西村 章
スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。 twitterアカウントは@akyranishimura
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変則的なナイトスケジュールで行われる開幕戦も今年で5回目。2012年のカタールGPはMotoGP、Moto2、Moto3の3クラスとも最終ラップまで手に汗握る激しいバトルが続く濃密な展開で、それぞれ本当に面白いレースだったけれども、その分よけいにくたびれた。とはいえ、ただでさえ変則的なスケジュールで疲労困憊しているので、独走レースになって眠い思いをさせられるよりもこういう展開になってくれたほうが、むしろくたびれ甲斐もあろうというものである。リザルトをざっくり振り返ると、今回が史上初レースのMoto3クラスではマーヴェリック・ビニャーレスが優勝。Moto2はマルク・マルケス、MotoGPはホルヘ・ロレンソ、とスペイン人選手が3クラスをすべて制覇。彼の国で二輪ロードレース人気が高いのもむべなるかな、という結果になった。人気が高いからいい選手がどんどん輩出されるのか、いい選手が集まってくるから人気が高まるのか。“鶏と卵”とはいえ、モータースポーツ大国の層の厚さを改めて思い知らされた砂漠の一夜でありました。
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さて、MotoGPクラスに注目すると、開幕前のパフォーマンスからホンダ(というかケーシー・ストーナー)圧倒的有利という雰囲気を覆し、沈着なレース運びで優勝を勝ち取ったロレンソとヤマハファクトリーの安定感の高さは、見事のひとことに尽きる。2位のダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)も、腕上がりで順位を下げたストーナーに前をふさがれてオーバーテイクのタイミングを少し逸してしまい僅差の2位に終わったものの、そのタイミングを逸しなければ、ロレンソをも抜き去っていたのではないかと思わせる気迫の走り。次戦ヘレスではこのロレンソとペドロサ、そして今回3位に沈んで悔しい思いを味わったストーナーのトップ3台が激しい攻防を繰り広げることは明らかで、今からその争いが愉しみではある。
4位と5位にモンスターヤマハTech3の2台が入ったのも、素晴らしい。プレシーズンテストで高パフォーマンスを発揮していたカル・クラッチローに対して監督のエルベ・ポンシャラルは「プレシーズンで得た手応えとレースパフォーマンスにギャップがあったときに落ち込んでしまわないか、それが心配。カルは今までにも、ハッピーな気分でレースを迎えながら思い通りの結果を得られずにヘコむ、ということが何度かあったから、もう少し落ち着いた気分でカタール入りしてほしいと思っているのだが……」とやや不安な様子も見せていたが、そんな心配はまるっきりの杞憂に終わった。フロントロー3番グリッドを獲得して決勝レースではアンドレア・ドヴィツィオーゾを相手に4位争い、という内容は、見ているこちらも気持ちがよくなるような走りだった。
ステファン・ブラドル(LCRホンダ)も、昨年のMoto2チャンピオンとはいえMotoGPルーキーがまさか初戦で6番手を走行するとは思わなかった。最後はベテラン勢に喰われてしまい8位フィニッシュとなったけれども、経験豊富なニッキー・ヘイデンやアルバロ・バウティスタを相手にバトルしたのだから、たいしたものだ。
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「カギを握っていたのはメンタル部分だった」とレース後に。
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健闘したものの惜しくも2位。ひと息ついて水を「ごきゅ、ごきゅ」
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腕あがりでペースを維持できず。「そりゃ悔しいよ」とポツリ。
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昨年終盤の転倒で視神経に支障を来たしたものの、完全復活。
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さて、問題はバレンティーノ・ロッシ。この人の開幕戦の内容については他の場所にも書いたのでここではあえて繰り返さないけれども、思いどおりのマシンに仕上げてこないドゥカティの開発に対して相当な苛立ちを募らせているようだ。現状のドゥカティのポテンシャルがホンダやヤマハに劣ることは、陣営最上位で6位フィニッシュのヘイデンがトップと28.413秒差、というところにもあらわれている。とはいえ、プレシーズンテストから開幕戦にいたるまで、ロッシが昨年以上に低迷している原因は「自分の示す開発の方向性にドゥカティが従わないから」なのかどうかは、他選手のパフォーマンスとの相互比較はもとより、開発側(フィリポ・プレツィオージ)の言葉を聞くまで留保しておくべきだろうとも思う。ロッシの開発側に対する不信感が、今回の芳しくないリザルトに対する鬱憤晴らしのような一過性のものであるのならばともかく、彼の気持ちの深い部分に巣喰いはじめているのであれば、事態はちょっと深刻なものに発展するような気もする。これはあくまで推測だが、ホンダやヤマハでの過去の経緯から考えると、彼の心中に一度芽吹いた違和感や不信感はなまなかなことでは払拭されない傾向がある。今年は彼をはじめ多くの選手が契約更改の時期を迎えるだけに、ロッシ絡みはもちろんのこと、その煽りを受けて他選手の移籍情報もかなり早い時期から賑やかになるかもしれない(というか、一部ではすでに突拍子もない噂話もちらほらと流れはじめている)。
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次戦ヘレスで感情をこじらせるのか、あるいは意外とケロリとしているのかも。
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というわけで、レース以外の要素でもなにかと騒がしくなりそうな第2戦スペインGPは4月29日決勝。お楽しみに。
あ。そして最後に、タイヤ情報を少しだけ追加。開幕前にブリヂストンがフロント用新タイヤの評価テストを行ったことは前回も報告したとおりで、その際にニュージェネレーションの投入はシーズン半ば以降だろう、とお伝えしたけれども、ひょっとしたらその計画が前倒しされる可能性もあるとかないとか。とはいえ、それが選手の戦力バランスになにか大きな影響を与えるのかというと、特段そういった種類の話題でもないように思う。どちらかというと、これはあくまでタイヤ性能がさらに一段階向上するという、純粋にそういうことだろうからね。
ではヘレスで。
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ナイトレースは今年で5回目。観客数は四日間総計で15,603人。微妙だ……。
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