MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第14戦アラゴンGP「アラゴン王国の攻防」

 毎年同じことを書いているような気もするが、アラゴンGPの開催地モーターランド・アラゴンはとにかく遠い。年間18戦中でも最僻地のひとつ、といっていいだろう。といいながらバルセロナから250km程度で、車で走れば3時間もかからない距離なのだが、とにかくここは場所が辺鄙、というひとことに尽きる。サーキット一帯は、日本人が一般的に思い描きがちなスペインのイメージからはほど遠い荒涼とした風景が広がっており、初開催の一昨年はその広漠たる眺めにとにかく驚いたことをよくおぼえている。
 風化した地層が露出した土くれの台地や、砂漠性の植物にところどころ覆われながら赤っぽい地面が地平線まで広がる光景ゆえに、かえって雄大さも強く印象づける。有名になる前のセルジオ・レオーネが、ここからさほど離れていない場所で「夕陽のガンマン」や「続・夕陽のガンマン」を撮影したという逸話も一目瞭然で納得できるような、そんな土地である。とはいえ、そんな果てしない大地の姿にも、3年も経てばそれなりに慣れてくるのだから、人間の感受性とはなんとも勝手なものだ。
 で、そういう土地柄が作り出す気候とも関係しているのか、今年の第14戦はとにかく寒いレースウィークだった。金曜のフリープラクティスは終日雨模様、土曜の午後に少しずつ路面が乾いてきたものの曇天の影響で、気温、路面温度ともに15℃前後というコンディション。決勝レースが行われる日曜にようやく陽が射して、路面温度もなんとか30℃に届いた。で、去年のレースはどうだったのかと思って調べてみると、MotoGPの決勝レース時の路面温度が30℃弱、と今年と大差ないコンディションだったことがわかった。昨年のレースは、いわゆる<クレヨンレプソル>の印象があまりに強く、温度条件が低かったことはすっかり記憶から消し飛んでしまっていた。それほど昨年のあのカラーリングは衝撃的だった、ということなのかもしれないけれども……。

第14戦 アラゴンGP 第14戦 アラゴンGP 第14戦 アラゴンGP
まるで、エンニオ・モリコーネの音楽が風に流れてきこえてくるような、そんな眺めである。

 さて、コース外の環境はともかくとして、この第14戦は今年3回目となるスペイン開催レースだったわけだが、MotoGPクラスはダニ・ペドロサが独走優勝。Moto2は最終ラップまで続く大接戦のすえにポル・エスパルガロがマルク・マルケスに競り勝ち、Moto3クラスでも激戦を制してルイス・サロムが優勝。とまあ、スペイン選手が3クラスとも制覇して、モータースポーツ大国の層の厚さをさらに強く印象づける結果になった。
 シーズン全体の展開を見ても、最高峰のMotoGPクラスではスペイン人選手同士(→ペドロサvsロレンソ)がチャンピオン争いを繰り広げ、Moto2クラスでも将来を嘱望される期待の星(→マルケス)が予想どおりにクラス総合優勝に王手をかけているのだから、これで盛り上がるなというほうが無理な相談である。そりゃあシーズン4回(ヘレス、カタルーニャ、アラゴン、バレンシア)くらいは開催したくもなろうというものだ。
 ちなみにスペイン人選手のエントリー数はMotoGPクラス6名、Moto2クラス9名、Moto3クラスは10名、と分量でも群を抜いている(参考までに第2位はイタリアの計14選手)。ところが、だ。これほど選手層の厚い人気スポーツであるにもかかわらず、今年の観客動員数は昨年比で約20パーセント減の8万1158人にとどまった。EU諸国のなかでも深刻な財政危機に見舞われているスペインの現状は、こんなところにも顕在化している、ということだろうか。
    

第14戦 アラゴンGP ダニ 第14戦 アラゴンGP ホルヘ 第14戦 アラゴンGP クラッチ
残り4戦で33ポイント差。逆転王者の目はまだ潰えていない。 残り4戦も一貫して攻めのレースを。 フロントローの常連となりつつあるが、今回は惜しくも表彰台を逃す。
第14戦 アラゴンGP ニッキー 第14戦 アラゴンGP コーリン 第14戦 アラゴンGP ブラドル
大事に至らなくて本当に良かった。一瞬、肝を冷やしました。 何を話していたのかまでは聞き取れず。たぶん他愛もない話題だと思う。 確実に1戦ずつ速さを増している。が、今回は残念ながら転倒リタイア。

 MotoGPクラスの決勝レースでは、序盤2周目の最終コーナー進入でコースアウトしたニッキー・ヘイデン(ドゥカティ)が充分に減速できず、時速約60kmでエアフェンスにぶつかってライダーがフェンス外に大きく投げ出される、という出来事があった。幸いにもヘイデンにケガはなかったものの、レース後には、ヘイデンがコースアウトした一帯を舗装すべきかどうか、ということが一部で話題になった。
 チームメイトのバレンティーノ・ロッシは、レース直後に、ヘイデンがフェンスにぶつかった瞬間の映像はまだ観ていない、としたうえで、あくまで一般論としてこんな見解を述べていた。
「セーフティゾーンをアスファルトに舗装するのは、ブレーキングが可能になるからいい方法だとは思う。ただし、それも転倒の種類による。ウェットコンディションでは、ドライのときと同じようなブレーキングができなくなる場合もある。今回のニッキーの場合は、(セーフティゾーンが)グラベルだったためにコントロール不能になったのだろう。アスファルトなら減速して衝突を回避できていたかもしれない」
       ※      ※     ※
 で、今回の締めくくりに小ネタをひとつ。レースウィーク中のパドックで、ちょっと面白い噂話を耳にした。来季のMoto2クラスに、アジア系のチームがエントリーするとかしないとか。「チームアジア」とかなんとかいう名称らしく、そこに日本人関係者も関わっているとかいないとか。ライダーは1名という話だが、それがはたしてどの国籍の誰なのかは未だ不分明。ひょっとしたら、次戦のもてぎか次々戦のセパンあたりで、何か面白い発表があったりなかったりするのかもしれない。
 というわけで、次戦は第15戦日本GP。ツインリンクもてぎでお目にかかりましょう。ではでは。

第14戦 アラゴンGP 第14戦 アラゴンGP 第14戦 アラゴンGP
フランスからはるばるやってきた応援団。 来季は、このアリさんがレプソル・ホンダのboxに出入りするかも!? 来年も今年と同時期に開催予定。
第14戦 アラゴンGP 第14戦 アラゴンGP 第14戦 アラゴンGP
おねいさんたちも見るからに寒そう。ご苦労様です。
■第14戦 アラゴンGP
9月30日 モーターランドアラゴン 晴れ
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 ダニ・ペドロサ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
2 #99 ホルヘ・ロレンソ ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
3 #4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ ヤマハ・テック3 YAMAHA
4 #35 カル・クラッチロー ヤマハ・テック3 YAMAHA
5 #11 ベン・スピース ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
6 #19 アルバロ・バウティスタ ホンダ・グレッシーニ HONDA
7 #56 ジョナサン・レイ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
8 #46 バレンティーノ・ロッシ ドゥカティ・チーム DUCATI
9 #17 カレル・アブラハム カルディオンABモトレーシング DUCATI
10 #41 アレックス・エスパロガロ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
11 #14 ランディ・デ・ピュニエ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
12 #8 エクトル・バルベラ プラマック・レーシングチーム DUCATI
13 #68 ヨニー・エルナンデス BQR BQR-FTR(CRT)
14 #77 ジェームス・エリソン ポール・バード・レーシング ART(CRT)
15 #51 ミケーレ・ピロ ホンダ・グレッシーニ FTR(CRT)
16 #54 マティア・パシーニ スピード・マスター ART(CRT)
17 #54 マティア・パシーニ スピード・マスター ART(CRT)
18 #5 コーリン・エドワーズ フォワードレーシング SUTER(CRT)
RT #6 ステファン・ブラドル LCRホンダ HONDA
RT #9 ダビド・サロム アヴィンティア・ブルセンス BQR(CRT)
RT #69 ニッキー・ヘイデン ドゥカティ・チーム DUCATI
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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