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今からちょうど12ヶ月前、ここモンメロ(バルセロナーカタルーニャサーキット)でホルヘ・ロレンソは前戦ムジェロに続く2連勝を挙げた。イタリアGPを終えてドゥカティからの離脱を発表した衝撃的なニュース発表後の快挙だった。 だが、今となってはそれもはるか昔の出来事のように思える。現在のロレンソはホンダへの順応に苦闘を続けている。開幕以来の6戦(インタビュー実施段階)で獲得したポイント総数は19点、トップテンには未だ一度も届いていないことが、今年の彼の苦戦をなによりもよく象徴している。HRCの技術者たちと対応を図るため、ロレンソはイタリアGP後に急遽、日本へ飛んだ。
「日本へ行ったのは、短期的・長期的な対策を加速させるためなんだ。今回(カタルーニャGP)と次のアッセンで、僕が乗りやすくなるための外形的な形状変化がはっきりわかると思うよ。今後もさらに変わっていくと思う。ホンダは僕のここまでのリザルトに満足をしていないし、それは僕にしても同様だ。僕は去年、ドゥカティにとって救いの神ではなかったのと同じ意味で、ホンダにとって特に疫病神というわけじゃないんだけど」
―日本では、野村欣滋HRC社長とも話をしたのですか。
「もちろん。野村さんは僕を応援してくれているし、連絡もよくとりあっているんだ。今の状況を理解していて、技術的な方向から力を貸してくれている。2年契約を締結したのは、僕はこのバイクでいい成績を出せるという自信があったからで、金で動いたわけじゃない。特に生活に困っているわけじゃないからね」
―自分に合ったバイクづくりに関する話し合いだったのでしょうか。
「じゃあ、こういうたとえ話をしてみようか。今、僕が乗っているバイクはマルケス用にピッタリあったシューズのようなものなんだ。僕にはサイズが少し小さくてソールの形状もしっくりこない。でも、そのシューズでマラソンを走らなければならない。僕は今まで5回の世界タイトルを獲得してきたけど、今は11位以上の結果を出せていない。でも、自分に合ったシューズで走れれば、もっとトップに近づけるはずなんだ」
―プレシーズンにあなたがケガをしてしまったことで、マルケスは自分の側に引き寄せたマシンづくりを進めやすかったのかもしれませんね。
「乗りやすく自分の力を発揮しやすいバイクを作っていく、という意味では、ヤマハ時代の僕とロッシの関係と似たようなものさ。ただ、ホンダに関しては、乗りやすさの面で僕の嗜好とは違った方向に行っていて、マルケスの乗り方やスタイルに合ったものになっている。でも、それは当然のことだよ。ホンダとマルクは完璧な組み合わせなんだからね」
―あなたが渡日したときは、契約を破棄するためだという噂も一部で流れましたが……。
「そういう根も葉もない話は、本当に頭が痛いよ。売らんかな主義は、自分たち自身の信用も傷つけると思うんだけどね」
―ともあれ、今季はレース人生で最悪のシーズンになっています。
「で、何をしろと? ボクサーみたいにタオルをリングに入れた方がいいのかな?」
―あなたなら、もちろんそんなことはしないでしょうね。でも、今のこの苦しい状況をどうやって耐えているのですか?
「不安がないわけじゃないよ。いつも何かしら気になっているのも事実だ。だって、これは今まさに自分の身に起こっていることだからね。でも、トレーニングの時間や寝ている間なんかは、あまりそのことに悩まされないし、楽しい気分で過ごせるときだってけっしてないわけじゃない」
―ドゥカティからホンダへの乗り換えを簡単に考えすぎていたと思いますか?
「こればかりは、実際に乗ってみるまでわからない。簡単なのか大変なのか、エンジン特性はいったいどんな感触なのか……。でもまあ、おおむね予想どおりかな」
―マルケス選手はあなたにかなり厳しい見方をしていますか。
「心配ご無用、と言いたいね。だって、ホンダのプライオリティは今も将来も彼にあるんだから。じっとしていても、開発の中心を担うのは常に彼なんだからね。僕は、あくまでセカンドライダーとして全力でホンダを支える立場だし、今の状況で僕はホンダを信頼している。損はない勝負なんだよ。なぜなら、ここからうまく運んで僕や他のライダーが結果を出していけば、それはマルケスを助けることにもなるわけだからね」
―マルケス選手との関係はどうですか?
「彼はいいヤツだし、関係はふつうだよ。ここは職場だから遊びに来ているわけじゃないけど、イベントに参加するときや移動のあいだはいろいろと話すこともある。いい関係だと思うね」
―昨年、ドゥカティの燃料タンクで「魔法の一歩」を進めたような、最後の詰めをできるようになるまであとどれくらいかかりそうですか?
「あれはべつに魔法の一歩だったわけじゃない。高い安定性というパズルを完成させるために必要な最後の1ピースだったんだ。その前のヘレスからエンジンが扱いやすくなって、フロントまわりも良くなり、徐々に車体やいろんな要素がうまく噛み合ってきた結果なんだ」
―ホンダへの乗り換えはうまく行かないかもしれない、という疑念を抱いたことは?
「時間がカギを握っているんだと思う。時間をかけて強靱な意志で臨めば、結果は必ずついてくる」
―あなたのヘルメットの後頭部には、一年前にドゥカティCEOクラウディオ・ドメニカリの発言に対して述べた「偉大なライダーじゃない、チャンピオンなんだ」という一文が入っていますね(訳注:2018年のフランスGP後に、ドメニカリが「ロレンソは偉大なライダーだけれども、若干の弱点もありながら相当の長所がある我々のバイクの性能を存分に引き出して成功を収めていない」と述べたことに対して、その次戦のイタリアGPで「特に何も言い返すことはないけど、あえていうなら、僕はべつに偉大なライダーじゃない、チャンピオンなんだ」とやり返した出来事に由来する)。彼の発言は、かなりあなたを悩ませていたのでしょうか。
「僕の意図はあの言葉のままだよ。だってそうだろ。チャンピオンじゃなくても偉大なライダーはたくさんいる。たとえば、ミラーは偉大なライダーだよ。ペトルッチやラバト、バウティスタたちもそうだ。でも、MotoGPのチャンピオンはただひとりだけ。そして僕は、MotoGPのチャンピオンを3回獲得したんだよ」
―ドゥカティに戻ろうと思ったことはありますか?
「赤い色のチームのことだけを考えていた時期もある。今はオレンジ色のチームに専心している。自分が今いるチームのことだけを考えて、全力を尽くすんだ」
―最後に、あなたが花開かせた若い才能について、ひとつ聞かせてください。トニー・アルボリーノ(訳注:イタリアGPのMoto3クラスで初優勝を飾った選手)には、あなたのトレーナー、イヴァン・ロペスをつけて援助してきましたよね。
「トニーと初めて会ったとき、彼の人柄に惹きつけられたんだ。話していても、とても好感の持てる若者だった。彼の住まいはルガーノだから、僕の家とも近い。でも、力を貸したいと思ったなによりの理由は、あの人柄だよ。才能があるのは明らかだけど、トニーはけっしていつもトップグループにいたわけじゃない。才能だけで勝てるほど簡単じゃないし、うまく噛み合っていないところがあるな、と思っていたんだ。やっとレースに勝つことができて、僕も本当にうれいしいよ。この調子で今後もがんばってほしいね」
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