スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。 twitterアカウントは@akyranishimura |
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3月23日から25日の三日間、スペイン・ヘレスサーキットで行われたプレシーズン最終テストで、今季MotoGPクラスを走る全マシンがようやく一堂に集結した。今回は、1月末と2月末のセパンテストを見送った一部のCRTチームも参加し、1000cc初年度の戦力分布がかなり明確に見えてきた。とはいっても、特に何か驚くべき要素が明らかになったわけでもなく、むしろ大方が予想するとおりのシーズン展開を裏づけるテスト内容と結果だった、といえるだろう。 |
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やっぱりケーシーは、一発タイムもレースラップ(連続周回は11周にとどまったけれども)もずば抜けて速い。ホルヘとダニは、レースシミュレーションとして27周のロングランを実施し、ともに高水準で安定したラップタイムを刻んでいた。バレンティーノは「昨年よりはいい」というものの、未だ試行錯誤状態から脱出することは叶わず。一方、CRT勢のなかでは、アプリリアRSV4のエンジンとアプリリアの車体、という組み合わせで、<CRTと呼ぶのも微妙に違和感は残るものの、定義上はやはりCRTに分類される>マシンを駆るランディ・ド・プニエがプロトタイプマシンのサテライト勢を喰いそうな勢い、というのもまあ、予想どおりではあった。この調子なら、開幕戦から早速、ランディの駆るCRTマシンがサテライトチームのプロトタイプマシンをぐいぐい追い回して何台か抜いてしまう、という展開も見ることができるかもしれない。CRTチームにとっての痛快事はプロトタイプサテライトチームの屈辱事なので、これはこれで大きな見どころとして注目をしたいところだ。 トップ争いはおそらく、「ストーナー、ロレンソ、ペドロサが表彰台を争うだろうね。そこから少し遅れて、スピース、クラッチローの集団。ぼくたちは、そこからさらに後ろの集団でバトルすることになるだろう」というのがバレンティーノの開幕戦予想。異論はないし、客観的かつ冷静な分析だと思う。というか、そういう予測をせざるを得ない彼の現状を慮ると、なんともいいようのない悲哀も感じる。 |
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「三日間のテストは長いよね。肉体的にもくたびれるよ。長いテストでいいことといえば、二日目みたいに雨が降ることかな(笑)」と余裕の発言!? | ||
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レース周回と同じ27ラップのロングランでは、終始1分40秒台前半で周回し、ラスト3周で1分39秒台に入れる高水準の内容。まさに追い上げ型の本領発揮。 | ||
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こちらも27周のレースシミュレーションを実施。「2回やらなかったの?」と問われて「スーパーマンじゃないんだから」と笑ってみせるシーンも。 | ||
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「前回テストの間違ったベースから始めたので、そこから取り戻すのに時間がかかった」というものの、苦しい現実はいかんともしがたい……。 | CRT勢ではここに注目。チーム力+マシンのポテンシャル+ライダーの力量=総合力、で見ると、ここは他のCRT勢より一枚も二枚も上。 | |
さて、今回のテストでは、ブリヂストンが今後の研究開発用として選手たちに2種類の評価用フロントタイヤを装着してもらい、コメントを収集する、いう試みも行われていた。走行後取材では、選手たちが「コード21」「コード24」という単語(おそらくは開発用のコードネーム)を口にし、それが一部欧州メディアの情報に乗って流布したが、妙な誤解が生じないよう、この話題について以下で少し整理をしておきたい。 昨年来、タイヤに関して選手たちのあいだから要求が上がっていた大きな項目に、ウォームアップ性能の向上、というテーマがある。2011年シーズン後半にはタイヤの供給方式に手を加えるなどしてブリヂストンも迅速な対応を図り、2012年用タイヤにもすでに性能の改良が施されている。が、さらなる改善を進めるために、このプレシーズンにフロントタイヤの開発用情報を収集した、というのがことの推移であるようだ。開発コード21という名称のタイヤは、セパンテスト一回目の際に最初に試されており、暑い場所ということもあってコンパウンドはハードを使用。一方、コード24という名称のタイヤは今回の評価用に持ち込まれたもので、セパンより冷えたコンディションのヘレスにも対応すべくミディアムコンパウンドが使用されている。これらの評価用フロントタイヤは、選手たちが通常使用している現在の2012年用オリジナルタイヤよりも柔らかいコンストラクション(構造)で、ウォームアップ性の向上と幅広い作動温度域を実現しており、今回投入の24はセパン投入の21に対してさらに微妙な改良を施しているようだ。 つまり、今回のヘレスでは選手とチームは、プレシーズンテストに使用するタイヤとして、いつものように、フロント2種類(ミディアム/ハード)、リア2種類(ソフト/ミディアム)を使用してセットアップを煮詰めたりロングランを行い、その合間に上記の評価用タイヤをそれぞれ装着して何度か走行し、印象をエンジニアにフィードバックしていた、というわけだ。三日間のテストを終えて、ブリヂストンが選手とチームに対して開発に協力してくれたことへの感謝を述べていたのも、上記の事情を把握すれば、なるほどそういうことか、と理解できる。テストの際にこのような開発用マテリアルが投入されるのは特に珍しいことではないが(だって「テスト」なのだから)、今回はコードネームがいきなり選手たちの口から飛び出したために一部でちょっとした話題になった、というわけだ。ブリヂストンによると、今シーズンのレース用タイヤは、5月の第四戦フランスGP分まで発送を済ませてしまっている、とのことなので、このプレシーズンのデータが新たなタイヤ供給に活かされるのは、早くてもシーズン中盤以降、ということになるのだろう。 さて、今回のテストではもうひとつ、2013年以降のレギュレーションについて、MSMA(the Motorcycle Sport Manufacturers Association:スポーツモーターサイクル製造会社協会)とDORNAの間で話し合いが持たれたことも一部で話題を集めた。協議の大きな目的は、競技性を維持しつつコストを削減する方法の模索だ。そして、参戦経費を削減することで、2014年の復帰を検討しているというスズキや2009年に撤退したカワサキ、あるいは今後の参戦を考慮するBMWや現在CRTチームにエンジンや車体を供給するアプリリア等の企業に対し、プロトタイプのマニュファクチュアラーという形態で参入するための障壁(≒参戦経費)を可能な限り低くしたい、ということも大きな狙いのひとつだという。そしてもちろん、今年から参戦するCRTチームに関するルールの再検討、という項目も協議内容には含まれている。 マシンを1選手あたり1台にすることや、年間エンジン使用基数を6基から5基へと減少させること、あるいはレブリミット設定や共通ECU、プライスキャップ(経済的制限)等々、いくつかのアイディアが昨年来提案されているが、これらはあくまで試案レベルの叩き台であり、現在の段階で特に何かが決定したわけではない。2013年に向けたルール調整の最終的な決定は、一部では5月31日、という情報も流れているようだが、これはおそらく、「一年の真ん中あたり」という情報から日時を逆算した類推なのだろう。協議を進める関係者の話によると、GPコミッションの会合で明文化されるのは「シーズンの真ん中あたり(≒第7戦オランダGPが行われる6月下旬頃)には詳細が詰まるだろう」ということだ。MSMAとDORNAは、来週のカタールで引き続き話し合いを持つという話だ。 というわけで、いよいよ来週は開幕戦のカタールGP。毎年恒例の疲労困憊するナイトレースで起こるあれやこれやを、レース終了後可能な限り速やかにお伝えいたします。では、では。 |
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※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも本誌に引き続き掲載中です。 ※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中。 |
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