■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明/Honda
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
ホンダという会社は面白い。常に新しいことにチャレンジし続け、ホンダイズムを注入していく。しかし時としてそれは、非常によくできた既存のものを否定してしまうことにもなる。新たな400シリーズにそれはない。洗練・深化。良いものをさらに良く。新型CBR400Rと400Xはホンダ「らしくない」静かなモデルチェンジを果たした。
細かなところを熟成させる
革新的なことにチャレンジし、ライバル各社を突き放していくホンダに痺れるファンもいるはずだ。だからホンダファンをヤメラレナイ、という気持ちもあるだろう。しかしすでに良いものは良いものとして、既定路線を守りながらさらに良くするという選択肢もある。今回の400シリーズについてはホンダもこの路線を選んだように思える。これはモデルチェンジをするにあたっては大きなアピールができるわけでもなく、市場に与えるインパクトも少ないため難しい判断なのだが、今回のモデルチェンジ、筆者は歓迎したい。
Rの方では、「ポジションがいくらか前傾になり、カウルが低くなり、マフラーの出口が二つになった」ことぐらいしか見た目にはわからない変更かもしれない。もちろん、なんとなく全体的にカッコ良くなっているのだが、それがどこなのか、すぐにわかるのはオーナーぐらいだろう。実にシブい進化と言える。
一方でXの方はフロント19インチホイールを採用したことでルックス的にも「新しくなった」感が高いものの、内容はやはり熟成路線である。しかし二台ともこの熟成が効いているのだ。そろそろ試乗記も出回ることだろうが、内容にフォーカスしてみよう。
CBR400R
スポーティ路線ながら今後のスタンダードになりえる熟成
細かなエンジン数値の向上
パラツインエンジンという形式は不変だが、スペックを見るといずれもわずかに向上しているのがわかる。わかりやすいところではトルクが37N・mから38N・mへと大きくなったことや燃費が28.2km/Lから28.3km/Lへと伸びたことがあるが、その数値が少ないことから「わずかな差でしかない」と思ってしまうかもしれない。しかし実はバルブのリフト量やバルブタイミングの変更などで、3000~7000rpmのトルクを3~4%向上させるなど、実用領域で力強い加速と心地よいフケ上がりを実現している。これを追求するため、インジェクターを変更しスプレーフォームを狭角化、燃焼室内での混合気燃焼をより安定させ、またバッテリーの小型化によりエアクリーナーボックスの形状を変更、吸気の流れをスムーズ化させるなどしている。
さらに排気系もマフラーの内部構造をよりストレートなものにし、あわせてFIセッティングもよりスポーティなキャラクターとするため高回転域のフケ上がり感を強調している。他、アシストスリッパークラッチの新採用もされ、大きな変更はないと思いそうなエンジンは実は確実な熟成を進めているのだ。
明確なスポーツ性追求と実用性向上
エンジンもスポーティさを追求しているが、あわせて車体側でも従来型以上にスポーツを意識した変更がされている。まずはライディングポジション、これまでよりもハンドル位置を下げ、ライダーの上半身が約8°前傾するポジションに改められた。セパレートハンドルがトップブリッヂの下に装着されたことでルックス的にもよりスポーティになったと言えよう。これによりフロントへの荷重が増え自然な回頭性を得られるだけでなく、カウルの恩恵も受けやすくウインドプロテクションも向上し、また乗車時のスポーティなシルエットも実現している。より前傾となったと聞くと辛くなったんじゃないか、などと思いそうだが、実際に跨がると割と自然なポジションで、従来型がかなりアップだったと認識させられる。トップブリッヂが見えていることで確かに「CBR」を意識するスポーティな印象を得るものの、ツーリングでも無理のないポジションだろう。
カウルは兄弟車種であるCBR1000や650とイメージを共有するものに変更。ボリュームがあり、また導風ダクトや排気レイヤー構造を採用することでウインドプロテクションを確保すると同時に軽快なハンドリング性能も追及している。
もう一つ大きな進歩はリアに新採用された分離加圧式サスペンションだろう。ガスとオイルが完全に分離されるこのタイプのサスペンションは大型バイクでは一般的なもので、作動性向上により路面追従性を大幅にアップ。あわせてフロントも作動性を向上させスポーツ性を追求している。
スポーティさとは別に、日常ユースでライダーが恩恵を受けるのはアシストスリッパ―クラッチの採用による軽いクラッチ操作や、容量を増やしたタンクだろうか。エンジン、車体共に今回のモデルチェンジはスポーティ路線の追求を掲げているが、その実、実用性もしっかりと熟成されており、よきスタンダード車としても確実に前進。今後400クラスにおいて大切なポジションを担うモデルになっていく総合的な進化に感じる。
CBR一族揃い踏み。左手前がフラッグシップ、CBR1000RR、その奥がCBR650R、右端がCBR250RR、そしてその隣奥中央がCBR400R。 |
400市場に一石を
新CBRはこのほかニューデザインのメーターやLEDヘッドライトの採用など様々な変更がされているのだが、何よりもホンダが最近の国内ではめっきり元気のない400ccクラスにこれだけの労力・情熱・開発費を投じたことが嬉しい。ホンダにはCB400SFという変わらず人気のモデルがあるが、いま大型二輪免許が一般化した中、400クラスはかつての勢いはなくなっている。そこにこのような魅力的なモデルを投入し、しかも突発的なものではなく熟成させていくというのは嬉しく感じ、またこれをきっかけに再び400市場が活性化して欲しいと感じる。
CB400SFは名車だが、そろそろクラシックと呼んでも良いほどに歴史が長くなってきた。新世代400スポーツ、歓迎である。
キャタライザー前後のエキパイのボリュームを増大することで排圧をコントロール。フケ上がり感と低中回転域のトルクを向上させたマフラーは排気口を2つにすることでサウンドも追及。 | 新たに分離加圧式サスペンションを採用し路面追従性を向上させたリア周り。またがった感じではリンク式ということもありとてもしなやかな印象。 |
カウルは防風性はもちろんのこと軽快なハンドリングやヒートプロテクション性能も追及。エンジン横にはこんな複雑な形状のウイングも。 | コンパクトなテール周りは灯火をLED化。シャープに切れ上がるスタイリングは魅力的だが、タンデムは辛そうなイメージ。 |
400X
クラスレスなアドベンチャー体験
フロント19インチ化によるわかりやすいモデルチェンジ
CBRが「何かカッコ良くなった」というある意味シブいモデルチェンジだったのに対し、400Xはフロントが19インチになったことにより全体的に一回り大きくなっただけでなく、スタイリングもワイルドに変更されたため「モデルチェンジ感」がより大きいだろう。これまでの400Xは前後17インチを採用する、コンパクトでよく走るよきツーリングバイクではあったのだが、近年盛り上がりを見せるアドベンチャーカテゴリーのモデルとは少し違う路線だったともいえる。しかし今回の変更により多少の不整地も含めて、長距離、もしくは大陸横断的な冒険にも誘うような姿へと変更している。
そのコンセプトは「タフ&ワイルド」。ルックスだけではないその内容を見ていこう。
オンオフ含めた性能の底上げ
「冒険心を呼び起こす」ことをキーワードにオフロード性能の向上も含めて行われたモデルチェンジだが、これは400Xにとってはまるで新しい性能が与えられたようなもの。その実現のために19インチホイールを採用しているが、それだけでなく、扁平率を上げた溝の深いブロックタイヤの採用や、オフロード走行も考慮したABSのセッティング変更など細かいところでの変更も多い。
さらにオンロード性能の向上も同時に追求しており、キャスターを従来モデルよりも1°寝かせたり、ウインドスクリーンをより大きくするなどして高速巡航性を向上。吸排気系の見直しによりエンジンにも余裕が生まれあらゆるシーンで走行性能を高めていると言えそうだ。
CBRと同様の進化
CBRに比べるとよりツーリング向けともいえるアドベンチャーモデルであるため細部は違うものの、エンジン関係はCBRとほぼ同じ進化と言える。トルクの向上、燃焼の安定化、吸排気の見直し、アシストスリッパークラッチの採用などがそれだ。FIセッティングはこのモデルらしく、低中回転域での力強いトルクの盛り上がり感を追求し、またライダーのスロットル操作に対してのリニアリティ実現のため従来型よりもより細かな制御へと進化しているのがCBRとの違いといったところ。車体周りにおいても分離加圧式リアサスの採用やLED灯火類など、形状や仕様は異なるものの基本的にCBRと同様の、時代に即した進化をしているという印象だ。
19インチの恩恵
やはり400X一番の注目は19インチホイールだが、ルックスが変わったことやオフロード許容度が上がったことだけでなく、より堂々と、余裕のあるポジションが生まれたことやホイールベースが伸びたこと、またハンドル切れ角が増えたことなど様々な違いをもたらしている。実車を見ると従来モデルのコンパクトな車体に対して、新型は排気量を越えた存在感を放っている。それでいて跨るとポジションそのものは従来型のコンパクトなものであるため、安心して走らせることができるのは変わらないだろう。しかしその堂々としたスタイリングは本当にクラスレス。排気量の枠にとらわれない所有欲を提供しそうだ。
「何にも見劣りしない!」
短い間だが、開発者の方々とも雑談することができた。国内のCBRと400Xだけでなく、海外で展開される500cc版及び国内では展開されないネイキッドのCB500Fなど、この排気量帯のパラツイン全体を担当されている井上さんと古川さんだ。
お二人のアピールはとにかく「カッコ良いでしょう!」である。日本では400、海外では500、いずれも中間排気量帯であり、リッタークラスのモデルに対しては価格も抑えめでエントリーともいえるジャンル。しかしその中で存在感をしっかりと示したと言える。
「CBRは650や1000ととてもよく似たスタイリングとなって、しかも細部までかなりこだわって質感を追求しました。400だから……というエクスキューズはないです! これなら信号待ちで横に何が来ても全く見劣りしないと自負しています!」
という言葉は真実だろう。カラーリングもシックなマットブラックやホワイトがあることでますます高級感がある。排気量に関係なく、第一印象で「良さそうなバイク」感が確かにある。
「400Xもかなり堂々とした姿になったと思います。19インチ化すると同時にカウルデザインなどフロント周りにかなりボリュームを持たせましたので、アドベンチャー感が演出できていると思います。乗り味も堂々としていますのでぜひ試乗してください!」
各社アドベンチャーモデルは様々な排気量帯でリリースされているが、普通二輪免許でも乗れる400ccクラスはこの400Xのみ(250はあるが)。それでいてこの存在感は確かにより大きな排気量に全く引けをとっていないだろう。そもそもオフロード走行も考慮した場合、「重すぎない・大きすぎない400ccクラス」というのは良い選択肢である。このクラスレスな存在感とジャストなサイズ・排気量の400X、試乗が非常に楽しみだ。
なお余談だが、このパラツインエンジンは500cc版も存在し、レブルというモデルではその500版が国内でも売られている。CBRや400Xも海外版は500cc。開発者としてはどうお考えなのだろう。
「400もそうとう作り込んでいますのできっと満足していただけると思います。しかし500も自信をもって作っていますからね! レブル500を国内で売るなら、400Xも500版を日本で売りたいなぁというのが開発者としての本心です(笑)。機会があったら是非乗ってみて下さい、500も良いですよ!」
市場から要望が大きければ国内投入もあり得るということで、特にライバルが巨大化するアドベンチャーにおいては、500Xは一定のマーケットがありそうに筆者は思う。賛同いただける読者の皆さん、ホンダにアピールしましょう!
話題のフロント19インチホイール。アドベンチャー感が助長されただけでなく、高速道路での安定性、オフロード走行での性能確保と走るフィールドを更に広げ、さらに堂々としたスタイリングにも寄与する。 | エンジンは吸排気やカム、インジェクションなどCBRと同様のアップデートがなされているが、車両性格上中低速トルクも重視。 |
排気口が二つとなったマフラーもCBR同様。リアは変わらず17インチホイールだがタイヤはオフロードを意識した、溝の深いものを採用。 | タンク容量は変わらず17リットルだが、タンクからカウルに繋がる部分のボリューム感がアップしアドベンチャースタイルが進んだ印象。堂々としたスタイリングとなっている。 |
フロント19インチ化に伴いキャスター角が寝かせられ、またステムのオフセットも増大。これによりハンドル切れ角も従来の35°から38°に増え小回りが利くようになった。 | エンジンに余裕が生まれた事で高速道路の移動もこれまで以上に重視。ウインドスクリーンは従来型よりも20mm伸ばされさらに高い防風性を確保。ボルト留めにより高さを2段階に調整できるのは従来通り。 |
CBR同様灯火類はLED化。400Xはツーリングモデルらしく、タンデムシート面積も広くかつ荷掛けフックなども充実。タンデムも荷物の積載にも重宝しそうだ。 | メーターもCBRと共通。ハンドルは高いライザーにファットバーを新採用しここでも無骨なイメージを追求。フォークにはプリロードアジャスト機能も。 |
開発者のお二人、井上義裕さん(左)と古川和朗さん。「排気量に関係なく、高級感のある、堂々としたスタイリングの実現に力を注ぎました!」と語ってくれた。井上さんはワルキューレオーナーということもあり、質感や高級感にはこだわりもありそうだ。 |
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