MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第61回 第2戦アメリカズGP「Pride&Joy」

 新しい天才が歴史を塗り替える瞬間を世界中が目撃したレースだった。開幕前、というよりも彼がグランプリシーンに登場したときからすでに、その逸材ぶりには定評があったけれども、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)はその自分に対する評価や期待を、みごとに実現させながらここまでキャリアを進めてきた。
 2008年に125cc時代へのフル参戦を開始し、2010年にチャンピオン獲得。2011年にはMoto2に昇格して早速チャンピオン争いを繰り広げ、惜しくもランキング2位。2012年には年間9勝でチャンピオン獲得。そして、今年から最高峰のMotoGP入り。
 MotoGPに昇格してからはプレシーズンテストでさっそく高い資質を披露し、最高峰デビューの開幕戦では3位表彰台。そして第2戦で、31年前にフレディ・スペンサーが樹立して以来誰も破ることのなかった最年少ポールポジション記録と最年少優勝記録をあっさりと塗り替えてしまった。
 マルク・マルケスの話しぶり、つまり、賛辞に対する深謝と謙虚さを保ちながらユーモラスさもうしなわず、しかも、ことばの端々にバイクに乗る愉しさが滲み出る彼の受け答えは、質問を投げかける者の心をも和ませるような、そんな微笑ましさと雰囲気を持っている。
 このたたずまい、誰かに似ていないだろうか。そう、20歳前後のバレンティーノ・ロッシである。無邪気な稚気溢れる才能が人々を惹きつけ、さらなる大記録を期待させるキャラクター。もしも、マルケスが今よりも2〜3歳ほど年上だったら、そしてロッシが20代後半だったら、おそらくマルケスはロッシの心理攻撃の最大のターゲットになっていたのかもしれない 。
 しかし、30代も半ばにさしかかったいまではロッシの精神構造も変わり、日本風にいえばひとまわり以上若いマルケスに対して、かつての自分を彷彿させる新時代の天才の出現を素直に喜び、むしろ才能の開花が愉しくてたまらない、といった雰囲気すら見受けられる。
 2月の第一回セパンテストの初日には、ロッシはマルケスについて、すでにこんなことを話している。
「今年は初戦から優勝争いをすると、3ヶ月前(2011年シーズン終了後)から思っていたよ。初年からチャンピオンを獲得しようとするかのような姿勢はとてもいい、好ましい態度だと思う」
 さて、次戦の第3戦は、開幕前の最終テストを実施したヘレスサーキットだが、そのテストではマルケスは他のベテラン選手に比してやや劣る5番手タイムに沈んだ。その理由について、本人は以下のように分析をしていた。
「ヘレスはマレーシアやテキサスと違ってタイトなサーキット。テキサスは誰もベースがないコースだったし、マレーシアは11月にルーキーテストをしていたので、ある程度の準備もできていた。でも、ここはMotoGPの初体験コース。初めて尽くしだから簡単ではない。今シーズンの金曜は、いつもこの調子で苦労するだろうね。でも、ヘレスのようにまったくタイプの違うサーキットでも、(テストでは)うまく走れて一昨日、昨日から今日へと大きく進歩をしてきたのは心強い」
 とはいえ、いかな新時代の天才といえども、第3戦は今回ほど容易に進まないだろう。
 ヘレスサーキットでは、過去にロレンソとペドロサが激戦を繰り広げている。ロッシも得意とするコースのひとつだ。彼らはいずれもここでの優勝経験を持っている。また、昨年来めきめきと頭角をあらわしているカル・クラッチロー(モンスター・ヤマハ Tech3)の存在も脅威になるだろう。
 だが、そんな激しい戦いを観戦するなら、これほどワクワクする要素満載のシーズンとレースはない、ともいえる。戦うほうにしてみれば、こんなに苛酷な戦いは、大変どころの騒ぎじゃないでしょうが、でも、観るほうはそんなこたあ気にせず、心置きなくレースの醍醐味を満喫いたしましょう。

マルケス マルケス
したたかなレース戦略を踏まえた優勝というところがさらにすばらしい。
ロッシ カル
今回はフロント周りに悩まされた。次のヘレスに期待だあ。 速さは何度も証明済み。あとはバトルでトップ浮上だあ。

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 今回のレースで3位に入ったホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)は通算100表彰台を達成した。初表彰台は、2003年リオGPでの初勝利。ストーナーやペドロサ、ドヴィツィオーゾたちとのバトルを大外からオーバーテイクしてゆき、キャリア初表彰台を初優勝で飾ったときのプレスルームの大きなどよめきは、いまでも鮮明に憶えている。
 125cc時代の表彰台数は9回。250ccで29回。2008年にMotoGPに昇格して以来、62表彰台。
 あの男の子ごころを刺激するオーバーテイクからもう10年なのかと思うと、月日が経つのは、本当に早いものであります。 

ほるへ ほるへ
「決勝は10秒以上差がつくかと思ったけど、なんとか3秒差にまとめられてよかった」とレース後に。じつはなにげに今回すごい仕事をしていた人。

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 締めくくりに、日本人選手情報を手短に。Moto3の渡辺陽向は予選で転倒して検査のため病院に搬送され、その日ひと晩を入院して過ごすことになり日曜の決勝レースは出走ならず。次戦は問題ない模様。
 優勝争いも期待されたMoto2の中上貴晶は、決勝早々にクラッチトラブルの発生で大きくタイムを落とし、やむなく途中リタイア。チャンピオンシップにとってはいたいノーポイントレースになってしまった。新チーム、イデミツホンダチームアジアの高橋裕紀は、金曜のFP1から苦戦が続いたが、決勝ではなんとかウィーク中の現状でベストの走りを実現して19位フィニッシュ。岡田監督曰く「次戦ヘレスに向けた改良部品を今週末の岡山テストで実施して、ヘレスの現場へ投入します。前進あるのみです!」ということなので、その効果を愉しみに待ちましょうか。
 MotoGPクラスCRTの青山博一は、予選前に壊れてしまったフィーリングのいいエンジンは結局レースでも使用することができず、フィーリングが良い方の車体に現存するもう一方のエンジンを搭載して、決勝日に臨んだ。根本的な課題である旋回性の改善もまなならず、結果は、推して知るべしの17位。

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青山 中上 高橋
青山 中上 高橋
CRTは予想外のトラブル対処も重要な仕事。 予選では水準の高い走りを見せていただけに残念。 次戦ヘレスでの大幅アップデートに期待。

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 次戦はスペインGPの舞台・ヘレスサーキット。一年間でもっとも盛り上がるレースのひとつだ。決勝日の夜明け前は、毎年必ず、サーキットじゅうのスピーカーから”Shine on you, crazy diamond”のイントロがじわじわと流され、来るべき瞬間を盛り上げる。この荘厳な雰囲気から夜明け後の陽気な期待感へのダイナミックな変化は、一生でせめて一度は体験しておく価値アリ。というわけで、ではまた2週間後に。

サーキット・オブ・ジ・アメリカズ
と、1コーナー進入はこれくらいの勾配があるわけです。
おねーさん おねーさん おねーさん
テキサスのおねいさんたち。南部美人?
■第2戦 アメリカズGP

4月21日 サーキット・オブ・ジ・アメリカズ 曇のち晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
2 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
3 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
4 #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
5 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
6 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
7 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
8 #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
9 #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
10 #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
11 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
12 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
13 #11 Ben Spies Pramac Racing Team DUCATI
14 #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
15 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
16 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
17 #7 青山博一 Avintia Blusens FTR(CRT)
18 #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
19 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
20 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
21 #79 Blake ypuing NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
RT #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
RT #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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