西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。 twitterアカウントは@akyranishimura
|
やはりというか相変わらずというか、苦戦が続くドゥカティのバレンティーノ・ロッシである。第2戦スペインGPでの彼の混迷については他の所に書いたのでここでは重複を避けるけれども、前回の当コラムでも報告したとおり「いったい来年はどうするんだ」という彼の去就がはやくも一部で話題の焦点になりつつある。その前提になっているのは、おそらくドゥカティのパフォーマンスは今後も劇的に改善することはないであろう、という予測であり、そうであるならば低迷の明らかなファクトリーとロッシが契約を更新することもないであろう、では来年はいったいどこに移籍するのだろうか、という三段論法だ。まあ、三段論法とはいいながらもさほど突飛な論理の飛躍があるわけではないし、そもそもこのような推測がシーズン開幕前後の時期から飛び出すくらいにドゥカティがタイヘンな状況にある、ということでもある。
現在、まことしやかに言われている(というか、「そういう流れ」にしたい人たちの意図も多少は感じるけれども)のは、ヤマハへの復帰可能性、だ。現ヤマハファクトリーのホルヘ・ロレンソも「ロッシが復帰するとヤマハはさらに強力になる」と発言はしているのだが、これはあくまでもイタリア人ジャーナリストの問いかけに答えたもので彼が自発的に発言したものでもなんでもない。ま、いわば社交辞令だ。
|
|
|
|
|
定例囲み取材で意のままにマシンを操れない困惑を語る、之図。
|
現実問題としては、ファクトリーのロレンソもスピースも今年末で契約が満了するが、常識的に考えてロレンソは契約を更新するはず、という見方には異論がないと思う。スピースがサテライト行き、あるいは他陣営に移るなどしてファクトリーの椅子がひとつ空いたとしても、だからといってそこにロッシが座るようなことはどう考えてもあり得ない。そもそも、ロレンソを放逐するか自分が去るかという二者択一をヤマハに迫り、「二人とも大切な選手だ」という返事を不満として陣営を去ったのはロッシの方なのだから、いまさらそこにどの面下げて戻るのだ、というのがふつうの考え方だろう。では、サテライトチームのTech3で手厚いサポートを期待する、という選択肢はどうなのかというと、これもあり得ない。ロッシが望んでいるのは「YZR-M1に乗せてくれれば、あたしゃもうそれで充分ですから」という謙虚な移籍ではなく、あくまでバレンティーノ・ロッシとして処遇されること、すなわちその陣営のトップライダーとして<最恵国待遇>を受けることなのだからサテライト体制への移籍はありえない。それに、ロッシが移籍するということは、同時に彼のメカニックたちももれなく自動的についてくる、ということでもある。フランス人チームとして自分の仲間を大切にしてきたエルベ・ポンシャラルが、ロッシを受け入れるために「泣いて馬謖を斬る」とは思えない。では、ヤマハから新たにマシンを1台供給してもらってロッシスペシャルのニューチームを結成する可能性はどうなのかというと、このご時世の経費削減でバイクや人員を減らそうかと議論している現状から考えて、実現可能性は相当に低い、と言わざるをえない。
|
|
|
|
|
タイヤ選択を誤って終盤周回が厳しかった、とレース後に。
|
|
2戦連続トップファイブ。ホンダからヤマハへの乗り換えは順調。
|
では、ホンダへの移籍可能性はどうなのかというと、過去に「ホンダには人間らしさがない」とか「エンジニア中心主義でライダーを大切にしない」とかさんざん言ってきた手前、ヤマハ以上に「どの面下げて移籍するんだ」度は高い。サテライトチームへの移籍可能性についても、ヤマハと同様の理由からまずあり得ないといっていいだろう。
となると、いったいどこへの移籍可能性が残されているのか?? ということになるわけだが……。
|
|
|
|
|
「決勝ではカル(・クラッチロー)に終始つつかれて参ったよ」と。
|
|
じつは今回も若干の腕上がりがあったとか。それでこの速さ。
|
以下はまったくの与太話と受け止めてもらいたい。けっして真剣に議論しているわけではないので本気にしないでね、と断ったうえで、「もしも万が一、こんなふうになったら面白いかもね」というアイディアをいくつか検討してみる。
○突拍子もないはなし・その1—スズキ
昨年いっぱいでMotoGPへの参戦をいったん休止したスズキは2014年の復帰を目処に日本国内で開発を継続しているという話だ。そこを一年前倒しにし、さらにロッシを招聘して開発の中心に据える。800cc時代でもGSV-Rは素性の良さを随所で垣間見せていたので、この可能性を頭の中で夢想している人は、じつは結構な数がいるんじゃないかという気がする。ロッシとしても、ライダーを開発の中心に据えてくれるいい環境であろうし、さらには、スズキへ移籍すれば最高峰全ファクトリーを経験したことにもなる。最後はケヴィン・シュワンツの後輩としてキャリアの幕を引く、というのもなかなか魅力的だと思うのですが、どうでしょうお客さん。
○突拍子もないはなし・その2—アプリリア(ファクトリー篇)
今年からの新ルールで、アプリリアはCRTチームにエンジンとフレームを提供している。現在MotoGPでは経費削減策が熱心に協議されているが、その意図の中には、CRTチームへのサプライヤーとして関わっているアプリリアやBMWがファクトリー参戦を検討する際に、大きな参入障壁となる資金問題をできるかぎり低くしたい、という目的も含まれているという。企業にとっては、参戦経費がリーズナブルな範囲に収まるのならば、CRTチームに供給する形態よりもファクトリーとして参戦する方が宣伝広告面や開発面の利便性が大きいことはいうまでもない。
|
以上の要素を考慮し、アプリリアがファクトリーチームでMotoGPに復帰するならば、バレンティーノ・ロッシは最高の人材だろう。ロッシにとっても、フルイタリアンパッケージで実現しなかった夢を、別のフルイタリアンパッケージで実現できる可能性が出てくる、というわけ。ふむ。
○突拍子もないはなし・その3—アプリリア(CRT篇)
MotoGPの興行主であるDORNAは、今年から始まったCRTという参戦形態が今後も恒常的に継続する有効な参戦形態として定着することを期待している。現在のCRT勢の中で、最も高いパフォーマンスを発揮しているのが、アプリリアRSV4エンジンとアプリリア製フレームを組み合わせたマシンだ。現在でもすでにプロトタイプマシンを喰う勢いをちらほらと見せているが、今年以上に熟成されてくるであろう来年、ロッシがこのマシンでさらなる高パフォーマンスを発揮すれば、CRTの存在感と存在意義はさらに高まること間違いナシ、だ。とはいっても、チャンピオンを狙えるような体制にはなりえないので、上記二案よりもさらに無理くりな想像ではあるけれども。しかも、アプリリアの場合は、マックス・ビアッジという仇敵がSBKのファクトリーに在籍している。彼の存在をどう考えるかな、と。
|
|
|
|
|
|
|
|
レインセッション時に皆と談笑するBS山田氏、之図。
|
……とまあ以上、皮相浅薄というか道聴塗説というか、出鱈目三昧の妄言を展開してみたわけだけれども、もちろんロッシにとって最善の選択肢は、ドゥカティが本来の戦闘力を取り戻してホンダやヤマハと互角にバトルを繰り広げることで、そうなれば今シーズンの中盤戦以降と来季への望みもつながってくるというものだ。しかし、一寸先は闇で生き馬の目を抜くグランプリパドックの世界では、何が起こっても不思議ではないのである……と、陰謀論めいた紋切り型の常套句で締めくくったりしてどうもすいません。次回はちゃんとします(ホントか?)
あ、そうそう。今回のレース結果は以下のとおり(↓)。では。
|