■文:濱矢文夫 ■撮影:松川 忍
■協力:スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
さあ気になるKATANAへ乗る機会がやってきた。
トルクフルでストリートからサーキットまで楽しめる速さに定評があった、
K5〜K8型GSX-R1000の直列4気筒エンジンをリファインし、
アルミダイヤモンドフレームに搭載するGSX-S1000/F ABSをベースにした走りは如何に。
斬新で攻撃的なスタイリングに多くの話題が集中するけれど、
走りにはどんな魅力が、切れ味があるのだろうか。気になるインプレッションを紹介。
ライダーの身長は170cm。(写真の上でクリックすると、足着き、足上げの状態が切り替わります)、 |
カタナは誰もが知っているスズキのブランド。
カタナは最も有名なオートバイのひとつだ。多くのファンがいて、ライダーのみならず、二輪に乗らない人にも知られている。映画、アニメ、小説、イラスト、漫画などサブカルチャーにも数多く登場してきた。そうなったのは、ひと目でそれと分かる特徴的なスタイリングの影響が強い。独創的な姿をした人気モデルだからこそ、何度も生産が終了しても復活を遂げた。ほとんど姿を変えずに長らく存在し続け、スズキを代表するブランドのひとつになった。走りも含め魅力の多くを語らなくても、クリックをしてここを訪れた人は知っていることだろう。かくいう私も若い頃に魅了され、いつかはカタナに乗りたい気持ちが芽生え、その後GSX750S、GSX1100Sなど所有した1人だった。
新しくてもカタナはカタナだった。
そんなカタナが、2000年に発売されたGSX1100S FINAL EDITIONを最後に途絶えてから19年ぶりに、新しくKATANAになって復活した。前置きはさておき、乗れることにワクワクしながら、目の前にした新型は、写真や室内で見た印象より、しっかりカタナだった。何を言っているのか分からないだろうから、説明すると、旧型カタナが持っていた特徴的なディテールや姿が新型の中にも明確にあるということだ。特に丸みのある燃料タンクカバーから、フロントカウルにかけてのラインなど、旧カタナ好きなら顔がほころんでしまう造形。ちょっと斜め後ろから見るとたまらない。以前とはすべてと言えるほど違っているのに、まごうかたなきカタナ(ダジャレじゃない)。サイドカバーの“刀”やテールの”KATANA”文字を見なくてもカタナと思わせる巧みなデザインだ。
今回、走って出かけた先で、オートバイに乗らない女性に「もしかして、これはカタナなんですか?」と声をかけられた。立ち寄ったガソリンスタンドでは「えっ、カタナって新しいのが出たんですか?」と若い男性店員が驚いていた。ふたりとも新型が出たことをまったく知らなかったのに、カタナと分かったのだから面白い。先日あった新商品説明会でも語られたように(記事リンクhttp://www.mr-bike.jp/?p=160534)、誕生のきっかけは、イタリアの二輪専門誌の企画から制作され、2017年のEICMA(ミラノショー)に展示されたKATANA 3.0 CONCEPT。それに対して国内外から大きな反響があり、スタイルを維持することを最優先にして開発がスタートした。しかし市販となったものは全てがコンセプトのままではない。ややつり目で埋め込まれていたヘッドライトが、旧型のスクェア形状を連想させるカタチになり、少し飛び出して側面を黒い樹脂でカバー。さらにカウル先端をより鋭角にしている。手直しされより”らしさ”を出している。これでコンセプトモデルよりカタナテイストが強まった。
旧型カタナが好きな人ほどポジティブな意見。
日本車の歴史のなかでもエポックメイキングで有名な旧型がありながら新型を作ることはいろいろな意味で難しかったことだろう。ネットの記事や、ユーザーのSNSやブログで、ポジティブではない意見もあった。ところが、面白いことに、私の周りにたくさんいる同じように先代カタナに魅了された人に聞くと、みんな肯定的にとらえているのである。もちろん全ての人に聞いたワケではないけれど、肌感覚的に、私も含め、カタナについて思い入れが強く、知っている人ほど難しく考えず、このKATANAの誕生を素直に喜んでいる。
ハンドルと座る位置が異なる。
コンセプトモデルがそうであったように、この量産型もベースになっているのは先に発売されているGSX-S1000/Fだ。フレーム、スイングアーム、エンジン、足周り、ブレーキ、ホイールなど基本はまったく同じもの。違うのは、より前に座る着座位置とハンドルバーの形状。それにより前輪荷重が増え、後輪荷重が少なくなるので、合わせてサスペンションセッティングが変更された。シートはGSX-S1000/Fより15mm高い825mm。身長170cmで69kgが跨ると両足では足指の付け根くらいまで接地した。思いっきり一番前に座るより、私の体格だと横にした手のひらが入るくらいの隙間を開け後ろに座った方が、足がまっすぐ地面に伸びやすい。後方に向けて上がるシート形状により座る位置が若干高くなるけれど、その方が足着きは良く、直立を保ちやすい。そしてそこが気持ちよく内ももがフィットし、ニーグリップがやりやすい位置でもある。
ハンドルグリップは肩幅より約こぶし1個半外側。新商品説明会で、「快適で操りやすい肘が出るストリートファイター的なハンドルポジションにした」と開発担当者よりプレゼンテーションがあった。腕の短い私にとって肘が曲がる分前後の長さを稼げないので、遠く感じるのではないかと心に引っかかっていたけれど、乗ってみると思ったより肘が出ない自然なポジションで安心した。贅沢を言わせてもらえば、もう1°~2°くらい手前に絞ってくれると、もっと楽に感じると思う。ただ、この状態でフルロックまでハンドルを無理なく切れるから問題なしとしよう。好みの話。何より旧GSX1100Sから比べると、それはもう明らかに車体が軽いので、幅広ハンドルで力点が支点より遠くなるので、押さえやすく、押し引きも楽なのがいい。
厚みのあるトルクで乗りやすい
スズキイージースタートシステムと名付けられた、4輪車のようにエンジンスタートボタンを部屋の電灯スイッチのように1度押すだけで、押し続けなくてもセルがエンジン始動まで回る。普段ならなんてことのない小さい事かもしれないが、足場の良くないところでハンドルバーを掴んで車体を保持しながら始動するような場面では確実に安全で名前の通りイージーになる。排気音は耳障りにならない程度の音量ながら太い音でワイルド。扱いやすさに定評があった2005年から2008年までのスーパースポーツGSX-R1000に積まれていたのを下敷きにしたロングストロークの水冷4気筒998ccエンジンの厚みのある低回転トルクはたいしたものだ。3速のまま、スロットルから手を完全に放して回転数がほぼアイドリング位置まで下がっても、エンストすることなく20km/hくらいの速度を維持しながらグイグイ進む。流行りの電子制御スロットルではないけれど、その領域で力強いトルクで過度な特性がなく滑らかにしているのは立派だ。渋滞など歩くようにゆっくり進むのが苦にならないどころか、積極的に速度変化させながら動けた。エンジン回転数、ギアポジション、スロットル開度、クラッチスイッチなどから判断して制御するローRPMアシストが機能している。それを使い古された言葉で表現すると、「乗りやすい」になる。ハンドル切れ角は左右30°と旧カタナと同じ数値だったりする。だけど低速時のエンジン制御が簡単で、アップライトなポジションだからロックまでフルに切った状態を維持するのが難しくない。
パワフル&イージー。
その極低回転から淀みなく高回転まで繋がっていく。メーターそのものは現行モデルのGSX-R1000Rから流用したものながらKATANA専用。一部を切り取った円形状のタコメーターグラフィックは旧型をオマージュしたもの。バーグラフが上昇すると、最高出力109kW〈148PS〉/10,000rpm、最大トルク107N・m〈10.9kgf・m〉 / 9,500rpmは流石に速い。ヘルメットを被ったまま「わはー!」という表情になる加速感。そして一気に速度が伸びる。どこからでもスロットルを開けるだけで大丈夫。豊かなトルクのおかげで、高めのギアを選択したまま速度変化をつけられるズボラな運転ができるから楽だ。混合交通の中で、自分のペースで走れず、前を行く車両に合わせて移動していてもフラストレーションを感じない。ちなみにトップ6速での100km/hは4千回転ちょっとだった。
優れたメカニカルグリップ。
GSX-S1000/F譲りのアルミフレームとアルミスイングアームは、見た目がかなりゴツくてかなり剛性が高そうに見える。実際に剛性は高いのだろうけれど、高過ぎると感じず、サスペンションも含めてハードなフィーリングはない。ライディングポジションから少なくなったリア荷重に、より柔らかくして対処したリアサスペンションは、右手首をひねると、スッと入り込んでそこから粘る。旋回性はスーパースポーツのようなクイックさとは違う、走りたい気持ちとシンクロして自分の手足のように、小さく、安定して曲がれる。速度を上げても公道で可能な速度域でトリッキーなそぶりをまったくみせない。両輪は常に路面に接地しているフィーリングを伝えてきて嬉しい。ハイペース気味に飛ばしても、前後のサスペンションが動きすぎる感じはなく、効果的にタイヤは路面に押し付けられている感触。それでトラクションを失いにくく、コーナーの立ち上がりでアクティブにスロットルを開けていける。トラクションコントロールを装備しているけれど、それ以前にオートバイが持つメカニカルグリップ能力がちゃんとしている。
ドライだけでなく、道に川ができるような土砂降りの中で、中低速ワインディングも攻め込んだが怖さがない。やや大胆に倒しこんで曲がろうとしても許容してくれる。濡れた高速道路でも、トラクションコントロールが効くことがほとんどなく、突き進めた。ブレーキは効きもタッチも文句なし。スタビリティの高さを前が見えないほどの大雨の中で感じた。自分の運転がさらに上手になったような気にさせる。やや荒れた舗装路や、路面の継ぎ目を気にせずに何事もなくいなして行ける。ソフトな当たりだけれど、速度を上げてもギャップなどでフワフワとした動きが小さく、スロットルをワイドオープンできて快適で安心だ。頼りない腰砕けにはならない。こうなるとKATANAだからどうのこうのというのを1度置いといて、ワインディングをライダー本能のままに楽しみながら操れる。
これはレトロではない。
目を引くスタイリングだけで終わらず、しっかりクルージング、スポーツライドできるパワーがフレンドリーに感じられる制御。そして幅広いライダーが自由自在にコントロールできるハンドリング。オートバイとしての基本となる性能が確かなのだ。ツーリングモデルに使うならプレミアム燃料が入るタンク容量が12Lとやや小さいのが気になるだけで、これといった欠点が見当たらない。価格も飛び抜けて高いものではないから、言っておこう、これはヒットの予感がする。昔のスタイルを複製するやり方もあっただろう。そんなレトロにせず、フューチャーカタナにしたからこそ、旧型好きもすんなり受け入れられたのではなかろうか。プラグマティズムのように考えず、懐古主義でもない。過去や伝統を引き合いにしてカタナらしさを語るよりも、1度直に見て、触れて、試乗することをオススメしたい。事実として、まだ乗っていたい、もうちょっと付き合いたいと思った、オールドカタナファンの私がいた。
(試乗・文:濱矢文夫)
GSX-S1000/Fより15mm高いシート高は825mm。最最近流行のこのタイプのフェンダーは、スズキとしては初採用になる。スイングアームと一緒に常に動くものだから剛性もかなり確保されている。タンデムステップマウントのところに荷掛けフックが左右で2箇所。 | 黒ベースにシルバーのツートンも初代オマージュ。シート後端に3本線が入る。これは先代カタナにあった溝を表現している。 |
運転席のシート下にはショートタンク化により行き場を失った燃料タンクが伸びている。それによってバッテリーが押し出され、タンデムシート下に移設。ETC機器は標準ではないがスペース的厳しく、どこに装着するか悩みそう。 |
現行GSX-R1000Rをベースにしたメーターだが、タコメーターのグラフィックが旧型カタナ風。イグニッションキーを回したオープニングアニメでは「SUZUKI」の文字を対角に斬り「刀」の文字が出てくる凝ったもの。 | グレーの大きなボタンは各種情報の表示切り替えと、3モードトラクションコントロールシステムを3段階に調整できるようになった。 |
着座位置がGSX-S1000/Fより前側になったことから減少したリアの荷重に合わせてリアショックは柔らかくされている。プログレッシブ特性を持つリンクタイプのモノショックユニットを採用。 | アップハンドルはテーパーバー。旧型のセパハンとは違う雰囲気。KATANA専用。ハンドルクランプのトップにはKATANAを主張するレリーフ。 |
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