昨年9月、ホンダはNC700Xにも搭載されているエンジンを「次世代グローバル700㏄エンジン+第2世代デュアル・クラッチ・トランスミッション(以下DCT)」として技術要素を発表した。ミドルクラスに圧倒的な燃費性能と環境性能、快適性をもたらし、低重心で低中速トルク型。かつ上質な走りを生み出すエンジンを目標とし、第2世代のDCTはより軽く、コンパクトで低価格を目指した、という。
リサーチによって、世界中のライダーの多くは140km/h以下で走行し、エンジン回転は6000rpm以下を常用するという結果を受け、その領域でベストな特性、低燃費を確立しよう、となったわけだ。
あのとき、「それって面白いの?」と小さい疑問符が頭上に出たことを否定しない。
時は流れて今年の2月。NC700Xに初めて乗った。ミッションこそ6MTだったが、アドベンチャーツアラー風ルックなバイクは、アフリカツインとそっくりのエンジン音を奏でた。それもそのはず、位相クランクのアフリカツインと270度クランクのNCは爆発間隔がほぼ同じ。52度Vと並列2気筒が織りなす不思議な血縁だ。そしてポロンとクラッチをつなぎ走りだす。するとそれは始まった。すごいトルク感。イメージ1300㏄超はありそうな力感。なのに滑らか。なんだこれ!
一般道では2500rpmも回っていればたいていの加速は間に合うしトロさもない。現実は1500rpm程度からでも、まるで苦もなく走る。街中を2000rpm以下で流すバイク……。
しかも低重心の良さが生み出す自在感。走り出せばホンダらしい乗りやすさで、ウキウキする満足感に包まれた。それでいて大きく右手を捻ると4000rpmあたりからは相当に速い。
しかし、一つ気になる事がある。燃費だ。開発スタッフの1人は「25km/lぐらいの燃費は楽しんでいただけると思いますよ」と教えてくれたが、残念ながら短時間のテストでは燃費の傾向を掴めず、NCの本領を知らずに帰宅することになる。
あれから気になって“NC700X燃費”で検索することたびたび。するとチラホラ慣らし中のオーナー氏のリポートが引っかかる。いわく、「慣らし中につき35km/l程度でした」と。
25km/lと35km/l──。燃費でそれだけ違えばインパクトは桁違いだ。これは自分でも是が非でもNC700Xを試さねば。そんな時、鈴鹿往復の話が舞い込んだのである。
低燃費の片鱗はすでに出発前から垣間見えていた。青山のホンダ本社でNCを引き取り一度千葉の自宅へ。青山で0kmだったトリップは34kmに。そして出発前給油。1.5リットルは入るだろう……。が、想定外の0.8リットルで満タン。エエーーーッ! あくまで参考値だが、正直この段階でかなり度肝を抜かれた(参考値とし、燃費計算には採用せず)。
燃費計測は満タン法。自分で任意の満タンポイントを決め、セルフ給油の場所中心に給油。地面の傾斜などによる若干の誤差はあるだろうが、自分のバイクで燃費を計る方法だとご理解下さい。
走りはいわゆる自分のツーリングペース。今回は燃費を計るためにシフトダウン時にアクセルを煽らない事だけは徹底した。それ以外は数値狙いの無理強いをするようなエコ運転はしていません。NCというバイクが誘う心地よい速度、ギア、走りとし、精神的に疲れるような事は一切していません、ホントです(笑)。
午後2時、首都高湾岸線で西に。レインボーブリッジ経由首都高環状線、3号線経由で東名高速に。100km/h、3000rpm程で走っていると、街中では2000rpm以下で感じたと同様の、満ち足りたトルク感に包まれる。それはトップ90km/hでも、80km/hでも同じだった。速度抑制装置バトルで85km/hで追い越しするトラックの後ろでもイライラしない。むしろコンスタントスロットルでスーッと滑らかに走る走行感は快感。
厚木を過ぎ、アップダウンが頻発する。アクセル開度を全く変えずにトップで80km/hを平坦路のように坂を上るNC。まさにトルクの追い風に乗る感じだ。自宅から124km走って燃料系の目盛りがようやく一つ消えた。
124km走ってようやく燃料計の目盛りが一つ減った! | 鈴鹿に向かったその日は、新東名オープン前日。看板はオープン、でも通路はパイロンで規制されているレアな状態。 | 大きなバッグを平らなゴムのストレッチコードで積載。バッグの座りはよいが、コードのフックを掛けるのにグラブバーとの相性が問われる部分もある。細身のフックは簡単、樹脂製の大きなツメ先のフックだと左右に滑ることがあった。 |
富士インターチェンジで一般道に降りる。最寄りのガソリンスタンドで給油すると、走行178.5kmで4.78リットル給油、37.34km/l! 実感としては「ウソだろ」だった。
富士から一般道で浜松インターまで走る。途中、由比の漁港や以前寄ったことがある薩埵峠の眺望を求めてうろつく。密柑山の狭い道を上り、大きな風景に再会。でも雲が厚く富士山を拝めなかった。
富士からの1号線はバイパス続きで、一般道のサンプルとしては好条件すぎた。一部渋滞にもあったが、良いペースで走り続けられる。案の定、浜松インター手前まで130kmジャストを走り3.42リットルを給油。38.0km/lと出た。100㏄給油量が多ければ数値も36.93km/lまで変位するが、いずれにしても700㏄のエンジンのバイクが一般道でたたき出す数値ではない。
薩埵峠にて。 | その麓、桜エビが揚がる港としてお馴染み、由比の漁港にて。東名高速が海沿いを走る。 |
知らぬ間に低い回転域で走らせる性格のエンジン、その領域でもパルス感があり、微少なアクセルワークにもしっかり追従するトルクを生むから疲れない。むしろその域で走るのがすでに楽しくなっている。
もう2回続けて先頭打者ホームランを浴びたようなさわやかな敗北感だ。そこでコチラも変化球勝負へ。浜松インターから再び東名にあがり、豊田ジャンクションから伊勢湾岸道、みえ川越インターまでは急ぎ足で走ることにする。数値の減退を狙ってみた。燃費を計っていて「開けなきゃ」と思ったのはこれが初めて。予報通りに降り出した雨のなか、追い越し車線のペースで移動。インターから国道23号線に降り給油。134.8kmを走り、給油量4.62リットル。それでも29.18km/lだ。
直球、変化球とも切れが悪く、1イニング8失点な気分だ。
あのとき聞いた25km/lは簡単、は聞き間違えで、とてもじゃないがそんな数字、出ない!
とっぷりと日が暮れた国道1号の道の駅で。1号のバイパスの連続は想像以上に快適に距離を稼げた。 | 伊勢湾岸道、みえ川越インターを出て立ち寄ったガソリンスタンド。給油口はリアシートの下。燃費を計るため、とはいえ、頻繁に荷物の積みおろしが面倒になることも。本来は1日に1度程度で済むはずだからさほどきにならないのではないだろうか。それほど燃費は良かった。 |
さて、中一日で今度は帰路。鈴鹿サーキットから東海道の関宿に寄り道し古い家並みをカメラに収め、次なるイニングへ。最後に入れた燃料そのままに走り出す。復路は開通したての新東名で行こう。NCの14リットルタンクなら東京近くまで走れるはず。
ここからがスペクタクルの始まり。 | ここは関宿。古い宿場の風景が数km続く。道も小石の道を模した特別な舗装で全体の雰囲気を醸し出していた。生活感があるのにタイムスリップした印象に発見があった。 |
まるで時代劇のセットのよう。でも、軽トラもいたりして、実にナイスな町並み。東海道の旧道。今もこの街道には旅人が集まる。 | 国重要文化財地蔵院の前でNC700Xを停めて一休み。すると「若い時はメグロに乗っていたんだ。息子はハーレーに乗っているよ。今のスポーツバイクは格好いいね」と話掛けてきた旅人に一枚撮っていただきました。一期一会。街道にて(なんちゃって)。 |
その時、ふと一度フルサービスのスタンドで入れてみよう、と思い立った。そこで刈谷サービスエリアのスタンドへ。131.8kmを走り3.68リットルを補給。燃費は35.81km/lだった。「これぐらいでいいですか?」と聞かれて、そのままハイと答えた。見たところ自分の満タンポイントとほぼ同じあたりだった。
伊勢湾岸道、東名と経由し三ヶ日ジャンクションから新東名を目指す。新東名は理想的な高速道路で走りやすい。カーブの曲率は大きく、アップダウンもなだらか。道幅は広くトンネルの中まで含めしっかりと路側帯がある。風景も綺麗だし新鮮。玉に瑕は照明が少なく夜暗いところだろうか。途中雨に降られたので、その感が強かったのかもしれない。
日曜午後7時過ぎ、大井松田からの渋滞をやり過ごし都内、首都高経由で走る。トリップメーターが350kmを超えたところで残量警告を示す点滅が始まったが、自宅直近のインターで降り走行365.1kmで11リットルを給油。燃費は33.19km/lだった。2打席連続ホームランの4番打者が放ったレフトへのスリーベース性のヒットを攻守、強肩の好返球で2塁打に留めた(?)印象だった。いや、燃費がよいのは嬉しいのだけれども……。
ちなみにここまで走ってまだ半分? どこまで走るの? と思ったら、ここからは減少が速かった。 | 高速を降りてすぐに撮ってみた残量警告灯。最後の1ブロックが赤と黒に色を換えて点滅。すぐ先のスタンドで補給したら11リットル。タンクにはまだ3リットルのガソリンがあった。 |
翌日、都内を往復し、さらに距離を加算。結果的に合計1057.2kmを走り、返却前に117kmを走りフルサービスで給油した3.45リットルを加算して、NC700X、今回のアベレージ燃費は34.16km/lと出た。正直、完敗、いや乾杯だ。
これはすごい。フツーに走れば30km/l台は難しくない。それが今回の実感だった。
低燃費は我慢? いやこのバイクのエンジンが知らぬ間に走りとエコを乗り手にたっぷりと楽しませてくれる、そんな印象だった。正直、良い燃費を出すと嬉しい。次はもっと、となる。得した気分の3日間だった(笑)
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