MBHCC E-1
 西村 章

MBHCC E-1

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第15戦日本GP「どんとすとっぷみーなうinもてぎ」

 ツインリンクもてぎは、1997年の営業開始以来、今年で15周年。MotoGPの初開催は1999年で、今回が14回目の開催になる。現在行われている全18戦のなかでは、最も典型的なストップアンドゴータイプのサーキットだ。平均速度は164.118kmh(昨年実績)とけっして高くはないが、短い区間で200km/h超から90km/h台へ一気に減速する箇所が複数あり、ブレーキの苛酷さという面でも随一といっていいコースだ。それだけに、今回のレースウィークでは、ブレーキパフォーマンスが大きな焦点のひとつになった。予選や決勝で、選手たちのフロントブレーキディスクが赤く発熱する様子は何度かTV画面にも映し出されたので、「ああ、あれのことか」と思い当たる人もいるだろう。
 金曜日のフリープラクティスでは、ベン・スピース(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)のフロントディスクが945℃に達したことが大きな注目を集めた。ドゥカティ勢のバレンティーノ・ロッシとニッキー・ヘイデンもブレーキ操作感の低下を認めており、ロッシのディスク温度もスピース同様の950℃に上昇したようだ。
 金曜に課題が生じて土曜のセッションで改善していった選手もいれば、土曜や日曜になって顕在化した選手もいる。モンスター・ヤマハ Tech3の2台、カル・クラッチローとアンドレア・ドヴィツィオーゾは、それぞれプラクティスセッションでディスク温度が1200℃と1100℃に及び、CRT勢のコーリン・エドワーズも決勝レースで1060℃に達したという。カーボンディスクの通常の作動温度域は700℃〜750℃前後であることを考えれば、これらの温度がいかにブレーキに対して苛酷であったかは想像に難くない。
 一方、今シーズン2度目の3位表彰台を獲得したアルバロ・バウティスタ(サンカルロ・ホンダ・グレシーニ)は、決勝日午前のウォームアップ時に課題を生じたものの、決勝までには無事解決。優勝したダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)や2位のホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)に至っては、ブレーキ面での問題は特になかった、とレース後に述べている。ことほど左様に、ブレーキパフォーマンスはマシン特性やライディングスタイルに依存する部分も多い領域である、ということなのだろう。
 MotoGPクラスにはブレンボとニッシンというふたつのブレーキメーカーが存在するが、いずれも今回のレースに際しては、コース特性を考慮して放熱効果にすぐれるハイマス仕様を投入している。両社とも昨日今日の参戦歴ではなく、ツインリンクもてぎのデータを豊富に備えているが、それでも今回のような事象が発生したのは、今年からマシンが1000cc化されたことにも要因があるのかもしれない。コーナー進入時の速度は800cc時代よりも10〜15km/h上昇しているという話だし、マシン重量は昨年までの800cc時代が150kgであったのに対して、今年は157kg(当初は153kgという規定だったが、昨年末になって急遽、さらに4kgの追加が決定された)と結果的に7kgも重くなっている。この慣性重量が及ぼす影響たるや、かなり大きなものだろう。
 そして、そのようなマシンを操ってこういう領域のブレーキング操作をしながらああいう争いを演じるのだから、MotoGPの選手たちというのは本当に異次元の存在なのだなということを、今回の一件はあらためてつくづく感じさせてくれる事例になった。
    ※     ※     ※
 今回のレースウィークでは、来年からMotoGPクラスのプラクティス進行が変更になることも発表された。概要は以下のとおり。
——
・初日午前午後、二日目午前のフリープラクティス(FP)は従来と同様。ただし、この3回のFPの総合タイムにより予選進出の方法が決まる。
・FP総合タイムの上位10選手は第2予選(QP2)へ進出する。
・それ以外の選手は第1予選(QP1)に参加する。このQP1の上位2選手はQP2に進出する。
・計12選手が参加するQP2で、上位12グリッド(4列分)の順序を競う。
・13番グリッド(5列目)以降のポジションは、QP1(上位2選手を除く残りの選手)のタイム順で決定される。
・二日目午後の進行。
 FP4(30分:タイム計測なし)
 休憩(10分)
 QP1(15分)
 休憩(10分)
 QP2(15分)
——
 この措置は、ラップタイム差の激しい上位選手(プロトタイプ)と下位選手(CRT勢)をグループ分けすることにより、それぞれの予選セッションの安全性を高め、今まで以上の緊迫感を持たせよう、ということが目的のひとつなのだろう。だが、もうひとつの大きな目的は、予選をプロト勢とCRT勢へ事実上峻別することにより、CRTマシンのTV露出機会を増やそう、という狙いもあるのかもしれない。
 ところで、上記のように来年からプラクティス進行が変更されても、ブリヂストンのタイヤアロケーションに影響はないし変更の考慮もしていない、と同社モーターサイクルレーシングマネージャーの山田宏氏は話している。
    ※     ※     ※
 Moto3の決勝レースは、最終ラップの展開が予想外のどんでん返しの連続になり、叫び声を上げすぎて喉が痛くなった、という人も多いのではないかと思う。
 5台で構成されたトップグループのうち、1コーナーに最初に飛び込んでいったJ・フォルガーへ、直後のL・サロムがイン側から停まりきれず接触、2台とも転倒。ここで1回目の「あ〜!!!」が発生。思わず詰め寄ろうとするフォルガーに、サロムが「ごめん、まじごめん」と両手を合わせて謝罪。へー、謝るときには彼らも手を合わせるんだね、と余談ながら少し感心した。
 で、先頭集団は3台となり、トップはS・コルテーゼ。優勝して25ポイントを獲得したらチャンピオン決定、という可能性がいきなり現実味を帯びることに。3台はもつれ合いながら後半セクションにさしかかり、90度コーナー進入で、コルテーゼのチームメイトで今回のポールシッター、ダニー・ケントが勝負を仕掛けてトップに躍り出た。負けじと踏ん張りすぎたコルテーゼは立ち上がりで転倒、自滅した。ここで観客席からは2回目の「あ〜〜!!!!」が発生。レースはケントが初優勝を飾り、マシンを引き起こして復帰したコルテーゼは6位フィニッシュ。チャンピオン確定は次戦以降にお預けとなった。
 クールダウンラップでは、コルテーゼがケントに詰め寄り、マシン越しに「あほか! 何やそれ!! おまえ、頭わいとんちゃうか!!!」と怒髪天のジェスチャー。
 チームメイトとはいえ、ケントへのチームオーダーは発令されておらず、それどころか「余計なことは考えなくていい」と言われていたということなので、彼が勝ちに行くのは当然のことだし、コルテーゼは自らのミスが招いた結果なのだから、これはケントを責めるのがお門違いというものだ。
 またもや余談になるが、MotoGPクラスのレース後取材でV・ロッシから話を聞いている際、室内のモニターにこのバトルが映し出されていたのだが、この一部始終を見たロッシは「これは怒るほうがおかしいよね。まあ、レース直後だから脳が酸欠状態で昂奮してたのかもしれないけど(笑)」と話しておりました。
 ちなみに、1コーナーのアクシデントでフォルガーをやっつけてしまったサロムに対しては、次戦マレーシアGPで予選順位を5つ下げる、という処罰が後刻に発表された。
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 今回は日本GPということで、プチスペシャルとしていつもより少し多めのタウリン1000mg増量でお届けしてみました。いかがでしたでしょうか。
 さて、ちょっとしたおまけ情報。現場に観戦に来ていた方々のなかには青山博一選手を見かけた人もいたと思う。彼曰く、早ければ今週あたりに来季へ向けた発表があるかもしれない、とのこと。ふむふむ。
 というわけで次の第16戦は、今週末のマレーシアGP。では、灼熱のセパンサーキットでお会いしましょう。

ダニ・ペドロサ ホルヘ・ロレンゾ アルバロ・バウティスタ
サマーブレーク以降の5戦中4勝で怒濤の追い上げ。白熱!! チャンピオンシップポイント差は28。依然、有利な状況だが……。 チームとの2013年契約を更新。ハッピーなレースウィークに。
ドヴィツィオーゾ ストーナー ステファン・ブラドル
ともに高パフォーマンスを発揮するが、決勝では明暗がわかれた。 医師は「この足でレースをするのは正気の沙汰ではない」と言ったとか。 レースは腕上がりに悩まされた。それだけブレーキが苛酷、ということか。
ロッシ ヘイデン ベン
悪くはない、とはいうものの、トップと26秒差。H・Yとの差は大きい……。 右手はまだかなり腫れている。そんな状態でも走るタフな精神に脱帽。 決勝ではあえなくリタイア……。予選までは良かっただけに……。
中須賀 頑張ろう東北 青山
惜しくもニッキーを抜くことはできなかったが僅差の9位と健闘。 まだ終わってはいない。これからも続く長い道のりを、皆とともに。 後ろ姿は御存知プーチ師匠。さて、ヒロシの来季は??
■第15戦 日本GP
10月14日 ツインリンクもてぎ 晴のち曇
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 ダニ・ペドロサ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
2 #99 ホルヘ・ロレンソ ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
3 #19 アルバロ・バウティスタ ホンダ・グレッシーニ HONDA
4 #4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ ヤマハ・テック3 YAMAHA
5 #1 ケーシー・ストーナー レプソル・ホンダ・チーム HONDA
6 #6 ステファン・ブラドル LCRホンダ HONDA
7 #46 バレンティーノ・ロッシ ドゥカティ・チーム DUCATI
8 #69 ニッキー・ヘイデン ドゥカティ・チーム DUCATI
9 #21 中須賀克行 YAMAHA YSPレーシングチーム YAMAHA
10 #8 エクトル・バルベラ プラマック・レーシングチーム DUCATI
11 #17 カレル・アブラハム カルディオンABモトレーシング DUCATI
12 #41 アレックス・エスパロガロ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
13 #5 コーリン・エドワーズ フォワードレーシング SUTER(CRT)
14 #77 ジェームス・エリソン ポール・バード・レーシング ART(CRT)
15 #51 ミケーレ・ピロ ホンダ・グレッシーニ FTR(CRT)
16 #84 ロベルト・ロルフォ スピード・マスター ART(CRT)
RT #35 カル・クラッチロー ヤマハ・テック3 YAMAHA
RT #9 ダニロ・ペトルッチ イオダ・レーシングプロジェクト IODA(CRT)
RT #22 イバン・シルバ BQR BQR-FTR(CRT)
RT #14 ランディ・デ・ピュニエ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
RT #11 ベン・スピース ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
RT #68 ヨニー・エルナンデス BQR BQR-FTR(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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