MBHCC E-1
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西村 章

スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第11戦 インディアナポリスGP「路面は滑るよどこまでも」

“Slippery when wet”といえば、アメリカンポップロックの王道ボン・ジョビが80年代にスマッシュヒットを飛ばした大ヒットアルバムのタイトルだけれども、第11戦インディアナポリスGPの舞台インディアナポリスモータースピードウェイ(通称IMS)の路面がまさにこの状態。というか濡れていなくても非常に滑りやすいコースで、ここは全18戦中でも路面のミュー(摩擦係数)が最も低いコースのひとつだろう。全コースの数値を計測したわけではないけれども、ひょっとしたらワーストワンかもしれない。本来の路面特性もさることながら、おそらくは路面の使用頻度の低さも大きく関係しているのだろう。
 米国モータースポーツの聖地とも言われるIMSだが、そもそもここでレースが行われるのはインディ500、NASCAR、そしてMotoGP、と年に3回のみ。オーバル部分でさえ使用されるのは年間3回のみで、MotoGPだけが使用するインフィールド部分にいたっては一年365日のなかでもこの3日間のみなのだから−贅沢といえば贅沢な話だが−、それだけ滑りやすくなってしまうのもむべなるかな、というわけだ。初日から二日目、そして決勝日、と走行を重ねるにつれてライン上こそ少しずつラバーが乗ってくるものの、ラインをはずそうものならもう全然つるんつるんの状態、ということになる。
 しかもこの路面、最初にMotoGPのレースが行われた2008年には数種類の舗装が入り交じるツギハギ状態で、しかも表面に薄く亀裂が入ってる場所もある、という有り様だった。昨年のレース前には路面が大きく改修され、今年で2年目。滑りやすさとタイヤへの厳しさは相変わらずであるものの、それでも数年前の状態と比較すれば大きく改善されたといえるだろう。

第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP
第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP
とまあことほど左様に2008年の路面はガビガビのツギハギだらけだったわけであります。ちなみに写真左下の煉瓦は、当地で最初にレースが行われた頃の路面で、現在でもゴールライン部分のみを保存している。IMSが「ブリックヤード」と今でも呼ばれる理由が、これでわかりますね。

 とはいえ、今回のレースウィークでは大きな転倒が相次いだ。セッションが何度か赤旗中断され、負傷者も出たために、路面の劣悪さを強く印象づけることになったが、転倒者数の合計数を見る限り、特に今回のレースに限って突出しているわけではない。ここまでの全11戦中の最多数は、第4戦ルマンの93。最少は第10戦ラグナセカの14だが、これはMotoGPクラスのみの開催なので、それを除けば最少は開幕戦カタールの32、次いで第5戦カタルーニャの35、となっている。今回の第11戦では3クラス合計の転倒者数が45。第8戦ザクセンリンクの42、第7戦アッセンの48、と大差ない数字だ。IMSの過去のデータと比較しても、2008年−60、2009年−45、2010年−70、2011年−45、と、今年が特に異常な数字だったわけではないことがわかる。
 コーナー別に比較しても、最多転倒箇所は2コーナーの7、次いで7コーナーの6、11コーナーの6という順に頻発している。ケーシー・ストーナーやベン・スピース、ニッキー・ヘイデンが相次いで転倒した13から14コーナーの転倒数は5、エクトル・バルベラ等の転倒が発生した最終16コーナーも5、という数字だ。ただ、12コーナーから14コーナーにかけては左左左と連続してどんどん開けながら旋回する場所で、右の切り返しを挟んでもう一度左へ倒しこむ最終コーナーも、メインストレートに向けて気合いで曲がっていく場所だから、少しのミスが大きな転倒に繋がりやすい、ということは言えるかもしれない。
 上記の4選手はそれぞれの転倒で大きな怪我を負ってしまったが、それにしても、靱帯と骨を傷めながら決勝を4位でフィニッシュしたストーナーは、本当に素晴らしい走りだった、エンジンブローで不運にもリタイアを余儀なくされたスピースも、その瞬間までは、右肩靱帯負傷と打撲を抱えていると思わせない力強さだった。ヘイデンも、転倒の瞬間こそ脳震盪を起こして一瞬ヒヤリとさせたものの、本人は以後も走る気満々だったにもかかわらず、右手首の骨折が判明したために決勝は残念ながらドクターストップがかかってしまった。初日午前に転倒して胸椎圧迫骨折を負ったバルベラは、バルセロナの病院へ搬送されてさらに精密な診断を行うという話だが、レースウィーク中の情報では次々戦の第13戦ミザノを復帰目標にしているという。ライダーという人種の強靱な精神力には、つくづく敬服する。

第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP
レース途中からは鎮痛剤も効かなくなってきたとか。 この不運の連続には「笑うしかない」と本人談。
第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP
残念ながら、今週末のチェコGPも欠場が決定。 代役はトニ・エリアスが務めることに。

 さて、最後にいくつかの周辺情報などを。
 ヤマハとの契約更改がきっかけなのかどうかはともかく、ホルヘ・ロレンソはバルセロナ郊外に家を購入したとか。しかもプールつき。「今までは普通のフラット(といってもきっとかなりでかいんだろう)で暮らしていたんだけど、そろそろ人生を楽しんでみるのもいいかな、と思って。郊外で喧噪から離れた静かな場所だから、落ち着いて日々を過ごすことができるんだ」とのこと。
 また、ロッシがヤマハ移籍を発表したことで来季の民族大移動情報は一段落、という感もあるものの、グレジーニにSBKのジョニー・リーが来る可能性があるとか、あるいはスポンサーがイタリア人を希望しているのでイアンノーネになるのではないかとか、そういう細かい話は相変わらずいろいろと続いております。ま、いずれにしても遠からずいろいろと決まってくるでありましょう。
 というわけで今週末は2週連続開催の第12戦チェコGP。ではそろそろ北米大陸を離れ、大西洋をまたいで欧州へと向かいます。そういえば”Atlantic Crossing”といえばロッド・スチュアートの名盤ですね。文末も音楽に絡めて締めくくってみました。ではまた。

第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP
ポールポジションスタートのダニは決勝でも圧倒的なレース運びで今季2勝目。 来季の去就に注目が集まるものの、現チーム残留説も濃厚。
第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP 第11戦 インディアナポリスGP
パドックの雰囲気も、やはり欧州とはひと味もふた味も違う。 迫力の映像は、高い場所をものともせず撮影してくれる彼らのおかげ。 なぜかオジーの”Mr. Crowley”を演奏しておりました。ギターは完コピ。
■第11戦 インディアナポリスGP
8月19日 インディアナポリス・モータースピードウェイ 晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 ダニ・ペドロサ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
2 #99 ホルヘ・ロレンソ ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
3 #4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ ヤマハ・テック3 YAMAHA
4 #1 ケーシー・ストーナー レプソル・ホンダ・チーム HONDA
5 #19 アルバロ・バウティスタ ホンダ・グレッシーニ HONDA
6 #6 ステファン・ブラドル LCRホンダ HONDA
7 #46 バレンティーノ・ロッシ ドゥカティ・チーム DUCATI
8 #17 カレル・アブラハム カルディオンABモトレーシング DUCATI
9 #68 ヨニー・エルナンデス BQR BQR-FTR(CRT)
10 #41 アレックス・エスパロガロ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
11 #24 トニー・エリアス プラマック・レーシングチーム DUCATI
12 #22 イバン・シルバ BQR BQR-FTR(CRT)
13 #5 コーリン・エドワーズ フォワードレーシング SUTER(CRT)
14 #77 ジェームス・エリソン ポール・バード・レーシング ART(CRT)
15 #15 S・ラップ USAアタックパフォーマンス APR(CRT)
16 #20 A・イェーツ BCL(CRT)
RT #35 カル・クラッチロー ヤマハ・テック3 YAMAHA
RT #14 ランディ・デ・ピュニエ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
RT #11 ベン・スピース ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
RT #51 ミケーレ・ピロ ホンダ・グレッシーニ FTR(CRT)
RT #54 マティア・パシーニ スピード・マスター ART(CRT)
RT #9 ダニロ・ペトルッチ イオダ・レーシングプロジェクト IODA(CRT)

第10戦アメリカGP
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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