MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

スペイン・ヘレスサーキットの公式合同テスト「開幕カウントダウン」

 プレシーズン最終テストが行われるスペイン・ヘレスサーキットの公式合同テストは、他の事前テストと違って、いよいよこれから長いシーズンがはじまるのだなあという独特の高揚感がある。黒カーボンカウルでテストを重ねてきた各クラスの各チームも、このヘレスからは本格的なカラースキームで走行する。チーム体制の発表、という点では、たとえばヤマハファクトリーチームの体制発表がここ数年の通例になっている。
 今年も、Moto2/Moto3クラスのテストが終了した翌日で、MotoGPクラスがはじまる前の3月22日にピットボックスでマシンと選手、スタッフのお披露目。そして引き続き、チームホスピタリティでプレスカンファレスが行われた。
 ヤマハといえば、「感動」を意味する”touching your heart”というCIフレーズが有名だが、今年からは”Revs your heart”という表現を前面に打ち出すようだ。バイク好きなら想像できるとおり、Revはエンジンの回転数を上げる、という意味から転じて、ものごとを勢いよく上昇させる、といったニュアンスをもつことばだ。つまり、このフレーズは「あなたの気持ちを高揚させてみせましょう」といったような日本語になるかと思うのだが、これを漢字二文字の熟語でスッキリ表現するとすれば、さて、はたしてどういうことばがピッタリくるでしょうかね。バレやホルヘのサイン入りグッズなどを懸賞品に公募してみたりするのも面白いかと思うのですが、どうでしょうか、ヤマハ発動機さん??

YAMAHA会見
両選手とチーム首脳が挨拶と質疑応答を行った。

       

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 このカンファレンスでは、新しいシーズンへの挑戦を開始するにあたり、チーム全体の和やかで打ち解けた雰囲気が非常に印象的だった。
 2月のセパンテストでも、ホルヘ・ロレンソとバレンティーノ・ロッシはシームレストランスミッションの導入を切望しており、今回の会見でもそれに関する質問が出たが、技術本部MS開発部長辻幸一氏は現在鋭意開発中、としたうえで、「たしかにシームレストランスミッションを持たないことで、0.2〜0.3秒は不利を強いられているかもしれない。しかし、我々のライダーたちならその不利を1秒も補えます」と豪語して会場の笑いを取った。これに対し、さすがのロレンソも「いやいや、ダニは速いから1秒は無理でしょ……」と苦笑するひと幕も。
 また、周知のとおりロレンソとロッシの関係は2010年まで非常に緊張感が高く、ピットガレージでも、両選手の間は厚い壁で仕切られていた。ロッシ復帰にあたり、ふたりの関係は大幅に改善し、今では雑談も交わすような間柄になっている。今回のカンファレンスでも、外部用アピールというような意図的な演出ではなく、両選手は自然に談笑を交わし、会場の取材陣を驚かせた。
 この関係改善について、ロッシは「ホルヘの側も自分の側も、状況はだいぶ変わった。今季の自分たちの関係は、良くなっていくと思う。誰しも勝ちたい気持ちは同じだけれども、ヤマハのマシンを改良してライバルを凌ぐという意味では(ホルヘと)共同作業。いい関係を保っていけるよ」と話し、一方のロレンソも「僕たちの関係は、極上と言わないにしても良好とはいえると思う。バイクのことも、他のことも話し合える。今後もよくなっていくだろうし、最高かどうかはわからないけど、少なくとも悪化はしていかないよ」と述べた。
 ふたりのこの言葉を傍らで聞いていた辻氏は、即座に両者の手をとって握手をさせた。ロッシとロレンソは笑いながらも積極的に互いの手を握り、会場が拍手と笑いに包まれたのも印象的だった。

ロッシ ホルヘ
緊張関係の雪解けは、マシン開発にもいい影響をもたらすか??

       

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 超弩級ルーキーとして大きな注目を集めるマルク・マルケスは、今回のテストでも着々とMotoGPへの順応を進めていった。テスト初日はときに強く雨が降りしきる天候だったが、マルケスはウェットコンディションを積極的に走り込んだ。
「マレーシアでもウェットで走ったけど、たった4周だけだったので、今回は30周を走り込んだ。ドライよりも、電子制御の役割と重要性を痛感した」と明るい表情でハキハキと話し、ではこのウェットコンディションで何を最も学んだ? と訊ねてみると、「たぶん、フィーリングかな」とマルケス。「走り始めの頃はガチガチだったけど、だんだん自由に動けるようになってきた。でも、もっと距離をたくさん走り込まなきゃいけないし、自分自身の改善ポイントもたくさんある。一周だけならともかく、コンスタントに速く走ろうと思ったらまだまだだからね」と述べた。
 さらにテスト二日目と三日目を終えて、マルケスの自己ベストタイムは総合7番手。2月のセパンテストやオースティンプライベートテストの際のビックリするような勢いには欠ける順位だが、「セパンは11月にルーキーテストをやっていて、それなりに準備をできていたし、オースティンは誰も走ったことのないコース。それと比べて、ヘレスは、皆、豊富なデータを持っているけど、自分はMotoGP初走行。コースも小ぶりで特性も大きく異なる。今年は、毎戦金曜はこういうところからはじまるんだと思う」と自分の状況を冷静に分析してみせた。
 彼が開幕戦で表彰台争いをできるかどうかはわからないけれども、ときに転倒をしたりもしながらセッションごとレースごとに多くのものを吸収して、あっという間にビックリするくらい速くなっていくのではないか、という気がする。

マルケス マルケス
開幕戦の走りに、世界中の注目が集まる。

       

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 CRT勢の青山博一だが、通常では考えられないような突飛な事象が発生してテストを中断する、ということがたびたび発生する。今回のテストでは、晴天に恵まれた二日目に原因不明の水漏れが発生。ハードブレーキングで水をかぶってしまい、ドライコンディションにもかかわらずひとりだけウェット走行を強いられる、という状態で、ラジエータやホース類などをチェックしてみたものの異状はナシ。ああでもないこうでもないと精査した結果、どうやら前日の雨がフレームに溜まっているらしい、ということが判明した。まったく予想もしない、ある意味ではCRTならでは、ともいえるこの問題の究明に貴重な一日を費やしてしまい、翌日はフレームのこの水漏れ穴を塞いで走行。
 そんなこんなで、しっかりとテストをこなす時間が足りない状態で、開幕を迎えることになってしまった。「マシンのポテンシャルはあると思うので、開幕前に充分なテストをできなかったのが惜しいですね」と話す青山は、当面、CRT勢上位のパワーエレクトロニクス・アスパルを追いかけて走ることになるのだろう。

青山 青山
目指すは、まず、CRT勢の最上位。

       

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 というわけで、いよいよ4月第一週に2013年シーズン緒戦カタールGPの幕が開く。恒例のナイトレースで変則スケジュールのため、フリープラクティスは現地時間の4日(木)夕刻にスタートする。さて、今年はどんなシーズンになりますやら。乞うご期待。

     

マルケス弟 クラッチロー バウティスタ
マルケス弟。兄ちゃんより背が高い。 2013年の台風の目は確実。 転倒して指を負傷。三日目は休養。
高橋 中上 カイルディン
日本からの注目度はナンバーワン。 観客 仕上がりは上々。目指せ初優勝。 コントロールタワー1階 アジアの星、マレーシアの星。
ヘレス ヘレス ヘレス
豪雨になった日もありました。 熱心なファンが多数来場。 コントロールタワー1階に、こんな展示も。
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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