもあったものではない。

*   *   *   *   *

……というようなよしなしごとはともかくとして、第8戦でのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)の勝利はじつに堂々たるレース内容で、もはやMotoGPルーキーというよりも、ごくふつうのチャンピオン候補といった風格すら漂う内容でありましたね。このレースの少し前に、別件で元本田技研社長福井威夫氏に話を伺う機会があったのだけれども、その際に福井氏は「マルケスは、すごいよねぇ。ステップアップしてすぐ、あれだけの走りをするなァ異次元だね」とべらんめぇ口調でひたすら感心していたのだが、今回の勝ちっぷりにはどういう感想を抱くのか、あらためて再度聞いてみたい気もする。 
 次戦のラグナセカは、マルケスにとって本当の意味での初体験コース(第2戦のオースティンはシーズン開幕前の事前テストであらかじめ走行経験有)。そこで果たしてどれだけのパフォーマンスを発揮するのか、おそらく世界じゅうのレースファンがきっと大きな期待を抱いているのでありましょう。

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 というわけで、では、また。

マルケス
マルケス
■第8戦 ドイツGP

7月14日 ザクセンリンク くもりのち晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
2 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
3 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
4 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
5 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
6 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
7 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
8 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
9 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
10 #51 Michele Pirro Ducati Test Team DUCATI
11 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
12 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
13 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
14 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
15 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FYR KAWASAKI(CRT)
16 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
17 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
18 #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
19 #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
RT #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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