BMWのWEBサイトへ BMW R1200GS試乗Part1へ
こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/Neobplm-39o」で直接ご覧ください。 エンデューロPROモードを選択するためのコーディングプラグ。シート下に収納され、このプラグをソケット(黒いソケット側)に差し込めば、MODEスイッチでエンデューロPROモードが選択可能になる。

ス、スバラシイ……。

 アドベンチャー・ツアラー数々あれど、BMWのGSは間違い無くこのセグメントの王者だ。販売台数、知名度、人気、アウターマーケットのパーツの種類や数、それを造るメーカー数、ファンサイト、動画投稿数にいたるまでまさに巨人である。それだけに、今回のモデルチェンジは守りで行く、と睨んでいた。先代の完成度はこれ以上ないと感じるほど鉄壁だったからだ。

 しかし今回、エンジン一つ取っても変革が大きかったことはすでにお伝えしたとおり。水冷化、吸排気レイアウトの変更、電子制御スロットル、全体の小型化。何処にも手抜かり無い。今考え得る全てをやった、というものだった。
 
 エンジンに負けず劣らず進化させたシャーシ周りを含め、全てが走りの楽しさ、曲がるうれしさに直結した走りに触れ、GSの世界がさらに拡大する革新をもった。それほどスバラシイのである。
 

バイクを一括で電子制御する新GS。

 ボディーデザインは変わっているが、全体のボリューム感、サイズ感は従来通り。だとすれば重量感だって同じようなもの。脳内は勝手な想定で物事を運ぶ。スペックを見ても走行状態で238キロ。劇的に軽いわけではない。

 しかし、跨がってバイクをすっと起こすと、これが軽い。まるで燃料タンクが空っぽなのか、と思うほどだ。

 ライポジを確認。各部のデザイン、パーツはことごとく変わっているが、視界に入るタンクのボリューム感、メーターパネルまでの距離感、見え方。その感触はGSそのものだ。細かく見れば、サブタンク付きだったブレーキ+クラッチのマスターは、タンク一体式のフラットな形状になり、湿式多板になったクラッチレバーを握ってみると操作力がものすごく軽い。

 また、全体ではエッジの効いたスクリーンや、速度計、回転計、ディスプレイが一体になったメーターパネルなど新しさに満ちている。なじみの家をリノベーションしたような感じなのである。

 新しいGSのキーは電子制御技術の進化だ。ロード、レイン、ダイナミック、エンデューロ、エンデューロPROの5つから選択が可能なライディングモードが用意されている。以前もこうしたパワーモード的なものはあったが、新型のGSでは、サスペンションの特性、ABS、ASC(トラクションコントロール)までモードによって制御を細かく設定し、最適化している。

 特にセミアクティブサスは受けた路面の状況を把握し、瞬時にベストな減衰圧を生みだすようチューニングされている。

新型の重量配分が解る2枚。燃料タンク+エアクリーナーボックスの両方が付いた状態(写真左)、そして燃料タンクを取り外した状態(写真右)。ステアリングヘッド付近に吸入空気容量を満たすためのクリーナーボックス(言わば空のバケツ)、とその後部、ライダー側に燃料タンク(水の入ったバケツ)の位置関係が解る。エンジンの吸排気レイアウトというメリットもあるが、後方吸気、前方排気だった先代は、燃料タンクとエアクリーナーの位置関係が逆。バイクを動かすライダーにしてみると、タイヤの接地点を支点、ステップ、ハンドル、シートなどアクションを掛ける部分を力点、そして実際にバイクがロールするなどの動きが作用点とするならば、より軽く感じるのはこのレイアウトをみれば明らか。
トラスフレームの形状が解る図。ステアリングヘッドとスイングアームピボットを直線的に結ぶ。リアサブフレームは別体式。テレレバーのAアームがフレーム内側を通る。 テレレバーサスペンションの透視図。エンジンブロックにピボットを持つAアーム、ショックユニット、そして前輪を懸架するフォークの3つに大別できるこのシステムの特徴は、前輪を支える、サスペンションの動きを支持する、衝撃吸収をする、というテレスコピックフォークが同時にまかなう3つの仕事を分業化することで、求められる剛性を得ながらフォーク部分を細身にでき、ステアリングの切れ角を確保。ショックユニットは前後、左右の剛性分担から解放され、衝撃吸収のみに専念。4輪の発想と同じだ。また、Aアームを持つことで、フロントがダイブしたとき、フォークが沈んでも、キャスター角やトレール量の変位を少なくできるメリットもある。テレレバーサス20年の歴史の中で磨かれ、自然なハンドリングを楽しませつつ、安定性が高い。2本のフォークとアッパーブラケット部はボールジョイントでマウントされAアームが描く作動孤に追従する作りになっている。
シャフトドライブのリア周り。フレームに支点を持つアームと、スイングアーム後部にあるファイナルギアケースが別体で動き駆動トルクのリアクションを吸収させ、ナチュラルな乗り味を得ている。BMWはこの懸架方式をパラレバー式と呼んでいる。実際、駆動方式によるネガは感じられない。また長旅に出るとドライブチェーンのメンテナンスが無い分、非常に楽だ。 ザックス製のセミアクティブサスユニットと、センシングの概念図。前後ともアーム式のストロークセンサーを持つ。ハンドルの右スイッチでライディングモード、左のスイッチボックスにESA+ASCのコントロールスイッチがある。前後から速度も検出し、どのようなパターンで減衰圧を支持するかを計算しながら走るのがシステムの特徴だ。

跨がっただけで分かる、際立つ軽さ。

 セミアクティブサスの特性で、イグニッションスイッチがオフの時、前後サスのダンパーは最強の状態になっている。跨がっても沈まない。だから足つき性がツライ。キーを捻り、メインスイッチを入れると、サスがスッと動く。荷物を満載してツーリングする事が珍しくないGSでは、停車時、サスが荷物の重みでストロークすることなく安定して駐めておくためだろうか。

 最初に跨がり、バイクを起こした時はサスが最も伸びた状態に近く、サイドスタンドも寝ている状態からだった。それでも「軽い」手応えなのだ。

 このセミアクティブサス、前後のサスに備わるストロークセンサーで、路面状況をセンシング。速度やギアポジション、アクセル開度などから総合してダンパーの特性を決めているのが特徴だ。サスペンションもソフト、ノーマル、ハードと選択が可能だ。

 それに、スイングアームピボットとステアリングヘッド部を直線的に結ぶトラスフレームや、従来型より40mmとぐっと幅が狭くなったテレレバーサスペンションのA型アームや、細身になったテレスコピックフォークのインナーチューブもニュースだ。

 エンジン周りのユニット短縮により、スイングアーム長を52mmも伸ばしたリアのテレレバーサスも加わって、いったいどんな乗り味になっているのか。待ちきれない気分になってくる。エンジンを始動する。聞き慣れたボクサーツインの音。いくぶん勇ましい。低く音圧感のあるナイスな音だ。アクセルをあおってみる。それはほれぼれするほどいい音だ。そして回転計の針が軽い。

 ドライブモードはロード。サスペンションはノーマルと表示されている。

 クラッチを切りカコンという音を伴ってローにシフト。無音で入る先代とはちょっと違う。動き出しは軽い。交差点で左折する。満タンなのに空っぽのような軽さでスッと動く。

 そして、バイクがバンクする挙動に合わせ、前輪がスッと向きを変え、ワイドになった前後タイヤのプロファイルや後輪がパワーを伝えつつしっかりと旋回性を紡ぐのを実感させてくれるのだ。

 ロードバイクのネイキッドのようなスイスイ感をタウンスピードで味わえる。

 車体の軽さ、エンジンのもりもりとしたトルク感、しっかりとしたハンドリングと接地感。走り始めて程なく上質な信頼関係が生まれる。次に気がつくのが乗り心地の良さだ。サスペンションのモードはノーマルだが、路面の凹凸を綺麗に吸収している。グリップに来るキックバックもごく僅か。試しにソフトに電子制御サスペンション(ESA)のスイッチを押して変更してみる。コトコト感じていた振動は完全に消え、まるで路面が良好な舗装になったかのようだ。そのまま大きなうねりを越えても、先代では上下へのピッチングがあったものが、ほぼ一発で収束する。

 ハードも試す。答えは同じ。前後のピッチングや加減速時の挙動はぐっと抑えられるが、路面からの衝撃に角がない。

 高速道路に入る。4,000rpmあたりまでのトルク感がすでに充実しているので、ガンガン回そう、という気分にはならない。何処までも定速で走りたくなるような特性だ。もちろん、回せば5,000、6,000、7,000、と尻上がりにパワフルさを増し、追い越し加速などあっという間のワープを見せてくれる。

 ここでも乗り心地はとても快適。無段階で調整可能なスクリーンを上げれば、風切り音が激減する。2段階に調整できるシートは低いままでも全く快適。ハンドリングにも一体感があるから、高くしたいと試乗中一度も思わなかった。
  

ワインディングで笑う。

 歴代GSが持っていた才能の一つに舗装路のワインディングでの足の速さがある。ゲレンデ・シュトラッセを意味するGS。その中に街、高速道路、峠道という舗装路区間、そしてダートという未舗装路での楽しさをどう融合させるか。BMWのGSが30年以上進んできた道は、その多様性(というより多芸)をまとめ上げることだった。

 気持ち良く続くワインディング。先代だってなかなかのものだった。しかし、新型のGSでいくつかコーナーをやり過ごすと、驚きの進化を体感する。

 ハンドリングはきっぱりロードバイクレベル。フロントのラジアルマウントされたブレーキキャリパーが生む、減速力、コントロール性の高さ。ドライブモードをロード、サスペンションをソフトのまま入ったワインディングでも、無駄なピッチングや挙動を抜きに綺麗に旋回し、グリップ感に余裕が出たリアタイヤの恩恵もあり、バンク角を増やすような走りでも、旋回力が衰えない。
 
 そこにフラットかつパワフルなエンジンが繰り出すパワーを乗せれば、本当にこれがGS ? という走りの世界を堪能できるのだ。

 とにかく、フロントがスムーズにラインをトレースし、後輪にトラクションをかけながら気持ち良く曲がる所作は、並のロードバイクでも太刀打ちできないほどの楽しさだ。

 停まってリアタイヤを見ると、150サイズから170サイズになったトレッドの両端10mmから5mm残しぐらいのエリアまですんなり使えている。もっと攻め立てればさらにエッジまで行くのだろうが、旋回力が高くバンク角に頼らずともスイスイ曲がるため、無駄なく走っている印象だ。

 先代では150サイズのリアをあっさりと使い果たし、そのエッジ付近になると、グリップ力より旋回性の減退が気になった。ついでにいえば、前後の重量バランスも、ライダーが乗った状態で気持ち良くイーブンな印象を受ける。先代はシートをハイポジションにしないと何となくリアヘビーな感じがあった。ここにもセミアクティブ化の恩恵があるように思う。

 ちなみに、レイン、ロード、ダイナミックの舗装路推奨ライディングモード全てで同じ場所を走ってみたが、レインとロード、ダイナミックそれぞれがクロスオーバーするエリアをきちんと持っていて、よくある弱、中、強的なものでは無かった事も報告をしておきたい。

 ABS、トラクションコントロールのASCなど、制御技術をきちんと持ち、さらにアンチホッピングクラッチの採用など、アクセルのオン、オフ、シフトダウンに対する備えも万全。そうした下地があってこその設定だと思う。

電子制御を満載しながら乗り味はとても人間的。この煮詰められかたを見ると、手抜かり無い走行実験が続けられた事が伺える。

結果的にダートがますます楽しめた。

 ダートに入る前に、ロードモードからエンデューロモードへと切り替える。エンデューロPROというモードは、シート下に備えられたコーディングプラグをハーネスに差し込む事で選択が可能になるモードで、いわゆるオフロードタイヤを履いていることを前提にしたモードだ。

 ハイグリップタイヤを履いたときのASCの特性を、エンジンドライバビリティー、そしてリアペダルからの操作ではABSをカット(前後連動ブレーキのため、フロントレバーからの操作ではABSは作動する)し、ブレーキターンやコーナーのきっかけ作りも可能というモードだ。

 林道入り口の広めのダートで、ロード、エンデューロそれぞれのライディングモードの違いをためしてみた。ロードだとASCの介入がかなり頻繁。砂利の上では積極的な加速が得られない。先代のASCよりも制御は緻密。ガクガクしながら加速していた印象が、カクカクぐらいのマイルドさになっている。逆にあれ、もっといけそうなのに、とつい思ってしまうのも事実だ。またABSの介入もかなり頻繁。制動距離も伸びるような印象だった。

 そしてエンデューロモード。ダートの上、ノーマルタイヤ、標準の空気圧、それがどうした? というぐらい軽く路面を蹴りながら加速をし、カーブでもアクセルをあければ危なげなくスライドを誘発させてくれる。また、ABSの介入度もやや粗めになり、ザッザ、とごく短時間ロック気味にもなる。それでいて危なくない。非常に良いフィーリングだ。

 エンデューロPROはオフロードタイヤを履いて試すべきモードだった。ノーマルタイヤではメリットを引き出せない。ASCにパワーを摘み取られ、ブレーキターンは可能だが減速時のロックはライダー持ちになるから、ノーマルタイヤ+エンデューロPROの旨味は感じられなかった。

 いざ林道へ。コンディションは数日前に降った雨を含み、土の部分はけっこう滑り、時折現れる砂岩の岩盤質の部分はツルンと滑る。

 林道のタイトターンでは1速の出番も多い。パワフルな新型ボクサーエンジンと晴れているけど濡れた路面。左のタイトな上りを、街中で見せた軽さを武器にスッとバンクし、レインモード同様のドライバビリティーで、穏やかだが低開度からきっちりコントロールしやすいエンデューロモードで、シビアさはなし。なにより、やや滑りながら曲がるASCの制御の巧さと、新しいシャーシが見せるリアのトラクションの良さ、そして重量バランスの良さ、それらが渾然一体になって、一体感、トラクション感、接地感をたのしみながら林道を駆け抜けられた。前190mm、後200mmというホイールトラベル、8mm上がった地上高など、一度たりとも不服に思う場面はなく「今日おオレはいつもより乗れている」と錯覚させてくえるサービスのよさなのだ。

 結論を言えば、新しいGSは恐ろしくファンなバイクだ。同時に、このセグメントでの強みを一気に高めることに成功している。久々にものすごいバイクに出会ってしまった。それが偽らざる感想である。

メインスイッチオフ状態、850mm/870mmに調整可能なフロントシートは850mmに合わせて撮影。ステップの位置関係も良好で膝の曲がりもきつく無い。ライダーは身長183cm+体重84㎏。
一見すると先代同様、空冷主体のエンジンに見えるが、シリンダー付近は主に空冷、ヘッド周りを水冷化することで効率良く冷却をする。水平対向エンジンならではのメリットを活かしたシステムだ。ダウンドラフト化によるエアボックスと燃料タンクの位置関係の変更は、今やスーパーバイク系ではお馴染みのもの。 やや縦長のラジエターを左右にマウントする。シリンダーヘッド周りにも空冷フィンが刻まれるが、シリンダーとはその深さが異なることが解る。透視図はパート1を参照されたい。
リアキャリアへの荷物の積載量、ライダーとのスペースを調整出来るよう、リアシートの取りつけ位置を前後(30mmほど移動が可能)2箇所に設定可能になっている。 テールランプ、ブレーキランプ、ウインカーなど、ヘッドライトを含め全てLED化。いわゆる白熱電球を前照灯、信号灯に使わない。
イグニッションキーを捻ると、ランニングライトが明るく光り、数秒すると減光。ウエルカムライトとしての機能だという。光源はLED。写真をクリックすると減光状態が見られます。 ロービーム。輝度の高いLEDで夜間には頼もしい視界を確保してくれる。写真をクリックするとハイビーム状態が見られます。ハイビーム点灯時は、K1600GT系のようにアダプティブ機能こそないが、その照射配光、輝度ともに素晴らしい。

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