西村 章
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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。 twitterアカウントは@akyranishimura |
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早いものであっというまにカレンダーの1/3が終了し、2012年シーズンは中盤戦に突入した。第7戦はダッチTT、6月最終土曜に決勝レースを行うという日程が現在も墨守されている歴史と伝統の一戦である。今回も様々な話題がパドックを駆け巡った。各種ゴシップから正式な記者発表に至るまでのあれやこれやのなかから、日本ではおそらくあまり報道されていないであろうものや読者諸賢の興味を呼びそうなものをいくつかピックアップし、まとまりがつかないなりに雑感風にまとめてみたい。 前回に報告したとおり、最高峰クラス参戦初年度の選手はサテライトチームへ所属しなければならない、とする通称<ルーキールール>の廃止が発表された。これでマルク・マルケスは来年、大手を振ってレプソル・ホンダからMotoGPに参戦することが可能になった。これと同時に、来シーズン2013年のテクニカルレギュレーションも発表された。大方の予測どおり、1選手あたりマシン1台(Tカー廃止)案は却下、カーボンブレーキ廃止案も却下された。経費削減の具体的方法として提案されていたこれらの案だが、実際には当初期待したほどの効果がなさそうだ、ということも却下の理由だろう。Tカーを廃止した場合には、現行ルールのフラッグトゥフラッグ等、改めて検討し再調整しなければならない事項が様々に付随してくる。また、単価の高額なカーボンブレーキを廃止して鉄ディスクにしたところで、耐久性の低い鉄ディスクの交換頻度を考慮すれば、結局のところ一戦あたりにかかるブレーキ費用にさほどの差はない。さらに鉄ディスク(とパッド)の重量をカーボンのそれと比較すると、逆に重い鉄製品のほうが搬送費用がかかってしまう、ということにもなりかねない。総じて、落ち着くべきところに落ち着いた決定、といえそうだ。 来年のアルゼンチンGP開催が正式に発表された。場所は1990年代にWGPを開催していたブエノスアイレスではなく、そこから北北西の内陸部へ約1000kmほど移動したサンティアゴ・デル・エステロ。アルゼンチンは、今年4月にレプソル傘下の石油企業YPF社を実質国有化するという手段に出たため、スペイン政府との間で緊張関係が発生している。これに関連してレプソルは、選手たちやチームスタッフが同国へ行くと身の安全を保障できない、として懸念を表明している。ただし、これは現地の治安状態や渡航危険情報の問題というよりも、政治的な駆け引きの側面が濃厚なようにも見える。むしろ日本人の立場として気になるのは、ブエノスアイレスから1000km、というサーキットの立地だ。街自体は同国7番目の規模で歴史と由緒のある都市だそうだが、同地の空港に乗り入れている航空会社はどうやらアルゼンチン航空だけのようだ。この街から約130km離れたところに、サン・ミゲル・デ・トゥクマン空港というのもあるようだが、いずれにせよ、現地へ到達する手段はかなり限定されることになりそうだ。どうやって行けばいいのだろう……。うーむ。
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アルゼンチンでの開催は、1999年以来14年ぶりとなる。 | ||
このアルゼンチンGPだが、ドルナスポーツ社CEOのカルメロ・エスペレータは、スケジュールは未確定としながらも「開催は来シーズン早いうちのどこか」と述べている。一説によれば、2013年はカタールの開幕戦から新開催のインド(未発表)、テキサス州オースティン(未発表)、そしてこのアルゼンチン、と外回り四連発で幕を開ける、という説もある。これら新たな会場が三ヶ所増えるということは、現行の18戦から三ヶ所が消える、ということでもある。さて、それらははたしてどこなのか。翌年度のカレンダーは、8月のブルノあたりで発表されるのが通例なので、お楽しみ(?)まであと一ヶ月。 その2013年シーズンの選手たちのシートはといえば、バレンティーノ・ロッシの行方次第、という状態にもなりつつある。レプソル・ホンダはダニ・ペドロサと交渉中という話だが、「ロッシの可能性も?」なんて一部では囁かれており、ヤマハファクトリーという噂(というか願望?)も根強いようだ。いずれにせよドゥカティ残留は見込薄、というのが大方の見方だが、そのドゥカティは今年めきめき頭角を現してきたカル・クラッチローとも接触を図っているようだ。その一方で、今回の第7戦でニッキー・ヘイデンのオプション契約が切れて、ヘイデンはフリー・エージェントになった。彼に関する経緯は、別のところ(共同通信コラム・7/4更新予定)に書いたので、そちらを参照してください。そのコラムから削った情報をひとつ。ドゥカティはヘイデンに対して、「アウディの件(同社のドゥカティへの経営参画が完了する時期、という意味)が片付くまで交渉ができない」と話しているとか(そんなわきゃないだろう、と個人的には思うが)。ロッシが残留可否の決定を7月末としているのも、ラグナセカで投入されるというニューエンジンのパフォーマンスもさることながら、このアウディ経営陣がどこまでレース活動にコミットする意志があるか見極めたい、ということも理由のひとつだといわれている。 |
レースではリアタイヤ右側に問題発生。ピットでタイヤ交換し、13位。 | ちゅー。 | 第一希望はあくまでもヤマハファクトリー、だとか。 |
■第7戦 オランダGP
6月30日 アッセン・サーキット 晴 |
順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | |||
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1 | #1 | ケーシー・ストーナー | レプソル・ホンダ・チーム | HONDA | ||||
2 | #26 | ダニ・ペドロサ | レプソル・ホンダ・チーム | HONDA | ||||
3 | #4 | アンドレア・ドヴィツィオーゾ | ヤマハ・テック3 | YAMAHA | ||||
4 | #11 | ベン・スピース | ヤマハ・ファクトリーレーシング | YAMAHA | ||||
5 | #35 | カル・クラッチロー | ヤマハ・テック3 | YAMAHA | ||||
6 | #69 | ニッキー・ヘイデン | ドゥカティ・チーム | DUCATI | ||||
7 | #8 | エクトル・バルベラ | プラマック・レーシングチーム | DUCATI | ||||
8 | #14 | ランディ・デ・ピュニエ | アスパーチームMotoGP | ART(CRT) | ||||
9 | #51 | ミケーレ・ピロ | ホンダ・グレッシーニ | FTR(CRT) | ||||
10 | #54 | マティア・パシーニ | スピード・マスター | ART(CRT) | ||||
11 | #9 | ダニロ・ペトルッチ | イオダ・レーシングプロジェクト | IODA(CRT) | ||||
12 | #22 | イバン・シルバ | BQR | BQR-FTR(CRT) | ||||
13 | #46 | バレンティーノ・ロッシ | ドゥカティ・チーム | DUCATI | ||||
14 | #77 | ジェームス・エリソン | ポール・バード・レーシング | ART(CRT) | ||||
RT | #41 | アレックス・エスパロガロ | アスパーチームMotoGP | ART(CRT) | ||||
RT | #5 | コーリン・エドワーズ | フォワードレーシング | SUTER(CRT) | ||||
RT | #68 | ヨニー・エルナンデス | BQR | BQR-FTR(CRT) | ||||
RT | #6 | ステファン・ブラドル | LCRホンダ | HONDA | ||||
RT | #99 | ホルヘ・ロレンソ | ヤマハ・ファクトリーレーシング | YAMAHA | ||||
RT | #19 | アルバロ・バウティスタ | ホンダ・グレッシーニ | HONDA | ||||
DNS | #17 | カレル・アブラハム | カルディオンABモトレーシング | DUCATI | ||||
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。 ※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。 |
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