幻立喰・ソ

第33回「ブヤのハガ」

 鉄道ブームが続いているようで、なによりですなご同輩。
 ここで一句。「鉄ママに 山越え谷越え 乗り入れたい」
 信号冒進異線進入防護発報の危険妄想ですが、手歯止め使用中なので大丈夫です。と、鉄ネタベーパーロック現象が起きています。ご容赦ください。
 乗り入れといえば、3月16日の東横線、副都心線直通と東急渋谷駅の地下化は新聞テレビで派手に報道されたので、興味のない貴兄貴姉の目や耳にもにゅうにゅう入ったことと、お悦び申し上げます。

渋谷駅 渋谷駅
地中の宇宙船をイメージした地下の渋谷駅(写真左)。こんなのが地下に埋まっているのですが当然見えません。あたりまえです。だから言い訳みたいに写真右のような片鱗が見えます。さすがオシャレタウン。これの代金も特定都市鉄道整備事業計画の特別加算運賃に含まれていたら……上尾事件の再来にならないかと心配です。(2008年6月撮影)

「所沢、川越と横浜が一本になり中華街が潤います。よかったよかった」な論調でしたが、直通以前も渋谷で1回乗り換えるだけなのに、ベルリンの壁が崩壊して行き来が自由になったみたいな大騒ぎは、どうしてなぜシュワルナゼ(1985〜1990ソ連の外相)。
 突然思い出しましたが、JKのみなさんは怒ることを「おこ」と略すそうです。怒りが増すほど「おこ」→「激おこぷんぷん丸」→「ムカ着火ファイヤ−」→「カム着火」と変化していくのだそうです。まさかポンニチJKの怒り最上級が「カムチャッカ」とは、シュワルナゼ外相もびっくりぎょうてん。JKも北方領土問題はマジ「カムチャッカ」状態なのです。「激おこぷんぷんプーチン大統領」になる前に、早く返してねプーチンさん♡

 ハマトラ(変換したら濱虎と出ました。カッコイイ作業服みたいで素敵です)が似合うハマのギャルや奥様たちは、自然豊かで歴史溢れる秩父や川越には行かないんですか? ホールディング会社に「飯能から先なんか、たぬきときつねしか乗ってないんだから廃止してしまえ!」みたいなことを言われてしまい「余計なお節介だ、バカヤロ−!」と怒鳴りたかったであろう秩父まで行くには飯能で乗り換えなければならないから、行かないんですか? 

飯能 中華街
飯能の駅前商店街と横浜中華街。「え? 両方飯能だろ」と思われるかもしれませんが、一方は間違いなく中華街(の外れ)です。特に意味はありません。(2010年3月と2011年6月撮影)

 東急ハイソイメージの牙城、不倫ドラマの舞台としても大ブレイクした田園都市線と、東武伊勢崎線が半蔵門線を介して直通運転を始めた時も「埼玉の人がこぞって、二子玉やたまプラーザにお買い物」みたいな論調でした。横浜の人(実は田園都市線沿線は、横浜とはいわないんですが)が、東武動物公園にカバ園長を偲んでおでかけとは言いませんでした。それどころか「伊勢崎線? イモ電車が乗り入れなんて嫌だわ」と、露骨に顔をしかめたのは有閑マダム(誰か1人くらいは)。我が故郷の雄、総武快速が横須賀線と直通運転を始める時も、鎌倉あたりのエセ文士(の誰か1人くらい)が「千葉の田舎者が泥だらけの長靴で乗って電車が汚れる」とのたまいました。まさに“Очень Камчатка!!!”(おーちぇん、かむちゃっかすきー)です。が、田舎者ですから、渋谷とか下北沢と聞くだけで腰引きまくりも、紛れもない事実です。

 その渋谷から1週間後の3月24日、芸術とか文化とか、ちょっと赤っぽい気配も漂う小田急線下北沢駅も地下に潜りました。というと、特高に追われた下北沢駅が身を隠したと誤解されるかもしれませんが、明らかに違います。前記の通り田舎者の私にはまったく関係ないのですが、とばっちりをモロに受けたのが、世田谷代田のアパートに住み代官山のブティックに通う北欧系ハウスマヌカンのステンプラ・デハ・サンゼンさん(仮名)です。
 それまでは世田谷代田からすっと小田急線に乗り「小田急顔イマセンね〜」と多少不満はありましたが、下北沢で階段をちょっと昇り「ヤハリ1000顔ヘンね〜」と多少不満はありましたが、すっと井の頭線に乗り換え、渋谷でもすっと東急東横線に乗り換え「8614Fミマセンね〜」と多少不満はありましたが、するっと代官山で降りれば、さっと出勤できました。
 それが世田谷代田も道連れで地下に潜ってしまい、下北沢は地底から地上を越えさらに上の井の頭線に乗り換え、渋谷で再び地中の宇宙船をイメージしためんどくさそうな空間をぐるぐる巡って地底まで降りて、やっと代官山に到着。地上から地下へ地下から地上へと時間と体力を無駄に使うことになったのです。「コ、コレハ……サンザン東QニフリマワサレタT都高速D交通A団ノ呪イデスカ……」違います。青天の霹靂です。北欧のことわざで言うところの、フィヨルドに冷や水(←もちろんでたらめです)ではなく、これがホントのとばっちり迷惑乗り入れです。 
 乗り換えソフトで調べると、世田谷代田-下北沢1分、乗り換え7分、下北沢-渋谷6分、乗り換え10分、渋谷-代官山3分と、乗車時間10分に対し乗り換え時間は17分。笑うしかありません。副都心線と東横線が直通になったメリットを活かし、代々木上原から千代田線に、明治神宮前で副都心線に乗り換えるルートがとちょっと早いし楽なのですが、料金は60円もアップします。ちなみに世田谷代田-代官山は直線距離で約4km。自転車なら30分、歩いても1時間はかかりません。6ヶ月の定期代は66640円。ステンプラさんが「カーリカーリレート号」と名付けたチャリを購入するのも時間の問題でしょう。
 ステンプラさんの不幸は極端な例ですが、石原おじーちゃんの跡目を継いだ東京都知事も驚いたように、犬猿の仲だった西武と東急がお手々つないで相互乗り入れをしようとは。覇権争いを繰り広げた伊豆、箱根山戦争の時代を思えば信じられません。あのころ最前線で仁義無き戦い伊豆箱根死闘編を繰り広げた社員が定年時期を迎えたことも、両社の邂逅に多少影響しているかもしれません。東西冷戦の終結以後、鉄道界も遅ればせながらデタント(死語)の時代を迎えているのです。創業者の強盗慶太さんと堤一族は、草場の陰でお口あんぐり状態で3月16日を迎えたことは間違いないでしょうが。

渋谷駅 渋谷駅
「さようなら〜ありがとう〜」のダミ声に送られて歴史を閉じた地上の東急渋谷駅。ぶっ壊した後は、現在南渋谷状態になっているJR埼京線ホームがお引っ越ししてくるみたいです。(2003年12月と2010年3月撮影)

 今回はかなり長めの与太で、ササラモサラになったところで短かい本題に入ります。

 てととてん、てととてん、にわ〜っ、ぷ〜ぁ、ぷわわ〜ぁ。とんてんとてんとと〜♪ 「山守さんよぉ、ブヤはジュクやブクロに比べて立喰・ソが少ないんじゃぁないでうすかいのお」昌ちゃんはシブい声で言いました。「だからワシはゆうたじゃないの! それおよぉ、おまえら若いもんがよお、これからはチェーン店じゃ、チェーン店じゃゆうてからに。昌三、やっちゃれやっちゃれ!」山守のおやっさんがけしかけます。それを聞いて勝利さんが黙っていません「いうなりゃ立喰・ソの汁でメシ食うとるようなもんじゃないの。立喰・ソの丼ぶりにも段々があるんでぇ! チェーン店と独立系が五寸かい」と暴れます。

 
 広島のみなさんがおっしゃるように渋谷には立喰・ソチェーン店がたくさんあります。FTから改名した東Q系のSS、揚げたて天ぷら+生そばのYOに、わかめ入れ放題で勢力拡大中のSA、セットものが豊富なUM、3大巨頭のKO、YT、そしてFSに至ってはなんと7店も。JR渋谷駅にはおなじみJR-E系列のAJが2店と最近のしてきたIRが1店、そして立喰・ソに含むのか未だに全ソ連(全国立喰・ソ連合会)で紛糾しているカップ麺D兵衛専門店まであるという、泣く子も黙る広島極道もびっくりぎょうてんな乱立っぷりなのです。

 対して独立系となると、一見立喰・ソに見えないガード下のMKや、一見普通のそば屋さんのようなSJくらい。一見喫茶店のような「ぶや」は前記のJR系IRに乗っ取……とらばーゆしてしまいました。イレギュラーを避け定型を好む昨今のマニュアル化された若者の動向が、ここ渋谷の立喰・ソに顕著に表われているのです。
 そんな孤立無援の渋谷で、昭和立喰・ソ風情で奮闘していたのが「はが」でありました。「はが」と聞くだけで反射的に下半身が熱くなる方も諸兄もいらっしゃると思いますが、ビニールでやさしくつつまれた本を売っていたあの本屋さんの支店は、ちょっと先にありますが、たぶん関係ありません。

 もしもイのヘッド線1000系が「ブヤのワルそなヤツ、だいたいトモダチ! ぷわ〜ぁん」と車止も改札もぶっちぎりで暴走したらハチ公に体当たりですが、その左手にある雑然とした飲み屋さんやらラーメン屋さんやら、○○やら××やらがごちゃごちゃしている路地の角、パチンコ屋さんのとなりに、やたらと大きな文字で「はが」と書かれた看板が目印の小さなお店がありました。1階は10席くらいのコの字形カウンター(ところでコの字形は英語ではなんと言うんでしょう? 「Type of Ko」ではなんのことだかさっぱり。このコラムとは雲泥の差の含蓄ある「バイクの英語」に投稿してみてください)のみと狭いのですが、さらに狭くしている階段がありました。なんと2階でも食べられたのです。出来上がったソは小さなリフトで2階へと運ばれていきました。

はが

はが
在りし日のはがの勇姿。「はが」の大きな文字を見るたびに小声で「ゆい」と心でつぶやいていました。下はちくわ天そば(350円)とおいなりさん。撮影前に半分かじってあります。いやしんぼさんです。(2003年12月撮影)

 2階に配膳専従の店員さんがいたのか、それともセルフでリフトからアウトしたのか。今となっては永遠の謎。券売機の食券を店員さんに無言で渡し、さっと階段を昇るのは勝手知ったる常連さん。新参者には敷居が高い雰囲気で、私のような田舎まるだし+小心者+新参者はついに昇らず仕舞いだったのです。相変わらずの後悔先に立たず、人形町のアパートで黒木メイサに八つ当たりする向井理の心境です。

 眠らない街渋谷らしく24時間営業で奮闘し、あそび疲れて腹ペコのヤングや、朝まで仕事のおみずさんたちの旺盛なストマックを満たすべく、ごはんものセットメニューも豊富でした。天ぷらサクサク、ソのゆで具合と汁加減もベストマッチ。一世を風靡した本屋さんの「はが」同様、「はが」の名に恥じないサラリーマン天国の新橋にあってもトップクラスを張れたであろうすばらしい立喰・ソでした。

 しかし、渋谷といえば、マルキュ〜、ガングロ、チーマー、援助交際、ルーズソックス、ブルセラ、クスリ、ぐーでタッチのブラザー、今日も渋谷で5時など魑魅魍魎が跳梁跋扈し、田舎オヤジは駅を出たとたんオヤジ狩りに遭って丸裸、パンパンかと見まがうギャルやオシャレOLに死ね! 死ね! ホントに死ね! 視線を浴びせられるに決まっています。丸裸にされておねーさんの刺すような視線というのもシビレますが、渋谷ではボコられた上に手が後ろに回ります。渋谷でなくともですが。

 そんなわけで、素敵なはがには、ほんの数回しか行っていません。最近久々に行ってみたら(といっても2011年ですが)、はがどころかパチンコ屋も宝くじ売り場もまるごと消滅していたという次第です。
 前記の地下化同様、雑然とした盛り場の路地は再開発という波に呑み込まれ画一的な街へ変わっていくのです。再開発成ったとき、「はが」は帰ってくるのでしょうか? 帰ってきても、なかなか渋谷に行かないので、なかなかわかりませんけど。

はが
今頃はもう新しいなにかが出来上がっているのでしょうか?(2011年11月撮影)

■立喰・ソNEWS

●あいかわらずの知ったかぶりでした。ごめんなさい。

 前回、よく知りもしないというか、まったく知らない相撲のことをちょろちょろと書きました。そのことではなく、肝心のソについてまた知ったかぶりをしてしまいました。横綱横町にある某高速増殖炉と同じような名前のMJですが、横綱通りにあるのは本店ではないそうです。本店は路地三本ほど東にあるそうです。どうもすみませんでした。おわびに明日の朝は某高速増殖炉と同じような名前のMJのBK支店、昼はAS支店、夜はKA店でソを食べ平身低頭しておわびいたします。とりあえず、今月もニュースネタがあってよかったよかった。


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在600店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べただけではたいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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