MBHCC E-1
 西村 章

MBHCC E-1

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

スペイン バレンシアテスト 「Maiden Voyage」

 MotoGPのセパンテストに続き、Moto2とMoto3の第一回プレシーズンテストがスペイン・バレンシアのリカルド・トルモサーキットで行われた。期間は2月12日から14日の三日間。両排気量の合同セッションと単独走行が織り交ぜて行われ、各クラスのほぼ全車となるMoto2は32台、Moto3は33台が参加して行われた。
 一日目と二日目は天候こそ晴れたものの風が強く、路面温度も厳しい状態が続いた。三日目は天候の良さを維持して風が止んだために温度条件は改善し、日中は陽の当たる場所ではTシャツで過ごせそうなほどの気温になった。路面温度もそれにともない、30℃を上回った。
 今年が四年目となるMoto2クラスは、エンジンがホンダ、タイヤはダンロップのワンメークで、車体設計は自由に任されている。一年目はモリワキ、二年目はKALEX、三年目はSUTERの車体を操る選手がチャンピオンを獲得した。今回、三日間のテストで調子の良かった選手は、昨年ランキング2位のエスパルガロ。他に、テロール、シモン、レディング、ラバト、トレス、コルシ、中上といった選手たちが、タイムシートの上位に名を連ねていた。
 中上は、今回のバレンシアでは2012年型車体を使ってパーツの確認やセットアップの再探求などにいそしんだ。最終日の最終セッション(Session3)ではトップタイムにつけたが、温度条件がさら良好だったひとつ前の午後のセッション(Session2)でそのタイムを上回っている選手たちがいたために、中上は総合6番手としてバレンシアのテストを締めくくった。
 今年の中上の課題は、レースラップでも最後までトップ争いをできるようになること。昨年でもすでに何度かフロントローに顔を出してはいたものの、決勝レースになるとどうしてもその位置を維持できなかった。だが、今回のテスト二日目に投入したリアサスペンションはフィーリングが良く、懸念の課題を改善する一助にもなりそうだ。
「(新しいサスペンションは)沈み方がソフトになって、タイヤに優しいというか、バイクもしっかり前に進んでいく印象。一発のタイムばかりを気にするのではなく、ユーズドタイヤを装着(レース周回を想定)したときでもしっかり走れる、扱いやすいバイクにしていくよう、チームと作業を進めていきます」
 中上は、シーズンオフからダートトラックなど様々なバイクに積極的に乗りこんでトレーニングを絶やさなかった。今シーズンこそチャンピオンを獲得して来年は念願のMotoGPへステップアップ、と公言しているだけに、充実のテストで気合いの入ったシーズンを迎えてほしいところだ。
 ちなみに、今回のテストで試さなかった2013年型のKALEX車体は、2月19日からのヘレステストで導入する予定だという。


中上
中上 中上
「今年はMoto2チャンピオンを獲得し、2014年にMotoGPへ昇格したい!」と宣言。勝負の年だ!!

       

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 さて、Moto2クラスといえば日本人関係者やファンの期待を一身に集めているのが、今年から新た始動するIdemitsu Honda Team Asiaだ。
 監督には、グランプリ経験も豊富で日本人最高の500ccクラス年間ランキング2位という実績を持つ岡田忠之氏。日本を含むアジア全域の二輪ロードレース活性化と、若い選手たちが飛躍していくための場をつくるために、昨年、急遽チームをたちあげた。今季はMoto2クラスから高橋裕紀が参戦するが、中長期的にはMoto3クラスにも領域を広げ、全アジアを対象に選手を登用してゆきたい、という展望を持っている。
 車体はモリワキ、サスペンションはショーワ、ブレーキにNISSIN、そして、タイトルスポンサーに出光興産、というこのオールジャパンパッケージが成功を収めれば、日本の二輪モータースポーツ界はおおいに盛り上がるだろう。その意味でも彼らにかかる期待は大きい。
 ようやくチームがスタートラインについた記念すべき初日のピットボックスで、岡田監督の表情には、ようやく動き出した安心感も束の間、ここから先がいよいよ本当の勝負、という緊張感が漂っていた。
「スタートしたばかりで、やることがとても多い。高橋裕紀がなるべく早い時期にトップ争いできるように、いいバイクをつくれるように、スタッフ皆でがんばっていきたい」
「自分たちのチームはまだ一戦もレースを経験していない初年度の集団で、ショーワやモリワキも、しばらくレースから離れていたりして、ライバルに対して不利な条件だらけ。今はテストの項目ひとつひとつをこなすのに精一杯だけど、これをクリアしていかないと先がない。自分たちが消化すべきことを確実に行いながら、一日でもいい成績につなげられるよう、高橋裕紀がなるべく早い時期にトップ争いをできるようなバイクを作れるように、スタッフ全員で一丸となってがんばりたい」
 高橋裕紀は初日から少しずつ順位を上げ、三日間のテストを終えて、トップと2.285秒差の総合22番手。今回のテストについては、
「充実した三日間でした。とくに三日目はコンディションもよく、方向性の見極めがだいぶ進んだと思います。現状の総合22番手は悔しい順位ではあるけれども、始まったばかりのチームでまだまだやることがたくさんある状態での、この位置。このチームはマイナス方向へ沈んだり現状維持を保つのではなく、とにかくただ前進あるのみなので、今後が楽しみです。開発も、これからものすごい勢いで進んでいくと思います。自分の責任も痛感する反面、手ごたえと充実感、チームの底力をさっそく感じています」
 と溌剌とした表情で語った。
 岡田監督は、三日間のテストを終えた総評として、
「トップからの現状の差については、どこに問題があるのか。ということが見えてきた。急遽、次週のヘレスに向けた対応をとっているところです。二週連続なのでそんなに大きな変更はできないかもしれないけれど、今、抱えている問題の改善方向が見いだせれば、3月の最終ヘレステストにむけていいステップになるでしょう。
 今の自分たちは、開発の方向性評価やデータ収集がメインで、まだマシンをセットアップしてタイムを狙いに行くところまでは進んでいないので、順位についてはさほど気にしていません。裕紀も今回は淡々とテストメニューを消化してくれて、ライディングのアドバイスに対しても信頼して受け止めてくれます。
 3月のヘレステストでは(開幕を見据えて)トップに近い位置で走れることを目標にしたいと考えています。今の自分たちは、どこにどれだけ足りないものがあるのか。それを見極めるためにも、次週のヘレステストは重要ですね」
 そう簡単に夢のような結果を実現できるわけではないのは、おそらく誰しも百も承知だろう。それでも今回の初テストは、タディ岡田監督率いるIdemitsu Honda Team Asiaにとって、自分たちと皆の夢と希望を満載した<Maiden Voyage>だった、という感がある。

タディ
ようやくスタートラインまでこぎつけた。しかし、ここからが本当のスタート。
高橋 高橋
高橋裕紀も、今年は勝負の年だ!!

       

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 さて、Moto3クラス。こちらはイキのいい若手選手たちが毎戦激烈なバトルを繰り広げるクラスとして、レースの見巧者たちにも人気が高い。昨年チャンピオンを獲得したサンドロ・コルテーゼはMoto2クラスへ昇格し、今年は激烈さにさらに磨きがかかりそうな予感だ(ちなみに、そのコルテーゼは三日間のテストで21番手。彼と少し話をしたのだが、「小排気量からステップアップすると、そう簡単にはいかないよ。テストは順調だし、最初はこんなものだと思うから、焦ってない。いまは少しずつバイクに順応しているところさ」ということばが返ってきた)。
 昨年、シーズン終盤にチームをやめるのどうのですったもんだしたマーヴェリック・ヴィニャーレスは今年からKTM陣営へ移籍。マシンの乗り換えも苦にすることなく、順調に適応している様子でトップタイムを連発した。あと、リンス、サロム、フォルガー、フェナッティ、マルケス弟、バスケス、カイルディン、といったあたりが好調なタイムを記録していた。シーズンが始まっても、おそらく彼らがトップ集団を構成することになるのだろう。
 このクラスには、日本人選手の渡辺陽向が参戦する。2011年まで全日本選手権、昨年はスペイン選手権に参戦しながら日本GPにもスポット参戦した経験の持ち主だが、フル参戦は今季から。この三日間のテストでは、FTR HONDAの車体へ順応することをメインに走り込んだ。
「少しずつよくなって(スペイン選手権の)自己ベストも更新したけど、トップとの差はまだ大きいですね……。できるだけ早いうちに上位陣とバトルできるようにしたいので、チームとよく相談しながら、次のヘレステストは好きなコースなので、さらにがんばりたいと思います」
 Moto2/Moto3クラスのヘレステストは19日から21日の三日間にわたって行われ、一ヶ月後の3月18日から、同じくヘレスサーキットで開幕に備えた最終テストが行われる。
 というわけで、では、また。

     

ビニャーレス 陽向 カイルディン
今季の優勝候補最右翼か。 世界フル参戦開始!! 今年こそ表彰台の頂点へ!
ラタパー ドニ ラフィド
アジア勢ではすでに古参!? インドネシアからフル参戦開始!! こちらもインドネシアから参上!!
ルティ コルテーゼ ポル
三日目に転倒して腕を負傷……。 現在、鋭意順応中。 Moto2優勝最有力候補!?
ティト フェナッティ テロール
こちらも速さを披露中。 今年はサン・カルロだあ。 もぐもぐ。
■2013 moto2暫定エントリーリスト
No. ライダー チーム名 車両

#3 Simone Corsi NGM Mobile Racing Speed Up
#4 Randy Krummenacher Technomag carXpert Suter
#5 Johann Zarco Came IodaRacing Project Suter
#7 Doni Tata Pradita Federal Oil Gresini Moto2 Suter
#9 Kyle Smith Blusens Avintia Kalex
#11 Sandro Cortese Dynavolt Intact GP Kalex
#12 Thomas Luthi Interwetten Paddock Suter
#14 Ratthapark Wilairot Honda Gresini Moto2 Suter
#15 Alex De Angelis NGM Mobile Forward Racing Speed Up
#17 Alberto Moncayo Arguiñano & Gines Racing Speed Up
#18 Nicolas Terol Mapfre Aspar Team Moto2 Suter
#19 Xavier Simeon Maptag SAG Zelos Team Kalex
#23 Marcel Schrotter Maptag SAG Zelos Team Kalex
#24 Toni Elias Blusens Avintia Kalex
#30 中上貴晶 Italtrans Racing Team Kalex
#36 Mika Kallio Marc VDS Racing Team Kalex
#40 Pol Espargaro Tuenti HP 40 Pons -Kalex
#44 Steven Odendaal Arguiñano & Gines Racing Speed Up
#45 Scott Redding Marc VDS Racing Team Kalex
#49 Axel Pons Tuenti HP 40 Pons -Kalex
#52 Danny Kent Tech 3 Tech3
#54 Mattia Pasini NGM Mobile Forward Racing Speed Up
#60 Julian Simon Italtrans Racing Team Kalex
#63 Mike Di Meglio JiR・Moto2 Motobi
#72 高橋裕紀 Idemitsu Honda Team Asia MORIWAKI
#77 Dominique Aegerter Technomag carXpert Suter
#80 Esteve Rabat Tuenti HP 40 Pons -Kalex
#81 Jordi Torres Mapfre Aspar Team Moto2 Suter
#88 Ricard Cardus NGM Mobile Forward Racing Speed Up
#95 Anthony West QMMF Racing Team Speed Up
#96 Louis Rossi Tech3 Tech3
#97 Rafid Topan Sucipto QMMF Racing Team Speed Up
2013 moto3暫定エントリーリスト
No. ライダー チーム名 車両

#3 Matteo Ferrari Ongetta-Centro Seta FTR‐HONDA
#4 Francesco Bagnaia San Carlo Team Italia FTR‐HONDA
#5 Romano Fenati San Carlo Team Italia FTR‐HONDA
#7 Efren Vazquez Mahindra Racing Mahindra
#8 Jack Miller Caretta Technology – RTG FTR‐HONDA
#9 Toni Finsterbusch Kiefer Racing Kalex‐KTM
#11 Livio Loi Marc VDS Racing Team Kalex‐KTM
#12 Alex Marquez Estrella Galicia 0,0 KTM
#17 John Mcphee Caretta Technology – RTG FTR-HONDA
#19 Alessandro Tonucci La Fonte Tascaracing HONDA
#22 Ana Carrasco JHK T-Shirt Laglisse KTM
#23 Niccolò Antonelli Go & Fun Gresini Moto3 FTR‐HONDA
#25 Maverick Viñales JHK T-Shirt Laglisse KTM
#29 渡辺陽向 La Fonte Tascaracing HONDA
#31 Niklas Ajo Avant Tecno KTM
#32 Isaac Viñales Bimbo-Ongetta-Centro Seta FTR‐HONDA
#39 Luis Salom Red Bull KTM Ajo KTM
#41 Brad Binder Ambrogio Racing Suter-HONDA
#42 Alex Rins Estrella Galicia 0,0 KTM
#44 Miguel Oliveira Mahindra Racing Mahindra
#53 Jasper Iwema RW Racing GP Kalex‐KTM
#57 Eric Granado Mapfre Aspar Team Moto3 Kalex‐KTM
#58 Juan Francisco Guevara CIP TSR‐HONDA
#61 Arthur Sissis Red Bull KTM Ajo KTM
#63 Zulfahmi Khairuddin Red Bull KTM Ajo KTM
#65 Philipp Oettl Paddock TT Motion Events Kalex‐KTM
#66 Florian Alt Kiefer Racing Kalex‐KTM
#77 Lorenzo Baldassarri Go & Fun Gresini Moto3 FTR‐HONDA
#84 Jakub Kornfeil Redox RW Racing GP Kalex‐KTM
#89 Alan Techer CIP TSR‐HONDA
#94 Jonas Folger Mapfre Aspar Team Moto3 Kalex‐KTM
#99 Danny Webb Ambrogio Racing Suter-HONDA
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

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